2008年7月31日木曜日

国立大学法人の中期評価とは

国立大学には、現在、様々な評価制度が導入されています。法人評価、認証評価、自己点検評価、外部評価、教員評価、事務職員評価等々。ほとんどは法人化を機に導入されたものですが、今日はこのうち、私立大学にはない国立大学特有の「法人評価」についてご紹介します。

国立大学は、法人化された平成16年4月1日から、国立大学法人法第35条(独立行政法人通則法の準用)により、文部科学省に置かれた「国立大学法人評価委員会」(以下、評価委員会)の評価を受けることになりました。この評価のことを通称「法人評価」と言います。


■法人評価の目的と分類

法人評価の主な目的は、
  1. 評価により、大学の継続的な質的向上を促進すること
  2. 評価を通じて、社会への説明責任を果たすこと
  3. 評価結果を、次期以降の中期目標・中期計画の内容に反映させること
  4. 評価結果を、次期以降の中期目標期間における運営費交付金等の算定に反映させること
などが挙げられます。

法人評価は、国立大学の教育研究、業務運営、財務状況の継続的な質の向上に資するものとして行われるため、国立大学は、中期目標期間(現在は第1期で、平成16~21年度の6年間)における業務の実績についての報告書を提出し、評価委員会の評価を受けることが義務付けられています。

また、法人評価は、大きく次の2つに分類されます。

1 各年度終了時の評価(年度評価)

年度計画の実施状況等に基づく中期目標・中期計画の達成に向けた業務の進捗状況についての評価(年度評価)が行われます。各大学は、評価結果を業務運営や財務内容の改善・充実等に役立て、中期目標の実現を目指すことになります。なお、年度評価では、教育研究の状況についての評価は行われませんが、特筆すべき点や遅れている点についての指摘がなされます。

2 中期目標期間の評価(中期評価)

中期目標・中期計画の達成状況についての評価(中期評価)が行われます。なお、年度評価では行わなかった教育研究に関する評価については、「独立行政法人大学評価・学位授与機構」により専門的な観点から行われ、評価委員会はその評価結果を尊重することになっています。また、評価結果は、次期中期目標期間における各大学への運営費交付金の算定に反映させることになっており、今期中期目標期間の最終年度(平成21年度終了後)に評価を実施していては反映が困難なため、今(平成20)年度に前倒しで6年間を見通した評価が行われることになっています。

ちなみに、中期評価に係る業務実績報告書は、去る6月30日を期限として既に各大学から文部科学省に提出されており、現在、7月29日~8月11日の間で、評価委員会による各大学のヒアリングが東京霞ヶ関において行われているところです。

■業務実績報告書の実態

国立大学は、平成17年度以降毎年、「業務の実績に関する報告書」を評価委員会に提出し評価を受けてきたわけですが、この報告書は、次のような中期目標・中期計画に定めた事項の下に各大学が独自に定めた小項目によって構成され、各大学とも細分化された200を超える膨大な事項に従って計画の達成状況が記載されています。

1 中期目標の事項(国立大学法人法第30条)
  • 教育研究の質の向上に関する事項
  • 業務運営の改善及び効率化に関する事項
  • 財務内容の改善に関する事項
  • 教育及び研究並びに組織及び運営の状況について自ら行う点検及び評価並びに当該状況に係る情報の提供に関する事項
  • その他業務運営に関する重要事項
2 中期計画の事項(国立大学法人法第31条)
  • 教育研究の質の向上に関する目標を達成するためとるべき措置
  • 業務運営の改善及び効率化に関する目標を達成するためとるべき措置
  • 予算(人件費の見積りを含む。)、収支計画及び資金計画
  • 短期借入金の限度額
  • 重要な財産を譲渡し、又は担保に供しようとするときは、その計画
  • 剰余金の使途
  • その他文部科学省令で定める業務運営に関する事項
(参考)東京大学の平成18年度業務実績報告書
  http://www.u-tokyo.ac.jp/gen02/pdf/keikaku1804.pdf

特に、今回実施される中期評価については、「平成19年度評価」と「中期目標期間中の評価」を同時に行うことになるため、1)平成16~18年度の実施状況、2)平成19年度の実施状況、3)平成20~21年度の実施予定という区分ごとに整理した報告書を作成することが求められ、例年の数倍の分量となりました。

各大学はこれまで、各大学が定めた公約である中期計画の達成のために懸命に努力を続けてきたわけですが、諸般の事情により、どうしても100%の達成が困難な項目は少なからず生じます。

しかしながら、今回の法人化後初となる中期評価については、評価結果を各大学の次期中期目標期間の運営費交付金の額に反映させる、つまり「評価結果が思わしくない場合には運営費交付金を減額する」ことがあらかじめ決定しているため、各大学は、従来の年度評価とは全く異なる緊張感の下、未達成事項の消滅に向け懸命の努力が払われてきたのではないかと思われます。

このような状況の中、残念ながら未達成が確実と判断される事項について、報告書上、あたかも達成したかのような記述を採用したり、エビデンスとなるデータを少々有利に加工するといった「報告書の厚化粧」をしている大学があるとの話を耳にすることがあります。

これは、はっきり言って「報告書の偽造」です。しかも学長や役員の黙視の下に行われているという情報もあり、このような悪質な行為に基づく法人評価がまかり通るとすれば、極めて由々しき事態です。

中期評価の目的は「各大学が自ら公約として掲げた中期計画の達成に総力を挙げて取り組むこと」であり、「大学が受ける運営費交付金を減らさないため、できるだけ有利な評価が得られる報告書の作成に全力を尽くすこと」ではありません。このような本末転倒の事態を今後も許していけば、法人評価制度そのものの存在が危うくなるに違いありません。特に大学の公的性格を踏まえれば決して放置できることではありません。

大学における健全な経営の基本である「PDCAマネジメントサイクル」の実現のためには、「活動を目標と対比し達成度を評価し検証する」ことにより、更なるステップアップを目指すことが何より重要なはずです。未達成を指摘し合い、達成のための努力を互いに促すべきはずの教職員が身内の傷をなめあうような愚かな行為を是とするは、法人評価制度の趣旨に反するばかりか、国民に対して申し開きのできない恥ずべき行為です。

閉鎖性の強い、ともすれば社会から孤立しがちな大学は、これまで世の中に説明できないことを平然と行ってきたきらいがあります。今後とも前記のような所業を続けていけば、必ずや社会から淘汰されることでしょう。これまでの法人評価において心当たりのある大学、役員、教職員はこぞって大いに反省し即刻改めるべきです。

■次期中期目標・中期計画策定に向けた動き

法人評価を行うベースとなるのが、文部科学大臣が作成することになっている「中期目標」(実際は各法人が作成)と、各法人が作成する中期目標の達成に向けた具体的な行動計画である「中期計画」ですが、現在の第1期中期目標・中期計画は、法人化移行時の混乱期に作成されているため、様々な問題点や改善点を指摘する声が多いのは関係者の共通の認識です。

既に、国立大学協会を中心として、次期中期目標・中期計画の在り方についての検討や作業が進められていますが、最終的に決定する権限を有するのは文部科学省であり、文部科学省は、中期目標・中期計画の策定、年度計画の策定、目標・計画を達成するための様々な取組みや作業等々において、これまで多くの国立大学の教職員がどれだけ大変な思いをしてきたのか、その労苦に見合う評価システムだったのか、社会への説明責任という名の下に、結果として中央官庁の机上論に振り回されてきただけではなかったか、などよくよく検証した上で、効率的かつ効果的な評価システムへの改善を真剣に考えていただきたいと思います。

今後の法人評価の在り方に関連して、重要な示唆を与える記事をご紹介しておきたいと思います。

■21世紀の新たな夏の風物詩

暑い夏が来た。我が国の夏の風物詩の蚊帳、ブタの蚊遣り、かき氷などは、最近の生活の中ではあまり見かけなくなったが、誠に情緒豊かである。

公務員の夏の風物詩の一つに概算要求がある。毎年6月、7月は、忙しい業務の合間に概算要求のタマ込めに知恵と汗を出す。

概算要求に加え、21世紀に入り、新たにこの時季の風物詩になったものとして、独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人の決算と業務実績の評価がある。

法人化により、各法人は6月末までの財務諸表等の提出を、新たに義務付けられた。また、各府省の評価委員会が、法人の前年度の業務実績を評価するという仕組も、法人化に伴い創出された。当初は、法人作成資料は少なくするなど評価に係る法人の作業負担を抑えるとの触れ込みであったが、完璧を求める公務員の性か、沢山の評価項目が設定され、山ほどのデータが求められ、法人の事業の向上を目指すような評価とは、かなり縁遠いものとなっているようだ。

もともと法人制度は、法人が創意工夫を促すよう、その裁量を大きくし、事後チェックを重視する趣旨で創られたはずだが、発足後7年経つうちに、給与は国家公務員と横並びが望ましく、人件費も国家公務員時代の定員削減よろしく毎年1%以上削減することとされ、随意契約の基準額も国と同様になるなど、結局、国家公務員時代と変わらない制約の中で自己収入を上げよという、公務員の発想らしい変な制度になってきた。

来年度以降の法人評価は、各府省の評価委員会ではなく、総務省に一元化されるという。評価の全てが無駄というつもりはないが、「角を矯めて牛を殺す」の譬えを、法人評価の関係者に贈りたい。(平成20年7月14日、文教ニュース「文部科学時評」から)

2008年7月29日火曜日

平成21年度概算要求基準

本日(29日)、平成21年度予算に係る概算要求基準が閣議において決定されました。

概算要求基準を閣議了解 高齢化で社会保障膨らむ (2008年7月29日 共同通信)

政府は29日夕、臨時閣議を開き、国の政策経費である一般歳出の上限額(基準額)を47兆8400億円とする2009年度予算の概算要求基準(シーリング)を了解した。公共事業などの削減を継続するが、高齢化に伴い年金、医療など社会保障費が膨らみ、08年度当初予算より約5600億円増えた。

3300億円の重点枠(重要課題推進枠)を確保し(1)経済成長力の強化(2)二酸化炭素(CO2)の排出抑制(3)医師不足対策を含む社会保障-などに手厚く配分。食料や資源・エネルギーの安定供給も対象に含めた。

財源捻出のため、3年以上継続している事業、公益法人向け支出などをゼロベースで見直し「政策の棚卸し」を行うと明記。公務員のレクリエーション費の原則廃止、タクシー利用の適正化を掲げた。

福田康夫首相は閣議に先立つ経済財政諮問会議で「国民の目線に立ち、めりはりのある予算にする」と決意を述べた。


平成21年度概算要求基準のポイント

概算要求基準は、財務省のホームページにおいて公表されています。主なポイントは、次のとおりです。

1 基本的考え方
  • 平成21年度予算においては、財政健全化と重要課題への対応の両立を図る。

  • このため、「基本方針2008」を踏まえ、引き続き、歳出全般にわたる徹底した見直しを行い、歳出の抑制と真に必要なニーズにこたえるための財源の思い切った重点配分を行う。また、国債発行額についても極力抑制する。

2 具体的な枠組み

(1)基準額の枠組み
  • 年金・医療等については、自然増(8,700億円)に対し、制度・施策の見直しによる削減・合理化(▲2,200億円)を図り、6,500億円程度の増。

  • 公共事業関係費は、前年度予算額から▲3%減。

  • その他経費(義務的経費、人件費を除く)については、以下を除き、前年度予算額から▲3%減。
■科学技術振興費    前年度予算額と同額
   ■国立大学法人運営費 前年度予算額から▲1%減
   ■私立学校振興費    前年度予算額から▲1%減
   ■防衛関係費       前年度予算額から▲1%減
  • 義務的経費は、前年度予算額と同額。ただし、制度の根元にまで踏み込んだ抜本的見直しを行う。特殊要因(20 年度予算に比して、衆議院議員総選挙に必要な経費の増、北海道洞爺湖サミット開催経費の減など)については加減算。

  • 人件費については、総人件費改革の内容について着実に実現。
(2)財政健全化と重要課題への対応の両立の仕組み
  • 成長力の強化、低炭素社会の構築、安心できる社会保障、質の高い国民生活の構築等、「基本方針2008」で示された重点課題のうち、緊急性や政策効果が特に高い事業に対して重点配分するため、「重要課題推進枠」(3,300億円程度)を新設。

  • そのため、政策の棚卸し等を通じ、財源を捻出(公共事業関係費及びその他経費につき、上記基準額から更に▲2%分を充当)。

  • 公共事業関係費及びその他経費については、25%増の要望額を確保。

3 各経費の重点化・効率化等
  • 各経費の重点化・効率化に当たっては、成長力の強化、低炭素社会の構築、安心できる社会保障、質の高い国民生活の構築等、「基本方針2008」に示された重点施策を推進。

  • 庁費等の一般行政経費については、徹底して見直し、効率化を行うことにより、厳しく抑制。

  • 独立行政法人については、「整理合理化計画」に盛り込まれた事項を着実に実施。これにより運営費交付金等を抑制。

  • 公益法人向け支出については、国民の視点に立って無駄を根絶し、支出を大幅に縮減する観点から徹底して見直し。

  • 地方向け国庫補助負担金(年金・医療等を除く)について、前年度を下回る額に抑制。

  • 特別会計についても、一般会計と同様、政策の棚卸し等を通じ、個別の事務・事業を徹底的に見直し、合理化・効率化を推進。

  • 道路特定財源制度は平成20年の税制抜本改革時に廃止し平成21年度から一般財源化。これに伴う経費の取扱いについては、予算編成過程において検討。

4 別途検討事項
  • 高齢者医療の円滑な運営対策については、予算編成過程において検討。

  • 平成16年年金改正法附則第16条に基づく基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げ及び少子化対策等については、「基本方針2008」に基づく税体系の抜本的な改革と併せて予算編成過程において検討。

  • 防衛関係費の更なる合理化・効率化を行ってもなお、地元の負担軽減の実施に支障が生じると見込まれる場合の米軍再編経費等について、予算編成過程において検討。

以上のほか、最近のお役所の不始末を反映してか、次のような記述も見られました。


庁費等の一般行政経費等については、納税者の視点に立って、所管の行政を見直し、その効率化に向け不断の努力を行うことを通じて、厳しく抑制する。
その際、特にレクリエーション経費の原則廃止等、不要不急の経費を削減し、タクシーの利用に係る支出の適正化及び効率化の取組を反映させるとともに、広報経費及び委託調査経費について、必要性をゼロベースで徹底して見直す。


(参考)

平成21年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)
平成21年度一般歳出の概算要求基準の考え方

全体としては従来と同様に厳格基調であり、直面する重要課題の解決に向けた財政誘導方策も明確に盛り込まれているように感じました。

これから8月末日に向けた各府省内の攻防、そして年末に向けた財務省との熱い闘いが始まります。

お役所の皆さんもそうですが、政治家の皆さんも選挙対策にかまけていないで、国民の大事な税金の使途について真剣に考え、汗をかいてくださいね。よろしくお願いしますよ。

2008年7月25日金曜日

これからの大学事務職員に求められる能力

近時、国立大学の法人化や全入時代の到来等に伴う大学経営重視の考え方が、以前から専門家によって行われてきた大学事務職員の在り方や職能開発に関する研究を、大学現場における実学として導入する必要性を高めています。

また、教育再生会議や経済財政諮問会議といった政府レベルにおける大学事務局の改革、事務職員の一層の資質向上と合理化等経営の効率化に関する議論が、国の重要政策としての大学の事務改革に拍車をかけています。

しかし、例えば国立大学の場合、事務職員の現状は、天野郁夫氏が指摘しているとおり、これまで、教員中心の大学運営の下で文部科学省所属の国家公務員としてルーティンワークに従事し、自立的な大学経営に必要な職能開発の機会を与えられてこなかったために、新規事業の企画立案等に対応しうる人材は質・量ともに十分ではありません。

事務職員の職能開発に関する多くの文献等において共通するこれからの事務職員に求められる能力は、教育研究活動支援及び大学経営支援という大学のミッションの特性に応じた専門的能力であり、この専門性は、従来のジェネラリストからスペシャリストへの単純な移行のためのツールではなく、幅広い教養や学術的視点、社会や学生・教員とのコミュニケーション能力、高等教育を取り巻く状況を分析する能力、そして戦略的な経営思考や企画能力などの大学人としての基盤的能力に裏打ちされたもの、またそれは、理論と豊富な実践経験を備えた大学経営人材(プロフェッショナル)を志向するものでなければならないとされています。

これからの大学には、学長や経営トップを支えるプロとしての力量のある事務職員が不可欠であり、今後、OJTを通じた実践的SD、職能団体や大学等が行うSD活動、大学院での専門教育など、多様な機会を積極的に活用し、事務職員が主体的に企画能力、専門能力、課題発見・解決能力を高め、教員との適切な役割分担・対等関係に基づく協働を促進していく必要があります。

その前提として、大学(私達)は、教職員の意識改革(又は意識のない者への動機付け)、事務組織の硬直性や非効率性の解消、OJTにおいて指導者となるべき幹部事務職員の能力開発、そして、大学の特殊性と言われる部局(教授会)自治主導の運営方式からの早急な脱却に向けた組織的、責任のある行動に努めなければなりません。


さて今日は、日本私立大学協会のアルカディア学報に掲載された「『職員論』前進への課題-現実改革を担う具体論の構築を」(日本福祉大学常任理事 篠田道夫氏)をご紹介します。

職員の戦力化

7月に発表された定員割れ大学は、160校と過去最高を数えた。07年全入、09年18歳人口120万人時代、今、私学経営は本当の正念場を迎えている。改革の中身とスピード、市場の評価が厳しく問われる中、現場の第一線にいる職員の戦力化と開発型業務の推進は直ちに着手でき、また実効性もある取り組みだ。

職員養成を行う桜美林大学大学院で「大学職員論」を担当している。現状分析から始めるレポートで多くの受講生から語られるのは、年功序列型で管理者も順送り、異動もなく、業務方針も不明確で前年通り、意見を言える場や提案を求められることも無いという旧態依然の状況の中で苦闘している姿だ。

市場競争と淘汰へ、時代の激変にも拘らず、大学の戦略とマネジメントの転換は遅れている。「職員論」はこの数年で飛躍した。「アドミニストレーター」も「SD」も市民権を得た。大学関係各誌でも職員特集が相次いで組まれ、東京大学や立命館大学でも職員養成教育を手がけ始めた。しかし、大学の改革と経営に職員の力は欠かせないという理念の普及にも拘らず、現実の業務改革は遅れているのが実態だ。職員論自体の進化のためにも、また改革の前進のためにも、この理念の実体化、実践の指針となる具体論、実践論が求められている。

「車の両輪」の実質化

第1は、職員の管理運営への参画問題だ。職員の位置や役割の重要性の提起から、経営組織や大学機構への職員参加のあるべき姿、そこでのポストや権限など具体策が不可欠だ。これを語らない職員論には限界がある。

「車の両輪」論を学内機構に実体化する具体的取り組み、方法論なしに、職員の主体性の確立、急速な力量形成、真の教・職協働は難しい。特に改革にとって重要なのは政策決定機関(過程)への職員参加だ。市場に向き合う職員の現場からの提案を生かす仕組みなしに、ニーズを踏まえた問題解決に繋がる意思決定は出来ない。

そのためには経営体制の刷新や経営と教学を結ぶ政策統合機関の確立なども重要だ。教学との関係では、現在副学長など教学の重要ポストへの職員配置は徐々にではあるが広まり、大学機関への職員参加も前進しつつある。教・職協働からさらに教・職幹部の一体的業務遂行へ進む、具体論の解明が必要だ。また、これがアドミニストレーター実現にもつながる。

OJTの高度化

第2は、SDを集合研修や外部セミナー、大学院での教育だけに解消しては駄目だと言う点だ。危機の時代に直面する厳しい現実課題の解決を通してこそ、実践的な政策・開発力量を育てることが出来る。今改めて、OJT、人事考課・育成制度のあり方と構築が求められている。

業務提案を決定に持ち込み、事業実施をマネジメントする、この中に研修計画を組み込み、開発と統治の力量を持続的に評価し、育成する仕組みがいる。それを基礎に外部研修を活用する、また大学院修了者を適切なポストにつけるなどすれば、知識と実践が結びつき、現実を動かす力になる。

形はともかく人事・育成・考課システムの改革は避けて通れない。しかし、進んだ考課システムも単独では機能しない。採用方針から配置、異動、育成、管理者選抜など人事制度、人事政策をトータルにどう構想するか、育成を軸にした事務局建設の全体方針がいる。

業務と育成の一体化

第3に、こうしたOJTの重視は人事管理と業務管理の結合、業務の遂行そのものが育成に直結する仕組みを作ることを意味する。そのためには大学の戦略課題に連動した業務課題の設定と遂行、すなわち業務を処理型から政策型に作り変えなければ専門力量の形成は出来ない。

この「『戦略的に仕事をする』というアプローチによって、初めてミッションの達成も、また業務の卓越性も獲得する」(孫福)ことが出来る。これがルーチン型の従属的業務からの脱却のキーであり、この遂行が職員の固有の役割である「経営・教学の、業務による統合」を実現する過程でもある。

「目標管理制度」とも言いうるこのシステムは専任職員のコア業務へのシフト、明確な目標設定と評価、開発・企画と統治・マネジメントへの力の集中を求めるが、これこそ今日、プロフェッショナルとしての職員に求められる業務である。

業務目標の達成行動が評価と研修の結合によって力量形成システムにもなりうる。このシステムは個人でもチームでも応用可能で、こうした育成と業務の一体化した業務・人事制度の開発が求められる。

領域別業務論の展開

さらに第4には、こうした職員の政策的業務の中身や水準を、業務領域別に明らかにする必要があるという点だ。理論が個別業務の実践の指針となるような各論の展開がいる。

教務分野では学生満足度の向上やエンロールメント・マネジメント、学習支援にどのような役割を担うべきか、学募や就職分野では、営業活動で掴む高校や企業の大学評価をどう改革に繋げるか、研究の社会的連携の組織や新規事業の企画推進、財政指標や人事計画作りなど、業務ごとの仕事のレベルと目標の明確化が問われている。

行政管理職員と訳されるアドミニストレーターと合わせ、最近議論となっているアカデミック・アドミニストレーター、学術専門職員、学術経営分野の独自の業務のあり方や育成、その専門性についての具体的解明も重要だ。この分野は企業的手法が通用せず、教員との協業も不可避で、業務の境界や権限も未分化のままだ。個別の学生や教員に対処するため、単一方針では対応が難しく、求められるスキルも違う。

また、今後新たに発生する業務は、教・職の境界が不明確で、ニッチ業務ともグレイゾーンともいわれるが、大学の革新にとって重要な分野が多く、積極的に挑戦すべきだ。そのためにも縦割りを脱却する新たな業務運営、事務局編成の追求がいる。また、最近急速に進む戦略思考を支えるツール、環境変化を常に組織革新に結びつけるマネジメント手法、SWOT分析、マーケティング、戦略的プランニング手法等の大学への創造的適用の研究も求められる。

戦略と業務を結ぶ管理者

第5は、以上の課題の推進を実際に担う現場の責任者、リーダーである管理者論だ。

職員の力は基本的にチームによって発揮されるため、それらを組織し、リードする管理者の役割や力量は決定的だ。元気な企業は、中堅層、課長補佐クラスが会社を動かす原動力になっており、このミドルアップダウンのシステム、現場の事実やニーズを熟知したミドル層が自立的な動きで経営事業の立案に関与し、市場評価を勝ち取っている。この現場(業務)と戦略の結び目に管理者がおり、その自覚や資質、政策提言力量が業務の成否に大きな影響を持つ。

孫福氏は今日求められる管理者を、スペシャリストの専門性とゼネラリストの判断力の結合した「ハイブリット型のプレイングマネージャー」と呼んだ。トヨタではこれを赤鉛筆と黒鉛筆と称し、黒鉛筆を離さない実践型の管理者育成を重視してきた。ところが大学管理者は調整型、実務チェック型のスタイルもまだ少なくない。

年功型の打破、実力主義に基づく管理職人事の刷新と若手幹部の登用、管理業務の水準の抜本改革は困難も伴うが、直面する最重要課題のひとつだ。戦略に確信を持ち、その実現の先頭に立つのは、この最前線で指揮を取る管理者集団以外にないからだ。

戦略を現場の言葉で語り、課員を組織し、第一線の現場から課題を構築し事業を構想する、このマーケティングによる市場への敏感な対応と不断の事業革新こそ、管理者の今日の役割に他ならない。大学改革の当面の重要な環のひとつは、ここにある。

2008年7月23日水曜日

高等教育政策の動向

文部科学省高等教育局が配信するメルマガ「高等教育政策情報」(2008.7.22、第37号)の主なものをご紹介します。

中央教育審議会(大学分科会)の審議状況


7月8日(火)、中央教育審議会大学分科会(分科会長:安西慶應義塾長)第69回が開催され、1)教育振興基本計画等、2)学士課程教育の構築に向けて(答申案)、3)高等専門学校教育の充実について(答申案)等について、報告及び意見交換が行われました。

安西分科会長からは、「教育振興基本計画をめぐる議論の中で、高等教育が大事だということが、浮き彫りになった。計画の14ページ『この5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ、中長期的な高等教育の在り方について検討し、結論を得ることが求められる。』の部分は大学分科会に向けたものと認識している。今後、大学分科会では、具体的な議論を積み上げてまいりたい。」という旨の発言がありました。

「学士課程教育の構築に向けて(答申案)」は、「知識基盤社会」における大学教育の量的拡大を積極的に受け止めつつ、教育の質の維持・向上を図ろうとする基本的な考え方に立っています。この中では、1)学位の授与、学修の評価、2)教育内容・方法等、3)高等学校との接続、4)教職員の職能開発、5)質保証システムの各節にわたり、改革の具体的な方策について提言を行っています。分科会では、地方における大学の役割の重要性、自己点検・評価の未履行に対する厳格な対応、高等教育の財政支援の必要性に関する記述を追加して欲しい等の意見がありました。

「高等専門学校教育の充実について(答申案)」は、高等専門学校の振興方策について、高等専門学校を巡る社会経済環境の変化を分析するとともに、このような変化に対応した高等専門学校教育の今後の在り方及びその充実に向けた具体的方策を示しています。分科会では、高等専門学校教育の充実のためには財政支援が欠かせない等の意見がありました。

両答申案は、修正について分科会長に一任され、今後開催される予定の中教審総会に諮られる予定です。

その他、留学生特別委員会の審議状況について、「『留学生30万人計画』の骨子」取りまとめの考え方の説明があり、委員からは、同計画の実施に向けた財政支援の必要性や大学の自主的な取組の必要性等について意見が出されました。


大学が外国に学部、研究科等を置く場合の基準について


我が国の大学の国際展開については、これまでも、外国大学との共同研究や学生等の海外研修、情報収集のための事務所の設置、そして外国の制度に基づく教育の実施等が行われてきたところですが、さらに、大学が外国に学部等の組織を置いて我が国の大学教育を実施できるよう、平成16年12月に省令改正を行いました。

具体的には、大学設置基準等を改正し、大学、大学院、短期大学は、文部科学大臣の定めるところにより、外国に学部、研究科、学科その他の組織を設けることができる旨を規定し、本年6月30日に、この「文部科学大臣の定め」を告示として制定しました。これにより、各大学は、外国において外国人学生(や日本人学生)に対し、我が国の大学教育を提供し、我が国の学位を授与することができます。

我が国の大学の国際展開はますます重要になってきており、各大学において、積極的にこの制度を活用した質の高い取組が期待されます。

我が国の大学の海外校制度の概要は以下のとおりです。
  1. 大学が海外校を設ける場合は、原則として、これまでの国内校の場合と同様、我が国の学校教育法及び大学設置基準等の法令の適用を受けます。すなわち、基本的に、海外校の収容定員に応じて専任教員や校地・校舎面積を確保することをはじめとして、国内校と同様の教育研究環境を備える必要があります。(ただし、海外校の教育期間が修業年限の一部である場合等には、一定の軽減措置があります。)
  2. 大学が海外校において授与できる学位は、当該大学の国内校において授与することが認められている学位の種類及び分野と同じものに限られます。したがって、大学が海外校のみを置くことは認められません。
  3. 海外校は我が国の大学の一部ですので、我が国の大学の学長が当該海外校の所属職員を統督している必要があります。
詳細⇒http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/06/08061617.htm(7.24関係資料掲載予定)


大学における教育内容等の改革状況について


文部科学省では、「平成18年度の大学における教育内容等の改革状況」についてとりまとめ、6月3日に公表しました。改革状況について以下のような項目をご紹介します。

1)大学の国際化について
  • 「英語による授業」のみで卒業できる学部:5大学6学部
  • 「英語による授業」のみで修了できる研究科:57大学101研究科
  • 海外大学とのダブル・ディグリー制を採用している大学:37大学

2)授業の質を高める取組について
  • 学生による授業評価の結果を授業改善に反映させる組織的な取組:377大学(前年度335大学より増加)
  • ファカルティ・ディベロップメント(教員の職能開発)を実施している大学:628大学(平成20年4月からの義務化に先立ち、着実に増加)
詳細⇒http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/06/08061617.htm


緊急医師確保対策に基づく平成21年度からの医学部の定員増に関する申請等の状況(6月申請分)について


昨年5月に政府・与党が取りまとめた緊急医師確保対策に基づき、平成21年度からの医学部の定員増を予定している26大学から、申請書等の提出がありました。

今後、8月に開催される大学設置・学校法人審議会の大学設置分科会(会長:八田英二同志社大学長)に諮問(国立:意見伺い)を行い、同審議会の答申(国立:回答)を経て、8月末に認可(国立:審査結果の通知)をする予定で作業を進めることとしています。

申請状況の詳細⇒http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/06/08063004.htm


G8大学サミットについて


G8首脳サミット開催に合わせ、6月29日から7月1日にかけて、第1回G8大学サミットが札幌で開催されました。

これは、初めてG8諸国等の主要大学長等が一同に会し、地球規模での持続可能性実現のために大学が果たすべき責務とそれらを達成するための具体的な取組について議論し、学術界から貢献することを目的として開催されたものです。

大学サミットには合計35大学から、約140人が参加しました。会議では、「グローバル・サステイナビリティ(持続可能性)と大学の役割」をメイン・テーマに議論され、成果として「札幌サステイナビリティ宣言」をまとめました。

7月4日に東京大学総長、北海道大学総長、慶應義塾長、トリノ工科大学長及びエコール・ポリテクニーク学長により、福田総理に対して、宣言の手交及び報告が行われました。

第2回G8大学サミットは、2009年G8首脳サミットがイタリアで開催される機会に、イタリア(イタリア工科大学が中心)で開催される予定です。

G8大学サミットホームページ⇒http://g8u-summit.jp/


政策担当者の目「人材育成の好循環サイクルに向けて」


6月27日、「産学人材育成パートナーシップ」の中間取りまとめが公表されました。人材育成に関して大学と産業界が対等の立場で対話し、産学双方の具体的アクションに繋げていこうという趣旨の下、昨年10月に発足し、以来、「化学」「機械」「材料」「資源」「情報処理」「電気・電子」「原子力」「経営・管理人材」「バイオ」の9分野の分科会を設けて議論を行ってきました。

当初、議論においては、企業サイドの求める資質として、ややもすれば、高度の専門性ではなく、「コミュニケーション能力」や「行動力・課題解決能力」などが挙げられ、初等中等教育を含めた議論に及びました。そうした課題も受け止める必要はあると思いますが、その議論は、大学で学ぶべき専門的知識に対する期待値の小ささと裏腹です。採用活動の早期化やオーバードクター問題にも同様のことがいえると思いますが、従前と同じく企業サイドが採用に当たって学生が大学で何を学んできたかを重視しない姿勢を維持する限りにおいて本当の意味での人材育成の好循環サイクルは生まれないと思います。

最終的には中間取りまとめでは、企業の採用活動の適正化を図ることを経済界からの発意で盛り込んだほか、例えば、情報処理分野で共通キャリア・スキルフレームワークと学士課程教育との関連を産学で整理することやキャリア開発計画(CDP)のモデル開発を行うことなど、それぞれの分野でその専門性を踏まえた具体的な行動を盛り込んだものとなりました。

これからの日本は、企業の人材育成・確保において大学という知の資産を活用せずに国際競争を生き残ることはできないと思います。今後、このパートナーシップの議論がさらに実のあるものとなり、産学双方の発展に寄与していくことを期待しています。

2008年7月22日火曜日

大学における「会議」というもの

義務教育諸学校はいよいよ今週から夏休みに入りました。大学もそろそろ夏休みモードに入ります。

とはいっても、これは学生と教員だけのことです。大学職員には学生や教員のような長い長い夏休みはありません。学生がいないからといって仕事がないわけでもありません。このことは、社会の皆様がよく誤解されていることのひとつでして、ひっそりとした大学の中でも、実は黙々と働く大学職員の姿があるのです。

大学が夏休みに入ると大学職員にとってとてもいいことがあります。それは、連日のように大学のどこかで開かれている様々な「会議」というものが一時お休みになるということです。

大学には社会や民間企業の皆様から見て実に不思議な世界が数多くありますが、この「会議」というものがそのひとつでして、その種類、数、要する時間の常識を超える多さには、さぞやびっくりされあきれかえることでしょう。

なぜそれほどまでに大学には「会議」が必要なのでしょうか。簡単に申し上げれば、教員集団による悪しき民主主義、合意形成を重んじる教員の自治意識が長きにわたり大学を支配しているからなのです。この大学の特殊性が、非生産的・無責任な議論をはじめ、多くの会議、無駄な時間・労力・費用を産み出しているのです。

学生への教育や研究の高度化を本務とする教員が、例えば、駐輪場を構内のどこにつくるかといった些細な大学の管理運営についての検討に膨大な時間を費やす、しかもそのために、高額な教員人件費、印刷費、光熱費、紙代、資料を作成する職員の人件費等々といった多額の費用が費やされている、このような社会から見て全くの非常識な状態が、大学の中では平然とまかり通っている。皆さん放置できますか?

経験から申し上げれば、大学における「会議」というものは、そのほとんどが、形式、内容ともに無駄なものだと思います。それは会議の成果、つまり責任のある効率的な意思決定を行う場として全く機能していないからです。

学長のリーダーシップの重要性が謳われて久しいわけですが、その理念に従って大学が効果的に機能している国立大学はおそらくわずかでしょう。現実は、多くの教員出身学長が、歴史と文化の異なる各部局への配慮に心を砕き、バランスと調整に奔走しているといったことではないでしょうか。したがって、会議コストの削減や効率的な運営に向けた職員の努力も、残念ながら、学長を含めた教員中心の会議においてはほとんど効果がなく、改革のモチベーションは低下する一方です。

さらに、会議の中身についても、例えば、大学の経営戦略を議論するような重要会議ですら、学長、理事、部局長といった大学の経営トップが顔をそろえていながら、大所高所の議論はおろか、議論が枝葉末節、資料の文言やてにおはの指摘、各部局のご都合論・利害追及に終始し、「部局あって大学なし」といった状況ですし、全入時代を迎え、これからの教育体制をどう強化するのかといった解決が急がれる課題についても、現有教員の学問領域(言いかえれば「生首」)を最優先に議論が行われていて、どういった人材を育てるのか、社会のニーズは何かなど、まず考えなければならない「学生」を蚊帳の外に置いた無意味な議論が展開されています。「教育組織」論ではなく、「教員組織」論という本末転倒の情けない内容の会議ばかりであり、これまた大学を想う職員にとってはモチベーションの低下の一途です。

最後に少々古くはありますが、大学における「会議」というものについて、見事な指摘をされている記事をご紹介します。的確なご指摘に諸氏同感といったところではないでしょうか。

大学における「会議」というものの在り方は、小さいことのようですが、みんなで考え直さなければならないとても大事なことではないかと思うのです。


大学には会議が多い。いろいろな大学があるからこの様に断定すべきではないかも知れないが、私の見聞するところでは多い。

なぜ多いのか、あるいは多くなりがちであるのか。私は、大学の教員が意思決定に関わり過ぎていること、そしてそのことが良いこととする風潮があることに原因していると考える。

大学の自治の在り方は、教員団による自治とする考え方である。教員は自主性、自律性が高く、独立独歩の傾向が強いので、全員参加的な会議を好む向きがあると考える。それぞれの個性を尊重した民主的な決定が大切であるとの主張も会議を多くし、また、長くする原因となる。

教育の在り方や共同的、組織的研究の在り方などその分野の専門家による徹底した会議は、大学として大変結構なことであり、大いに会議を催して欲しいものである。一方、多くの者が参加する会議は、その参加者に時間を使わせることになる。そのため、その犠牲に値する会議でなければならない。教育研究のためには大いに価値があると考えるが、本来の任務として教育研究を担う教員が、多く参加する大学の管理運営の会議となると大いに疑問である。

教育研究推進のため、ファカルティーメンバーと学長等本部執行部、部局等執行部との適切な役割分担によりファカルテイの教育、研究の時間を確保すべきである。執行部の中に事務系職員等が当然含まれる。それら事務職員等と教員との役割分担が必要である。役割分担を実現するためには、両者間の信頼関係が必要であり、特に職員の専門的能力とコミュニケーション能力等の一般的資質の向上が大切であり、それが無いとなると役割分担は不可能である。

従来の国立大学においては、事務職員、特に幹部職員は、文部科学省の人事権のもとにあり、ファカルティーは実質的に大学の人事権と制度的に二分された状態であったが法人化によりその人事権が大学に一元化され、そのことに関する不満は無くなった。また、職員採用も様々な人材を柔軟な仕組みで採用することが可能となった。職員側の分担能力が高まった時、教員の意識の変革が求められる。それを促す学長等のリーダーシップが重要となる。

教育研究の成果を厳しく問う姿勢、そして競争的環境の強化が大学内外において高まることが大変重要となる。(平成17年3月14日 文教ニュース 文部科学時評から)

2008年7月3日木曜日

夢と消えた数値目標 教育振興基本計画(2)

前回の日記でもご紹介しましたが、教育振興基本計画の閣議決定(7月1日)を受け、新聞各紙はこぞって社説に論評を掲載しています。

また、基本計画の策定に向けご苦労された文部科学省も、高等教育局が配信するメルマガ「高等教育政策情報(第36号 2008年7月1日)」を通じて、以下のような「反省と抱負の弁」を述べています。


■「教育振興基本計画」-大臣間の調整を経て、閣議決定-

「教育振興基本計画」は、改正教育基本法に基づき、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、政府が策定するものです。

文部科学省では、平成18年の教育基本法の改正を受け、平成18年2月から中央教育審議会において「教育振興基本計画」の在り方について検討を行い、平成20年4月に答申をいただきました。この答申を踏まえ、その後の様々な議論や要望も参考にしつつ、文部科学省が計画案を策定し、5月下旬から政府内での協議を進めていました。

このたび、関係大臣間の調整を経て協議を終え、7月1日(火)の閣議において「教育振興基本計画」が決定されました。

閣議後の記者会見において、渡海文部科学大臣からは、「数値目標を掲げることができなかったのは大変残念。現下の厳しい財政再建、財政状況の中で政府内の合意を得られなかった。今後、税制改革を含む歳入状況等の変化も踏まえ、投資と成果について研究を進めれば、数値目標は可能になるのではないか。いずれにせよ平成21年度の概算要求には、教育振興基本計画の内容を反映させていく。」とのコメントがありました。

■政策担当者の目

(1)「骨太方針2008」

去る6月27日(金)、いわゆる「骨太方針2008」が閣議決定された。骨太2008の教育関係は、昨年の骨太2007における教育関係の記述と比較して寂しい限りの分量となっている。

本日(7月1日)に閣議決定された「教育振興基本計画」に基づき「我が国の未来を切り拓く教育を推進する。」としか記述されていない原案が内閣府から示されたのが骨太の各省協議のスタートであった。

これに対して文部科学省は反発し、基本計画が5年間の施策をカバーしているところ、骨太2008では来年度の重点施策をカバーするという違いがある点を踏まえ、「その際、・・・など新たな時代に対応した教育上の諸施策に積極的に取り組む。」の記述の中に幾つかの項目を具体的に列挙すべしと主張し、協議が難航した。

骨太2008の案文の与党審査においても、教育関係の記述が少ないことについて強い反発が出され、自民党の政調全体会合は6月24日だけでは了承されずに、翌25日も開催される異例の事態となった。24日の時点では他省庁関係はほぼ調整が終了しており、調整未了の大半が教育関係という状況については、文科省もかなり馬鹿にされたものだと感じたところである。

しかし、24日夜から翌25日未明まで断続的に関係省庁調整が行われ、他省幹部から「いつもと違って今回は文科省が意外と頑張りますねえ。」と言われるほど文科省として強く主張した結果、最終的には、当方の主張がかなり取り入れられて、高等教育関係では「高等教育の教育研究の強化」と「競争的資金の拡充」の2点が骨太2008に盛り込まれる形で決着を見た。

前者の「高等教育の教育研究の強化」とは、基本計画における高等教育関係の中身、すなわち「大学等の教育力の強化と質保証」や「卓越した教育研究拠点の形成」といった事柄を包括的に含むものとして、かかる表現を採用した次第である。なお、基本計画にある「大学等の国際化の推進」については、既に骨太2008の経済成長戦略の事項の1つとして「教育の国際化」(留学生30万人計画等)が記述されているところである。

後者の「競争的資金の拡充」については、骨太方針2008の「教育の国際化」の中で、「グローバル30(国際化拠点大学30)」を開始するとされており、これを中心として来年度は抜本的に競争的資金を増加させる必要性があることから、敢えてこの部分を取り出して記述した次第である。なお、昨年の骨太2007で記述されていた「基盤的経費の確実な措置」との表現については、既に基本計画の中できちんと記述されて、今後5年間は担保されることになっていたので、ここでは特出しする必要性がなかった次第である。
以上のように、骨太2008の教育関係は、内容的にはそれなりに評価できるものであるが、分量的には昨年の骨太2007に遙かに及ばない「骨細」なものとなってしまった。

(2)「教育振興基本計画」

本日(7月1日)、基本計画が閣議決定された。いろいろな言い訳があるかも知れないが、率直に言って、教育投資について具体的な数値目標を盛り込むことが出来なかったことは慚愧の念に耐えない。

この問題については、高等教育関係者がかなり奮闘して下さったことに感謝しているが、文科省全体として、また高等教育局自身の力不足もあり、かかる結論となってしまい、私自身、関係者の皆様方に大変申し訳なく思っている。

しかし、基本計画が最終ゴールではない。今回の結論に落ち込むことなく、これからは毎年毎年の予算要求過程で高等教育予算の充実を図るべく努力したい。何度倒されても立ち上がって闘う不屈の魂を持ち続けて。


このたびの基本計画の策定、特に将来にわたる教育投資の数値目標を盛り込むことについては、文部科学省や中央教育審議会の皆さんをはじめ、多くの教育関係者の方々の懸命な努力が続けられてきたものと思います。

私達は、その努力の一端を報道等により知ることしかできませんが、大学現場に身を置く者として心から敬意を表したいと思います。閣議決定の直前まで続けられた取組みについて、2点ほどご紹介します。


支援怠れば「教育亡国」 高等教育投資拡大求め声明 (2008年6月12日付 共同通信)

高等教育への支援を怠れば、日本は「教育亡国」の道を歩むことになる-。慶応大の安西祐一郎塾長ら中教審委員の4人が12日の会合で、教育振興基本計画の策定を進める政府に、大学や大学院など高等教育への財政支出拡大を訴える緊急声明を発表した。渡海紀三朗文部科学相にも要望書を提出した。

基本計画をめぐっては、現行の国内総生産(GDP)比3・5%の教育予算を、今後10年間で経済協力開発機構(OECD)諸国平均の同5・0%に拡大するとした文部科学省原案に対し、歳出拡大につながる数値目標の設定に財務省が反発。2007年度中を予定していた閣議決定が大幅に遅れている。

声明は「高等教育のグローバル化で人材の獲得競争が激化している」と指摘。世界最高水準の教育研究環境を整備して優秀な学生を引きつけ、教育の成果や質を向上させるためには、政府による教育投資の数値目標設定や財政支出の強化は重要と主張している。


国大協が緊急アピール、「高等教育へ公財政支出増を」 (2008年6月19日付 日本経済新聞)

国立大学協会は19日開いた定期総会で、高等教育への公財政支出を現在の国内総生産(GDP)比0.5%から1.0%に倍増させるよう求める緊急アピールを採択した。企業や個人からの大学への寄付を後押しするような税制の抜本改正も求めた。

教育振興基本計画策定に向けた緊急アピール(平成20年6月19日 社団法人国立大学協会)

「知識基盤社会」において、教育は個人の資質向上のみならず、社会・経済・文化の発展・振興、国際競争力の確保等の国家戦略上、極めて重要な役割を果たすものである。特に大学は、社会人や留学生など多様な学生を積極的に受け入れつつ、教育の質を維持・向上し、学位の国際通用性を確保するとともに、イノベーションの創出にも道を拓く高いレベルの研究を遂行することなどが強く求められている。

こうした状況の下、大学自身が不断に改革に取り組むのはもちろんであるが、国においては、大学の自主的な改革を支援・推進するための財政支援等を一層拡充することが不可欠である。

去る5月23日、文部科学省が教育振興基本計画の原案を公表し、その中で、教育投資の拡大に向けた数値目標が盛り込まれ、特に高等教育については、「世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ、公財政支出の拡充を図る」旨が明記された。政府内の調整が大詰めの段階に至っているが、国立大学協会総会として、下記について緊急アピールを行うものである。

なお、6月12日には、中央教育審議会大学分科会委員有志が緊急声明「「教育亡国」回避のために投資の断行を」を公にし、高等教育への投資の必要性、機会均等の確保の重要性を強く訴えており、本協会としてもこの声明の趣旨に賛同するものである。
  1. 政府は、教育振興基本計画に明確な資金投入の目標額を盛り込み、速やかに高等教育への公財政支出をGDP比0.5%からOECD平均の1.0%を上回る規模へ拡充すること。

  2. 政府は、公財政支出の拡充に加え、民間・個人から大学への資金調達を促すための抜本的な税制改正を行うこと。

関係者の努力にもかかわらず、結果的には、満足のいく成果を収めることができませんでしたが、このたびの一連の取組みは、我が国の教育の振興に向けた大きな礎となったことでしょう。

基本計画に教育投資の数値目標を盛り込むことができなかった理由は、報道各紙が分析しているとおりなのだろうと思いますし、最大のネックは財務省の強固な姿勢だったのでしょう。我が国の財政を預かる責任ある立場として、筋を通すことは大変重要なことですし、教育のみが我が国を支えているわけでもないので、こういう結果になったことは、一国民としては仕方の無いものだと納得できる部分もあります。

財務省の姿勢は、平成20年5月19日に開催された「財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会」における審議の中から垣間見ることができます。公表されている議事要旨のうち、高等教育関係について抜粋(読みやすくするために若干編集)してご紹介したいと思います。

なお、会議で使用された説明資料は、財務省のホームページに掲載されてあります。


〔藤城財務省主計官〕

■国立大学の運営費交付金と大学の在り方関係
  • 平成22年度から、新中期目標期間というものが、国立大学法人について始まる。そのために、運営費交付金の配分の見直しの議論が、これから1年程度精力的に行われることになる。

  • 国立大学法人について検討を要する課題としては、内外の競争的な環境をどう確保するか、議論の透明性や普遍性をどう確保するか、そして、厳格な相対評価をどのように行うか。

  • 個別の大学については、まず、さらなるガバナンスの充実が求められる。大学の目指すコンセプトを明確にするとともに、その実態の把握(財務諸表がまだ必ずしも十分ではない)、効果的な大学経営という意味では、教務と経営の関係(教務と財務・労務の関係)がどの程度明確になっているかなど、社会との積極的な関わりという観点で、大学が、これから努力すべき。

  • 各国立大学法人の位置付けに関して、機能の分化・明確化が求められている。大学自治と納税者利益のバランス、つまり、大学の自治は大いに結構だが、それが一方で、縦割りとか閉鎖性とか改革に対する硬直性をもたらしている。

  • 教育の機能と研究の機能は不可分であるという命題の下に、残念ながら、教育も研究もアブハチ取らずみたいなことがないのかどうか、つまり、大学ごとの機能というものを、ある程度分化・明確化すべき。

  • 研究力については、外部性などを考えれば、国費支援が必要だろうが、教育については、もっと社会や企業のニーズを踏まえた教養、職業専門教育が行われるべきで、その観点では、学費というものの重要性がもっと大きいのではないか。

  • 教育と研究の接続という点では、いろいろな意味で柔軟な組織や大学間移動(再編・集約化)が必要。

  • 運営費交付金の配分ルールについては、第1期中期目標期間については、▲1%で切っていくということをやってきた。これは、改革の必要性への認識が広がり始めるという効果もあった。一方で、一律の薄切りというのは、それぞれの大学の特性や大学の評価というものを考慮しないのではないか。

  • 競争的資金や受託研究費が拡大して、運営費交付金の削減にもかかわらず拡大をしている。実際に700億円から1,100億円もの決算の剰余金が出ている。ところが、こうした中でも▲1%に対する批判というのはやたら強く出ており、運営費交付金の削減は、一体どの分野でどの程度の効率化につながったのか、どの分野では効率化が遅れているのかといった大学ごとの分析というものがない。

  • 第2期中期目標期間に当たっては、大学の特性とか学部ごとの評価などを考慮し、国が支援すべき大学研究と必要な人材育成について交付すべきではないかというプリンシプルで考えると、教育コストについて、学部ごとの分野別の相対評価をしっかり反映した傾斜配分が必要。

  • 教育コストについては、基本的に学費等の自己収入で賄うべきではないか。その際に、国が育成すべき人材というものはどういうものがあって、それについては、国の関与の下で基盤的経費を交付することが考えられる。

  • これからの大学の機能分化を考えると、それぞれの大学の学部ごとの評価なども見ながら、自分の大学は何を求めていくのか、研究にある程度特化していくのか、それとも、地域の人材を育成していくのか、そのあたりの整理が必要。

  • 今の国立大学の授業料が全部私学並みであったら2,700億円の増収となる。また、設置基準を超える教員の人件費を削減すると、2,500億円が出てくる。この2つを合わせたものを財源として、国際競争力の強化だとか高度人材育成だとか教育の機会均等に回していく、新たな投資をしていくということもできるのではないか。
■奨学金事業
  • 10人のうち3人が奨学金を受けている状況。親の収入別で見ると、1,000万円を超える世帯の家庭でも奨学金を貸与されている。平均収入700万円程度を超える世帯が全体の44%を占めている状況。こういう中で、奨学金というのは何を求めて行っていくのかという議論が必要。

  • 今や2,000億円を超える延滞債権については、平成19年度に焦げついている債権が3万5,000件、328億円。支払督促等をした結果、約18億円程度、つまり全体の5%程度のお金が返ってきた程度であり、もっとしっかり整理してもらわなければいけない。学生を育てた大学にある程度保証してもらうとか、勤め先の企業で徴収を協力してもらうとか、何か別のことを考えないとなかなか難しい。
■科学技術予算
  • 日本の研究者数は相対的に多い中で、流動性・競争性を高めるとともに、若手や女性、十分に活用されてない人材資源の潜在力を引き出すことが必要。

  • よく言われることであるが、もっと民間資金を集めたらどうか。

  • 研究資金については、使いやすさということばかりが議論されているが、不正対策も必要で、ガイドラインの策定がなされたが、まだ現場の浸透にはばらつきがある。インセンティブやペナルティも含めて、どういう対策をしていくかという取組みが必要。
〔河野(龍)委員〕
  • 高等教育の私的負担に関して、教育という人的資本に対する投資の収益というのは、初等教育と違って、基本的には個人に属するのがメイン。アメリカはまさに、自分の教育を高めて、自分の人的資源を高めると収益性が高まるので、みんなそっちにいっているわけなのであって、これは基本的に市場に任せた方がいい話なのであって、国がとやかくするべき話では、あまり関与すべき話ではないのではないか。

  • 例えば、金融市場でなかなかお金が借りられないから、学生が自分の教育費を調達できないという話であれば、その部分で、金融市場で情報の非対称性があるから、政府部門が何らかのファイナンスで対応することはあるかもしれないけれども、基本的に、私的負担が高いのは私的収益につながる話なので、これは当たり前なのではないか。

  • 本来、問うべきは教育の充実という成果のはずなのだが、インプットと成果との関係がよくわからないので、何となくいつの間にか、インプットを高めることですりかえが起こっている。実はそのインプットというのは何かというと、基本的に教員の給与ということで、それは何となく規制産業において守られた生産者が、アウトプットの向上については何も言わないでください、だけど、労働の対価だけは増やしてくださいというふうに言っているようにしか聞こえないので、すりかえが起こっているということは非常に重要な問題だ。

  • 教育に対して多くの人たちから不満が出ている理由は、単に教育の供給サイドの能力が低下しているだけではなくて、需要サイドがより豊かになってしまったがゆえに、よりクオリティの高い教育サービスを需要するようになっているということ。人々が豊かになった結果、よりクオリティの高いサービスを需要している場合、国が果たして、それは対応できるのですかという問題。普通の産業であれば、そういった付加価値の高い多様性のあるものは国が提供できないから民間部門でやるわけなのだが、教育関係者が言っているであろうと言われる議論は、何となく全部、国で対応してしまおう、公的部門で対応してしまおうというふうな話になっているので、それはそもそも論が間違っているのではないかなという印象がする。
〔田中(弥)委員〕
  • 教育系の大学と研究系の大学というのを、もう少しメリハリをつけて分けていったらいいのではないか。

  • 現状を見てみると、今の大学のリベラルアーツ教育というのは、低下の一途をたどっている。その原因は教員の意識。大学の教員全体にアンケートをとってみればよくわかるけれども、教育者であると答える人は2割ぐらい、あとは、研究者として答える人が8割ぐらい。そういう中で、実はこの教育型と研究型を機能分化させるというのは、膨大な数の教員の意識をどう変えるかという、ものすごく難しい問題が根底に眠っていると思う。

  • 科研費等の研究資金はこのところ増えている。ところが、引用されている日本の文献、引用されていない日本の文献を見てみると、実は引用されていない論文の数がかなり増えているというデータもあるので、費用対効果を早く確認をした方がいい。
〔三村委員〕
  • 中教審で出した教育振興計画というのは、基本法に基づく5カ年計画及び10カ年計画。振興基本計画は非常にまじめに、今後のあるべき教育の姿を網羅的に出し、その対策も講じたつもり。

  • その中で財務省との間で話題になっているのが、全体の予算をどうするかという話、きょう藤城さん(主計官)が言われた話というのは、そのうちの2つの項目だけであり、ほかにたくさん、教育振興計画をまじめに議論しているということをご理解いただきたい。

  • ぜひともお願いしたいのは、去年から、こういう項目で財務省と文科省がやっているのだとすれば、なぜ意見のギャップがいまだに存在するのか。委員としてこれをチェックするのはなかなか難しい。これから閣議でどのような議論がなされるかは知らないけれども、こういう基本的な認識に差があるまま閣議で議論するのは非常に問題ではないだろうか。逆に言えば、今日の話をいろいろ聞いてみて、文部科学省の方々も、厳しい主計官にこれだけのデータを突きつけられて、大変だなと。しかし、必要な議論だと思うので。ただ、どうかご確認いただきたいのは、これだけに限定した振興基本計画ではないということであり、それだけはご理解いただきたい。

2008年7月2日水曜日

夢と消えた数値目標 教育振興基本計画(1)

昨日(7月1日)、我が国初の「教育振興基本計画」がよくやく閣議決定されました。
残念ながら、文部科学省をはじめ教育関係者の努力も空しく、教育投資額の数値目標の記載は見送られることとなりました。財務省の壁は厚く、高く、極めて残念な結果に終わりました。

基本計画の策定については、これまでもこの日記で幾度となく経緯についてご紹介してきましたので、結果について私見を述べることはもう止めたいと思います。
閣議決定された基本計画についての各紙の反応は次のとおりです。


教育基本計画―学力向上へ大胆な投資を (2008年7月2日付 朝日新聞社説)

様々な政策が総花的に盛られているが、肝心のことが書かれていない。

教育基本法の改正を受けて、初めての政府の教育振興基本計画が決まった。しかし、焦点となっていた教員数や教育予算などの数値目標は軒並み削除された。
10年先のあるべき姿を見据えて今後5年の施策に取り組む。それが基本計画のねらいだ。

文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の答申に、数値目標はなかった。これに対し、教育の底上げには数値目標が必要だ、との批判が教育現場だけでなく、与党からも上がった。

文科省は急きょ、数値目標を基本計画に書き足した。教育予算の対国内総生産(GDP)比を、現在の3.5%から経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の5%に引き上げる。教職員を2万5千人増やす―。

だが、何せ付け焼き刃である。なぜ、5%なのか、2万5千人なのか。この投資でどんな成果が得られるのか。説得力に乏しかった。ただでさえ、歳出削減を求められる時代に、ただ金をよこせ、人を増やせだけではさすがに通らなかった。

しかし、今回の文科省の要求の仕方が稚拙だったからといって、大胆な教育投資が必要でないわけではない。

そもそも今回の基本計画から根本的に抜け落ちているのは、日本の教育の問題点をどう総括し、そのための処方箋(せん)をどのように描いていくかである。解決方法をきちんと打ち出していけば、教育予算をどのくらい増やさなければならないかもはっきりする。

例えば、日本の教育が抱える大きな問題は学力低下だ。特に国際的な調査で深刻さが浮き彫りになっているのは、考える力の不足と、できる子とできない子の二極化である。

この解決に必要なのは、子ども一人ひとりの状況に合わせて、きめ細かな指導をすることだろう。それには子どもたちと日々向き合う教師の量を増やし、質を高めていくしかない。

今はかつてない教師受難の時代である。一部のダメ教師の存在をきっかけに、教員免許更新制が導入された。いじめや不登校に加え、学校に理不尽な要求をするモンスターペアレントも増えた。そうしたことに嫌気が差して、教師の志望者が減っている。

そんな中で、人材を集め、質の高い教師に育てるには、教師の待遇を良くし、養成方法を工夫する必要がある。

公立学校への不信が指摘されて久しい。東京都杉並区の公立中の夜間塾などの対症療法ばかりが注目されるのも、不信の裏返しである。

財政が厳しいのはいつの世も変わらない。政府は教育の重要性を言葉で語るばかりでなく、教育投資を着実に増やしていってもらいたい。


基本計画決定 名ばかりの「教育振興」 (2008年7月2日付 中日新聞社説)

閣議決定された教育振興基本計画は原案にあった財政支出を伴う記述が削られたうえ「国の財政は厳しい」との文言が加わった。十年先を見通すという触れ込みだが、名ばかりの「教育振興」だ。

基本計画は改正教育基本法に基づいてつくられ、十年先の教育のあるべき姿を示し、今後5年間で取り組む政策を体系的にまとめたものだ。中央教育審議会の答申を受けて文部科学省が原案をまとめ、各省協議などを終えて1日、閣議決定した。

決定では、国内総生産(GDP)に占める公的教育投資の比率を現在の3・5%から「経済協力開発機構(OECD)諸国の平均5・0%を上回る水準を目指す」という記述が原案から削られた。

3・5%で約17兆2千億円だから、5%にするには約7兆4千億円上積みしなければならない。原案が計画として認められれば多大な財政支出を伴うことになるため、財務省が猛反対した。

文科省はこの財政支出によって公立の教職員定数を2万5千人程度増やす記述も原案に盛り込んでいた。行財政改革を進めようとする政府の方針と逆行するため、これには総務省が反対に回った。

計画をみると、その2カ所が削除されただけでなく、具体的な施策では「拡充」「充実」との字句が「支援」「推進」に直され、新たに「国の財政状況は大変厳しい」という文言が加筆された。

財務、総務両省の主張が通ったかたちだが、今回の各省協議は年度ごとの予算折衝ではなく、これからの教育のあり方を決める話し合いだった。そこでの結論が財政再建優先では、基本計画の上に乗る「教育振興」の名が泣く。

最終的には関係閣僚が調整したのだから、これが教育への福田政権の姿勢と言うこともできる。

学習指導要領が改定され、理数を中心に主要教科の授業時間が増え、小学校では英語教育が導入される。加えて道徳教育の充実と、長期的に低下傾向にある子供の体力向上への取り組みも必要だ。

さらに、いじめや不登校への対策も怠るわけにはいかない。現場の先生たちの多忙ぶりが問題視されて久しいが、熱意や使命感だけに頼るにはもはや無理がある。教育投資の大半は教職員予算だが、計画で厳しい見通しが示されたのだから、現場の仕事は増えることになりそうだ。

これで公教育の立て直しは図れるのか。十年先、暗たんとした状況に陥っていないか。


教育振興計画 骨太の像なく総花のむなしさ (2008年7月3日付 毎日新聞社説)

この1カ月余、数値目標を入れる入れない、で文部科学省と財務省などが対立し、結局は文科省が完敗した。そして教育振興基本計画がようやく定まった。そんな政府内の争いが、国民の前から教育論議を遠ざけた。これがそもそもの間違いだ。いくら官僚や文教族議員が熱くなっても、国民が冷めていては不毛なコップの中の嵐にすぎない。

そもそも教育振興基本計画というしかつめらしい名の政策は何か。06年に改正された教育基本法が政府に策定を義務づけた。10年先のあるべき状況を見据え、5年間でなすべき施策を定めるという。

教育基本法の改正前、改正は無用とした反対派に対し推進側が「改正基本法による振興基本計画で長期に安定した財源を確保し、条件整備が着実に進められる」と利点を強調し、説得材料にした経緯もある。

だが、一方で政府は支出抑制を基本とする行財政改革を進める。さらに「教育再生」を最重要政策に掲げた安倍晋三政権が突然倒れたことも逆風になった。

不可解な展開もあった。

基本計画案は文科相の諮問機関・中央教育審議会が4月に答申したが、財政引き締めの状況を踏まえ数値目標はほとんどなかった。これには自民党文教族などから強い不満が出、その意を受けて文科省は(1)教職員定数を5年で2万5000人増やす(2)10年で教育投資額の国内総生産(GDP)比を今の3・5%から経済協力開発機構(OECD)諸国平均5%へ--などと数値を入れた案を作成、財務省との折衝に臨んだ。

授業時間が大幅に増え、小学校に英語も導入する新学習指導要領を円滑に実施するにはこれだけ先生が必要。教育にかける金を先進国並みにしないと高等教育などで太刀打ちできなくなる--などという主張だ。だが財務省は納得せず、投資の根拠や成果の見通しを求めかみ合わなかった。

もちろん基本計画はただ数値獲得を主眼としているのではない。子供の自立、学力と体力、世界最高水準の大学、留学生受け入れ拡充、校舎耐震化などあらゆる課題が「あれもこれも」とばかり盛り込まれた。

すべて重要だ。しかし、大半は既に個別施策としてやったり、進めることができるもので、新たに引きつける理念、訴えかけてくる意思に乏しい。10年後の社会に向け、どのような人格、人材を教育が目指し、そのため5年間に何を最重点にどのように学校、社会、家庭の教育のかたちをつくり出すか。

何をさておいても、の目標が国際学力コンテストの順位を上げることでは寂しい。高々とした理念と、一人一人の子供や学生に思いを致せる想像力に満ちた教育目標と手法こそが、今求められている。

それが国民世論を引きつけ、財務当局を説得する。


教育基本計画 必要な予算を精査すべきだ (2008年7月3日付 読売新聞社説)

国の教育振興基本計画に教育予算や教員増の数値目標が入らなかったのは、やむを得まい。

文部科学省は明確な論拠を示せなかった。しっかり検証し、今後の予算要求にメリハリを付けるべきだ。

改正教育基本法に基づく初の基本計画は、今後10年間に目指す教育像と直近5年間の教育施策を描くものだ。多くの施策が盛り込まれたが、裏付けとなる予算があいまいなままでは、「教育立国」も掛け声倒れに終わりかねない。

なぜこうなったのか。

教育以外にも社会保障など重要な課題が山積している。その中で、政府は「骨太の方針2008」で歳出削減の方針を維持した。

ただ、それだけではない。

文科省は原案作成の際に教育予算の数値目標がない点を批判され、急きょ、10年間の目標値として経済協力開発機構(OECD)平均の対国内総生産(GDP)比5%を掲げた。現在は3・5%で、7・4兆円も上積みが必要だ。

“内訳”を示す過程で、初等中等教育予算が3・7兆円から2・8兆円へ、高等教育が2・5兆円から3・5兆円へと変転したこともある。1兆円が簡単に増減する数値目標に現実味はなかった。

教育で目標とする児童生徒の具体的な将来像を描き、それを達成する施策にはいくら予算が必要か。1年以上の中央教育審議会の議論では、こうした点こそ専門家に検討してもらうべきだった。

学力低下が懸念される中、国民に関心の高い学力面の数値目標は計画に盛り込まれなかった。

教育の成果が数値で測りにくいのは一面で事実だろう。だが、文科省をはじめ教育界全体に“甘え”がないか。こうした姿勢が、教育予算の説得力を欠く一因になっていないか。点検が必要だ。

文科省が優先すべきは、学習内容などを増やした新学習指導要領実施に伴い、学校現場にしわ寄せがいかないための環境整備だ。

全面実施は小学校が2011年度、中学校が12年度である。

文科省はいったん原案に掲げた教員増2万5000人に固執せず、知恵を絞らねばならない。退職教員や地域の人材を生かすなど、努力を重ねてもなお足りない教員数を精査すべきだ。

教育は、人材育成という未来への先行投資である。その重要性は多くの国民も承知している。

来月には、来年度予算の概算要求の時期を迎える。具体性のある現実的な予算額と理由を示し、理解を求めていかねばなるまい。


大変手厳しい反応です。
では、基本計画は、具体的にはどのような内容に落ち着いたのでしょうか。
まずは、「教育投資」に関連する部分の抜粋をご紹介しましょう。随所に「財務省の力学」が働いているのが見て取れます。

第2章 今後10年間を通じて目指すべき教育の姿

(2)目指すべき教育投資の方向

今後10年間を通じて以上のような教育の姿の実現を目指すためには、関係者の一層の努力を促すとともに、その教育活動を支える諸条件の整備を行うことが必要である。

現在、我が国の教育に対する公財政支出は、他の教育先進国と比較して低いと指摘されている。例えば、公財政教育支出のGDP(国内総生産)比については、OECD(経済協力開発機構)諸国の平均が5.0%であるのに対して、我が国は3.5%となっている。また、特に小学校就学前段階や高等教育段階では、家計負担を中心とした私費負担が大きい。こうしたデータについては、全人口に占める児童生徒の割合、一般政府総支出や国民負担率、GDPの規模などを勘案する必要があり、単純な指摘はできないところであるが、そうした中で現下の様々な教育課題についての国民の声に応え、所要の施策を講じる必要がある。

高等学校及び高等教育段階については、家庭の経済状況にかかわらず、修学の機会が確保されるようにすることが課題となっている。高等教育段階については、知的競争時代において諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹き付けようとする中で、教育研究の水準の維持・向上を図り、国際的な競争に伍していくことが課題となっている。

さらに、学校施設をはじめとする教育施設の耐震化など、だれもが安全・安心な環境で学ぶことのできる条件の整備が大きな課題となっている。

教育投資の規模については、教育にどれだけの財源を投じるかは国家としての重要な政策上の選択の一つであることを考える必要がある。とりわけ、資源の乏しい我が国では人材への投資である教育は最優先の政策課題の一つであり、教育への公財政支出が個人及び社会の発展の礎となる未来への投資であることを踏まえ、欧米主要国を上回る教育の内容の実現を図る必要がある。

以上を踏まえ、上述した教育の姿の実現を目指し、OECD諸国など諸外国における公財政支出など教育投資の状況を参考の一つとしつつ、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保していくことが必要である。

この際、歳出・歳入一体改革と整合性を取りながら、真に必要な投資を行うことに留意する必要がある。

あわせて、特に高等教育については、世界最高水準の教育研究環境の実現を念頭に置きつつ、教育投資を確保するとともに、寄附金や受託研究等の企業等の資金も重要な役割を果たしていることから、その一層の拡充が可能となるよう、税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める必要がある。


次に、「政策目標」の内容はどうなっているのでしょうか。高等教育関係の抜粋をご紹介します。


第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策

(2)施策の基本的方向

以上の基本的考え方を踏まえ、教育振興基本計画において、今後5年間に政府が取り組むべき教育施策の基本的方向を、以下に整理する。あわせて、それぞれの基本的方向ごとに実現を目指す目標の例を示す。

基本的方向3 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

今後の「知識基盤社会」において、「知」の創造と継承・発展を担う高等教育には、個人の人格形成や、生涯にわたる学習活動の場としても、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の上でも、重要な役割が求められる。また、環境問題をはじめとする地球規模での課題への対応においても、人材育成をはじめとした役割が期待される。

このような中で、高等教育に対する様々な需要に的確に対応するためには、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が、各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、競争的環境の中で相互に切磋琢磨しながら、個々の学校の個性・特色を発揮していくことが必要である。

特に、改正教育基本法においては、第7条に新たに大学に関する規定が設けられ、その基本的な役割として、教育と研究とを両輪とする従来の考え方が改めて確認されるとともに、教育研究の成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与することが明確にされたことを十分に踏まえる必要がある。

今後、各大学等においては、それぞれが自律的に選択した教育理念に基づき、自らの個性・特色を明確化した上で、国内外の大学等や産業界、初等中等教育段階の学校等との連携も深めつつ、教育活動の質を保証し、また、不断に高め、豊かな教養と人間性、専門性を兼ね備え、地域から国際舞台まで幅広い分野においてそれぞれの立場で活躍できる人間を育成し、社会の期待に応えることが求められる。あわせて、国際競争力ある教育研究拠点として「知」の創造・継承・発展を担うことが期待される。

国は、各大学等における自主的な取組を促すため、評価制度の充実など必要な制度改正や各種の情報の提供等に取り組む必要がある。また、この5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ、中長期的な高等教育の在り方について検討し、結論を得ることが求められる。

こうした基本的方向に基づく施策を通じて、例えば以下のような目標の実現を目指す。
  • 学士課程の学習成果として共通に求められる能力を養う。こうした観点から、その内容等の明確化や厳格な成績評価の導入等大学教育の質を確保するための枠組みを構築し、各大学等における組織的な取組を推進する
  • 「知」の創造・継承・発展に貢献できる人材を育成する。こうした観点から、将来的に、国際的な競争力・存在感を備える教育研究拠点を各分野において形成することを目指し、大学における組織的な取組を推進する
  • 大学の連携等を通じて、地域再生に貢献する。こうした観点から、その核を形成することを目指し、大学等における組織的な取組を推進する

(3)基本的方向ごとの施策

基本的方向3 教養と専門性を備えた知性豊かな人間を養成し、社会の発展を支える

1)社会の信頼に応える学士課程教育等を実現する

高等教育の大衆化が進行して同世代の過半数が進学する「ユニバーサル段階」、そして、少子化により18歳人口が減少し、いわゆる「大学全入」時代を迎える中で、大学等における教育の質の確保が重要な課題となっている。

このため、大学等が社会的ニーズや学習者の様々なニーズに的確に対応するとともに、それぞれの掲げる教育研究上の目的の下、教養と専門性を備えた人間を育成することができるよう、各学校の位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた質の高い教育の展開を支援する。大学については、教学経営において特に重視すべき3つの方針、すなわち「学位授与の方針」、「教育課程編成・実施の方針」、「入学者受入れの方針」の統合的な運用による優れた実践の普及を促進する。その際、それぞれの個性・特色を一層明確にする教育や大学教員の教育力向上のための取組を促す。

【施策】

■社会からの信頼に応え、求められる学習成果を確実に達成する学士課程教育等の質の向上

学士課程で身に付ける学習成果(「学士力」)の達成等を目指し、各大学等において教育内容・方法の改善を進めるとともに、卒業認定も含めた厳格な成績評価システムを導入するよう支援する。さらに、教育環境の改善・充実を図り、すべての大学等において教員の教育力の向上のための取組が実質化されるよう、教員の教育業績の評価、学生による授業評価の結果を改善へ反映させる組織的取組等を促すとともに、優れた取組を行っている大学等を支援する。

こうした各大学等における教育改善の取組を推進するため、教員の教育力の向上のための拠点形成とネットワーク化を推進するなど、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を支援する。

さらに、ICTを活用した教員の教育力向上・教材作成や、国内外の教育コンテンツ等の情報収集・発信、海外の中核的機関との連携強化等を支援する。

■共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

学生が教育分野にかかわらず共通に身に付ける学習成果について、国際的通用性の確保にも留意しつつ、明確化に取り組むとともに、分野別の教育の質の向上・保証を行うため、学習成果や到達目標の設定などの取組を促す。あわせて、教育の分野別質保証の在り方について日本学術会議との連携を図りつつ、それぞれの質の保証に向けた枠組みづくりを進める。

■高等学校と大学等との接続の円滑化

各大学等が入学者受入れ方針の明確化を図りつつ、高等学校段階の学習成果を適切に評価する大学入試の取組を促すなど、高等学校と大学との接続の円滑化を図る。また、高等学校段階での学習成果を客観的に把握し、高等学校の指導改善や大学入試などにも幅広く活用できる方法について、中央教育審議会の審議を踏まえ、高大関係者が十分に協議・研究するよう促す。また、高校生が大学教育に触れる機会等を充実するため、大学等の高大連携に関する優れた取組を支援する。大学への飛び入学については、「特に優れた資質」の判定や大学における指導体制など現行制度のより柔軟な運用を図り、各大学における積極的な取組を促す。

2)世界最高水準の卓越した教育研究拠点を形成するとともに、大学院教育を抜本的に強化する

国際競争力のある世界最高水準の大学づくりのため、「大学院教育振興施策要綱」(平成18~22年)に基づき、世界最高水準の卓越した教育研究拠点の重点的な形成を支援するとともに、大学院における優れた組織的な教育の取組を支援する。あわせて、意欲と能力のある若手研究者等が活躍できる環境づくりを支援する。

【施策】

■世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成

博士後期課程の学生を含む優れた若手研究者の育成機能の強化や国内外の大学・機関との連携強化等を通じて国際的に卓越した教育研究拠点の形成を支援する。特に、平成23年度までに、世界最高水準の卓越した教育研究拠点の形成を目指し150拠点程度を重点的に支援する。また、学術の発展と人材育成の充実のため、国公私を通じた共同利用・共同研究拠点の整備を支援する。

■大学院教育の組織的展開の強化

産業界をはじめ社会の様々な分野で幅広く活躍する高度な人材を養成するため、コースワークの充実等、大学院における組織的・体系的な優れた教育の取組を促す。また、大学院修了者等の一層の活用や、国内外に開かれた入学者選抜や大学院への早期入学等を含め、より開かれた大学院入学を促進ずるための方策等について検討し、「大学院教育振興施策要綱」に適宜反映させる。

■若手研究者、女性研究者等が活躍できる仕組みの導入

若手研究者の自立的な環境整備のためのテニュア・トラック制の導入、多様なキャリアパスを切り拓くための人材養成等の組織的な取組、女性研究者がその能力を最大限発揮できるよう、研究と出産・育児等の両立のための取組を推進する。

3)大学等の国際化を推進する

海外の有力大学等との連携や海外展開を通じ、我が国の大学等の国際化や国際競争力の向上を図るとともに、国際的な環境で学生や教員が学ぶことができる機会の充実に向けた取組を促す。このため、大学教育のグローバル化を目指した当面の施策についての基本的な考え方に基づく取組を推進する。

【施策】

■留学生交流の推進

大学等の国際化や国際競争力の強化を図るとともに、諸外国との相互理解や我が国が安定した国際関係を築く上での基礎となる人的ネットワークを形成する留学生交流を推進する。

留学生受入れについては、2020年の実現を目途とした「留学生30万人計画」を関係府省が連携して計画的に推進し、高度人材受入れとも連携させながら、留学生の就職支援等を進め、留学生受入れを拡大させる。

また、国際的に活躍できる人材の育成を図るとともに、大学間交流の活性化、ひいては日本社会のグローバル化に資する観点から日本人学生の海外留学・体験のための取組を推進する。

■大学等の国際活動の充実

大学教育の質の向上と国際競争力の強化を図るため、国際活動のための事務局体制等の基盤強化や、海外の有力大学等との連携によるダブル・ディグリ一等の複数学位制や単位互換、英語等の外国語による教育、9月入学(秋季入学)、サマープログラム等の充実に向けて、大学等の取組を促す。

4)国公私立大学等の連携等を通じた地域振興のための取組などの社会貢献を支援する

地域社会においてニーズの高い教育や、地域の活性化等の社会貢献のため、国公私の大学等の協同で行う取組を支援する等、各大学等がそれぞれの特色を活かして行う地域振興に貢献する取組を促す。

【施策】

■複数の大学間の連携による多様で特色ある戦略的な取組の支援

全国各地域において、大学間の連携により、各大学等の教育研究資源を複数の大学間で有効に活用し、地域人材の育成・イノベーション創出等の地域貢献機能の強化・拡大及び教育研究の多様化・特色化を図るための取組(国公私を通じたコンソーシアム)が、充実したものとなるよう、支援する。また、国公私を通じ複数の大学等が学部・研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設する。

■生涯を通じて大学等で学べる環境づくり

個人のキャリア形成や地域活動への参画等のため、生涯にわたる学習へのニーズが高まっていることに対応し、大学等における社会人等受入れに必要な環境の整備を促すとともに、大学等と産業界等との連携による取組への支援により、大学等における社会人受入れを促す。

■地域の医療提供体制に貢献するための医師育成システムの強化

医療人養成の中核的機関である大学・附属病院の運営基盤を強化するとともに、地域の医療機関との緊密な連携体制の構築を通じた医療分野における大学等の地域貢献の取組を支援する。特に、地域医療、がんなど社会的要請の強い分野について、専門性の高い医療人の養成を促す。

5)大学教育の質の向上・保証を推進する

高等教育の量的拡大や多様化の一層の進展を踏まえ、学習者の保護や国際的通用性の観点から、高等教育の質を保証する取組を推進する。その際、個々の機関の設置目的や使命等も踏まえ、それぞれの機能や役割に則して多元的な評価が行われるよう留意するとともに、個別の大学等の枠を超えた質保証の体制や基盤の強化を促す。

また、大学等の設置認可や認証評価制度、情報公開を含めた包括的な教育の質保証の在り方について、中央教育審議会において検討し、認証評価制度の第2サイクルに向け、必要な措置を講じる。

【施策】

■事前評価の的確な運用

我が国の大学等が国際的に通用するための最低限の要件を明確化する観点から、事後評価との適切な役割分担と協調を図りっつ、教員組織、施設・設備等に関して大学設置基準等の見直しを行うとともにその的確な運用を進める。

■共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上

大学教育の質の向上・保証を推進する観点からも、共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上を推進する。(第3章(3)基本的方向3?◇共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上の項を参照。)

■大学評価の推進

大学評価システムの確立・定着に向け、認証評価(機関別、専門職大学院専門分野別)、自己点検・評価、分野別評価等の大学評価に関して、大学等と評価機関が行う効率的な評価方法の開発等を促すとともに、参考となる多様な事例を集積・提供すること等により、認証評価等の大学評価の充実と教育の質の向上を図る。あわせて、認証評価等の大学評価による評価結果や、例えば、教員数、学生数、教員の研究業績等の大学情報を積極的に提供するよう促す。

6)大学等の教育研究を支える基盤を強化する

次世代をリードする人材の育成に向け、学術の中心である大学等の基礎的な教育研究を支えるとともに、競争的環境の中で、各大学等が主体的にそれぞれの特色ある発展と教育研究の質の向上を図ることができるよう支援する。

【施策】

■大学等の教育研究を支えるとともに、高度化を推進するための支援

大学等における教育研究の質を確保し、優れた教育研究が行われるよう、引き続き歳出改革を進めつつ、基盤的経費を確実に措置する。あわせて、人材の育成や大学の教育研究の高度化に資する科学研究費補助金等の競争的資金等の拡充を目指す。その際、科学研究費補助金の間接経費について、30%の措置をできるだけ早期に実現する。

また、国立大学法人運営費交付金については、?教育研究両面の努力と成果、?大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。その際、国立大学法人評価の結果を活用する。あわせて、企業や個人等からの寄附金、共同研究費等の民間からの資金の活用について、各大学の自助努力を後押しするための税制上の措置の活用を含む環境整備等を進める。

■大学等の教育研究施設・設備の整備・高度化

優れた人材の育成や創造的・先端的な研究開発を推進するため、大学等の施設・設備について、安全性の確保だけでなく、現代の教育研究ニーズを満たす機能を備えるよう、重点的・計画的な整備を支援する。このため、「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成18~22年度)を着実に実施する。

■時代や社会の要請に応える国立大学の更なる改革

国立大学の再編統合、学部の再編や学部入学定員の見直し、徹底したマネジメント改革、学部の壁を越えた教育体制など、時代や社会の要請に応えるための国立大学法人の自主的な取組を促す。また、一つの国立大学法人による複数の大学の設置管理等についての検討を行う