2008年10月1日水曜日

経営的視点からみた大学のあるべき姿とは(4)

「大学経営」を考えるシリーズ(勝手に命名しております)は今回で4回目になります。ひとまず今回で終わりとさせていただきたいと思いますが、今日は、「大学改革で日本は強くなる!・大学教授の給料を9ヵ月分にせよ! -経済学者 竹中平蔵(慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長)に聞く-」(2008年7月28日 ダイヤモンドオンライン)をご紹介したいと思います。

竹中平蔵さんといえば、あの小泉政権で経済担当大臣として豪腕を振るわれた有名な方ですが、彼の経済政策の功罪は別として、経済学者に戻り自由な立場から大学を見てどのように感じているのか、大学経営をどのように考えているのかなど、少々辛口ではありますが、納得できるインタビューの内容ではないかと思います。


国の経済力を上げるには「大学のレベル向上」が必要

大学のレベルは、国の経済に影響を及ぼすのでしょうか?

大学は「労働市場に優秀な人材を送り出す」という重要な役割を担っています。実際、欧米の大学の強さと経済の強さを比較すれば、やはり関連性は高いと言えます。
現在の日本経済は知識経済で、知識やノウハウ、技術力が発展するとそれに比例して経済も強くなる傾向があります。
そういう意味でも、経済を強くするには強い大学が必要でしょうね。

今年1月に開かれたダボス会議で、フランスのフィヨン首相は「5年以内にフランス国内の大学を10校ランクインさせてみせる」と明言しました。
これは大学を強くすることでフランス経済を強くするという政治的リーダーの意思表明です。

日本の大学のどこに問題があると思いますか?

まず、海外と比べて教育に対する情熱が低い。
教育は国がタダでやってくれるという意識がありますが、クオリティの高い教育にはお金をかけて、教える側も相当の努力をしなければなりません。
「教えるほうも教えられるほうも真剣勝負」という意識が海外の一流大学は徹底しています。

私がハーバード大学生だったとき、学生たちが授業中に辞書を引けばすぐにわかるような初歩的な質問をバンバンするんです。
日本人から見ると、「ノーベル賞レベルの学者にそんな質問するなよ」と思うけど、教授のほうも必死で学生の質問に答える。
まさに「教授と学生の真剣勝負」であり、海外と日本の違いを感じましたね。


教授は「給料9ヵ月制」を受け入れ切磋琢磨せよ!

日本の大学のランキングを上げるために必要なことはなんだと思いますか?

私なら、「大学教授の給料を9ヵ月分にする」ことを提案しますね。
アメリカの大学はすでにこのようなシステムになっており、あとの3ヵ月分は教授自身が学外などで稼いでくるんです。

たとえば、世界的な業績を上げている教授は、夏休みの3ヵ月間世界中から引っ張りだこです。
でも、あまり優秀でない教授はどこからも呼ばれませんから、高校生相手にアルバイトをしたりする。
そうなれば、「もうちょっと頑張らなくては」というメカニズムが働くようになります。

また、欧米の大学は「競争の中からよいものができる」という大原則が成り立っています。
日本の大学にはありませんが、アメリカの大学のほとんどは学生が教授を評価するシステムをとっています。
評価の低い教授は給料を下げられてしまうので、双方に厳しい緊張関係がある。

つまり、「日本の大学は甘やかされている」と。

その通りです。特に国立大学は文部科学省から支給される補助金で運営されていますが、教育の質には関係なく支給されます。
もちろん頑張っている大学もありますが、善意だけで教育は向上しません。

たとえば、給与を9ヵ月分制にしてしまうと、地方大学や注目されにくい分野を専攻している教授は困ってしまいませんか?

逆に「困ってもらうことが重要」なんです。そうすれば努力せざるを得なくなる。
厳しい意見かもしれませんが、大学はそうやって力をつけて行くしかないでしょう。

さらに学生の意識向上も必要です。
以前、台湾の国立大学生に「あなたの大学のライバルはどこか」と質問したとき、全員が「シンガポール国立大学」と答えました。
おそらく同じ質問を日本の学生にすれば、京大の学生なら東大、早稲田の学生なら慶応とでも答えるでしょう。
今の時代、そんなレベルではダメなんです。
日本の学生は、「大学同士が国際的に競争している」ということをよく認識しなければなりません。

ただ、ひとつだけ弁護しますが、日本の国立大学制度は、戦後大学や教育の大衆化に重要な役割を果たしています。
この制度のおかげで、和歌山県生まれの私も大学に進学することができた。
とはいえ、大学制度は「国際化」という次のステップへ進むべき時期に来ています。


これからは自治ではなく「マネジメント」の時代

それでは、日本の「大学改革」に必要なポイントを教えてください。

まず、第1のポイントは教育にお金をかけるべきこと
そう言うと、「教育費をこれ以上上げるのか」という反論も出るでしょうが、日本の教育費が高い原因は、主に塾の費用や地方大学生の下宿代などです。

つまり、教育にかかる「関連費用」が高いのであって、本来の「教育」そのものにはそこまでお金をかけていないんです。
たとえば、慶応大学の文系の場合、1年間の授業料は約100万円ですが、ハーバード大学、イェール大学はその3倍の約300万円もかかります。
さらに日本の大学は、講義の仕方も安上がりです。
日本の講義は百人単位ですが、ハーバード大学では30人以下が原則。
学生が何百人もいれば、コストがかからないぶん、教授が学生一人ひとりの理解度を把握することが困難になります。
しかし、30人程度だと、コストはかかるけどきめ細かい講義ができる。
そういう面でも教育の質は違ってきますよね。

よい教育にはどうしてもお金がかかってしまうことを、教育を受ける側も提供する側も認識しなければいけないわけですね。

第2のポイントは、教育の中身そのものの見直しです。
現代の日本人にとっては、「勉強イコール暗記」ですから、暗記力のいい人は非常に楽です。
ところが、実際社会に出てみると、暗記力が役に立つ場面はほとんどない。
物事を「暗記」させるのではなく、「創造的な思考力」を持たせることこそが、教育の本質なんです。
これからは、伝統的な知識の切り売りではなく、創造力を養う教育を施さなくてはなりません。

そして第3のポイントは大学のマネジメント
よく言われる「大学の自治」とは、戦前、大学に国家の介入があり学問の自由が奪われたことに対する反省から生まれましたが、現在必要なのは「自治」ではなく「経営」です。

たとえば、一般的に教授会で決められる大学経営は、教授たちの都合のよい環境になってしまいがちです。
一般企業でも、「会社の経営は社員で決めろ」なんて言いませんよね。
経営は経営者が決めるべきであって、それが「マネジメント」なんです。
日本の大学にも同じ仕組みが必要です。

大学同士を競争させることについては、「大学格差や学生の教育格差につながるのではないか」という反発意見も出てきそうですが。

日本では少子化の影響で年々学生の数が減り、定員割れの大学も増えてきています。
そんな時代だからこそ、日本の大学は「優勝劣敗の競争」を行ない、互いに切磋琢磨すべきです。
「一時的にせよ格差が広がるから改革はしない」という考えでは、日本の大学はいつまでたっても世界のトップ100にもランク入りできないでしょう。