2009年3月20日金曜日

政治家の金銭感覚

世界経済が低混迷する中、また、国内においては、様々な制度疲労に起因する国民生活の厳しい現実が連日のように報道されている中、政治家は目前に迫った選挙をあらゆる思考の中心に据え、守るべき相手を国民ではなく自分自身として行動しています。

今日食べるものもない、寝る場所もない多くの職のない人々、独力では生きていくことのできない老人や病人、そういった人達を介護しなければならないために職を失ったり、殺人を犯さざるを得ない状況に追い込まれる人々、こういった弱者を一人でも多く救い、生きる希望や術を提供することが政治家や官僚の義務であり、優越した権力や安定した賃金を付与されている所以なのではないでしょうか。

このような観点、つまり苦しい日々を何とかしのいで懸命に生きている人々の目線で次のような記事を目にした時、あなたは、どのようにお感じになりますか? このお金の使い方によっては・・・。


首相外遊、5回で6億6千万円(2009年3月10日 産経新聞)

政府は10日の閣議で、麻生太郎首相が昨年9月の就任直後に国連総会出席のためニューヨーク入りした訪米から今年1月の訪韓(日韓首脳会談)まで計5回の外国訪問で、約6億5800万円の経費がかかったとする答弁書を決定した。最高額を計上したのは昨年11月のペルー(アジア太平洋経済協力会議)で約2億2200万円。1月下旬のスイス(ダボス会議)、2月のロシア・サハリン(日ロ首脳会談)、ワシントン(日米首脳会談)の3訪問は「まだ精算が終了していない」としている。民主党の喜納昌吉参院議員の質問主意書に対する答弁。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090310/plc0903101726006-n1.htm

2009年3月17日火曜日

日本研究とアフガン支援と亭主関白

数多くのニュースを見たり聞いたりする毎日ですが、心温まるニュースは意外と少ないものです。この日記では、時折、目についた明るい話題をご提供しようと以前から「ためになる話・いい話」のカテゴリーを設けています。

今回は、最近の話題として3つほどご紹介します。相互の関係は全くない話ですが・・・。


日本研究のかげり(2009年3月6日 朝日新聞論説委員室から)

海外での日本研究が予想以上のスピードで退潮しつつある。

国際日本文化研究センター所長の猪木武徳氏が、隔月刊誌、「をちこち」(国際交流基金刊)の特集でそう嘆いている。

米国人の優れた日本史学者が米東部の有名大学から任用を拒まれた。独ヘッセン州ではマールブルク大学日本研究所の閉鎖が決まった。日本研究がかつてほど重要とされなくなっているらしい。

こうした例は、おそらく氷山の一角なのだろう。欧米では、日本研究の拠点を中国を加えた東アジアの研究施設に再編する動きが進んでいるという。

ただその一方、個別の研究をみると、日本人以上に日本をよく知る外国人研究者が次々と生まれている。

やくざの親分と知り合い、裏社会の実相を見たイスラエル人学者。全国のジャズ喫茶店主を訪ねて異文化との出会いについて対話を重ねた米国人学者。「をちこち」にその活動が紹介されている。

徳之島の闘牛、奥飛騨の獅子舞、講談などの話芸と、テーマの多彩さには目を見張る。かっこいい「クール・ジャパン」発見の試みも目立つ。

こうした若手の日本研究者の活動を支えようと、日本財団は、オックスフォードなど英国の12の大学に資金を出し、日本研究の講師ポストを設けた。

「将来の日本研究の水準を下げてはならないと思い、決断した」と田南立也常務理事。不況で苦しいのはわかるが、政府や企業も続いてほしい。



アフガン神学校建設に寄付 伊藤さんの両親が基金から(2009年3月10日 共同通信)

アフガニスタンで昨年8月に殺害された非政府組織(NGO)「ペシャワール会」(福岡市)の農業支援スタッフ伊藤和也さんの両親が10日、アフガン復興に役立てるため設立した基金の中から、同国東部に建設中のマドラサ(イスラム神学校)の備品購入費約200万円を同会に寄付した。

静岡県掛川市に住む伊藤さんの父正之さん(61)と母順子さん(56)は福岡市を訪れ、伊藤さんの活動を紹介する写真展の開幕式典に出席後、寄付金を贈呈。正之さんは「全国の皆さんから温かい支援をもらった。現地で子どもたちのために大切に使ってほしい」と話した。ペシャワール会は黒板や机などの購入に充てるという。

同会は約600人の学童が教育を受けるマドラサを3月末に完成予定。福元満治事務局長は「マドラサはイスラム過激派の養成所という誤解もあるが、通常の初等教育や孤児の養護施設の役割を担い、現地に欠かせない施設だ」と話している。



亭主関白(2009年3月11日 朝日新聞論説委員室から)

福岡市の全国亭主関白協会(全亭協)が設立10周年を迎える。ここでいう「関白」は、家庭内の天皇である妻を補佐する地位をさす。「いかにうまく妻の尻に敷かれるか」を日々研究している。

作家でタウン誌プロデューサーの天野周一会長(56)は一「風呂・めし・寝る」の3語に象徴される典型的な旧来型の亭主関白だった。99年に友人、知人4人が立て続けに妻に三行半をたたきつけらた。その話を何げなく妻にすると、「次はあなたの番よ」と矢が飛んできた。

それを機に、旧来型に決別した。しゃれ半分で始めた全亭協の会員は当初11人。団塊世代が定年を迎え、熟年離婚が社会問題化したのを契機に急増した。いまや40、50代を中心に17力国の約7千人にまで膨らんだ。昨年暮れには「世界亭主サミット」が東京で開かれた。

全亭協が提唱する夫婦円満の極意の一つは「愛の三原則」。ありがとうをためらわずに言おう。ごめんなさいを恐れずに言おう。愛してるを照れずに言おう。

「実行すれば、晩酌の発泡酒が普通のビールに変わるなど次々に奇跡が起きる」と天野会長は笑顔で語る。

もう一つの極意が「非勝三原則」。夫婦げんかの際に「勝たない、勝てない、勝ちたくない」。妻は絶対に謝らず、反論すれば、昔のことを蒸し返される。亭主が負けるのが鉄則だそうだ。

封建的な体質で知られた九州男児にしてこれである。世の旧亭主関白も観念する潮時なのだろうか。

2009年3月14日土曜日

急がれる介護者ケア

老齢化社会が進む中、不治の病である認知症と闘っている方々も増加の一途をたどっています。

認知症と診断された方々はもとより、介護する方々も日々大変なご苦労をされています。私自身、認知症の家族を持つ一人として、少しでも介護する方々のお役に立てることができればと考え、この日記を通じて時折目についた認知症や介護に関する情報の提供をさせていただくことにしました。この日記の趣旨には合いませんが、社会保障、医療、介護、福祉の課題としてお読みいただければ幸いです。


アルツハイマーには漢方!・・・阪大の研究で効果分かる(2009年3月3日 読売新聞)

幻覚や妄想などアルツハイマー病の周辺症状にも処方される漢方薬「抑肝散(よくかんさん)」に、症状の原因と考えられる脳の神経細胞死を抑える効果があることが、大阪大の遠山正彌教授、松崎伸介助教らの研究でわかった。

漢方薬の効能の仕組みに迫る成果として注目される。

松崎助教らが着目したのは、細胞内のたんぱく質の形を整える小胞体にある遺伝子で、遺伝性のアルツハイマー病患者に変異が多いプレセニリン1(PS1)。PS1が変異した小胞体は、神経伝達に重要なカルシウムの濃度変化に対応できず機能が低下、不完全なたんぱく質が蓄積して細胞死が起きる。

実験では、PS1を変異させた実験用の神経細胞を使い、小胞体内のカルシウム濃度を変化させる薬剤を投与。約60%が死滅したが、抑肝散を加えると死滅率は約25%に減った。

抑肝散は子供の夜泣きや疳(かん)の虫などを抑えるために使われてきた漢方薬。遠山教授は「患者の多くを占める老年性アルツハイマー病も小胞体の機能低下が関係しており、今回の結果と同様の仕組みで周辺症状を抑えている可能性が高い」と話している。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090303-OYT1T01098.htm


介護殺人:保険利用も半数防げず 昨年発生分 本紙調べ(2009年3月3日 毎日新聞)

在宅介護を受ける65歳以上の高齢者が家族に殺害される「介護殺人」で、08年に起きた事件の少なくとも約半数が介護保険制度を利用しながら防げなかったことが、毎日新聞の調べで分かった。介護保険では介護される人(要介護者)の状態を判定し、サービスを自己負担1割で提供しているが、悲劇に歯止めをかけられない実態が浮かんだ。

毎日新聞が06~08年の3年間で報道した介護殺人・無理心中(未遂を除く)は計97件で、年間30件を超えるペースで起きている。介護保険制度が始まる直前の99年は21件で、約10件多くなっている。

08年の事件は32件だったが、このうち少なくとも15件が行政に自ら要介護認定を申請、うち13件がヘルパー派遣やデイサービスを利用し、介護専門職が家族にかかわっていた。2月に茨城県で77歳妻が起こした嘱託殺人事件では、週6日ヘルパーが家を訪ね、寝たきりの夫(77)を介護していたが、深夜のおむつ交換や食事を担ってきた妻がひざを痛めた際、夫に「殺してくれ」と懇願されたことから突発的な犯行に及んでいる。

3年間の合計で加害者側の内訳をみると、約7割(70件)は男性。核家族化やきょうだいの減少などで男性介護者が急増していることが背景にある。年代別では65歳以上の高齢者が加害者の4割(44件)を占めた。

一方、被害者には認知症の人が多く、3年間のデータでは少なくとも3割に当たる31件に症状があった。

◇急がれる介護者ケア

家族を介護地獄から解放しようと「介護の社会化」を掲げた介護保険制度は今年4月、10年目を迎える。だが家族の精神的、身体的、経済的負担はなお重い。制度が「要介護者=高齢者」の状態を判断してサービスを提供し、「介護者=家族」の状態把握まで行わないことも一因だ。

家庭内での高齢者虐待は年間1万件を超え、介護うつも深刻化している。背景には急速な少子高齢化で家族の介護力が一気に低下していることがある。そのスピードに施策が追いついていない。公的コストを抑制するため、行政は介護政策を施設から在宅重視へとシフトする一方、同居家族がいる人のヘルパー利用を制限している。

ケアする人のケアに取り組むNPO「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の牧野史子理事長は「介護者の心身を守らなければ、要介護者も守れない。家族に休息を義務づけるなどの制度が必要」と訴える。欧州などでは介護者支援の動きが広がっている。超高齢化の最先端を走る日本こそ、一刻も早い支援策が求められる。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090303k0000m040119000c.html


介護:孤立しがちな男性の全国ネット発足 切実な声、続々(2009年3月8日 毎日新聞)

男性介護者の“駆け込み寺”として相談や交流、政策提言にあたる初の全国組織「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」(京都市上京区、荒川不二夫代表)発足会が8日、京都市北区の立命館大であった。約150人が集まり、男性介護の現場を巡る切実な声が続々と上がった。

男性介護者とは、在宅で妻や親を介護する夫や息子ら。在宅介護者の3割を占め、女性よりも孤立しやすいとされる。発足会では事務局長の津止正敏・同大学産業社会学部教授が「介護のため職場を失い、追いつめられた末の殺人も後を絶たない。男性介護者の声を集め、身の置き所を作り、八方ふさがりの状態に風穴を開けたい」と強調した。

リレートークで「認知症を発症した妻は『なぜ私が。神様助けて』と嘆いたが、何をしていいか分からなかった。先輩男性の体験を共有する場ができてうれしい」などの声が出た。事務局(075・811・8195)。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090309k0000m040049000c.html


介護する男性に―「ケア友」をつくろう(2009年3月8日 朝日新聞社説)

土曜日、京都市内に12人の男性が集まった。61歳から96歳。それぞれ自宅で妻や親を介護している。

「夜中に何度も起きて家内をトイレに連れて行く。体がもたへん」「おむつにしてもらいなはれ。あんたが倒れたら、だれが奥さんをみるんや」

「女房は一日、黙りこくっている。会話がないのが寂しい」「ぼくは妻と花や野菜を作ってます。一緒になにかをすることが大事やと思うで」

ひとしきりしゃべると笑顔になって帰っていく。京都に本部を置く「認知症の人と家族の会」が、2カ月に1度の集いを支援している。

厚生労働省の調査では、いまや家族を介護している人の約3割が男性だ。男性介護研究会の代表をつとめる津止(つどめ)正敏・立命館大学教授は06年、介護をしている男性295人を対象に実態を調査した。平均年齢69歳。近隣とのかかわりが薄いなかで、介護の負担と炊事や裁縫などの家事に苦労している孤独な姿が浮き彫りになった。

「男性は介護を仕事のように考える傾向がある」。津止教授は心配する。律義に目標を設定して努力し、思うような結果が出ないと落ち込んだり、介護されている人を責めたりする。

07年に厚労省が行った家庭内の高齢者虐待の調査では、加害者のなかで息子の割合が41%と突出して多く、次いで夫が16%を占めた。

働き盛りの男性が仕事を失うケースもある。総務省の就業構造基本調査によると、06年10月からの1年間に介護や看病のために離職や転職をした男性は2万5600人にのぼる。

介護休暇は取りづらい。仕事を辞めて生活に困窮し、追いつめられて殺人や心中に至る悲劇も起きている。男女を問わず、介護しながら仕事をつづけられるような職場環境を整えたい。

8日、「認知症の人と家族の会」や男性介護研究会が呼びかけ、各地のグループ10ほどが京都に集まって「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」が発足する。情報交換を重ねて、いずれは政策提言などもするという。

介護する男性の集まりが地域ごとにできるといい。悩みを打ち明け、情報や経験を伝え合うだけで、どれほど励まされることだろう。まずはそんな「ケア友」をつくることだ。

行政やNPOは、場所を提供し、料理教室など家事の技術を身につける機会を設けて後押ししてほしい。

介護保険制度を見直すことも必要だ。家族が同居していれば調理や掃除などの生活援助が受けられない。しかし、高齢の夫婦の老老介護は増える一方だ。各家庭の実態に応じたきめの細かい援助が必要だ。

家族の負担を減らして社会全体で介護を支え合う。それが介護保険の原点ではなかったか。
http://www.asahi.com/paper/editorial20090308.html#Edit2


男性にとって介護は苦手、不向きのようです。

先日、「となりのかいご(NPO法人申請中)」という団体から「介護で家族を憎まないために」という冊子を購入し読んでみました。この冊子は、当該団体が2009年1月18日に開催した「介護殺人を食い止める一言を考える討論会」での、介護体験が掲載されてあります。

先日この団体から以下のようなメールが届きました。「誰もが無理なく介護が続けることができる社会の実現」を目指したこうした取り組みは、いつかは実を結び、介護で苦しんでおられる多くの方々の支えになっていくことでしょう。


さて、このたび私どもでは、男性で介護されている方へのアンケートを実施することになりました。
討論会でも男性が介護するときの難しさについて議論されました。私も、知り合いのつてで何名かの介護している(されていた)男性にお話しをうかがうことができ、介護の大変さと、その支援の必要性を強く感じました。
男性が介護する中で
  • 困ったと自分からなかなか言い出せない
  • 何でも一人で解決しようとしてしまう
  • 仕事のように一生懸命介護に取り組んでしまう
その結果、孤立してしまい一人で介護を抱え込んでしまい、長い介護生活の中で疲弊してしまう傾向があるようです。
そこで、高齢者虐待の防止活動をしている私どもとしても、男性で介護されている方の支援ができればと考え、まずは当事者の方々の声を聞こうと、アンケートを実施することにしました。
すでに知り合いの紹介などで30名前後の方へのアンケートをすることができたのですが、もっと多くの方の声を聞きたくて、皆様へのご協力をお願いしたいのです。
ご自身が男性で介護している方であればご自身でお答えください。またお知り合いで、男性で介護されている方がいらっしゃいましたら、アンケート返答のお願いをしていただければと思います。すでに、介護を終えられてらっしゃる方でもかまいません。(アンケート用紙は添付ファイルにて送信いたします・・・略)
お手数をおかけして本当に申し訳ありませんが、ぜひ皆様と一緒に、「誰もが無理なく介護が続けることができる社会の実現」ができたらと考えております。皆様の暖かいご協力お待ち申し上げております。お答えいただけたアンケートは、メール:info@roshin-kaigo.comもしくはファックス(03-6893-5874)まで送信ください。
不明な点についてもお気軽にご連絡ください。

2009年3月13日金曜日

不祥事根絶に向けた求められる姿勢

大学の不祥事に関する報道の絶える日がありません。入試ミスやハラスメントなど様々な不祥事が発生し、それぞれに発生した理由がありますが、教職員自身の責任感、緊張感の欠如もその大きな要因の一つです。有効な再発防止策を作り、それを教職員の心に刻み込む努力が求められることはもとよりですが、不祥事を起こした教職員の責任を明確にすること、つまり、社会に対してきちんと説明ができる処分を行うことも重要な防止策の一つではないでしょうか。

特に国立大学法人の場合、ややもすると不祥事を秘匿する従来からの役人体質や慣習から抜けきっていないことが未だに見受けられますし、結果として社会の常識に照らして極めて寛容すぎる対応になっている場合があるように思われます。

このたび、京都市にある龍谷大学では、学生の成績を間違えて記録した職員を停職という厳しい処分にしました。詳細な内容は承知していませんので、処分の妥当性についての言及はできませんが、国立大学法人の場合、一般的にこのような事務的なミスによって職員が、いわゆる懲戒処分を受けることはめったにありません。しかし、その甘さが、同様のミスを繰り返す緊張感のなさを誘引しているのかもしれません。怠慢によるミスと判断できるようなケースについては、大学は毅然として処分を行い大学の構成員並びに社会に対してきちんと透明性をもって説明をすべきでしょうし、その姿勢そのものが社会から信頼を得る王道なのではないでしょうか。


成績入力でミス、職員停職処分(2009年3月13日 京都新聞)

龍谷大(京都市伏見区)の法学部で、男性職員が学生4人の成績入力でミスをし、停職1カ月の懲戒処分を受けていたことが、12日に分かった。大学は成績記録を訂正し、学生に謝罪したという。大学によると、2007年前期の成績を入力する際に職員が誤り、4人の一部科目の点数について間違えて成績が記録された。職員は上司にミスを報告しなかったことから同年9月に処分を受けた。
また、今年2月、別の男性職員が電子メールで別人になりすますなどして知人のプライバシーを侵害したとして、停職1カ月の懲戒処分を受けたことも分かった。大学は被害者に謝罪した。刑事告訴はしない方針。大学は「職員の規律を徹底したい」としている。

2009年3月11日水曜日

オランダ人の見た幕末の長崎

大学図書館には、図書の閲覧や貸出しのほかにも、いくつかの重要な機能がありますが、貴重な資料や史料の収集・公開もその一つではないかと思います。特に歴史のある大学の図書館には、時代の変遷や当時の文化や風俗などをうかがい知ることのできる大変価値のあるものが多く保存されており、これらを一般に公開することによって、専門的な研究を進めるだけでなく、教養教育、生涯学習にも役立つことが期待され、各大学の積極的な取り組みが求められるところです。

幕末から明治期の激動の時代、開国の舞台の一つとなった九州・長崎にある国立大学法人長崎大学附属図書館には、貴重資料コレクションが保存されてあり、大学では所蔵しているコレクションを”電子図書館システム開発”の一環として電子化し、「長崎デジタルアーカイブズ」として公開しています。このうち特に印象深かったものを3つほどご紹介します。


1 幕末・明治期日本古写真コレクション

1860-1890年代(幕末から明治期)にかけて、上野彦馬やベアト等の写真家により日本各地で撮影された写真を収集したもので、その多くは当時の職業絵師により美しく彩色されています。時期的には、日本写真史の草創期にあたり、歴史的価値が高い資料であり、また当時の日本社会をうかがい知る貴重な史料といえます。内容は外国人居留地や観光地を中心に日本各地の風景・風俗を写した約7000点のオリジナル写真で、国内最大級のコレクションなのだそうです。



大浦川右岸の居留地建物群。丘の上のピンクの建物は東山学院。川沿いの建物の看板には「M. H. Cook, SAIL MAKER, Cooks HOTEL」と読める。この一帯には外国人のバーやホテルが立ち並んでいる。



中島川に架かる一覧橋(手前)と古町橋(奥)。橋の上に街灯が見え、人力車、シルクハットの男等が写っている。左手の寺は光永寺。中島川に架かる石橋群の二つが写されている。


2 幕末・明治期日本古写真超高精細画像データベース

上記「幕末・明治期日本古写真コレクション」には、極めて鮮明な写真が数多くあり、写真細部には、当時の都市・風景・風俗等に関する膨大な情報が埋め込まれています。

この古写真細部の情報を活用するため、コンピュータ画面上で、5倍から10倍に拡大しても鮮明に見ることができるように、 超高精細画像による「幕末・明治期古写真超高精細画像データベース」が構築され公開されています。

この画像データベースには、 長崎の写真201点、長崎を除く全国の写真300点が登載されるとともに、「地図上からの検索」や「各種条件による検索」、「全文検索」等が備えられ、 それぞれに詳細な日本語と英語の解説が付けられています。近代化しつつあった幕末から明治期の日本の姿を、鮮明な超高精細画像で見ることができます。


3 日本古写真アルバム ボードイン・コレクション

長崎大学が、長崎大学医学部の前身である養生所の第2代教頭アントニウス・ボードインの子孫から譲り受けた古写真アルバムで、去る平成20年10月3日~20日に長崎歴史文化博物館において開催された「オランダ人の見た幕末の長崎 長崎大学所蔵ボードインコレクション展」において展示されました。展示会は残念ながら既に終了していますが、代表的な古写真数点については、現在でもWeb上で見ることができます。

古写真アルバムは4冊からなり、アントニウス・ボードインが自ら撮影した写真や当時の代表的写真家が撮影した日本各地の写真が数多く含まれています。古写真を通して、オランダ人の目に映った幕末の長崎の光景と維新の息吹を感じ取り、日本の近代化とオランダとの友好関係の発展に長崎が果たした役割を再確認することができます。


左に見えるグラバー邸は文久3(1863)年に建てられた日本最古の木造洋風建築です。写真は完成後間もない邸宅の庭で椅子に座るグラバー(左)を中心にグラバー商会の関係者を撮影したものです。前後に貼られたベアト撮影の写真と同じ大きさなので、これらがベアトの作品であることが分かります。庭園の向うでは日本の職人が邸宅を拡張するために石垣の積み上げ作業を続けています。

2009年3月10日火曜日

経営人材の発掘と育成

大学経営改革の方向性について書かれた論考「大学法人の組織的特徴(構造的陥穽)と改革の方向」(日本総研主席研究員 三宅光頼氏)のうち、今回はシリーズの第4回目(最終回)として、「なぜ大学組織では、経営人材の発掘と育成が進まないのか」に視点を当ててみたいと思います。

(第1回目)大学の存在意義と自治
(第2回目)戦略とイノベーション
(第3回目)マネジメントのオープン化


1 組織の「宿命的構造」

なぜ学校法人組織では、経営側の人材の発掘と育成が進まないのでしょうか。

理由は明確です。大学は自分自身を開発する手段を有効に持ち得ない宿命的な構造になっているからです。その「宿命的構造」とは、外形的には過度のフラット化構造と細分化構造、そしてトリレンマ構造(教員・職員・会議体)の3つの構造にあり、内容的にはフロー不問、機会不問、リポート(コミュニケーション)不問の3つの機能の不問状態にあります。

機能不問というのは、機能不全ということではなく、そもそも一般的な組織だったら持っていると思われる機能を全く必要とせず存在(存続)し得るという意味です。フラット化構造として、学長(総長・理事長など)の下に法人本部・学部が極めて並列的に特徴なく羅列された組織が多く見受けられます。

細分化構造とは、それぞれの並列組織が研究棟の教職員室としてパーテーション化されて配置されています。これはあらゆる階層のあらゆる組織に及び、ワンフロアー化されています。

そして3つめがトリレンマ構造です。多くの教員は教育サービスの高度化を図ることに専念義務を負っており、その範囲での決定権限は絶大です。しかも大半は自己完結で内部交流がありません。むしろ、外部と開かれていることのほうが多いかもしれません。

一方、職員は事務の処理と合理化の機能を有しておりますが、授業情報も就職情報も教務情報も研究開発情報も、基本は「受注もしくは外注」であり、内製されるものはほとんど皆無です。したがって、ここから企画提言される機会もほぼ皆無となります。

会議体(理事会/教授会など)は、重要な意思決定機関ですが、個々人の教員や職員のポストの独立性がそのまま会議内でも距離感をもって温存され、一体感を伴わない意思決定がなされます。かつての一部上場企業の取締役会そのものの様相です。実態は、それ以上かもしれません。取締役会の求心力は「利害と責任」ですが、多くの高等教育機関の理事会の求心力は「無関心」であり、受忍限度を超えた火の粉がかからない限り、粛々と決定されるからです。

2 なぜ、大学法人は次世代人材を発掘・育成できないか

まず、誤解を防ぐ必要がありますが、大学に次世代人材や経営者人材がいないわけではありません。むしろ学歴的、素材的に見た場合他の業種業界より候補者は山ほどいるといえるでしょう。重要なのは素材の優秀さだけではなく、経験値と心構えです。

また、ここで求められる人材像(次世代人材)の定義を、次期経営者(理事長・学長等)、高度専門研究者(たとえばノーベル賞候補クラス)、高度人材開発の人材開発担当者(世界的著名人の同窓が多いなど)の3つに絞ったとき、そのいずれも機能が未熟であると言わざるを得ません。

まず、経験値からいうと、民間企業と大学が決定的に異なるのは人事ローテーションの頻度とレベルです。多くの大学の人事ローテーションは、大きく3つに分かれます。

第一は、教育職に見られるパターンで、大学間をより有利な条件で異動転籍するパターンです。具体的には、講師から助教授、助教授から教授、教授から学長といったパターンです。もちろん、地方から都心、無名校から有名校、低偏差値校から高偏差値校、科研費の額などのインセンティブも重要な条件です。この場合の欠点は人事記録が分断され、教育暦、研究暦、事務暦が非連続となり、属人情報が非連続となることです。研究暦は多くは自己管理されますから粉飾・底上げされ、実績にいたっては捏造される可能性も排除できません。教育暦にいたっては、一まず評価すら実施されないことが多いため、評価実績にいたっては教育に関してはレピュテーション(名声)のみを頼りにすることになります。ただし、その名声ですら、エビデンスは不詳とならざるを得ません。

第二は、事務職に見られるパターンで、構内各課(教務課・就職課・学生課・会計課など)を運がよければ2つ程度経験できる範囲です。しかもこの異動基準は、退職者補充もしくは玉突き人事が大半であり、キャリア開発のためのローテーションはもちろん、次世代人材の帝王学的異動は皆無です。

第三の人事はあまり多くはないかもしれません。それは複数の法人内の組織間(すなわち大学・短大小中高等の間で)の経営層の異動です。

自己責任と管理PL(損益計算書)を自前で持つ法人は別ですが、多くは、理事会や評議会の下にすべての組織が組み込まれることが多いため、異動はもとより組織間で自己完結し限定的となります。そこでは担当者の単純な補充としての異動はあっても、経営層の責任変更による異動は少なくなります。その理由は単純です。学校法人の教員も事務員も人数が限られ、どんなマンモス大学でも、せいぜい100名程度で運営可能です。民間企業で100名といえば中小中堅企業であり、人事制度すら必要としないことが多い規模です。しかも、多拠点化することはほとんど無く同じ敷地内に混住します。複雑になりようのない組織なのです。そうした組織の長は体験を積み重ねているといった人材育成の方法論が効果的に機能しにくくなります。そうであれば最初から経営者として理事会や評議会に理事、評議委員といして参画し情報共有したほうが効果的といえるでしょう。組織構造そのものが、次世代人材の発掘と育成といったミッション形成意欲に乏しくなる構造を持っています。

ミッション経営意欲が乏しくなる点が「心構え」の点で人材の発掘と育成を阻害する第二の要因と直接つながるものです。多くの高等教育機関は、その歴史に「建学の理念」を持っています。建学の理念はミッジョン(存在意義)そのものであり、その進化と実践に次世代人材は行動を傾注することになります。勢い、行動は修正的となり過去の集積と継続的反復的となります。ミッションの苔層化となり、時代環境への適合や新たな概念の導入といったものへの感度と感性が低くな'るのはやむを得ません。

2009年3月9日月曜日

成長戦略-経済財政諮問会議

去る3月3日(火曜日)に、本年第5回目の経済財政諮問会議が開催されました。経済財政諮問会議では、今後3回ほど成長戦略に視点を当てた集中審議を行うことにしているようです。

その第1回目である今回は、健康長寿、人財力、コンテンツについて議論されています。議事要旨が公表されていますので、その中から主に文部科学大臣の発言をピックアップしてみます。

1 底力発揮(人財力)

▼岩田議員:内閣府経済社会総合研究所長

論点3は人材育成ということで、小学校から高校、大学、大学院に至るまで、人材を育成するようなプログラムを強化する。特に社会人が、小学校等で教育を強化するための人材として活用できるのではないかということ。あるいは海外の有力大学との交流・連携ということ。日本の大学で圧倒的に弱いと思うのは、大学における外国人の研究者の比率で、4分の1か5分の1と、平均と比べるとかなり少ない。こういったことも含めて人材育成を強化する必要がある。

論点4としては、日本でも博士課程修了者が随分増えている。毎年 1.6万人修了する方が出ている。ところが、就職できる方がそのうちの6割で、残りの4割の方は就職できない。ポストドクターといわれていて、ここにはミスマッチがあるのではないかと考えている。もう少し産学連携の一環として、ポストドクターの方々の職がうまく見つかるような工夫をする必要があるのではないかと考えている。

▼塩谷臨時議員:文部科学大臣

資料の1ページから御説明する。

(説明資料)http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0303/item8.pdf
(配付資料)http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0303/item16.pdf

まずは、教育全般については、教育基本法を改正した後、昨年は学習指導要領を改定し、その一部を前倒しして今年からスタートする。
企業あるいはいろんな社会に出て、どうも最近の若い人たちは基本的なところがなかなかできない、再教育しなければならないというところが多く聞かれる。
まずは教育基本法と新しい学習指導要領に基づき、基本的なところを押さえようということで「生きる基本」というものをしっかりと明確にし、道徳あるいは基礎学力、更には職業観、そして体力というようなところに重点を置いて、これを新しい教育の中で、まずは基本として、それから世界のトップレベルの学力を育てていこうということを考えている。

そういう中で、理数教育の問題については、新しく理数の時間を増やしたり、内容も増やしたりしたが、それを指導する教員の質の向上、そして配置、これも予算で計上しているが、やはり定数の問題が非常にネックになっている。
現在はいわゆる40人学級を基本としているので、これが公務員の削減と合わせて、小人数学級になかなか向かないというところがある。そこら辺のところを検討してしっかりと方向性を定めて、例えば理科教師については、これは後で申し上げるが、特に高校レベルでは、ポスドクの人たちを高校教師にふんだんに使っていく。そうなると、子どもたちも、そういったレベルの先生方が来れば、やはり全然興味も違うと思うので、そういった活用の仕方をすることが大事だろう。

しかしながら、教育の中で体験教育とか、今まで実際にできなかったことをふんだんに入れて、やはり基本的に好奇心とかチャレンジ精神とか、そういったものを育んでいかないと、将来研究者になった時になかなか研究に没頭することができないなどの課題も出てくるので、そういった新しい義務教育での教育を進めてまいりたい。

2ページ目。成長力強化のための高度専門職業人の養成ということで、いわゆるポスドクの問題であるが、企業が求める人材と研究者とのミスマッチがなかなか多く、これについても、できるだけポスドク、研究者のキャリアパスのいろんなパターンを考えることが、まず一つある。
そして、先ほど申し上げたように、高校の教師などは、非常にいいキャリアパスの一つになると思っていて、そういったシステムを是非これから開発し、できるだけそういうところで教育者としても自分の知識、技能を教えるということの中から、次に企業へ行っても使える人間になるということだと思うので、ここら辺を大いに活用してもらいたい。

それから、特に若手研究員が少なくなってきたことで、資料の別紙にあるが、特に平成10年辺りでは25.2%だったのが、平成19年では21.3%と下がっている。人件費抑制という課題に対して、やはり大学の基盤的経費を大幅に増やしていかないと、限界にぶち当たっているのが現実であり、ここも是非検討していただくことが大事である。

それから、我が国の大学について、特にアメリカ等の大学と比べると、渉外機能というか、簡単に言うとセールスマンだが、大学でこういう人材がいるから使ってくれという、専門的な人材を養成しすばらしい人材を売り込む、そして研究をアピールして寄附を勝ち取るというような、大学にはそういう発想が少ない。アメリカなどは相当そこら辺で、企業側もそれにかなり誘発されることがあるので、日本の場合は、そこら辺のところが少ない。

それから、国際的なプレゼンス強化を目指し、グローバル30という形で、30大学ぐらいを、いわゆる海外からの研究者を入れ、英語だけの講座もたくさんつくり、研究交流をすることを現在進めており、それを一つの契機として、多くの人材を養成する。

もう一方では、今、各大学が海外とのつながりで、例えばある大学は中央アジアが強い。ある大学は、南アフリカが強い。各大学でそれぞれ強いところを持っているから、そこら辺は連携し、国家戦略としてそういった学術交流的な人的なつながりを持ち、効果的な両国の交流を進める中で、人材も養成していくことを、しっかりとうまく束ねて国家戦略的な方法で進めていくことが大事である。

3ページ目は、世界をリードし、将来の技術革新を生む研究開発の強化。
特に、昨年はノーベル賞の受賞者4名と大変画期的な年であり、改めて基礎研究のレベルの高さを証明した。今年は、実は文部科学省としては、いわゆる基礎科学力強化年というふうに位置付け、ノーベル賞受賞者の皆さん方からいろんな御意見をお伺いし、新たな強化推進本部を立ち上げながら、その構想を6月か7月頃までには練ってまいりたい。

これについても若手研究者が自由な発想ができることが1つの大きなポイントなので、それには、今までの研究者の在り方、先ほどのポスドクの話もあり、また、若手教員の話もあり、できるだけ研究体制を厚くし、そういう中からいろんなアイデアが出てくると思うので、特に基礎科学力強化を一つの柱として、今後、技術革新あるいは研究開発に力を入れていくこと、この分野で人材を育成することが我が国にとって大きな一つの方向性である。


2 底力発揮(コンテンツ)

▼塩谷臨時議員:文部科学大臣

資料「日本の魅力を発信する文化振興について」に従って御説明申し上げる。

(説明資料)http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0303/item12.pdf

まずは「我が国の国際プレゼンスを高める文化芸術の振興」ということで、ただいま、それぞれお話があったように、アカデミー賞の受賞で我が国のこの分野における底力があることを証明したわけである。

メディア芸術やポップカルチャーについて、今後、積極的に海外でもいろんな形で取り組むと同時に、メディア芸術創造の中心的な役割を日本の文化芸術が担えるように戦略的な取組を行っていく必要がある。作品の制作の支援や、国内外で活躍できる機会の拡大を図ってまいりたい。

また、流通についても、その促進や人材育成等といった総合的な支援に加え、日本映画等のナショナル・アーカイブの充実を図るなど、さらなる振興策を検討していきたい。

次に2ページ目、「デジタルコンテンツの流通促進と海賊版対策」ということで、著作権の問題であるが、著作物の違法流通の規模の拡大やインターネットを利用した事業等の立ち遅れが喫緊の課題である。

今国会で提出を予定している著作権法改正案においてはこうした問題に取り組むこととしており、概要について簡単にご説明申し上げる。
違法な著作権の流通を抑止するための措置として、権利侵害品、海賊版と承知の上で行うインターネット販売の申し出を権利侵害とすること。それから、違法なインターネット配信からの音楽・映像の複製行為について、違法と知りながら複製することを私的使用目的でも権利侵害とすること。そして、著作物利用の円滑化を図るための措置として、Yahoo!やGoogleなどのインターネット上での情報検索サービスを実施するための複製や、過去の放送番組等の権利者が不明の場合に、インターネット等で二次利用を円滑に行えるようにすること等の内容を盛り込んでいるので、まずは本法案を早急に成立することに尽力していきたい。

2009年3月7日土曜日

マネジメントのオープン化

私達が大学の経営改革を進めるに当たっての重要な指針になると考えられる論考「大学法人の組織的特徴(構造的陥穽)と改革の方向」(日本総研主席研究員 三宅光頼氏)のうち、今回はシリーズの第3回目として、「大学の情報共有やオープン化はどの程度進んでいるのか」に視点を当ててみたいと思います。

(第1回目)大学の存在意義と自治
(第2回目)戦略とイノベーション


1 情報共有機能と公開機能に欠けているもの

大学の情報共有やナレッジ共有(オープン化)はどの程度進んでいるのでしょうか。

何をもって情報開示か、どの程度であれば情報開示といえるかを決めることは重要ですが、大学の個々のレベルでそれを議論することは不可能でしょう。形式的に各大学の動きを見ると論文や特許以外では、単位の互換や就職情報など、サービスについての情報公開と共有は急速に進みつつあるといえます。知識のオープン化は進んでいますが、本当の資金のオープン化がまだまだです。

こうした状況を考えると、これからの課題は提供するサービス(授業と研究の成果)のさらなる公開と経営情報の公開ですが、株式会社でない限り投資家に対してコミットメントする必要性がなければ情報公開も限定的となります。

「顧客としての学生とその家族」に対して、「多額の授業料と子供の将来を預けるに足る経営を実施しているか、サービスを提供しているか」といった「健全な投資判断が可能なだけの情報」を提供する必要があります。この点で、もしネガティブ情報を隠すようなことが一度でもあれば、これまでのすべての情報に対する信頼が水泡に帰すことは間違いありません。ネガティブ情報はいくらでも隠し得る内容であり、今のところ、積極的な開示義務があるわけではないため、この点を強化していく必要があります。

こうした情報共有と公開に対しての取り組みにより、大学の経営品質を高めることができ、事業継続させるに足る大学の選別と育成につながり、公的資金や補助金をつぎ込む価値がある大学を選別できるようになります。

2 顧客の視点そして意思決定プロセスの近代化透明化の推進と反映

今の大学に欠けているものは、顧客(メインは学生とその家族)の視点と投資家や国に対する経営情報、経営品質の公開であり、このために実施しなければならないことは、評価の徹底と意思決定プロセスの近代化透明化の推進です。すなわち、マネジメントのオープン化です。すべての研究成果と研究プロセス、授業内容と満足度、大学事務局のサポート状況と情報提供度を評価し、評価結果を公開することです。

評価の方法は問いません。ただし、評価する人は、出資する人でありサービスを受ける人であり、中立な第三者です。すなわち、家族であり学生であり地域住民であることです。

この評価結果により、補助金の配分を変更していくことが望まれます。補助金は税金そのものですから、国は利害関係者の評価によりその配分を決定する仕組みが前提となります。特に補助金の約80%を占める教職員数に連動する「教職員割」を廃止(軽減)し、学生や生徒の規模に応じた「学校割」に評価を連動させて配分する仕組みが求められます(補助金についての詳細は省略)。

いきなりこうしたオープン化に移行することは実施的に不可能ですが、第一弾として、健全な内部評価と競争環境の整備から進めることが必要です。まずはオープン化の前に自分たちで自己評価し、判断基準と判断理由、判断結果を内部で公開し、処遇につなげることとを真剣に志向する必要があります。問われているのはサービス(授業と教育)の質であり、その低下を看過する経営の質です。

2009年3月5日木曜日

戦略とイノベーション

大学の経営改革を進めるための方向性について、日本総研の主席研究員である三宅光頼さんが書かれた論考「大学法人の組織的特徴(構造的陥穽)と改革の方向」を、いくつかのテーマに分けてご紹介することにしておりましたが、今回はその第2回目として、「大学は自身の戦略やイノベーションを発信し誘導してきたか」に視点を当ててみたいと思います。


(第1回目)大学の存在意義と自治


大学は大学自身の戦略やイノベーションを発信し誘導してきたでしょうか。

戦略策定機能が機能不全になることなく効果的効率的に活動する前提条件は、収益構造、事業構造、業界構造の3つの構造を明確にした上で、自大学のSWOT(強み・弱み・機会・脅威)を経営環境の中で明確にできるとき、戦略策定機能そのものが意味を持つことになります。

第一の収益構造は、収益モデル(何で儲ける)、プロセスモデル(何処で儲ける)、ピープル&パーソンモデル(誰が儲ける)の3つのモデルを明確にすることです。自大学の収益構造は何処にあるかを明確にし、どこ(何)で差別化を行っているかを明確にし、誰がそれを実践しているかを明確にすることにあります。

第二の事業構造は、研究開発機能、営業提供機能、管理配分機能の3つを効果的に再配分、再配置することにあります。その中で役割展開(業務と権限と責任の明確化)と方針展開(マネジメントとリーダーシップの遂行)を進めていくことになりますが、ここで少なくとも「効率的・効果的」、あるいは「成果思考的・時間的・マイルストーン的」なアプローチが実践されていることが前提です。

第三の業界構造とは、大学という高等教育産業が単に産業としてではなく、国家の使命と若者の将来を担う中枢的な機能の一つとして社会の負託を担っているという自覚の中で、健全な競争環境を醸成し、その中で独自色を出す高付加価値経営を実現しているか、という点です。

今日では、高等教育産業においても他のいかなる産業に負けず劣らずグローバルで戦っています。実際に真の高等教育は圧倒的な欧米支配が続いており、日本の高等教育機関は壊滅的なほどに人材流出現象を食い止めることができないでいます。アジアの他の国に対しても産業としての教育機関を売り込むことに苦慮しているのです。そして、更に残念なことは、そのことに「気がついていながら」なんら抜本的な解決策を見出せていません。

日本の高等教育産業としてグローバルに展開していることを知り、その中で強みと弱み、機会と脅威を認識すること、そして自分自身を「相対化」できたとき勝つための「戦略」が意味を持ちます。

大学は、知識と技術を精製(生成)するための人材の設計室であり融合炉にたとえることができます。白紙から知識や技術を作図し、さまざまな人材の組み合わせで融合させています。これらがイノベーションを創発するには、推進力が必要です。戦略と目的と動機が必要です。すなわち知識は戦略を必要とし、技術は目的を必要とし人材は動機を必要とします。

大学法人が戦略を創出し、イノベーションを創発するための課題とは、この推進力そのものを作り出す「種」を失いつつある点にあります。現段階では、教育事業および教育業界において大学自ら変革を起し、イノベーションを創発してきたとは言い難いところがあります。多くの大学は、業界内において個々に閉鎖的であり、他大学機関のイノベーションに対しても排他的であり傍観的ですらあります。それは「供給側の理論」に終始し、「閉ざされた組織」の中で競争を排除してきたからにほかなりません(21世紀大学経営協会)。

残念ながら、大学はその生成においても、オペレーション過程においても、組織的にも、戦略策定機能を自己完結的に持ち得ないのです。それは長い間の文部科学省行政の影響であり、事業継続ミッションの過度な信奉にあるといえるでしょう。