2009年6月21日日曜日

財務省の誤認識と文科省の説明不足

いわゆる「骨太方針2009」に反映させるべく財務省が苦心してこしらえた「財政審建議」については、財務省一流の独断と偏見を多分に含む内容であり、財務省の戦略に基づく政策誘導そのものであること、また、多くの記述やデータが誤解を招くような形で作成されており、正確な情報が必ずしも一般国民の皆さんに提供されているとは思えないことについて、既にこの日記でもご紹介しました。

○平成22年度予算に係る財政審の建議(大学サラリーマン日記)

この間、建議あるいは審議会における議論の過程で財務省が指摘した「国立大学法人の多額の剰余金」に関する不正確な情報に関しては、文部科学大臣が「心外」とのコメントを発するなど、財務省の世論誘導を阻止する行動をとった文部科学省ではありますが、財務省の主計官が審議会の中で説明した一つ一つの指摘に対しては、全国の学長会議や財務担当の部課長会議など身内の会議で自己満足程度の説明しか行っておらず、財務省の指摘がいかに独断・偏見・誤報に満ちたものであるかをもっと世の中に広く訴える必要があるのではないでしょうか。

○平成22年度予算編成の基本的考え方について(平成21年6月3日 財政制度等審議会)

○財政制度等審議会財政制度分科会財政構造改革部会(平成21年5月15日)配付資料議事録

○大学運営費:「国立大に余剰金」財政審指摘は心外…文科相(2009年6月12日 毎日新聞)

このたび、文部科学省から各国立大学に以下のような資料が送られてきました。財政審建議に関する国会での質疑応答の抜粋です。財政審建議に対する文部科学省の考えを全国の国立大学関係者に周知するために送られたものと推察されます。このような普段なかなか読むことのない国会での議論の一端を、しかもタイムリーに提供していただくことは、国立大学の現場にとっては大変意味のあることと考えます。また、せっかくのチャンスなのでこうしてプライベートな日記でもご紹介しています。
しかし、個人的には、文部科学省は、このような遠まわしな方法による仲間内あての周知を図るだけでなく、もっと透明性のある方法で、全ての国民に対し、財務省の指摘一つ一つに対する反論を正々堂々と公開していただきたいと思いました。

第171回国会衆・文部科学委員会(2009年6月10日 社民党:日森文尋議員質疑の抜粋)

(日森委員)

先ほど西先生からもお話がございましたが、財政審が6月3日に来年度の予算編成の基本的考え方というのを示したわけですが、その中でも大学予算について触れられているわけです。

一つは、今ちょっと触れましたけれども、大学評価・学位授与機構、これについてですが、評価が客観性に欠ける例があるとか、したがって、評価自体を客観的で定量的なものにする必要があるというようなことが言われていますし、さらに、その委員の中に企業関係者であるとかあるいは評価の専門家を含めるべきではないか、8割ぐらいが大学関係者で占められているというのは非常によくないということなんでしょうが、こんな声が出されているんですが、文科省はこうした財政審が言っていることについてどういう御見解をお持ちなのか、それが一点。

それからもう一つ、もう時間が余りないので続けて言ってしまいたいと思うんですが、同時に、この財政審の中で、法人化以後、国立大学には毎年度多額の決算剰余金が発生し、ストックベースで約3千億円の積立金が累積していること、いわゆる遊休資産、減損処理を行った資産等々ですが、それが約3百億円あることを考慮すれば、国立大学法人が資金不足に陥っているとは言いがたい状況にあるというふうに財政審は言っているわけです。本当かなというふうに私は思うんですが、この積立金などは、移転のための費用だとか、そういうことで準備をしているという話もあるようです。法人化された国立大学は極めて節約をして、例えば、定年退職した職員や教員の穴埋めをしないとか、少ない数できゅうきゅうとして今おやりになっているという話もあるようです。節約して自由に使用する資金を持つことができるようになったんですが、実際にそれを行う大学は資金不足とは言えないということになるんでしょうか。これは財政審が言っているとおりなのでしょうか。私にはとてもそうは思えないという思いがあるものですから、ぜひこの点についても文科省の見解をお聞きしたいと思います。

(塩谷国務大臣)

先に、大学評価・学位授与機構による評価の客観性に欠けるという指摘については、教育研究の評価は、その特性から、一般的にピアレビュー、これは同僚評価ということでありますが、により行われておりまして、この点についての理解を求めてまいりたいと考えております。
また、評価を定量的なものにするとの指摘につきましては、やはり教育研究評価の目的は、各法人ごとに定められた中期目標の達成状況や各学部の研究科ごとの目的に照らした教育研究の水準を評価するものでありまして、定量的な評価にはなじまないと考えております。
また、委員の構成に関する点につきましても、国立大学法人法に、評価のあり方も含め、同法の運用に当たっては、大学の「教育研究の特性に常に配慮しなければならない。」と規定されておりますが、これを踏まえて、大学評価・学位授与機構において大学の教育研究に関する専門家を選任しているものと考えておるわけでございまして、企業の人がというのはやはり無理があるというような、もちろん何人かおりますが、やはり、専門家として選任をされているということでございます。

(徳永政府参考人)

積立金についてお答え申し上げます。財政審で指摘がありましたように、平成19年度末で、財務諸表上、積立金等が3千1億円計上されてございます。しかし、このうち1千5百55億円につきましては、国立大学法人会計基準に従って会計処理を行ったために生じる、いわば形式的、観念的利益であり、実際に法人に現金等が残っているものではございません。
どういうことかと申しますと、例えば附属病院の再開発、施設設備をもう一回建て直すわけでございますが、こういった場合には財政融資資金を使っております。この償還期間は25年でございます。一方で、減価償却期間は、これは企業会計に従いまして39年とされております。したがいまして、毎年度毎年度25年分で償還をしてまいりますと、その瞬間、減価償却額よりも余分に償還をすることになりますので、結果的にその資産価値が上がってしまう。こういったことがいわば形式的な利益となっているものでございまして、これがもって、いわば何か資金に余裕があるというようなものではございません。一方で、それ以外の1千4百46億円につきましては、法人が人件費の節減などの自己努力により確保したもので、これにつきましては、毎年度、目的積立金といたしまして財務大臣への協議を経まして文部科学大臣が承認を行っている資金でございまして、年度を超えたプロジェクトなどに充てられるという使途が明確に定まっているものでございます。また、減損処理をするといったもの、その減損処理をした土地建物が、資産が2百67億円となっておりますが、これは、使用実績や売却価値が相当程度低下した資産を示しているものでございますけれども、将来利用計画のあるものを含んでおり、直ちにそれが、いわば遊休資産として、あるいは、具体的な売却をして手元流動性があるというようなことを示しているものではございません。したがって、積立金や減損処理を行った資産があることは、国立大学法人の資金、いわばキャッシュに余裕があることを示しておらず、全体としては、運営費交付金の削減等により国立大学法人の経営は厳しさを増しているというふうに認識しております。

(日森委員)

最後になりますが、さらに財政審の建議の中では、今後の議論の方向性について、「運営費交付金を機械的・一律に配付するよりも、各大学が自ら質を高める取組を促すため、引き続き運営費交付金の削減を行い、できる限り、教育は授業料、研究は科学研究費補助金等の競争的な資金で賄うことを目指すべきではないか。」というふうに言っています。とても納得できないというふうに私は思うんですが、こういう財政審の方向について文科省がどういうふうにお考えになっているのか、お聞きをしたいと思うんです。
かつて、教育費をOECD並みの5%にしようと、財務省と、バトルまで行ったかどうかはわかりませんが、綱引きがあって、文科省はちょっと分が悪かったのかな、ということがありましたけれども、ここまで言われたら、本当にこの国の国立大学法人の教育研究というのは一体どうなってしまうのかということがあるので、ぜひ財務省と再びバトルをやっていただきたいという思いも込めて、文科省の見解をお聞きしたいと思います。

(塩谷国務大臣)

今の御指摘の建議につきましては、我々としましては、この運営費交付金の削減等については、当然、人件費や一般管理費は大学の組織を維持するために最低限必要な基盤的経費でありますから、必要額をしっかり確保していかなければならない。今後、中期計画においては、そのあり方を検討していくということで今考えておるわけでございます。
また、授業料で賄うべきということについて言及がありましたが、教育と研究の会計を分離し、おのおの授業料とか競争的資金で賄うという点については、全くやはり問題があると考えております。特に、教育の成果は、教育を受けた本人のみだけではなくて社会全体にも還元されるものである、また、日常的な研究活動に要する経費は競争的資金の措置ではなじまないということもあり、また、大学の研究活動は一体として行われているということでございまして、この点についてはまことに困難だと考えております。