2009年6月22日月曜日

新たな中期目標・計画への展望-1

国立大学が法人化され、はや6年。国立大学法人は第1期中期目標期間の最終年度を迎えています。来年度からいよいよ第2期がスタートするわけですが、いま全ての国立大学法人は、来期6年間の中期計画の策定に苦闘しています。各大学が策定する新たな達成目標・計画は、年度内に文部科学大臣の認可を受ける必要があり、そのために、今月末までに、「素案」というものを文部科学省に提出し、国立大学法人評価委員会のチエックを受けなければなりません。

今回は、第1期の時とは異なり、記載内容全体のボリュームが格段に減ったことにより大学の特色・個性をより鮮明に打ち出す必要があること、中教審における指摘等を踏まえ、いわゆる「機能別分化」を明確にする必要があること、さらには、国立大学本来の使命・役割を踏まえた組織や業務全般にわたる見直しを求めた文部科学大臣決定に沿った検討を行い、その結果を目標・計画に反映する必要があることなど、様々な条件の下での作業を余儀なくされています。

目標・計画の策定に当たって、認可権を持つ文部科学省からこのような様々な指示が出されていることについては、個人的には、国立大学に自主的・自律的経営を求めた法人化の趣旨から考えれば、少々やりすぎではないかと感じるところがありますが、いずれの大学も未だに親方日の丸の意識が抜けないのか、はたまた運営費交付金という生活費をもらうためには従順にならざるをえないのか、今のところ大きなクレームの声は聞こえていません。

これまで6年間、各大学は意識改革のままならない教職員の納得をなんとか取り付けながら、先の見えないトンネルの中で、試行錯誤を繰り返しながら、法人化のメリットを最大限活かすべく様々な改革に努力してきたのではないかと思います。もちろん満点ではないにせよ、「大学の自治」思想に支配されてきた古き良き時代からみれば、格段の進歩ではないかと思います。

第2期は、国立大学法人評価委員会や大学評価・学位授与機構が行った中期目標期間の評価結果も参考にしながら、自大学の取り組みを検証し、なお一層の改革改善に取り組まなければなりません。


前置きが長くなりました。今日は、IDE現代の高等教育(IDE大学協会誌)「国立大学法人-二期目への展望」(No511・2009年6月号)の中から、各執筆者の「結び」の部分をひろってご紹介したいと思います。(興味のある方は、是非ご購読ください。)

前文

国立大学法人の発足から6年目、第一期の中期計画が終わろうとしています。法人化は国立大学にとって、明治以来の大改革でした。文部科学省や評価機関にとっても新しい経験と戸惑い、試行錯誤の連続だったと思われます。制度設計の時点では見えていなかった問題点や課題も、少なくありません。
いまは第一期の実績評価が終わり、新しい中期目標・計画の準備が進んでいますが、来年度から始まるその二期目の計画は、国立大学法人の命運だけでなく、日本の高等教育と社会の将来をも大きく左右するものになるでしょう。法人化は何をもたらしたのか、評価の結果に何を学び、反省を踏まえて新しいどのような課題に取り組む必要があるのか。法人化の第一期を振り返り、その現実と課題に多角的な検討を加え、二期目への新しい展望を切り開いておきたいというのが、この特集の狙いです。

国立大学法人制度の再検証(大崎 仁)

第二期を前にして、残念ながら国立大学をめぐる厳しい状況が好転する兆しは見えない。厳しい状況下で国立大学が発展するためには、国民の支持が不可欠である。もともと国立大学は、国民の意思によって設立された大学であり、それゆえに強い公共性を特つことが要請される。その基本は、法人化によって変わるようなものではない。市場原理主義への反省の動きもでてきたが、厳しい財政状況とあいまって、市場化重視の流れは多かれ少なかれ今後とも続くであろう。
しかし、市場にゆだねることのできない仕事こそ、国学大学の存在理由であり、国民が国立大学に期待するところである。国立大学の公共性を再確認し、国民の要望に的確に応えていくことこそ、第二期へ向けた国立大学の基本的課題と考える。(IDE大学協会副会長)

法人化をどう評価すべきか(石 弘光)

法人化には光と影の部分がある。法人化後の国立大学の改革に共感する立場から6つの課題を挙げることができる。
    1. 毎年1%削減される運営費交付金に代表される財政面の制約
    2. 理事会、経営協議会、監事という学外からの委員を、十分に活用しきれていない。
    3. 相次ぐ大学評価のため、その作業に労力と時間が大幅にとられる。とりわけ、この作業に借り出される若手教員の負担は大きい。
    4. 非公務員となった法人化後、企業の非常勤取締役および監査役に就く教員が増え、多額の報酬を手にすることから、学内での所得格差が拡大した。
    5. 第一期の中期計画終了後に、それまでの剰余金を一括返納する制度になったため、予算施行上の節約の努力がムダとなった。 
    6. 学長選考会議による学長の選考システムが定着せず、これまで8大学でトラブルが生じている。うち3大学では訴訟にまで発展している。学内で事前に行われる意向投票結果の取り扱いが不明確なためである。
以上、法人化の影の部分をいくつか指摘した。しかし、法人化後、改革の成果が着実に上がった国立大学を見ると、やはり光の部分の方を評価すべきであろう。(放送大学学長 / 財政学)

今後の国立大学の在り方について(徳永 保)

大学は、自律的運営の下で、自由な研究と研究に裏付けられた教育を行い、それに立脚したものとして学位を授与する機関である。教員個人の興味関心に基づいた自由な研究を基盤とする大学の教育研究活動は、時に、非効率とも思われているが、中長期的には最も効率的に知を創造、普及、継承しうる仕組みであろう。私は、大学の自律性を尊重することが大学行政の基本と考え、そのような認識に立った政策をこれまでも心がけてきたが、大学の自治はあくまで大学人自身の自覚と努力に負うものであることを改めて強調したい。(文部科学省高等教育局 局長)

国立大学法人・第二期への課題(松本 紘)

近年の政府や国の動きを顧みると、国家財政のあり方の見直し等に関連した政策論議として、国立大学の再編・統合、運営費交付金の減額、評価と連動した競争的経費の拡大といった、経済効率や競争原理を重視した仕組みが「流行」しているように見受けられる。そのような中にあって明治以来わが国が作り上げてきた、国立大学の役割や運営方法のなかの「不易」の部分を守りつづけていく必要を、強く感じている。独立行政法人通則法に準じながらも、国立大学法人法という特別な法律が必要となったことの意味を、いま一度改めて問い直す必要があるのではなかろうか。(京都大学総長 / 宇宙プラズマ物理学・宇宙電波工学)

学術の国際競争力と大学病院の機能向上を(豊田長康)

未曾有の経済危機の中で、イノベーションの芽を育て、有能な人材を育成した国だけが生き残る。中国やその他の新興国の科学技術や教育の発展を見れば、10年後に日本が圧倒されるのは火をみるより明らかである。大学の予算を削減しつつ「選択と集中」と称して、上位校だけ残して下位校を切り捨てるような政策のもとでは、とうてい勝てるはずもなく、このままでは国際競争力は低下するばかりである。わが国全体の学術の国際競争力の向上には、たとえ人口減少下であっても、「質」だけではなく「量」すなわち数が必要なのである。また、「質」の向上のためにも適切な裾野、つまり「量」が不可欠である。視野なくして「質」の向上がはかれるという考えは幻想である。
残念ながら、法人化二期目における高等教育予算の増は期待できそうにない。このような状況では、わが国の学術の国際競争力および大学病院の使命機能はずるずると低下し、回復不能なレベルに達するまで、国の“失政"が続くことになる。手遅れになってしまっては、日本の未来はない。いまこそ、わが国全体の学術の国際競争力や、大学病院の使命機能を高めるための効果的な投資(特に弱体化した教育研究基盤を回復・増強するための予算の増額)が欠かせない。(鈴鹿医療科学大学副学長、三重大学学長顧問)

地方国立大学の立場から(丸本卓哉)

教育の機会均等、学問研究を目指す若者の育成、文化・芸術の伝承と科学技術の発展、世界や人類の幸せと発展に対して、国立大学が果たしてきた役割は極めて大きい。また、地方の国立大学は、地域の発展や活性化に重要な役割を果たしてきたことも間違いない。従来、国立大学が担い、果たしてきたわが国の高等教育、特に人材育成機能の将来が問われている。
第二期の中期日標・中期計画は、国立大学の将来にとって極めて重要である。その目標達成度と評価が、大学の将来を左右する大きな要因になる、と考えられるからである。評価の方法と在り方については、まだ多くの改善点や課題があるが、改善されながら現在の評価行方法が踏襲され実施されることになるだろう。当面はそれに柔軟に対応していくしかないであろう。
現在、日本の高等教育は危機的状況にある。この困難な危機を乗り切るには、学長のリーダーシップが特に重要と思われる。大学の教員、職員、学生の3者が一体となって、それぞれの大学の将来を創り上げていく協働の意識が最も大切である。(山口大学学長、(社)国立大学協会副会長 / 土壌生化学)

法人化と財務・経営の課題(山本 清)

第一期の実績評価では、各大学とも、教育研究のみならず、財務・業務管理面で十分な成果を挙げたことを説明するあまり、結果として時間を含む資源不足の課題は浮かび上がらなかった。施設整備の遅れや劣化は、私立大学と比較しても明らかである。施設の稼働率を上げて減築による機能改善を図る、あるいは競争的資金の間接経費を全額、基盤的経費に充当することにより質を維持するなどにより、法人化の負の側面を小さくする工夫が考えられる。
安定的な財源を確保するために、政策当局にとって、国立大学の品質機能を明確化するとともに、そのことを可視化するための作業を行うことが不可欠であろう。
教育研究経費の基準なき戦いは、財源措置削減下での一層の節減努力と統制受入れの、負の循環を招く可能性がある。いま求められているのは、質を担保した上で重点・効率配分を戦略的に行う基盤構築と、社会への積極的説明である。(国立大学財務・経営センター兼東京大学 / 大学財務管理論)

法人化とファンディング(永山賀久)

国立大学法人法第3条は、「国は・・・国立大学・・・における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」と規定している。学問の自由、さらに大学の自治の根幹をなす個々の教育研究活動については、独立行政法人と異なり、まず各法人の自主性が尊重されなければならない。
一方、教育の質の保証をはじめとして、(国立)大学に共通して求められる事柄も多岐にわたり、そのような特定の政策目的の遂行の手段としてファンディングが行われる場合も多い。したがって、国立大学法人へのファンディングを考えるにあたっては、両方の要請を常に意識する必要がある。その上で、国公私立大学を含む高等教育全体の発展を目指して、高等教育へのファンディングについて、不断の改善を図っていかなければならない。
なお、今後ますます、ファンディングを行う側、受け取る側双方に、社会に対する説明責任を果たすことが求められるであろうことも付言したい。(文部科学省高等教育局国立大学法人支援課長)

法人化の現状と将来-監事の視点(高橋誠一)

第二期の中期計画が、第一期の中期計画と大同小異であるとすれば、中期計画の充足は法人化の必要条件ではありえても十分条件ではありえない。法人がこの厳しい時代を乗り越えて行くためには、法人が自らの全身全霊で持って、その将来を切り開いて行く以外にはない。「我、国民、人類の未来を照らす知の灯台とならんことを欲す」である。
「親方日の丸」の土壌からは、自立性・自己責任のカルチュア、未来に挑戦するカルチュアの創造は、現状では残念ながら「絵に描いた餅である」と思わざるを得ない。「大海原波間に漂う法人丸」が過去の事象であることを願うばかりである。(熊本大学監事)

国立大学の教育研究評価を終えて(丹保憲仁)

将来に向けていくつか感想を述べる。
    1. 議論に終始付きまとったのは、評価にかける労力・コストと、教育研究にかけるそれらの適切な配分比、特性曲線のサドル領域がどの程度のものかなどの議論である。これらの点について、教育学者にもう少し本気に考えてもらえたらと思う。“評価疲れ"と言うことの、具体の意味を研究してもらいたい。
    2. 大学の特徴を高めるためであるという、評価目的はこれでよかったと思うが、大学の弱点をきちっと抉り出すことも、同一の趣旨で必要であったと思う。例えば、教育研究の低水準30%の教員・学生・職員はどうなっているかなどを、大学が自己申告できたら、評価は大きなインパクトを持つと思う。大学内の、または大学間の差異を縮めることができるかどうかは、この部分に大きくかかわってくると思う。
    3. 国立大学の評価を、主務官庁である文部科学省が自身で行うため設立された大学評価・学位授与機構ではあるが、巨大な労力と資金を国立大学のためだけに使うのは、“国策”としてもったいない。認証評価を国立大学中心の「機構」で行うことによって、国立大学関連の評価データを集積・共用することができ、教育研究評価が有効に進められたことは、これまで見てきた通りである。しかし、ともすれば私立大学との稠密な連帯が切れてしまうことにもなりかねず、日本の高等教育が国公私立一体となって発展するという観点からすると、問題を生じているように思う。認証評価に共同であたってきた国立大学群が抜け落ちれば、大学基準協会などによる歴史的な努力が、また縦割りの弊に落ちそうである。多様な評価機関設立の必要性が実態的には減じてくるかもしれない。生涯を国立大学に住んだ人間でも、気になるところである。
    4. 最後に、個人的には義務を終えて本当にほっとする反面、今ならもう少しましなことを考えられそうな気がする。第2サイクルは明日からでもすぐ、入念な議論を始めていただきたいと思う。
(国立大学教育研究評価委員会委員長、北海道開拓記念館館長、北海道大学・放送大学名誉教授(元学長)、中央大学教育研究機構教授 / 水環境工学・都市水工学)

第二期の目標設計(文部科学省高等教育局国立大学法人支援課)

中期目標・中期計画は、各法人の自主性・自律性のもと、特色や個性を生かした取組を進めていくための推進装置とも言えるものである。国立大学を取り巻く状況には引き続き厳しいものがあるなか、各法人の特性を一層発揮できるよう、中期目標・中期計画の検討を通じて組織や業務の見直しを行うとともに、中期目標・中期計画の達成状況について不断の評価を行い、PDCAサイクルを徹底することが期待される。
(参考)

第2期中期目標・中期計画(素案)が文部科学省へ提出されたあと、文部科学省は、各国立大学との間で「国立大学法人の運営上の諸課題に関する意見交換」を実施するようです。
文部科学省が各大学に通知した実施要領によれば、これは、次期中期目標・中期計画期間に向けて、各国立大学法人の運営上の諸課題について広く意見交換を行い、国立大学法人及び文部科学省それぞれの検討に資することを目的としているもので、7月8日(水)~7月15日(水)に文部科学省において実施され、国立大学法人からは、担当理事、事務局長、担当部長等の出席が求められているようです。また、文部科学省からは、大臣官房審議官(高等教育局担当)、国立大学法人支援課長等が出席するようです。(1法人30分程度)
意見交換の主なテーマは、以下のとおりです。
    1. 第二期中期目標・中期計画期間に向けた課題等
    2. 国立大学法人等の組織及び業務全般の見直し(平成21年6月5日大臣通知)の対応状況
    3. 機能別分化の議論を踏まえた大学としての特色、今後の方向性等
    4. その他