2008年10月21日火曜日

記者からみた大学広報 (4)

このシリーズも今回で最終回になりました。今回は、富所 浩介氏(読売新聞大阪本社記者)の講演概要をご紹介します。

講演の中で富所氏は、「大学の広報は内側に向いているタコツボ型で、外部に向けて組織を開き、地域社会や学生に対してアピールする力に欠けている」、「マスコミは、その情報に社会性、公共性はあるか、情報が一般の人達に有益であるかを重視している」、「マスコミは、現代社会を描く、もしくは切り取る一つの素材として大学を採りあげる」と指摘しています。

私は92年に読売新聞社に入社して以来、主に教育や司法などの分野を中心に活動をしてきました。その経験から、大学における広報のあり方について考えてみますと、言葉は悪いですが“タコツボ型と言いますか、内側に向いている傾向があるようです。つまり、外部に向けて組織を開き、地域社会や学生に対して「私たちはこういう大学です。こんな魅力があるので、ぜひ来てください」とアピールするカに欠けているように思うのです。

これからは「大学全入時代」を迎え、大学も生き残りをかけて自分たちをいかにPRしていくかが死活問題となるでしょう。国立大学は法人化という劇的な変化があり、広報にカを入れている様子が目に見えて感じられるようになりました。近年では、老舗と言われる企業がちょっとした不祥事をきっかけに世間の信頼を失って、あっという間に地に落ちていく姿がたくさん見受けられます。ブランドカがあると見られている大学も決して安泰ではありません。有名大学といえども、いっそういう局面を迎えるかは分からない時代ですので、ブランドカをさらに高めていくための不断の努力が必要なのです。

「社会性・公共性」の有無がマスコミ訴求への大きなカギ

それでは、マスコミはいったい大学のどのようなニュースを採り上げているのでしょうか。端的に言いますと、「その情報に社会性、公共性はあるか」が重視されていることが分かると思います。

文部科学省の記者クラブなどでは、実に数多くの大学からプレスリリースをいただきます。しかし、単に創立何周年でイベントを行いますとか、このような講演を開きます、といった情報だけでは訴求力が弱い。絶対に掲載されないとは言えませんが、マスコミは基本的に特定の大学の宣伝になることは避け、その情報が一般の人たちに有益であるかどうかを第一に考えます。つまり、記者の考え方としては、「現代社会を描く、もしくは切り取る一つの素材」として大学を採り上げるのです。

具体例を挙げますと、私は2003年に、跡見学園女子大学(埼玉県)を採り上げて、一本の記事を書きました。ちょうどその当時は「大学発ベンチャー」という言葉が世の中に流れ出した頃で、大学の先生たちが特許を取ったり、研究室で新しい商品を開発したりしてお金が稼げるということで、注目を集めていたのです。半面、大学での取り組みの多くは概して難しく、一般の読者にとって、そのまま記事にしても分かりづらいのではないかという懸念がありました。

こうした中、跡見学園女子大学が取り組んでいたのは、「自分たちでひとまず会社をつくって、実際に商売をやってみよう。そこから実体験として、会社経営というものを学んでいけば面白いんじゃないか」というプロジェクトだったのです。そういうリリースを大学から頂き、「これなら今の大学ベンチャーの動きを分かりやすく伝えられるのではないか」と思い、跡見学園の取り組みを紹介するとともに、合わせ技で「大学発ベンチャーとは何か」を読者に理解してもらえるような記事にまとめたのです。

ですから、「本学はこういう事をやります」という目に見える動きだけではなく、「学生たちの今の気質はこうなっていますよ」とか「ライフスタイルはこうですよ」というようなことを合わせてメディアに発信していただければ、それはそれでニュースになるのですね。

そのためには、学生を対象としたアンケート調査でもいいですし、学生はいまアルバイト活動をどれくらいやっているのだろうかですとか、サークル活動はどのくらい熱心なのだろうか、というような動きを紹介することが、「社会を切り取る」「現代社会を描く」ことに繋がっていくのだと思います。

もう一つは2005年、夕刊一面に載せた「大学発ブランド商品」という記事。これは大学全入時代を控え、少子化の時代に合ったブランド品を自分たちで作って販売し、大学を認知してもらおう、またうまくいけば利益を上げようという一石二鳥の取り組みを紹介したものです。

先ほどの「公共性」という括りで言えば、「全入時代」という大きなキーワードが背景にありますので、こうした取り組みをまとめて紹介することで、やはり大学を取り巻く環境は厳しいんだなということが分かってもらえる。そういう狙いがこの記事にはあるわけです。

一方で、こうした内容の記事を1校だけで紹介すると、その大学の宣伝のようになってしまう懸念があります。この記事では、見出しに東大と神戸大学が出ていますが、本文では近畿大学も紹介するなど、複数の大学を採り上げています。このように、いくつかの大学をピックアップして「共通・類似した取り組み」「同じテーマで括れる取り組み」をまとめることで、普段一面にはなかなか掲載されないような記事が大きく採り上げられることもあるわけです。

大学名が活字として出るだけで、その大学のブランドイメージはずいぶん違います。大学間で連携して一緒に記者発表するというのは難しいかもしれませんが、メディアの側からすれば、こうした情報が一つに集まると非常に採り上げやすいところがあります。

リリース文は表現に工夫を 教員のマスコミ露出も重要

もう一点、文部科学省の記者クラブでは、さまざまな大学からリリース文を送っていただきますが、発表の方法にもうひと工夫があればと思います。

私たち記者は、読者に内容を正確に伝えるために、「難しいことを分かりやすく表現する」ということを非常に大切に考えています。そして、分かりやすいことを面白く伝える。興味を持ってもらえなければ意味がないので、そういうような噛み砕き方を心がけています。

けれども、大学のリリース文を読むと、難しいものをより難しく書いてしまっているケースがしばしば見受けられます。特に長文のものは非常に分かりにくくなっている。A4の紙1枚に言いたいことを的確に盛り込んで、コンパクトに伝える。これがやはり重要だと思います。奇をてらう必要はありませんが、パッと趣旨が分かって、大学ではこういうことをやっているんだなということを相手に分からせることが非常に重要だと思います。

この点に関しては、文部科学省でも広報力強化に向けたプロジェクトを立ち上げ、どうずれば社会に分かりやすく伝えられるかというような検討会も行っています。一方通行にならずに、相手がどう受け止めるかを常に考えて発表することが大事でしょう。もちろん私たち記者も、いただいた発表文だけを読んで記事にするということは基本的にありえません。「これは良いじゃないか」と思えば、取材をきちんとさせていただくことが大原則になっています。

大学の生き残り戦略において、広報は非常に重要です。大学の紹介が新聞に一回掲載されるだけで、広告費に換算すると数千万円レベルの価値があると思います。記事であれば、それは無料なわけですね。経済効率的にもメリットが非常に大きいと思いますので、もっとメディアを積極的に活用すべきだろうと思います。特に、新聞の地方版などにある、イベントや催し物を紹介するコーナーにもアプローチするという戦術を取ることで、掲載される可能性がより高くなると思います。できれば一人ぐらい、困ったときに相談できる記者を広報の担当者の方で持っておくと強みになる。それは私たち記者も同じで、文部科学省を担当していた頃は、例えば「こういう大学でこういう話が出ていますが、どういう価値があるんでしょうか」「こんな動きをどう評価しますか」と、いろんな分野で質問ができる先生を何人か持っていました。そういう人脈も大事だと思います。

それから、大学の教授で、よく新聞やテレビなどにコメンテーターとか、識者という肩書きで登場する方がいます。こういう先生たちの存在は、大学のブランドカを高めるのに非常に有益だと思います。実際、例えば少年犯罪が起きた場合に、犯罪心理学の先生に話を聞きましょう、といった場合に登場する先生は意外に限られているんですね。その一方で、あまり露出はされていないけれども、非常に優秀で、メッセージを分かりやすく伝える力のある先生はいらっしゃると思います。もちろんメディアに出ることが大学教授の仕事であるとは思いませんが、そういう先生を輩出することも、広報では大きな効果があると思います。受験生もあの先生の授業を受けたいということでその大学に入ってくるケースが少なからずあると思いますし、やはり知名度のある先生の活用方法も考えていただきたいと思います。