2009年2月27日金曜日

宮原くん 移植が実現

以前この日記「命をつなぐ -がんばれ!宮原敬助くん-」で、熊本赤十字病院に入院し、「拡張型心筋症」という難病と闘っている宮原敬助君(1991年生)のドイツ・バードューンハウゼン心臓病センターでの心臓移植を実現しようとする支援活動についてご紹介したことがあります。

このたび、ドイツでの移植を受けるための渡航費や手術費として必要な資金が心ある方達の寄付により集まり、移植が実現することになったそうです。移植の成功を心からお祈りいたします。


募金で心臓移植へ 17歳「元気になって恩返ししたい」(2009年2月26日 朝日新聞)

重い心臓病を抱えた熊本市の宮原敬助君(17)が、心臓移植に向けて3月16日にドイツに渡航する。費用を募った支援団体「敬助君を救う会」は26日、熊本県庁で記者会見し、寄付1億円余が集まったと報告、謝意を表した。

宮原君は心筋が拡張して薄くなり、心臓が機能しなくなる「拡張型心筋症」と診断され、08年9月には余命数カ月と宣告された。国内より早く移植が受けられる可能性が高いドイツでの移植に望みを託し、両親や知人らが11月に「救う会」を設立。渡航や手術費として必要な8600万円を目標に九州各地で募金し、23日までに1億564万8273円が集まった。

父親の広一さん(51)は会見で「みなさんの思いを大切に、一歩一歩進んでいきたい」と話した。宮原君も「必ず元気になって、今度はぼくが恩返ししたい」とのコメントを寄せた。救う会はホームページで渡航後の経過も報告する。

国内では、ドナー不足や臓器売買が問題になり、海外で移植患者受け入れを制限する動きもある。救う会の高木健二代表(41)は「助かる道があれば、その道を選ぶのが親心。海外移植の道が狭まる可能性もあり、国内で早く手術できる態勢をとってほしい」と語った。

2009年2月25日水曜日

大学の存在意義と自治

現在、大学は、自らを取り巻く様々な厳しい状況に耐えうる経営改革や教学改革に取り組んでいます。また、その改革手法は大学の置かれた立場や戦略によって多様であり、目的の達成にたどり着くためには大変な苦難を乗り越えなければならない場合もあることでしょう。

今回から数回に分けて、大学経営を改革するための方向性について極めて的を得た指摘がなされているのではないかと個人的には共鳴し評価している論考をご紹介したいと思います。

この論考は、日本総研の主席研究員である三宅光頼さんが書かれた「大学法人の組織的特徴(構造的陥穽)と改革の方向」というものです。全文を私の主観によるテーマで分割しご紹介していきたいと思います。

1 戦略決定機能の課題-なぜ、大学法人は存在意義(事業ドメイン)を決定できないか-

大学の事業の目的(あるいは存在意義)は何か、と問われたら何と応えればいいでしょうか。教育、研究、貢献(真理探究etc)など、大学という組織を通じてミッションを実現していくわけですが、実際にミッションは多岐にわたり複雑にからみ交錯しています。教育に携わる個人としての存在、地域社会から子息を預かり社会との共存をする法人としての存在、学問や育成を担う社会的機関、社会的機能としての存在があります。これらの存在意義が同心円内で重なり合わず、単なる集合として議論が展開されるためにその存在意義が揺れてしまいます。たしかに、個人の研究教育活動を国家権力が制約することはできませんし、授業料と税金を使う経営者の方針のもとに経営活動を行っていても、経営側からの関与は一定の制限を期待し、報酬として生計をたてている教育者は「研究をすること」が対価であり貢献であると考えてしまいがちとなります。

教育に携わるものにとっては、「学問そのものが真理の探究であり、その真理の探求に対して、個人の思い込みや、時々の権力による介入や歪曲、捻じ曲げは許されず、できうる限り客観的・科学的な眼や証拠によって取り扱われなければならず、それこそ学問が学問たる最低限の条件というものであり、その探求の環境を保護するには、自治という形態以外にありえない」ということになるのだと思われます。

それを集団で実行する場合、個人の自由と組織の自治とが交錯することになり、さらに存在意義を曖昧にしてしまいます。

自治は、地方自治体のように中央との「役割分担としての自治」と、自らの進退は自ら決定する「自決の自治」、さらに独立性を担保するための「基本的権利(人権)としての自治」があります。

本来、完全な組織の自治は「自責力・自給(立)カ・自浄(律)カ・自走力」をもつ組織のみが持つことができるものであり、組織行動を個人に展開したものではなく、その意味で大学の完全な自治は、主張(理念)としての自治はありえても、現実としての自治は、一部の制限を受けざるを得ないと考えざるを得ません。

通常、企業の事業目的は顧客の創造、企業価値の増大、事業の継続(ゴーイング・コンサーン)にあると言われています。大学の事業目的は、雑駁(ざっぱく)な表現が許されるならば、真理の探究を通じて人類と国家へ貢献することにあるといっていいでしょう。

ここでは、その前提で議論を進めることとし、そうであるならば、通常の営利企業の事業目的が「企業価値の増大と事業の継続」であると同じように、大学のミッションは、第一義には、大学(の存在)価値の増大と事業(理念)の継続(他の大学に対して競争力・存在意義のある大学創り)にあるということは可能であると思われます。

2 大学価値の増大と事業の継続の実践

それでは、大学(の存在)価値の増大(以下、「価値の増大」という、)と事業(理念)の継続は、どのようにして実践するのでしょうか。当然ですが、それは教育機関として次の3つの基本的なサービスの質を徹底的に高めること以外にはありません。

第一は、企業経営と同じく教育と研究の質を高めること(高品質の財サービス作り)、第二は学生(親)・地域と企業の三者にとってのコストパフォママンスを高めること(利害関係者や顧客満足の充足)、そして、第三に、他の教育機関・研究機関との徹底した差別化(勝てる組織と勝てる人材)を実現することにあるといえます。価値の増大と事業の継続の実践は、『財サービスの継続的開発と提供を通じて、利害関係者への満足の提供を組織として「比較優位」を実現しながら継続していくこと』と定義できるでしょう。
この定義を確実に実行していくためには、以下の3つの機能と役割を総合的に推進する仕組みと仕掛けが必要です。

1)教育と研究を担い、付加価値を高める人材の恒久的な発掘と育成を行う機能
2)教育と研究の成果を地域・社会に還元し収益の確保と存在を承認させる機能
3)教育と研究の質の競争優位性を確保するため戦略構築と実行を行う機能

これらのうち、3)は学校経営そのものの中にある独立した機能として成り立ちますが、1)と2)はかならずしも単独には存在しえません。特に2)は産官学協同(もしくは連携)の形でなければ実現しにくいのが現実です。

このことは教育機関として、「自治」だけでは成り立たなくなることを意味します。上記の2)、3)の機能強化のため、外部との関係で常に評価され選別される以上、自分たちの強みにおいて自己を相対化することが必要となり、そのことが1)の一層の強化を要求します。そしてそれは、自己評価はもちろん、相互評価すら成り立たない環境、すなわち客観的な外部評価と序列化、そして選別と選抜の機能を、多くの企業と同じようにビルトイン(内蔵化・自働化)する必要があるのです。

この時点で、「自治」だけでなく「開放(公開)」が次に求められる施策であることが分かります。価値の増大と事業の継続の実践のためになすべきこととは多くの大学で模索している「オープン化」なのです。

3 大学のオープン化とは何か

「オープン化」に対して実践できているのは、現実には「公開(市民)講座」や「オープンキャンパス」、「公開特許」でしょう。限定的な参観は進めていますが、新教育産業の塾や予備校、専門学校等でもないかぎり、公開授業を行うことは少ないといえます。ここでのオープン化とは、もっと根本的な3つの公開を意味します。

第一は資本のオープン化です。6つの資本(ヒト・モノ・カネ・情報・時間そして知識)です。特に、情報と知識の公開です。第二は組織のオープン化です。組織とは責任(成果と役割)、権限(職位と地位)、職務、そして施設です。第三のオープン化はマネジメントです。マネジメントとは、計画(戦略)・実行(プロセス)・監査(評価)・実践(行動)、すなわちPDCA(Plan・Do・Check・Action)です。

現段階では一部しかオープンになっていませんし、完全なオープン化である必要はありません。情報公開の範疇から出発し、オープン化が完全に実現できたとき、完全な自治が本当に機能していると言えるでしょう。

つまり、大学の自治とは大学のオープン化の指標であり、品質の称号であり、信頼の証明となるものです。オープン化が進み、相対化ができている大学ほどステークホルダーから信頼されており、その結果、大学の自治が進むのであって、その逆では決してないということです。≪続く≫

2009年2月24日火曜日

大学教員人事制度の課題

前回は、「国立大学法人の役員人事への文部科学省の介入問題」についてコメントさせていただきましたが、今回は「大学教員の人事制度と業績評価の問題点」に視点を当てて考えてみたいと思います。

大学教員の業績評価及びその人事考課への反映については、既にこの日記でも何度か触れておりますが、これまでいろんな大学の様子を見ていますと、大学や大学教員というものの歴史的・文化的背景や風土の特殊性が相まって、一般社会での常識的な考え方がなかなか思うように浸透していないように思われます。

しかし、世の中の流れやあるべき方向性から考えれば、これまでタブー視されてきた業績評価を含む大学教員の人事制度の根本的な変革はもはや避けては通れないことを、当事者である大学教員自身が謙虚にかつ早急に自覚することが求められているのではないかと思います。

と同時に、大学教員の正当な評価とは本来どのようなものか、どうすればより良き姿で実現できるかなど、新たな制度構築に向けた問題点の析出や解決方策を見出すことに能動的な姿勢を示さなければならないのではないか、そのためには、まずは、大学教員が自らの意識や行動の転換を図る必要があるのではないかと考えます。


今日は、「大学人事における日米比較と今後の改革の方向性」(日本総研主任研究員 久保田智之 氏)という論考の要旨(私が勝手に抽出)をご紹介します。

1 大学人事(特に評価制度)をめぐる動き

日本の大学における教員人事は、学問の自治のもと大学教員によって自主的に行われてきました。もともと行政の介入によって、学問の中立性、学術的見解が歪められないようにするために自主的に大学運営がなされてきました。法律上も、教育公務員特例法によって「教員の採用及び昇任のための選考は、評議会の議に基づき学長の定める基準により、教授会の議に基づき学長が行う」と定められています。つまり、教員の選考は教員同士で行うこととなっています。これは国立大学に関する法律ではあるが、私立大学においても国立大学と同様の規程が用いられることが多いために教員人事については、他の誰もが手を出せない状態となっています。このことから派生して、大学運営の様々なことについては、学長を筆頭にして教員が主体となってほぼすべてのことを決定する仕組みができあがってしまいました。

しかし、昨今国立大学が法人化される、大学自身の評価を受けなければならない、学部、学科の設置をしたい、地域社会に開かれた対応をしないといけないというような事態に対しても、これまでと同様に研究と教育に専念し、その他のことに関しては片手間にあるいは誰かに押しつける形で意思決定が進んできました。このために、大学では「教員」と「事務」職員という身分の違いを前提として様々な人事運営がなされるようになりました。大学教員は、自分のことを自分で決めることになるためにどうしてもお手盛り的な要素が残るようになってしまいました。このために徐々にではあるが、人事・組織面で硬直化現象が生じてきているといえます。確かに、教育、研究という領域に関しては「評価」そのものがなじむかどうかという根本的な議論が残ることはやむを得ません。しかし、現在の日本の大学が、少子化を乗り越えて国民の期待に応えて行くには、今までのやり方だけでは通用しなくなっています。外部の視線に十分耐えうるような仕組みが新たに必要となっているのです。

2 日本の大学職員の人事制度の現状

日本の教員人事制度は実質的に、公務員型の年功処遇と評価制度がない制度で運営がなされてきました。その根本には、「学問の自治」を守らなければならないということのために制定された「学校教育法」及び「教育公務員特例法」にまでさかのぼると考えて良いでしょう。この法律では、教授会自治を大きく認めるとともに採用、雇用条件についても教員自身が決めることとなったのです。一定の研究成果を残すためには、長期間の研究期間が必要です。短期間の成果で雇用、処遇を決められては安心して教育・研究に携わることができません。こうして、終身雇用制と年功序列が国公立の大学教員で確立され、また私立大学においても国公立大学にならう形で導入が進みました。

この年功的な処遇は、結局大学の活性化には現時点では寄与していないと言わざるを得ません。終身雇用と年功処遇という制度が、何もしない教員を生む温床として捉えられるようになりました。

しかし、大学は、教員が運営するものという認識が大きく揺らいでいます。教員と職員とが一体となって運営しなければ巨大な組織を回しきれなくなっていること、また大学評価という外部の評価にさらされながらその品質の維持・向上を約束しなければ大学として存続し得ないという競争環境が現れてきたことによります。

教員の人事制度に関しては、長期雇用を前提とするならば、ある程度の時点で業績評価を入れ、処遇(給与、賞与)と連動させる仕組みが望ましいと考えられます。しかし、大学のシステムを考えると教育・研究の主体が教員自身にあり、今後もそうあり続けるとするのであるとすれば、組織自身も教員自身で浄化させていく必要があります。そう考えると、単に教員評価制度を導入するだけでは、組織の活性化にはつながりません。いたずらに、個人を刺激するばかりで組織間の良好な競争環境を作り出すことには寄与しないといえます。この点、大竹(2005)*1は、「組織廃止の可能性を教授の研究意欲増大と優れた人材め採用へのインセンティブとする方が望ましい」としています。つまり、大学教員のモチベーションの源泉が研究、教育にあると考えるなら、その組織が一定の成果を残さないと、組織全体を改廃するという原則をうち立てることによって、業績への努力を引き出すことが可能となると考えられます。たとえ人員削減が財政的な理由から必要となる場合でも、とかげのしっぽ切りのように能力の劣る教員から解雇するというのでは、採用する教授が自らを最後にするよう能力の劣る教員を採用するインセンティブが働きますが、組織自体を廃止するという原則をうち立てておけば、そうはならないように絶えず優秀な人材を抱え込むようなインセンティブが働くようになるのです。組織の廃止の可能性をインセンティブとするのは、組織運営上としては雇用を確保しないといけない立場からすれば容易には選択できませんが、単に評価制度を導入したり、任期制的な雇用形態をとるだけではうまくいかないとを示唆しているものと考えられます。


*1:大竹文雄(2005)「経済学的思考のセンス」(中央公論新社)

2009年2月23日月曜日

大学と、いわゆる「渡り」

つい先日まで、公務員制度改革の一環としての、いわゆる「渡り」の廃止に関する報道がさかんに行われていました。「渡り」とは、国家公務員が独立行政法人や財団などに天下りした後、さらに出身省庁の関連団体などに転職を繰り返し(渡り歩き)、その退職のたびに高額な退職金を受け取ることです。

2007年の国家公務員法の改正により、再就職のあっせんは「官民人材交流センター」で一元管理し、各省庁によるあっせんを禁止することになっていましたが、同法の施行に合わせて昨年12月に閣議決定した「職員の退職管理に関する政令」により、3年間の経過期間における再就職のあっせんは原則として禁止されているものの、例外規定として2回目以降のあっせんが認められることになったことから批判の声が上がっているわけです。

まずは、関連報道から

無法地帯化する霞ヶ関(2009年2月3日 ビデオニュース・ドットコム)

安倍政権下での国家公務員法の改正で、省庁による官僚の再就職の斡旋、すなわち天下りが実質的に禁止され、経過措置として3年間は新設される再就職等監視委員会が承認した場合に限り、天下りが認められることになっていた。しかし、ねじれ国会でこの再就職等監視委員会の人事が進まないのをいいことに、麻生政権はその間首相に天下りを承認する権限を与える政令を作ってしまった。国会で成立した法律の本則に反する行為を、法律よりも下位にある政令で可能にしてしまうというのだ。これは明らかに法律違反であり、「霞ヶ関のクーデター」(仙谷由人衆議院議員)と批判されてもしかたがないほどの暴挙だった。それにしても、なぜ官僚はここまで露骨に権益擁護に乗り出さなければならないのか。官僚たちは単に公共心を失ってしまったのか。あるいは、世論の突き上げで少しずつ特権を失い、いよいよここまでやらなければ、自分たちの権益を守れなくなってきているということなのか。・・・

おはようコラム 「“渡り”と麻生流官僚観」(2009年2月3日 NHK解説委員室)

天下り先をいくつも渡り歩く、だから「渡り」と言うが、国会で取り上げられた最高記録は、農林水産省のOBが6つの公益団体を20年以上渡り歩いて、退職金も含め推定で3億4千万円受け取っていたケース。このこと自体問題だが、役所を辞めた後は一民間人。だから、その人の再就職の世話を役所でやるのは公務員の職務専念義務に違反している疑いがあるし、必要もない天下り先を作って受け皿作りをしていたとしたら、それこそ税金の無駄使いだ。

一昨年の国家公務員法改正で禁止されたが、法律の運用基準を定めた政令が去年12月に決まって、その中に「必要不可欠の場合はこの限りでない」という文言が入っていることが分かった。自民党を離党した渡辺元行革担当大臣や民主党が「官僚が作った抜け道だ」と攻撃して、与党の中からも「認めるべきではない」という声が上がったが、麻生総理大臣はなかなかはっきりしたことを言わずに、ようやく先週になって「認めない」と明言した。

官僚の人事管理を一元化するための改革の工程表。内閣に権限を移される人事院が猛烈に反対して途中で立ち往生する場面もあった。自民党の改革推進派からは、麻生さんが官僚に弱いから足元を見られるんだという批判も出始めている。「渡り」の方も、野党側は、政令そのものを撤回すべきだとさらに攻勢を強めている。官僚政治の打破に向けて、麻生総理大臣がどこまで指導力を示せるか。政権の不安材料がまた一つ増えた格好だ。・・・


それでは私達の職場である大学に「渡り」というものは存在するのでしょうか?「渡り」と断定するにはいささか自信がありませんが、「天下りや渡りのようなもの」は存在するような気もします。実態を見てみましょう。

総務省は、昨年12月25日、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月19日閣議決定)、「公務員制度改革大綱」(平成13年12月25日閣議決定)等に基づき、各独立行政法人等における「役員に就いている退職公務員等の状況」を取りまとめ公表(平成20年10月1日現在)しています。

このうち、国立大学法人に関係する部分を抽出してみると、国立大学法人(大学共同利用機関法人を含む)90法人のうち、
  1. 役員(682人)中、退職公務員が19人(うち常勤497人中11人)
  2. 役員(682人)中、独立行政法人等の退職者が51人(うち常勤497人中25人)
  3. 役員(497人:役員出向対象法人)中、国からの出向者が64人(常勤のみ)
という状況になっています。各法人に係る詳細な内容については公表資料をご参照ください。

次に、 文部科学省の官僚と言われる方々の国立大学法人(理事)への出向状況が詳細に示されているサイトをご紹介します。

まずはサイトにおける指摘の概要(拙者の主観で抜粋しています)を見てみましょう。関係者の皆さんはどうお感じになりますか?
  1. 「役員出向」制度は、本来「キャリア官僚の天下りへの批判」に応えるために作られたルールであった。この「役員出向」制度によって、これまで強い批判があった「退職金の二重取り」は(部分的には)解消したが、天下りそのもの、中央省庁による各種法人支配の構造は全く改善されていない。それどころではない。「国立大学法人」における「役員出向」は、この制度の本来の目的を外れた拡大運用である。国立大学法人発足以来の文部科学省人事は、文部科学省がこの制度を幹部公務員のポスト確保に利用していることを示している。

  2. 現在の国立大学法人の理事の任命の多くが文部科学省の人事都合で行われており、それは国立大学法人法に違反することを示す。国立大学法人発足当時、過半数を大きく超える大学で事務局長が理事職に就いた。さらにその事務局長出身理事は文部科学省からの役員出向者であることが判明した。そもそも未だ2年を経過していない国立大学法人の理事に、学長の交替という事情が生じたわけでもないにも関わらず、なぜ異動が発生するのか疑問である。学長に任命された理事は、特段の理由がない限り、本来の任期期間中「学長を補佐して国立大学法人の業務を掌理」(国立大学法人法第11条)しなければならないはずである。その理事をごく短期のうちに中央省庁へ復帰させたり、格段の失態等が認められないにも関わらず職務を解いて他の理事を中央省庁から招致したりするのは、学長の職務遂行能力に欠落があるものと認められる。しかし、中央省庁の意思により出向役員が異動を余儀なくされたとすれば、この限りではない。つまり、異動が生ずるのは、学長の職務遂行能力に欠落があるか、当該大学の理事人事に中央省庁の意思が働いていたかのいずれかであり、後者の場合は、学長の理事任命権に対する中央省庁の不当な介入と称されよう。

  3. 「国立大学間」、「国立大学と他の独立行政法人間」になぜ異動が発生するのか疑問である。わずか2年の短期間の間に、2つの大学法人の理事を勤める人物がいる。各大学には各大学の固有事情が存在し、理事はそれを十分勘案して「学長を補佐して国立大学法人の業務を掌理」しなければならないはずである。学外者から起用された多くの理事が任期を勤め上げているにも関わらず、「役員出向」の理事だけがこのように短期間の異動を繰り返すのは、この種の人事が文部科学省の人事ローテーションに従っていることを示しているのではないか。だとすれば、理事の任命権(学長に帰する)に対する文部科学省の不当な介入である。

  4. 文部科学省によるローテーション人事は、「国立大学法人法」審議時の政府答弁、衆参両院の「附帯決議」にも違反している。当時の遠山大臣、河村副大臣は、03年7月8日、次のように答弁しているのである。
(河村建夫文部科学副大臣、平成15年7月8日参議院文教科学委員会)
理事の任命に当たって学長は、これは責任を持って自ら行うということになっておるわけでございまして、それに対して文部科学省が学長の意に反して理事を割り振るというようなことは全くあり得ないと、このように考えております。
(遠山敦子文部科学大臣、平成15年7月8日参議院文教科学委員会)
学長が適材適所の観点から自らの判断によって文部科学省職員又は職員であった者を理事に選任することもあり得るわけではございますけれども、それは大学の自主性、自律性を阻害すると批判されることがないように、法人化の趣旨を十分踏まえて私どもとしても配慮をしていきたいというふうに考えております。
「大学の自主性、自律性」が尊重され、「文部科学省が学長の意に反して理事を割り振るというようなことは全くあり得ない」のであるならば、なぜ「文部科学省の人事異動」により理事が異動することが生じるのであろうか。


このサイトに掲載された実態及び指摘が、いわゆる「天下り」あるいは「渡り」に当たるのかどうかの判断はなかなか難しいところですが、「法人化によって、国立大学の人事権が学長に移行した(法律によって保証された)にも関わらず、相変わらず文部科学省が国立大学法人の役員(のみならず事務系幹部職員)の人事を行っている」ことは事実ですし、個人的な経験から申し上げても的を得た指摘ではないかと考えます。

諸事情あって国の時代の制度が未だに生き続けていることは理解しつつも、このことは法人制度の根幹に関わる重要な事項であり、第2期中期目標期間を迎えようとしている今こそ、文部科学省は法律に書かれた制度の趣旨と実態との乖離を一日も早く無くす取組を進めるべきだと考えます。

2009年2月21日土曜日

人間は自分が思っている以上に可能性に満ちている

2月も残すところ1週間となり、今やまさに、入試や就職を通じて人生の転機を迎えておられる方が多いのではないかと思うのですが、なかには残念ながらこれまでの努力が報われず、目標を達成することができなかった挫折感から苦悩に満ちた時間を過ごされる方もいらっしゃるのではないかと思います。

気持ちの整理はなかなか難しいものですが、こういう時こそ、目標達成に向けて、どれだけ時間がかかろうとも、目標を達成するまで少しづつでも前進し続けようと自分に言い聞かせ、ひたむきに目標を追い求める姿勢を崩さないようにすることが、成功を自分に引き寄せることにつながっていくのではないかと思います。

政府の教育再生会議担当の内閣総理大臣補佐官をされた参院議員の山谷えり子さんのエッセーをご紹介します。ご自身の経験を踏まえ、人間の無限の可能性について触れられています。


生き方見つめる教育を(2009年2月18日 産経新聞)

「20代前さかのぼると100万人のご先祖さまがおられる。応援団やで」「街の人とは仲良う。洋服も一つの店だけで買うたらあかん。趣味の合わない店では、靴下を買うたらええ。まんべんのう付き合うんや。人も店も、どっかいいとこあるもんや。お互いさまの心やで」

このところ、不況や苦しみのニュースを見るたびに、88歳で亡くなった母方の祖母の声がなぜか聞こえてくる。7人の子を産み、福井県の鯖江市の商店街で、86歳まで働いていた陽気な祖母だった。晩年は、骨粗鬆(こつそしょう)症が進んだが、私が訪ねれば、不自由な手で季節の果物をむいて待っている姿は、いくつになっても“人に与える”人生を生きているかに見えた。

“受けるより、与えるほうが幸せ”“己立たんと欲して人を立て”“忘己利他”・・・キリストも孔子も最澄も、喜びをもって人間らしく生きる生き方として、与える心や努める心をそれぞれ説いてこられた。

経済至上主義、安易な結果平等主義で、人と人が結ばれ合う心や、修養する心は、ともすれば脇に追いやられてきた。しかし、こういう困難を抱える時代だからこそ、むしろ人間としての生き方を見つめる教育の原点に立ち返ることができると考えている。

1月19日に閣議決定された「経済財政の中長期方針と10年展望」には“すべての子供に知・徳・体バランスのとれた、自立して社会で生きていく基礎を育てる”と徳育を重要政策としていくことが書き込まれた。道徳と自立の教育は、この先10年の教育の中心指針である。

また現在国会で審議中の平成21年度予算案には、教育基本法改正に基づいて伝統と文化を尊重し、豊かな情操と道徳心を培うことや、家庭教育、幼児教育、職業教育支援などが盛り込まれている。ゆとり教育の見直しと教材の充実▽道徳教材の国庫補助制度の創設▽子供農山漁村交流プロジェクト▽全国2万3000校すべての公立小学校での放課後子供プランの実現▽中学校武道の男女必修化に向けた条件整備費▽食育推進など、教育再生実現に向け、思いきった財政支援体制がとられている。

人生はむしろままならぬことだらけである。そんな中で自尊の心をもって前進するエネルギーは周囲の知恵にみちた愛の言葉や教育の力にあると信じている。

私の中学時代、父が失業し、借金を返そうと、母が内職をしすぎて失明したことがあった。しばらくして母の眼は見えるようになったものの、薬害で体調はすぐれぬまま。そんな時、父は母に「人生80年というよ。あと40年泣いているの?」と励まし、勉強をすすめた。苦しみの中で、母は40歳を過ぎて猛然と勉強してカウンセラーの資格をとって働きはじめ、80歳の今日も、働き続けている。

人間は自分が思っている以上に、可能性に満ちているのではないだろうか。苦しみの中にあればこそ、教育と周囲の応援が一層の光と力となることを、私は母の後姿から学んだ。

山谷えり子さんプロフィール等
http://www.yamatani-eriko.com/

2009年2月10日火曜日

教育再生懇談会第3次報告

政府の教育再生懇談会は9日、第3次報告を麻生太郎首相に提出しました。

この報告は大きく「大学改革」、「子供の携帯電話利用」、「教育委員会改革」の3つで構成され、大学改革に関しては、1)いわゆる「全入時代」を迎えた大学の質向上のための私学助成や国立大学法人運営費交付金などの公費支援を大幅に拡充すること、2)納税者の理解を得るため、教育内容や研究水準などの評価結果に応じて公費配分に差をつけること(取り組みが不十分な大学には公費は投入しないこと)、3)学生に必要な学力があることを確認するため、高卒者の基礎学力を測る「高大(高校・大学)接続テスト」を導入すること、4)全大学に義務付けている第三者評価を厳格に実施することなどが提言されています。

また、報告を受けた首相は、今後の課題として、1)国際社会で通用する人材の育成、2)科学技術立国として理工系、理数系の人材育成等について検討を進めるよう指示したようです。

それでは、第3次報告の大学改革に関する提言「大学全入時代の教育の在り方について」のうち、「大学自身(財政支援については国)が取り組むべき方策」を抽出してご紹介したいと思います。


1 学生の質の担保

(1)大学は入学者の基礎的な学力を確保する

大学教育の質を確保し、高校生の学習意欲の低下を防ぐ観点から、一部の大学が推薦・AO入試に名を借りたり、極端な少数科目入試により、学力不問で多数の学生を受け入れる現状を早急に是正する必要がある。大学は以下のような対応策を講じる必要がある。
  • 入学者選抜において、大学入学後に必要となる学力を備えていることを確保する。このため、一般入試にあっては、個別学力検査の実施や大学入試センター試験の活用において、入学後の学修に必要な教科・科目について確実に学力検査を行うとともに、推薦・AO入試にあっては、これらを単なる学生確保の手段として用いることなく、本来の趣旨に沿って実施する。 
  • 推薦、AO、一般入試等の区分毎に、入学定員及び実際の入学者数を毎年、保護者・志願者を含め広く公開する。 

(2)大学は卒業生の質に責任を持つ

大学には、研究拠点としての役割のほか、卒業後に社会が求める人材を育成する場としての役割が期待されている。大学は、教育サービスの充実により、付加価値のある人材を送り出さなければならない。

GPA制度の運用、単位・進級・卒業認定の厳格化、FD等の取組を徹底し、学生を鍛錬し、体得した知を使いこなせるようにする。その際、以下のような能力の向上に留意する。
  • 課題解決力、コミュニケーション能力、自らの考えを的確に纏め、表現する能力の向上(グループ研究、プロジェクト・ベイスト・ラーニング、卒業論文の必修化など) 
  • 英語力の体得(英会話の必修化、TOEIC・TOEFL等の到達目標の設定など) 

2 大学教育に対する外部チェックの厳格化

(1)設置認可段階での質の担保を図る(略)

(2)大学の質に関する第三者評価の在り方を見直す

質の担保の努力を怠る大学が淘汰されるよう、事後チェックとしての第三者評価制度も有効に機能しなくてはならない。そのため、大学関係者は、以下のような観点から、現在の認証評価制度の見直しや改善も含め、第三者評価の在り方について検討を行う。
  • 第三者評価は、被評価大学(学部、大学院)の分野毎の教育、研究水準の比較を可能にするため、評価指標を明確化し、数値化された評価結果を用いるなど、分かり易く公正かつ客観的なものとする。 
  • 結果は広く国民に公開され、大学志願者も容易にその情報を入手し得るよう、提供の仕方に工夫を凝らす。 

3 大学財政が私費負担に依存せざるを得ない構造を転換する

大学財政を支える費用負担の方法としては、公費負担と私費負担とがあるが、我が国の高等教育は、主要各国と比較しても、授業料等の私費負担に依存する割合が高いため、以下のような弊害が生じている。

  • 経営安定のために学生確保が優先される結果として、学生及び教育の質の低下を招いている。
  • 私費負担が重いため、大学教育に相応しい意欲や能力を有しながら、経済的理由によって高等教育を受ける機会が失われている。

今後も、私費負担に依存した構造を続けた場合、将来にわたって、大学の質の低落を招く恐れがある。今後、大学財政の公私負担割合の在り方について抜本的な検討をし、私費負担の軽減を図り、公的支援を大幅に強化することが必要である。

しかしながら、質の担保をなおざりにしたまま、高等教育の量的拡大に応じて公的支援を増額することについて、納税者の賛同を得ることはできず、質の担保に努力しない大学は淘汰されることも止むを得ない。知識基盤社会を支える社会インフラとして、良質の大学教育を提供できて初めて、公的負担への理解を得ることができる。したがって、公的支援の拡充にあたっては、大学の質の担保が前提であり、「選択と集中」により、納税者の支持を得られると評価される大学に公費を投入することが適切である。

これを通じて公的支援を受ける大学は、安易な学生確保に走らず、質の確保が可能となるとともに、授業料を低い水準に抑制することが可能となるため、意欲と能力を有しながら経済的理由から大学進学を諦めていた学生や社会人にも、良質な高等教育の門を開くことが可能になる。


以上の考え方に立って、今後、次のような点について検討することが必要である。
  • 国立大学法人運営費交付金、私学助成金、各種GPなどの公的支援の配分にあたっては、大学教育の質の担保・向上に向けた取組を厳正に評価した上で、その評価に応じ配分の在り方を大胆に見直すことを前提に、国はこれらの公的支援を拡充する。その際、取組が不十分であり、納税者の支持を得られないと評価される大学には公費は投入しないことも選択肢として含めること

  • 国及び大学関係者は、上記の配分に活かすことのできる厳正な評価の在り方を確立すること(適正な入学者選抜による学生の質の担保、魅力ある教育カリキュラム、GPA制度の運用や単位・進級・卒業認定の厳格化、FDなどの取組、学術研究水準の向上、トップクラスの人材育成、大学入試や経営に関する基本的な情報公開の取組や、地域への貢献等の観点を含めた評価の在り方を確立すること)

  • 新しい仕組みにおいては、家庭の経済状況にかかわらず、意欲と能力のある者こそが大学教育を受けられるよう、上記の公的支援を受けることとなる大学においては、その支援に基づいて、質の担保・向上を図りつつ、私費負担を軽減し、授業料を低い水準に抑えることが実現されるようにすること


4 家計への支援により、意欲ある学生に学問への途を開く(略)

5 学術研究の担い手・教育補助者としての大学院生の貢献を正当に評価して、給付制の支援方法を拡充する(略)

6 高大連携の推進により優れた高校生の能力を伸ばす

全体として大学が大衆化する中で、能力の高い人材を養成・確保することも、知識基盤社会の構築と、我が国の国際競争力向上のための重要な課題である。このため大学は、以下のように、優れた資質を有する高校生の能力を高める学習機会を提供するなど高大連携を推進する。
  • 大学は、高校生を対象に大学レベルの講座を開講し、その学修成果に応じて、大学入学後に修得単位として認定する。世界最高水準の教育研究拠点となることを目指すトップ大学は、飛び入学の受入れ等を大学の責務として実施する。

  • 国際科学オリンピックなどで特に顕著な成績を示した高校生について、大学は、高等教育に足る学力水準に到達している者として、推薦・AO入試の活用等により、入学者選抜において特段の配慮を行う。

2009年2月5日木曜日

国立大学の組織等の見直しに関する視点

国立大学法人の第1期中期目標期間の終了(平成21年度)を間近に控え、文部科学省が、国立大学法人法第35条において準用する独立行政法人通則法第35条*1に基づく国立大学法人の組織及び業務の全般にわたる見直しに関する検討を開始したことは、既にこの日記「国立大学の組織等の見直し議論がスタート」においてご紹介しました。

本日、文部科学省から、国立大学法人評価委員会における専門的観点からの議論を踏まえた「見直しの視点」なるものが、各法人あて通知されましたので、その内容をご紹介したいと思います。

この通知、よく眺めてみますと、これまでの年度評価、中期評価における評価の視点や、これらの評価を通じて文部科学省が第2期に力を入れたい内容で構成されているような気がします。

中期目標期間の評価結果については、既に各法人への資源(運営費交付金)配分に反映させることが決まっていますが、未だ詳細は公表されていません。今回の評価結果に基づく組織等の見直しが、各法人の業務運営にどのように反映されることになるのかについても今後の文部科学省における検討状況を注視しておく必要があります。今後文部科学省では、この「視点」を踏まえた組織や業務等の見直しの内容を作成し、本年6月を目途に各法人に示す予定のようです。


国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点

文部科学大臣が第1期中期目標期間終了時に行う組織・業務全般の見直しに盛り込むことが必要と考えられる内容のうち、主として現在各国立大学法人が行っている第2期中期目標・中期計画の素案の検討に資するものとしては、以下の視点を挙げることができるのではないか。

1 見直しの基本的な方向性
  • 国立大学は、第1期中期目標期間において、我が国の学術研究と研究者養成の中核を担うとともに、全国的に均衡のとれた配置により、地域の教育、文化、産業の基盤を支え、学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するなど、重要な役割を果たしてきた。第2期中期目標期間においては、さらにこの役割を十分に果たしていくとともに、第1期において必ずしも国民の期待に応えられていない点は改善していく観点から、第2期中期目標期間を迎えるこの機会にしっかりと組織及び業務を見直すことが必要である。

  • その際、個々の国立大学法人を見ると、規模、特性、状況等は千差万別であり、国民が各法人に期待する役割等も同じではないことから、第2期中期目標期間は、大学の機能別分化を進めるため、各法人の目指す方向性が明らかになるよう、各法人の特性を踏まえた一層の個性化が明確となる中期目標・中期計画とすることが必要である。

  • また、世界の様々な状況が大きく変わる中、国立大学法人をとりまく状況も変化し、新たな課題が生じている。このような課題にも留意した中期目標・中期計画とすることが必要である。

  • さらに、我が国の人口が初めて減少局面を迎え、各種の社会システムの見直しが求められ、中央教育審議会において我が国の大学全体の量的規模の在り方について検討が行われている。また、地方分権についての議論や独立行政法人の見直しも進められている。国立大学法人の組織及び業務全般の見直しが全体として、このような状況を踏まえたものとすることが求められる。

2 組織の見直しに関する視点
  • 大学院の博士(後期)課程においては、法人のミッションに照らした役割や国立大学の機能別分化の促進の観点、又は学生収容定員の未充足状況の観点等を総合的に勘案しつつ、大学院教育の質の維持・確保の観点から、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 法科大学院においては、入学者選抜における競争性の確保が困難で、修了者の多くが司法試験に合格していない状況がみられる場合等は、法科大学院教育の質の向上の観点から、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 教員養成系学部においては、教員採用数の動向等も踏まえ、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • その他の学部・研究科等においても、当該分野に係る人材の需給見通し等を勘案しつつ、必要に応じ、入学定員や組織等の見直しが必要ではないか。

  • 附置研究所においては、大学評価・学位授与機構の現況分析の結果等を踏まえ、当該研究所の設置目的や特色ある研究の達成、COE性の発揮に加えて、共同利用・共同研究機能の向上等の観点を総合的に勘案しつつ、研究の質の向上に向けた研究体制等の見直しが必要ではないか。

  • 分野を融合した学際的な学部・研究科等の組織に関しては、当該組織の理念が達成されているか、社会の要請や時代の変化に対応した教育研究が行われているか等の検証を行い、各法人の実態に応じ、組織等の見直しが必要ではないか。

  • 学内の様々な体制整備に際しては、必要に応じ、既存の組織の見直しも併せて進め、責任ある教育研究体制の維持・形成に努めるべきではないか。

3 業務全般の見直しに関する視点

(1)教育研究等の質の向上
  • 教育研究の内容に関しては、各法人が大学評価・学位授与機構による教育研究組織ごとの現況分析等の結果を十分踏まえ、自主的に見直しを行うことが必要ではないか。

  • 教養教育について、その内容や実施体制を含めた改善の観点が必要ではないか。

  • 国立大学法人等の公的な役割に鑑み、各地域における知の拠点として、社会貢献や地域貢献を一層果たしていく観点が必要ではないか。

  • 高等教育のグローバル化を受け、国際化を一層推進する観点が必要ではないか。

  • 教育研究資源を有効活用し、質の高い教育研究を行う観点から、教育課程の共同実施を図ることが必要ではないか。

  • 教員の採用や配置に当たり、女性、外国人、若手等の比率を考慮した教員構成を多様化することや、女性等の能力の一層の活用に努めることが必要ではないか。

  • 経済的に困窮している学生等に対する支援の充実や、雇用情勢への対応を含めた就職支援の取組など学生支援機能の強化を行う必要があるのではないか。

  • 附属病院は、社会の要請に応えられる優れた医療人を養成する教育研究機関であるとの基本的認識を踏まえつつ、卒前教育と卒後教育の一体的な魅力ある教育プログラムの構築や地域との連携を推進すること等により、特色ある病院運営の強化を図ることが必要ではないか。

  • 附属学校は、学部・研究科等における教育に関する研究に組織的に協力することや、教育実習の実施への協力を行う等を通じて、附属学校の本来の設置趣旨に基づいた活動を推進することにより、その存在意義を明確にしていくことが必要ではないか。

  • 全国共同利用機能を持つ附置研究所は、大学評価・学位授与機構の現況分析の結果等を踏まえて、共同利用・共同研究機能の向上に向けて業務を見直すことが必要ではないか。

(2)業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善、その他業務運営
  • 法人本部が各部局等を含めた法人全体をマネジメントできるような仕組みとするよう、法人内部のガバナンスの在り方を検討することが必要ではないか。

  • 法人の特性を踏まえつつ、学長等の裁量による経費や人員等の配分など、学長のリーダーシップが図れる取組みを進めることが必要ではないか。

  • 法人の運営改善に資するよう、経営協議会の運用の工夫改善等により、学外者の意見の一層の活用を図ることが必要ではないか。

  • 監事監査や内部監査等の監査結果を運営改善に反映するサイクルの構築を図ることが必要ではないか。

  • 外部資金の獲得や多様な資金調達による自己収入の増加、管理的経費の一層の抑制等、財務に関する各法人のさらなる努力が必要ではないか。

  • 資産を有効活用するため、農場、演習林、船舶等について、他の大学等との共同利用の推進を図ることが必要ではないか。

  • 効率的な法人運営を行うため、他の大学との事務の共同実施の推進や、アウトソーシングの推進を図ることが必要ではないか。

  • 既存施設の有効活用、施設の計画的な維持管理の着実な実施等の施設マネジメントの一層の推進を図ることが必要ではないか。

  • 国立大学法人には多額の公的な資金が投入されていること、成果等が社会に還元されるべきものであることを十分認識し、各法人の実情や果たしている機能等を国民に分かりやすい形で示すように情報提供することが必要ではないか。

  • 経営協議会は審議すべき事項が法定されていることから、報告事項として扱うことのないようにする等、法令遵守(コンプライアンス)体制を確保する観点が必要ではないか。

*1:第35条:主務大臣(※文部科学大臣)は、独立行政法人(※国立大学法人)の中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人(※国立大学法人)の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずるものとする。

2009年2月3日火曜日

研究開発力の強化

少し古い話になりますが、昨年6月に、国による資源配分から研究成果の展開に至るまでの研究開発システム改革を行うことにより、公的研究機関、大学、民間も含めた我が国全体の研究開発力を強化し、イノベーショの創出を図り、日本の競争力を強化することを目的として、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」というとてつもなく長い名前の法律(略称:研究開発力強化法)が成立しました。また、成立に合わせ、研究交流促進法及びその施行令・施行規則が廃止されました。

今日は、この法律に書かれた、国立大学法人関係の主な事項についてご紹介したいと思います。


1 国立大学法人等の責務等(第6条第1項関係)

研究開発力強化法の基本理念にのっとり、研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進に努める。

2 若年研究者等の能力の活用(第12条第2項関係)

研究開発等の推進における若年研究者等の能力の活用を図るよう努める。

3 卓越した研究者等の確保(第13条第2項関係)

海外の地域における卓越した研究者等の処遇等を勘案し、必要に応じて、卓越した研究者等の給与について他の職員の給与水準に比較して必要な優遇措置を講ずること等により、卓越した研究者等の確保に努める。

4 人事交流の促進(第15条第2項関係)

必要に応じて、研究者等が事業者とともにその研究開発の成果の実用化を行うための休暇制度を導入すること、研究開発法人と国立大学法人等との間で転職をしている研究者等の退職金の算定の基礎となる在職期間についてそれぞれの法人における在職期間を通算すること、その研究者等に退職金の金額に相当する金額を分割してあらかじめ毎年又は毎月給付すること等の措置を検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずること等により、研究開発等に係る人事交流の促進に努める。

5 人材の活用等に関する基盤強化(第24条第5項関係)

研究者等の自主性の尊重その他の大学等における研究の特性に配慮しつつ、必要に応じて、研究開発法人の人材の活用等に係る研究開発等の推進のための基盤の強化に準じ、その人材の活用等に係る研究開発等の推進のための基盤の強化を図るよう努める。

6 会計制度の適切な活用等(第29条第1項関係)

研究開発等に係る経費を翌年度に繰り越して使用することその他の会計の制度の適切な活用を図るとともに、その経理事務の合理化を図るよう努める。

7 事業者等からの資金の受入れの促進等(第31条第2項関係)

事業者等の資金による研究開発等が、国の資金による研究開発等とあいまって、研究開発能力の強化に資するものとなるよう配慮しつつ、事業者等からの資金の受入れ及び事業者等からの資金により行われる研究開発等の推進に努める。

8 研究開発等の適切な評価(第34条第2項関係)

研究者等の事務負担が過重なものとならないよう配慮しつつ、研究開発等及び研究者等の研究開発能力等の適切な評価を行うよう努める。

9 研究開発施設等の共用及び知的基盤の供用の促進(第35条第2項関係)

保有する研究開発施設等及び知的基盤のうち研究者等の利用に供するものについて、可能な限り、広く研究者等の利用に供するよう努める。

10 特許関連情報の活用促進(第40条第3項関係)

研究開発等の効率的推進を図るため、研究開発において特許に関する情報の活用に努める。

11 研究開発成果の国外流出の防止(第41条第2項関係)

研究開発の成果について、我が国の国際競争力の維持に支障を及ぼすこととなる国外流出の防止に努める。

12 国際標準への適切な対応(第42条第2項関係)

必要に応じ、国際標準に関する専門的知識を有する人材の確保及び育成、研究開発の成果に係る仕様等を国際標準にすること、研究開発等の推進における国際標準の積極的な活用その他の国際標準への適切な対応に努める。

13 未利用成果の積極的な活用(第43条第2項関係)

未利用成果の積極的な活用に努める。

14 中小企業者等の革新的な研究開発の促進等(第44条第2項関係)

役務の給付又は物件の納入に対し対価の支払いをすべき契約の締結に当たっては、予算の適正な使用に留意しつつ、革新的な研究開発を行う中小企業者の受注の機会の増大を図るよう努める。


また、研究開発等の業務を行う法人においては、研究開発力強化法第24条第1項に基づき、内閣総理大臣の定める基準に即して、研究開発等の推進のための基盤の強化のうち、「人材の活用等に係るものに関する方針」(人材活用等に関する方針)を作成することとされています。

内閣総理大臣の定める基準

1 研究開発等の推進における若年研究者等の能力の活用に関する事項
  1. 当該研究開発法人の研究者等の総数に占める若年者(概ね37歳以下の者をいう。以下同じ。)、女性や外国人の割合の向上などについて、数値目標など具体的な目標を設定するなど具体的な計画を示すこと。

  2. テニュア・トラック制の導入、ポストドクター支援、国内外での研究機会の拡大、研究集会への参加の促進など、若年者である研究者等の自立と活躍の機会を与える仕組みの導入について具体的な計画を示すこと。

  3. 育児期間中の勤務時間の短縮、保育施設の整備、出産・育児を考慮した業績評価等の研究と出産・育児等を両立するための支援及び意識改革など、女性である研究者等の能力の活用のための取組について具体的な計画を示すこと。

  4. 外国人が応募しやすい環境の整備や外国人である研究者等の組織的な受入体制の構築など、外国人である研究者等の能力の活用のための取組について具体的な計画を示すこと。

  5. その他研究開発等の推進における若年研究者等の能力の活用に関する事項について具体的な計画を示すこと。

2 卓越した研究者等の確保に関する事項
  1. 卓越した研究者等の給与について他の職員の給与水準に比較して必要な優遇措置を講ずる等、卓越した研究者等の確保のために努める事項について具体的な計画を示すこと。

  2. 能力及び実績に応じた処遇を徹底するとともに、優れた研究開発等を行った研究者等に対する公正な評価を行い、その努力に積極的に報いるための措置について具体的な計画を示すこと。

  3. 事務スタッフ機能の充実、スタートアップ資金の提供、研究室等の施設・設備環境の整備など卓越した研究者等が、国際的かつ競争的な環境の下で研究に専念できるような環境の整備について具体的な計画を示すこと。

  4. その他卓越した研究者等の確保に関する事項について具体的な計画を示すこと。

3 研究開発等に係る人事交流の促進に関する事項
  1. 任期制の適用範囲の拡大や実施方法の改善(再任可能な任期制や、適性や資質・能力の審査を定期的に行う再審制などを含む。)等任期制の広範な定着に向けて、数値目標など具体的な目標を設定するなど具体的な計画を示すこと。

  2. 研究者等が事業者と共に研究開発の成果の実用化を行うための休暇制度を導入することなど産学官の間での人材の流動性を高めるための環境整備について具体的な計画を示すこと。

  3. 研究者等が研究開発法人と国立大学法人等との間で転職をしている場合における退職金の算定の基礎となる在職期間についてそれぞれの機関における在職期間を通算する、研究者等に退職金の金額に相当する金額を分割してあらかじめ毎年又は毎月給付するなど人材の流動性を高めるための環境整備について具体的な計画を示すこと。

  4. その他研究開発等に係る人事交流の促進に関する事項について具体的な計画を示すこと。

4 その他研究開発等の推進のための基盤の強化のうち人材の活用等に係るものに関する重要事項

2009年2月2日月曜日

大学間連携の歩み

近時、大学間の連携に関する話題が報道でも盛んに取り上げられるようになりました。ちなみに、いわゆる「将来像答申」や「骨太方針2007」等を踏まえ、地域の国公私立大学・短期大学が連携して教育研究資源を最大限に活用し、地域の活性化、多様で特色ある教育研究を推進するための仕組みである「共同学部・共同大学院制度」については、既に この日記でもご紹介したところです。

大学が有する人的、知的資源の交流を大学同士が自主的・主体的に連携し進めていくことは、相互の教育、研究、社会貢献活動、引いては我が国の高等教育、さらには国際競争力の強化に大きく寄与することになるでしょう。今日は、「IDE・現代の高等教育」(No508 2009年2-3月号)の特集「大学間連携」の中から、文部科学省高等教育局大学振興課が作成した「資料 大学間連携の歩み」を要約し、最近の大学間連携に関する動向について見てみることにしましょう。

1 大学間連携の経緯

大学間連携*1の取組は、それ自体新しいものではないが、昨今各大学において自発的かつ活発にその取組が進められている。

昭和46年

中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策についての答申」において、「高等教育機関の間で連携組織を作り、履修単位の相互承認を行うようにすることが必要である。」と提言。

昭和47年

提言を踏まえ、大学間の連携と交流や留学の促進を目指し、大学設置基準の一部改正が行われ、「単位互換制度」が導入。学生が国内の他の大学または国外の他の大学において授業を受け、単位を修得したものについて、当該学生が所属する大学が、30単位分まで当該学修成果を自らの大学の単位とみなしで単位認定できることとなった。

昭和49年

大学院設置基準の一部改正が行われ、いわゆる「連携大学院」の仕組みができ、教育上有益と認められる時は、博士課程の学生が他の大学院または研究所等において必要な研究指導を受けることを認めることができることとなった。

昭和57年

大学設置基準及び短期大学設置基準の一部改正が行われ、単位互換制度の拡大が行われた。具体的には、既存の単位互換制度が大学間における仕組みであったが、この制度改正により、大学が、教育上有益と認める時は、当該大学の学生が短期大学において授業を受け、単位を修得したものについて、30単位分まで当該学修成果を自らの大学の単位とみなして単位認定できるようにした。また、この制度改正以前は、短期大学においては単位互換の制度がなかったが、この時の制度改正により、短期大学間においても単位互換ができるようになるとともに、大学における学修成果について、短期大学の単位に換算できることとなった。

昭和61年

臨時教育審議会第二次答申において、高等教育機関の多様化と連携の一環として、「単位累積加算制度の導入を検討し、専修学校、教育訓練機関等一部の学校について、大学との単位互換、累積加算制度への参加の道を開くとともに、学位授与機関の創設について検討する。」と提言。提言を踏まえ、大学以外に学位授与ができる機関として、平成3年に国立学校設置法及び学校教育法の一部が改正され、「学位授与機構」が創設。

昭和63年

国立学校設置法施行規則の一部改正を行い、それまで実態上の仕組みであった「連合大学院制度」が、法令上、制度化。複数の大学が協力して教育研究を行う研究科を置くことができることとなり、当該研究科の教員は教育研究上支障を生じない場合は、当該研究科における教育研究を協力して実施する大学の教員が兼ねることができることとなった。また、国立学校設置法の一部が改正され、先導的分野の開拓や共同研究の推進の中心的役割を課している国立大学共同利用機関の優れた研究機能を活用して大学院教育を行うため、総合研究大学院大学が設置。

平成元年

大学院設置基準の一部改正が行われ、いわゆる連携大学院制度の拡大が行われた。これにより、それまで博士課程の学生に限られていた連携大学院制度について、教育研究の充実・多様化に資するため、大学が、教育上有益と認める時には、博士課程に限らず修士課程の学生に対しても、他の大学院または研究所等において必要な研究指導を受けることを認めることができることとなった。

平成10年

大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において、「単位互換及び大学以外の教育施設等における学修について単位認定できる単位数の上限については、現在の入学前と入学後それぞれについて30単位とされている取扱いを改め、今後は、入学前、入学後に関わらず合わせて60単位に拡大するよう大学設置基準を改正することが必要である。また、大学以外の教育施設等における学修を自大学の単位として見なしうる範囲をより拡大することが必要である。」と提言。

平成11年

大学審議会答申の提言を踏まえ、大学設置基準、大学院設置基準及び短期大学設置基準の一部改正が行われ、学生の主体的学習意欲及びその学修成果を積極的に評価し、学生の選択の幅を広げ、大学間のより一層の連携・交流を促す観点から、単位互換制度の更なる拡大が行われた。具体的には、大学が、当該大学の学生が行う他の大学または短期大学における履修及び大学以外の教育施設等における学修について単位認定できる単位数の上限について、入学前と入学後それぞれについて30単位を超えない範囲内とされていた従来の取扱いを改め、入学前または入学後に関わらず、あわせて60単位を超えない範囲内とした。なお、同様の改正が、大学院(10単位を超えない範囲内)及び短期大学、(15単位を超えない範囲内/修業年限が3年の短期大学にあっては、23単位を超えない範囲内)においても行われることとなった。

平成13年

大学設置基準の一部改正が行われ、大学等が、当該大学等に所属する学生が外国の大学または短期大学が行う通信教育による授業をわが国において履修することにより修得した単位を、60単位を上限に当該大学において修得したものと見なすことができることとなった。

平成15年

国立大学の法人化の動向に伴い、それまで国立学校設置法施行規則において規定されていた「連合大学院」の仕組みについて、国公私にまたがる仕組みとして制度改正。具体的には、大学院設置基準の一部が改正され、複数の大学が協力して教育研究を行う研究科を置くことができることとし、当該研究科の教員は、教育研究上支障が生じない場合は、当該研究科における教育研究を協力して実施する大学の教員が兼ねることができることとなった。

平成16年

学校教育法施行規則等の一部改正が行われ、学習機会の国際化及び我が国の大学の国際展開の観点から、いわゆる外国大学日本校のうち当該外国の学校教育制度において当該外国大学の一部と位置づけられるものについて、外国大学に準じて取り扱うこととなった。この制度改正によって、大学が、当該大学に所属する学生が海外大学日本校で文部科学大臣が別に指定するものとの間で行う単位互換について、同改正以前にはできなかったものが可能となるようになった。

平成17年

学校教育法施行規則等の一部改正が行われ、大学が、当該大学に所属する学生が外国の大学または短期大学の教育課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置づけられた教育施設であって、文部科学大臣が別に指定するもの(例:海外の大学等の日本校)の当該教育課程における授業科目をわが国において履修し修得した単位についても、教育上有益と認める場合は、当該大学の定めるところにより、60単位を超えない範囲で当該大学における授業科目の履修により修得したものと見なすことができることとなった。

2 大学間連携の課題と対応等

以上のように、これまでの大学間連携については、
  1. 連合大学院制度や単位互換制度等のように大学間連携を行っても、最終的には1つの大学名での学位授与となることから、大学間連携の一層の進展のためには、制度面の対応として、各大学が対等な立場で連携し、責任の所在が明らかになるような組織体制や学位授与の仕組みが必要となっていたこと

  2. 既存の大学間連携や大学コンソーシアムの場合、財政的な基盤の脆弱さがあり、その機能が限定的であったり、必ずしも各大学の教育研究資源の有効活用が十分とは言えない状況であったことから、予算面での対応として、大学間が連携する取組を支援し、有機的な大学間連携を推進する必要があったこと などの課題があった。
このため、こうした課題の解決に向けて、中央教育審議会をはじめとして大学間連携に関連した幾つかの提言がなされている。

平成17年

中央教育審議会答申「わが国の高等教育の将来像」において、「地方における高等教育の支援や地方振興に資するため、高等教育機関相互のコンソーシアム(共同事業体)形成支援や高等教育機関を核とした知的クラスターの形成支援を充実することも重要」であることについて提言されるとともに、「設置形態の枠組みを超えた高等教育機関間の連携協力による教育・研究・社会貢献機能の充実・強化を一層促進する必要がある」ことが提言。

平成19年6月

教育再生会議第二次報告「社会総がかりで教育再生を」において、「地域の人材育成や地域経済の活性化のため、国公私を通じた地方における大学地域コンソーシアム(特定の事業を目的として、大学間または複数の大学と地域等で構成される連携組織)を形成することを支援する」ことについて提言されるとともに、「国公私を通じ複数の大学が大学院研究科等を共同設置できる仕組みを創設する」ことが提言。また、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月閣議決定)において、「国公私を通じた地方における大学地域コンソーシアムの形成を支援するための措置を平成20年度から講ずる」ことについて提言されるとともに、「国公私を通じ、複数の大学が大学院研究科等を共同で設置できる仕組みを平成20年度中に創設することを目指す」ことが提言。


中央教育審議会答申等におけるこうした提言を踏まえ、文部科学省では、以下のような制度面での対応と予算面での対応を行っている。
  1. 制度面の対応として、文部科学省では、平成20年11月に大学設置基準等の一部を改正し、複数の大学がそれぞれ優位な教育研究資源を結集して共同で1つの共同教育課程を実施し、魅力ある教育研究・人材育成を実現する大学間連携の仕組みを整備。これは、経済・社会のグローバル化の中、大学が「知の拠点」として各地域の活性化への貢献とともに、国際的な大学間競争の中で新たな学際的・先端的領域への先導的な対応ができるように促すことを目指したもの。

  2. 予算面の対応として、平成20年度予算において、新規事業として「戦略的大学連携支援事業」(30億円)を立ち上げ、全国の各地域において多様で特色ある大学間の戦略的な連携の取組を促進。この事業は、平成20年度において54件採択(94件申請)し、今後3年間継続して支援。これにより、複数の大学の連携・協同による教育の質保証や大学と地域が一体となった人材養成等を通じて、各大学の個性化や機能別分化を推進。また、本事業は、平成21年度政府予算案において、「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に名称を変更し、30億円増の60億円を計上。

さらに、大学の任意の大学間連携の動きとして、複数の大学間の連合体組織である「大学コンソーシアム」が形成されつつあり、平成20年7月現在で全国に40団体が存在。そのうち、2団体(社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩及び財団法人大学コンソーシアム京都)については、法人化されている。コンソーシアムの具体的な活動内容は、その規模や趣旨等に応じて様々であるが、例えば、コンソーシアムを構成している大学間での単位互換、教員・学生問交流、インターンシップの共同実施、FD・SDの共同実施、共同で地域社会への生涯学習プログラムの提供、高校生等に対するオープンカレッジの共同実施又はeラーニング等の取組が行われている。


*1:「大学間連携」は多義的ですが、ここでは、単位互換や連合大学院などのように「複数の大学間等が協力して教育研究活動を行う取組」として整理されています。