2008年9月29日月曜日

国立大学法人の07年度決算と08年度補正予算

1 国立大学法人の07年度決算

国立大学法人等の平成19事業年度財務諸表が、平成20年9月10日付で文部科学大臣により承認され本日公表されました。
財務諸表の概要、前年度実績からの主な増減要因等については、以下のURLをご参照ください。


国立大学法人等の平成19事業年度財務諸表について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/09/08091221.htm

(参考)国立大などの利益増 受託研究収益の伸びなど要因 (2008年10月1日 産経新聞)

文部科学省が公表した、法人化している86国立大学と自然科学研究機構など4つの大学共同利用機関の平成19年度決算状況によると、利益総額は前年度より約130億円増の計約903億円だった。

政府方針で運営費交付金が削減されたが、受託研究の収益などが伸びたのが要因。一方で、教員の人件費は2年連続減の約6540億円で、文科省は「減少が続けば、中長期的に教育研究機能の低下につながる」としている。

大学別の総利益は、京都大の約63億円が最高。約55億円の北海道大、約42億円の東北大が続いた。

19年度は、国による出資など実質的に税金で負担した経費を示す「業務実施コスト」が約1兆4084億円となり、国立大などが法人化した16年度より13%減少。財務体質の改善が進んでいることがうかがえた。

研究施設などの減価償却費約3432億円は法人化後の最低で、耐用年数が過ぎた施設の使用を続けていることが要因とみられる。

42ある付属病院は外来患者の増加などで全体は増益となっているが、看護師の人件費や設備投資などがかさみ、昨年度と同じ16病院が実質的な赤字状態だった。


各国立大学法人において生じた剰余金のうち、翌年度に繰り越して使用できる金額については、文部科学省の資料によれば、全国立大学法人で合計約506億円であり、10億円以上の大学は、北海道大学(18億円)、東北大学(31億円)、東京大学(15億円)、名古屋大学(22億円)、京都大学(27億円)、大阪大学(26億円)、広島大学(13億円)、山口大学(13億円)、徳島大学(14億円)、愛媛大学(15億円)、九州大学(30億円)、佐賀大学(10億円)、長崎大学(12億円)となっています。

繰越承認に当たっての文部科学省のコメントは以下のとおりです。

平成19年度剰余金の繰越承認(見込)について

国立大学法人等は、財源措置及び国立大学法人会計基準により、病院の診療業務や受託研究等収益等の自己収入を除くと、基本的に、計画通りに業務を行えば損益が均衡する仕組みとされておりますが、国立大学法人等が計画に比して効果・効率的に事業を実施し、自己収入の増や費用の節減などにより当期総利益(剰余金)が生じた場合には、次年度以降に繰越し中期計画に記載された剰余金の使途に充てることを可能とすることにより、業務運営のインセンティブを付与する仕組みとされております。

具体的には、当期総利益のうち、各国立大学法人等の裁量により事業の用に供することが可能な額を算定し、財務大臣と協議したうえで、改めて文部科学大臣による承認を行い、それを受け、各国立大学法人等において当該額を目的積立金として計上します。当該目的積立金は、各法人が中期計画のもと、各々策定している目的積立金執行計画に基づき、次年度以降において教育研究の質の向上や施設設備の充実など定められた目的に沿って執行されることとなります。このため、各国立大学法人等は、一定の経営努力を行う計画の下に予算策定し、実施段階においても、一層の自己収入の増収、採用時期の伸延、人員配置の見直し、契約の見直しによる業務経費の抑制など不断の経営努力を行っております。

国立大学法人等においては、剰余金の繰越承認の対象は、基本的に、当期総利益の範囲内で、当該年度に生じたフリー・キャッシュ相当額としております。

これは、国立大学法人等については、基本的に、業務実施所要額から自己収入の予定額では賄えない相当額を措置する仕組みとしているため、現金収支は均衡しても損益は均衡するとは限らないこと、旧国立学校特別会計における借入金の償還財源を国立大学法人の附属病院収益等から拠出していることなどにより、構造的に、当期総利益とフリー・キャッシュ相当額とに差異が生じることなどのため、必要な補正を行っているものです。

今後、関係省庁と改めて協議していくこととなりますが、現時点における剰余金の繰越承認の見込額は全国立大学法人・大学共同利用機関法人で合計515億円であり、当期総利益903億円から当該額を差し引いた差額388億円は、積立金となる見込みです。


皆さん、この文章、何を言っているのかわかりますか?
このような文書を毎年読みながら感じるのは、説明責任を果たそうとする文部科学省の姿勢は大変結構なことだと思いますが、はっきり申し上げてこの文章の意味が、果たして会計に不慣れな一般国民の皆様に、あるいは学生や保護者などステークホルダーの方々にどれだけ理解していただけるだろうかということです。(私の日記も関係者にしか理解できない点で同じなのかもしれませんが・・・。)

国立大学法人の会計基準は、企業会計原則とは異なる特殊な仕組みになっているため、国立大学法人の職員ですらなかなか理解できないわけですが、お役人らしく官庁用語や会計専門用語を多用し説明しても、国民の皆様にはおそらく十分な理解は得られていないのではないかと思います。文科省もマニアックな世界から一歩踏み出て、機械的な説明ではなく、より国民にわかりやすい決算説明になるよう工夫すべきでしょう。

ちなみに、法人化後、各国立大学は、難解な決算の説明をより国民の皆様にご理解いただけるよう工夫を重ねています。財務諸表の解説はもとより、決算の裏づけとなる活動状況の報告も合わせた報告書の作成にも力を入れてきました。

例えば、次のような素晴らしい財務報告書があります。



文部科学省の説明にもありましたが、国立大学法人の会計は、簡単に申し上げれば「行うべきことを行っていれば、収支差ゼロ」になるような構造になっています。しかし、自己収入増や経費節減などの経営努力により剰余金が生じる場合があります。

文部科学省はこのたびの決算の結果、全国立大学法人で合計506億円という多額の繰越金が生じたのは、次のような財務内容の改善に向けた取り組みがあったとの説明を行っています。

業務の見直し等による経費の節減
  • 教員の退職や転出に伴う補充を極力抑制し、事務職員も一定数を不補充とするなど人件費を節減(多数の大学)

  • カリキュラムの見直し等により、非常勤講師の必要性を検証し、採用を抑制(多数の大学)

  • 人事院勧告による地域手当の増額を本学については抑制することとし、地域手当の完成年度を延伸することを全学方針とした上で、地域手当の上昇を抑制(筑波大学)

  • エネルギー使用量抑制の周知、省エネ機器の導入、夏季一斉休業の実施などによる光熱水料の抑制の徹底(全大学)
【例示】
  • 学内ホームページ上に「エアコン管理システム」を掲載し、これに学内各室柳戸団地の研究室・実験室等の全室を対象にした利用状況調査結果の分析を行の冷暖房の使用状況や設定温度等を個々に入力することによって管理(岐阜大学)

  • コンサルタント会社との契約によりガス料金の見直し(横浜国立大学)

  • 管理経費抑制ワーキンググループを中心に、光熱水費の節減のための空調の温度設定、定時帰宅等の推進等に重点的に取り組み、担当職員が各執務室を定期的に巡回するなど周知徹底(お茶の水女子大学)

  • 附属小学校児童棟、共通教育棟の改修においては、経済性の高いガス空調機を導入し経費を節減(高知大学)

  • 改修工事を行う際に照明器具や空調設備、トイレの節水型等の省エネ機器を導入(長岡技術科学大学)

  • 夏季一斉休業を実施(複数の大学)
  • コピー用紙の裏面使用、定期刊行物の見直し、施設保守契約、複写機保守契約等への複数年契約の導入、旅費支給規程の見直し、ペーパーレス会議の導入などにより、管理経費の抑制を徹底(全大学)
【例示】
  • 重油、図書、パソコン・プリンタ類、封筒類、什器類等の事務局一括契約及び役務契約の複数年契約を実施(北海道教育大学)

  • 複写機の賃貸借契約を一括前払いすることにより削減(信州大学)

  • 旅費支給事務の煩雑を解消するため事務手続の簡素化を検討し、職務別地域別となっている旅費の日当・宿泊料等を集約し、様式を改める規則改正(東京海洋大学)

  • 総長室会議,理事・副学長会議にペーパーレス会議を導入(東北大学)

外部資金その他の自己収入の積極的増加
  • 外部資金の獲得に対するインセンティブの付与(多数の大学)
【例示】
  • 競争的資金の間接経費に学部の研究活動の活性化及び若手教員の研究活動を促進するための経費として「研究環境の向上・改善支援経費」を新設(秋田大学)

  • 外部資金の獲得をより一層推進するため、外部資金の受入に伴う間接経費・管理費の合計額が一定額以上に達した教職員に報奨を行う制度を創設(北陸先端科学技術大学院大学)

  • 研究活動により多額の外部資金を獲得した教員に対し、報奨金を支給する表彰・報奨制度を創設(熊本大学)
  • 外部資金獲得のための企業等外部を対象とした講習会等の実施
【例示】
  • 東京都北区・板橋区と協定を締結し、東京都内の中小企業の技術力向上のために「ものづくり夜間大学」を新規開講(岩手大学)

  • 企業等外部向けの本学全教員の研究シーズ集を作成し、ホームページでの公開とともにCD-ROM版を作成し、多くの企業等に配付(山梨大学)

  • 「社会連携推進機構」を中心に、企業との技術交流会、愛媛県商工会議所連合会との交流・相談会、地元金融機関との連携協定の締結、企業訪問による要望聴取などを実施(愛媛大学)

  • 南九州発新技術説明会などの研究成果発表会やシーテックジャパンなどの展示会出展を首都圏で行い、研究シーズとニーズのマッチングを積極的に展開(鹿児島大学)
  • 外部資金獲得のための学内向け説明会等の実施、マニュアルの作成
【例示】
  • 科研費について、 副学長、役員補佐による申請書類記載内容へのアドバイス、 本部研究支援課及び部局担当職員との連携による応募手続きの支援並びに申請マニュアルの配付、 学内公募説明会の開催(一橋大学)

  • 産官学連携・知的財産センターにおいて、外部資金の増加に向け、公募情報の通知、JSTやNEDOの担当者・プログラムオフィサーによる説明会の開催、公募書類作成支援等の取組(東京農工大学)

  • 全教員のための科研費申請のためのマニュアルを作成(名古屋工業大学)

  • 申請書作成のためのノウハウ集を作成し、各部局別に公募要領の説明会を実施(香川大学)
  • 外部資金獲得のための学内体制の整備
【例示】
  • 科学研究費補助金の申請にあたり、各学部にプロジェクト委員を配置し経費抑制の取組指導助言体制を構築(宇都宮大学)

  • 産学官連携の一層の推進による外部資金の拡大を図るため、産学官連携推進機構の4部局と総合実験研究支援センターの1分野を統合した「産学官連携本部」を設置(福井大学)
  • 動物病院の体制整備、料金体系の見直し、借入金による施設整備(動物病院を有する複数の大学)

  • 余裕資金による国債等の購入、譲渡性預金、短期の定期預金への預入の拡充(複数の大学)

  • 広報印刷物の発行経費の削減を図るため名古屋工業大学広告掲載取扱規程を制定し、有料広告掲載の募集を行った(名古屋工業大学)

  • 社団法人びわ湖ビジターズビューロー及び旅行代理店との連携による「平成滋賀塾」と題したサマーカレッジ事業や社団法人滋賀経済産業協会との連携による、滋賀県における中小企業・中堅企業の経営者幹部を対象とした長期セミナー「エグゼクティブプログラム」を実施(滋賀大学)

  • 企業15社の出資による東京大学信託基金が設立され、毎年の運用益の一部が寄附されることになり、留学生向けの奨学金の充実などを図ることとした(東京大学)

附帯業務の実施による自己収入の積極的増加
  • 飲料等自動販売機について、従来の学校財産貸付料方式から販売数量に応じた手数料方式へ変更(三重大学)

  • 自動車、自動二輪車の入構に係る道路・駐車場等の設備の一層の整備を行い、利用者から交通施設料を徴収(埼玉大学)

  • 観光客の増加が見込まれるゴールデンウィークや秋季休日に本学駐車場を貸し出す「パーク&ライド」を実施(奈良教育大学)

知的財産権の有効活用等
  • 知的財産の創出促進のため、11月にバイオ専門の弁理士による「ライフサイエンスセミナー」を開催したほか、知的財産統括アドバイザーによる「研究ノートセミナー」及び北海道知的所有権センターからの講師派遣による「電子図書館による文献検索セミナー」の、計3回の知的財産セミナーを開催(帯広畜産大学)

  • 知的財産本部と産学連携機構九州(九大TLO)が連携し、技術移転、知的財産の管理・運用を一元的に実施(九州大学)

既存施設の有効活用等
  • 施設利用状況を調査の上、一部を学内共用スペースとして確保し、重点事項に優先的に割り当てる、利用者よりスペースチャージを徴収するなど有効活用を図っている(全大学)

  • 貸出し講義室については、部屋の現況写真をホームページに掲載するとともに収容者数別に整理するなど、利用者の利便性に配慮した更なる情報提供を実施(長崎大学)

  • 職員宿舎の効率的運用を図るため、現在の貸与基準を緩和し、入居対象者の範囲に常勤職員以外の研究員、再雇用職員、嘱託職員、非常勤職員を加えることとした。(小樽商科大学)

  • 本学の北キャンパス敷地内に、定期借地権(事業用)を利用した民間製薬会社による創薬基盤技術研究棟(R5、2,790平方メートル)が竣工し、平成20年4月に運用を開始予定(北海道大学)

附属病院の業務改善
  • 手術部運営効率化などによる手術件数の増加や入院患者の在院日数の短縮などによる増収(附属病院を有する複数の大学)

  • 診療科を対象にその診療報酬の伸びと診療内容を評価してインセンティブを与える制度を導入(千葉大学)

  • 7対1看護体制の導入(附属病院を有する複数の大学)

  • 物流管理システム(SPD)の導入・稼働による医療材料費の節減(附属病院を有する複数の大学)

  • 診療報酬請求書(レセプト)のオンライン請求化による用紙節減(大阪大学)

2 国立大学法人の08年度補正予算

本日、08年度補正予算が閣議決定されました。
報道によれば、総合経済対策に盛り込まれた1兆8081億円の歳出を計上する一方、既存の経費を抑えた結果、全体としては、1兆641億円が計上されたようです。

国立大学法人関係でも、大規模な地震による倒壊等の危険性の高い施設について早急に耐震化を図るため、677億円が計上されているようです。国立大学法人ごとの事業は、以下のURLをご参照ください。

平成20年度補正予算案における国立大学法人等施設整備の実施予定事業
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/09/08092503/001.pdf