2008年9月18日木曜日

中長期的な大学教育の在り方について(諮問)

去る9月11日、文部科学大臣は、中央教育審議会に対し、大学教育の将来を見据えた中長期的な在り方についての審議の諮問を行いました。

諮問の理由は次のようなものです。

我が国を取り巻く国内外の状況が急速に変化し、社会構造全体が大きな変革期を迎えている中、豊かな教養と深い専門性を身につけた人材の育成と、様々な社会的課題の解決への貢献等、大学に対する期待と要請は極めて大きくかつ多様となっている。

各大学では、それぞれの教育理念に基づいて、自らの個性・特色を明確化しつつ、教育活動の質の維持・向上に取り組んでいるものの、進学率の向上と学生のニーズの多様化、18歳人口の減少、国境を越えた大学の教育活動の進展といった状況に伴い、個々の大学による対応にとどまらず、大学教育全体の在り方について見直さなければならない状況にある。

去る7月1日に閣議決定された「教育振興基本計画」は、現下の教育をめぐる課題と社会の変化の動向を踏まえ、「教育立国」の実現に向け、総合的かつ計画的に取り組むべき施策が示されている。その中では、計画期間中である平成20年度から24年度までの「5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間と位置づけ、中長期的な高等教育の在り方について検討し、結論を得ることが求められる」とされている。

以上のことから、我が国の大学教育の質を保証し、社会からの信頼の向上を図るため、大学教育の将来を見据えた中長期的な在り方について、国際的・歴史的に確立されてきた大学制度の本質を踏まえつつ、特に、次のような事項を中心に逐次検討していく必要がある。
  1. 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について
  2. グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について
  3. 人口減少期における我が国の大学の全体像について

具体的な検討項目は、文部科学省のホームページに掲載されてありますが、ここでは主なポイントについてご紹介したいと思います。


1 社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方
  1. 大学教育の水準の維持・向上を図りつつ、様々なニーズに適応する学生本位の視点に立った大学教育の実現の方策
  2. 一人ひとりの学生のニーズに応じた大学教育が提供され、その質保証がよりきめ細かく行われる「学位プログラム」を中心とする仕組みの導入の是非(人的・物的環境の在り方を含む。)。あわせて、近年の情報通信技術の進展を踏まえた通信制と通学制の取扱いなど、大学における多様な現状に合致した制度及び教育の在り方
  3. 医療系人材等の社会的な要請の特に高い分野における教育課程の充実、教育活動の評価、社会との連携等、人材養成の在り方
  4. 学生の達成すべき学習成果の明確化とともに、今後の設置認可、自己点検・評価、認証評価、分野別評価等を通じて、大学教育の質保証システムをどう構築すべきか。
  5. きめ細かな履修指導や進路相談等の学生支援の具体的取組方策。また、社会人や留学生等の多様な背景を備えた学生への支援や、大学院博士課程学生への教育の在り方や修了者への支援に関し、どのような方策が必要か。


2 グローバル化の進展の中での大学教育の在り方
  1. 大学の国際競争力の向上のために、大学における教育・研究、学生支援や環境整備等の機能はどうあるべきか。また、大学の国際化に係る認証等の支援の在り方等
  2. 大学教育のグローバル化に対応して、大学の評価に関わる様々な仕組みの中に、国際的な視点をどのように取り入れるべきか。また、OECD(経済協力開発機構)等において世界的規模で行われようとしている大学に対する様々な評価活動を受けた、我が国の大学における対応の在り方
  3. アジア域内等の国際的な学生・教員の流動性をより一層高めるための方策。また、域内全体の大学教育の質保証に向けた活動の進め方


3 人口減少期における我が国の大学の全体像
  1. 今後における大学の果たすべき役割、人口減少期における状況、充足率の状況等を踏まえた我が国の大学の健全な発展
  2. 大学の機能別分化と連携協力を促進するための方策
  3. 全国レベルと地域レベルのそれぞれの人材養成需要に対応した大学政策の在り方


4 上記1~3の方策の検討に関連した大学教育に係る各種の行財政システム

以上の諮問について新聞は次のようにコメントしています。上記諮問理由からは伺えないやや過激な表現が一部使われています。取材の成果なのか、どこまでが事実なのかはわかりませんが、とりあえずは審議の経過を眺めていくしかないでしょう。



鈴木文科相 「大学縮小」議論を 中教審に諮問 (2008年9月11日 毎日新聞)

鈴木恒夫文部科学相は11日、人口減少時代などに対応した大学のあり方の審議を、中央教育審議会に諮問した。文科省は全国に86校ある国立大学の再編も視野に、公立や私立も含め大学の規模縮小を検討しており、国の高等教育政策の大転換点となる可能性がある。審議の行方次第では大学の再編・淘汰(とうた)が一気に加速しそうだ。

「大学全入時代」で定員充足率の低い大学が増え、教育の質低下が懸念されていることから、鈴木文科相は「転換と革新の議論が必要」と説明。委員からは「補助金の出し方をしっかり議論すべきだ」などの意見が出た。

審議では、大学新設の抑制など設置基準の見直しも検討する見通し。得意分野に取り組みを集中させる「機能別分化」と大学間連携の促進策や、学部学科の枠にとらわれない「学位プログラム」の導入なども審議する。文科省幹部は「国立大同士の統合や公立への移管も議論対象になる」としている。


大学もいよいよ再編統合の時代に!? 中教審で審議へ (2008年10月14日 Benesse教育情報サイト)【追加記載】

鈴木恒夫文部科学相はこのほど、中央教育審議会に「中長期的な大学教育の在り方について」の審議を行うよう諮問しました。教育水準の維持・向上、国際競争力の向上などのほか、「人口減少期における大学像の検討」が主な審議テーマになっているのが注目されます。実質的な大学全入時代を迎えるなかで、大学の再編統合が一挙に進む可能性もあります。

少子化により18歳人口が減少しているにもかかわらず、進学率の上昇を背景に、4年制大学の数は1998(平成10)年度に604校だったものが2008(同20)年度は765校と、10年で160校近くも増えています。これは、政府の規制緩和の方針を受け、大学設置の認可が弾力化されたためです。しかし、現役高卒者の大学等進学率が50%を超えるなかで、私立大学の47.1%が定員割れを起こすなど、学生の集まる大学と集まらない大学との二極化が進んでいるほか、大学教育全体の質の低下が大きな問題となっています。

一方、経済協力開発機構(OECD)などを中心に、大学における教育成果を国際的に評価しようという動きが具体化しています。質の低下を放置すれば、日本の大学教育全体の国際的な信用が失われることになりかねないという新たな課題も出始めています。

中教審は現在、学部で学生が身に付けるべき内容のガイドラインとなる「学士力」を策定することなどを審議しています。しかし今回の諮問は、学部教育の内容にとどまらず、大学全体の在り方を見直すという大きな視点からの諮問となっているのが特徴です。たとえば、学生の多様化に対応して、学生が学部・学科などの枠にとらわれずに、ニーズに応じた学習をできるようにする「学位プログラム」という考え方を導入するよう、検討を求めています。

しかし、最も注目されるのは、やはり「人口減少期における我が国の大学の全体像」を考えるという観点から、大学数の削減など実質的な再編統合に踏み出すことを暗に要請している点でしょう。政府の方針を受けて文科省はこれまで、大学の再編を市場原理に委ね、新増設についても極力、事前規制などはしない方針を取ってきました。今回の諮問は、そうした方針を転換することを意味しています。ただ、中教審の大学分科会は今年3月に公表した学部教育の「審議のまとめ」の中で、現在の大学数が多すぎるということはないという立場を明確にしたばかりでも在り方針転換には大学関係者の強い反対も予想されます。

さらに諮問は、大学の在り方について、学術研究、学生の教育、一般市民などへの生涯学習など、各大学が実情や得意分野に応じた「機能分化」をしていくような検討も求めています。設置認可を厳しくして大学の数を抑制し、定員割れ大学を淘汰(とうた)するのと同時に、各大学の役割を分けていくことで、全体の質を向上させよう、というのが文科省の考え方のようです。


大学全入時代 中教審、作業部会設置し具体策研究(2008年11月12日 産経新聞))【追加記載】

希望すれば誰でも進学できる「大学全入時代」に入り、大学教育のあり方をめぐる議論が本格化している。「ゆとり教育」世代の学生の質低下が懸念される一方、55%という高い大学進学率で学生のニーズが多様化する中、これからの大学に求められるものは何か。中央教育審議会の大学分科会が作業部会を立ち上げ、具体的な検討に動き出したのだ。“大学再編”さえも視野に入れながら大学の進むべき道を探る過程になりそうだ。

≪学位プログラム≫

「今の大学は、入れ物をみても中身がよく分からない状況。中身をみせるためにも学位プログラムの確立が必要」「学生の力を高めるための制度でなければ、意味がない」。10月29日に開かれた「学位プログラム検討ワーキンググループ」第1回の会合では、大学の将来を見据えた委員から厳しい意見が相次いだ。大学分科会が立ち上げた13のワーキンググループの中でも、大きな柱と位置づけられているのが、この「学位プログラム」に関するグループだ。「学部」という組織内で行われていた従来の教育システムに対し、教育目標や研究目的に沿ったカリキュラムで教育するのが「学位プログラム」の考え方。突き詰めれば、学部や学科という枠を取り払って、日本の大学のあり方を根底から変える可能性もあるという。

≪再編視野?≫

今回始まった審議は、これまでの審議と何が違うのか。文科省は「これまでは観念的な議論が中心だったが、これからは『大学は具体的に何をすべきか』を検討していく」と説明する。平成20年度における国内の大学数は4年制が752校、短大で385校。しかし、私立4年制の定員割れは今春、47.1%と過去最悪を更新。地方の小規模大学を中心に経営難は深刻化している。だめな大学はつぶれてもおかしくない時代で、大学は改革を迫られている。こうした現状を踏まえ、鈴木恒夫文部科学相(当時)は9月、「中長期的な大学教育のあり方について」として中教審に諮問。社会や学生の多様なニーズにいかに対応していくか▽グローバル化が進む中で大学教育のあり方▽人口減少期における大学像-の3点がポイントとなった。「大学のあり方自体を見直すということ。具体的に問題点を洗い出せば、あるべき姿がみえてくる。大学再編につながる可能性もある」(文科省担当者)

≪質どう確保≫

大学全入時代は、ニーズに応えなければ学生を確保できないという“刃”を大学に突きつけた。その一方、大学はさらに高い「質」を問われている。これは、大学の経営全般に影響を及ぼしかねない問題だ。ある大学分科会のメンバーは「学生を集めるために入学しやすく、卒業しやすい大学では『質』を維持できない。しかし、高い水準の教育を維持するには、資金が必要。このバランスをどう取るのかが課題」と指摘する。「学位プログラム」と並んで、大きな柱となっている「質保証システム検討ワーキンググループ」では、こうした課題にも踏み込んでいくことになりそうだ。とはいえ、こちらも手探りのような審議が始まったばかり。座長の広島大高等教育研究開発センター長、山本真一教授は「まだ入り口に着いたばかり。どこから手を付けていけばいいのかと思うほど。のんびりはできないが、長い道のりになるのでは」と話す。「人間は本来、好奇心がいっぱい。それに応える教育システムが必要だ」。今年、ノーベル賞物理学賞を受賞した益川敏英京都大名誉教授は、塩谷立文科相にこう苦言を呈した。質確保と同時に、未来のノーベル賞学者を育てる世界レベルの教育・研究環境をどう整えるか、全入時代の大学改革は緒に就いたばかりだ。


(参考)[追加記載]