2009年9月1日火曜日

政権交代と概算要求の行方

昨日(31日)、平成22年度予算の概算要求が各省庁から財務省に提出されました。例年通りでいけば、これから年末までの間、財務省の査定作業が淡々と進められるところですが、今年は政権交代の影響を受け、官僚(中央省庁)主導から政治(民主党)主導の予算編成が繰り広げられそうな気配です。

まずは、最近の民主党と概算要求をめぐる報道から。

09年度補正予算を執行停止へ=概算要求も見直し-民主(2009年8月30日 時事通信)

民主党は政権発足後、麻生内閣が経済対策として策定した2009年度補正予算の執行停止に踏み切る。31日に締め切られる10年度予算の概算要求も見直す方針だ。首相直属の「国家戦略局」を新設し、政治主導で予算の組み替えに着手する。補正予算の執行停止や組み替えで生じた分は来年度予算に振り向け、マニフェスト(政権公約)に掲げた「子ども手当」など目玉施策に優先配分する考えだ。民主党の鳩山由紀夫代表は30日夜、民放の報道番組で「(補正予算は)本格的に見直していく必要がある」と述べた。補正予算の執行停止や概算要求のやり直しは極めて異例で、予算編成作業の遅れは避けられない。12月下旬が通例の政府予算案決定が来年にずれ込む懸念があり、「越年編成」となれば景気に悪影響が及ぶのは必至だ。民主党政権は景気をにらみながら、難しい課題に取り組むことになる。・・・
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2009083000622&m=rss


概算要求「根本見直しへ」 鳩山代表が表明(2009年9月1日 朝日新聞)

10年度政府予算の概算要求の一般会計の総額は、09年度当初予算比約3兆5800億円増の約92兆1300億円と過去最大となった。ただ、民主党の鳩山代表は「根本的に見直す努力をする必要がある」と大幅に見直す考えを示した。概算要求は、各省庁が来年度の必要額を8月末に財務省に提出するもので、例年、これをもとに年末の予算編成に向けた作業が本格化する。今年の概算要求は、麻生内閣が定めた基準に基づく。鳩山代表は31日、記者団に「政権が交代するときに、民主党の目に触れない形で要求がなされるのは歓迎すべきでない」と話した。・・・
http://www.asahi.com/politics/update/0901/TKY200909010035.html


先行き不透明な中、文部科学省、とりわけ高等教育関係予算はどのような姿で年末を迎えるのでしょうか。
文部科学省が発表した概算要求関係資料から、高等教育関係の主要事項を抜粋してみました。

詳しくはこちらをご覧ください。
平成22年度文部科学省 概算要求主要事項の発表資料一覧(文部科学省)

1 授業料減免等による教育費負担の軽減の促進 概算要求額350億円(前年度予算額216億円)

【背景・課題】
  • 昨今の経済情勢の悪化により、経済的困窮者が増加傾向
  • 経済的困難を抱える学生が増加傾向
  • 学生等が経済的な理由により学業を断念することのないよう、教育費負担軽減の促進が急務
【対応】
  • 各大学等が授業料等の減免を十分に実施できるよう、所要の財源・対応を国が支援。もって、学生等の経済状況に左右されない進学機会を提供
《国立大学》
経済的困窮者の増加傾向に対応し、運営費交付金の算定に当たって、経済的困窮者(免除適格者)の増加率に応じて、授業料等免除枠を拡大(例:授業料免除率 5.8%→6.2%など)(新たに約2,500人分の授業料免除などが可能)

《私立大学》
教育の質向上に取り組む私立大学等に対して、学生の家計所得に応じた授業料減免等に要する経費を支援(想定対象学生数約7万人)

《公立大学》
地方交付税算定の際の単位費用設定の授業料収入額△9%分を、△11%分に拡大要望

《私立高校》
経済的理由により修学困難な生徒に係る都道府県の授業料減免補助の対象生徒数増等に対応するため、国庫補助の充実等を行う。

【要求内容】
  • 国立大学の授業料等免除枠の拡大 203億円(189億円)
  • 私立大学等授業料減免等補助の拡充 135億円(20億円)
  • 私立高校授業料減免補助の拡充 12億円(7億円)
  • このほか、公立大学に係る地方財政措置要望(推計額)70億円(59億円)、私立高校に係る地方財政措置要望130億円(20億円)

2 奨学金事業の充実と健全性確保 1,535億円(1,309億円)

【背景・課題】
  • 学ぶ意欲と能力のある学生が経済的理由により学業を断念することのないよう、奨学金の充実が必要
  • 返還猶予制度の適確な運用と経済的理由による返還困難者に対する返還負担の軽減が必要
  • 奨学金事業は、卒業生からの返還金を奨学金の原資として活用しており、次の世代に奨学金を引き継ぐためには、返還金を確実に回収し、事業の健全性を確保することが課題
【対応】
  • 賞与基準を満たす希望者全員に奨学金を貸与するため、貸与人員を拡大
  • 経済的理由による返還猶予者等に対する減額返還の仕組みを導入
  • 返還金の回収強化を図るため、延滞者に対する法的措置の徹底、債権回収業務の民間委託、延滞事由の要因分析、返還相談体制を強化
【要求内容】
  • 事業費:1兆175億円(700億円増)
  • 貸与人員:120万人(5万人増) 無利子奨学金2万人増、有利子奨学金3万人増
  • 無利子奨学金の支給時期の早期化(在学採用支給時期:7月→4月)
  • 在学中無利子など返還負担軽減のための利子補給金 361億円(74億円増)
  • 健全性確保:(独)日本学生支援機構運営費交付金(返還金回収強化経費)13億円(4億円増)、回収が極めて困難な延滞債権(延滞20年超)の特別償却 26億円(新規)
【政策目標】
  • 無利子奨学金の貸与人員の2万人増により、貸与基準を満たす希望者全員に無利奨学金を賞与
  • 減額返還の仕組みの導入により、低所得者の返還負担を軽減
  • 返還金回収強化により、平成19年度末の延滞債権(2,253億円)を平成23年度までに半減するとともに、新規の延滞債権を抑制し、奨学金事業の健全性を確保

3 大学院生への経済的支援の拡充(TA等の拡充) 105億円(新規)

【背景・課題】
  • 知識基盤社会の中で我が国が今後とも発展していくためには、大学院教育を充実し、幅広い素養と高い専門性を備えた優秀な学生を社会に輩出することが不可欠
  • 学生が大学院(博士課程)への進学を断念する要因として、在学中の生活保障の少なさが指摘されており、優秀な学生に対する経済的支援の充実が必要
  • TA(ティーチング・アシスタント)については大学院生の約28%(修士35%、博士22%)、RA(リサーチ・アシスタント)については大学院生の約4%(修士0.1%、博士13%)が受給するにとどまっている状況
【対応・要求内容】
  • TAを活用して学部の学生実験実習を支援(TAを通じて大学院生が学部教育の実験、実習、フィールドワーク等を充実) 105億(新規)
  • 上記のために大学院生をTAとして雇用することによって、実質的に給付型の支援を充実(大学院生の約1割(約2.6万人)をTAとして新たに雇用)
【政策目標】
  • 優秀な大学院生が、経済的理由で進学を断念しないよう十分な支援を措置
  • 大学の教育研究活動を充実強化
  • 大学院生の大学教員や研究者としての基礎的素養の醸成

4 就職支援や学生生活支援の推進 88億円(41億円)

【背景・課題】
  • 雇用情勢の悪化から、新規学卒者の求人状況も厳しさを増しており、学生が自己の能力と適性に応じた就職ができるよう、学生の就職支援の取組等を強化
【対応】

「大学教育・学生支援推進事業」(就職支援や学生生活支援の推進プログラム)において各大学における総合的な学生支援の取組を支援
    • 就職相談窓口の充実など学生の就職支援の環境整備を行う取組
    • インターンシップ等を組み入れたキャリア教育体制を構築する取組
    • 産学官による地域・社会ニーズを踏まえた実践的な短期教育プログラムの開発による若者等の就業能力開発支援の取組
    • 学生の薬物(大麻等)乱用防止など学生支援推進のための取組
【要求内容】

大学教育・学生支援推進事業(就職支援や学生生活支援の推進プログラム) 45億5千万円
22年度に455件の取組を支援(1件当たり1千万円)(23年度以降継続)

【政策目標】
  • 大学等の新規学校卒業者の就職率を向上
  • インターンシップ等を有効に組み入れた、体系的かつ実践的なキャリア教育体制を大学等に構築し、学生の職業への円滑な移行
  • 失業者・ニート・子育て終了後の女性の再就職が期待される分野で、産学官による短期教育プログラムを展開
  • 学生が関わる事件・事故を減少

5 大学教育の質保証と高度な教育研究拠点の形成支援 499億円(478億円)

【背景・課題】
  • 学生や産業界等社会からの今日の多様なニーズに応えつつ、国際的通用性のある、質の高い学部・大学院教育を実現することが必要
  • グローバル化の中で、国際競争力のある大学づくりの観点から、国際的に卓越した教育研究拠点を形成することが必要
【対応】
  • 質の高い学部教育及び大学院教育に向けたリーディングケースを支援するとともに、産業界等社会からのニーズが高い分野における専門人材養成に係る教育の質保証の仕組み作りを産学等連携により実施
  • 国際的に卓越した教育研究拠点の形成を支援
【要求内容】

(1)教育の質の保証関係
    • 大学教育・学生支援推進事業(教育課程、成績評価基準など学部教育の改革支援プログラム) 69億円(69億円)
    • 組織的な大学院教育改革推進プログラム 57億円(57億円)
    • 産学連携による分野別の評価活動支援事業 10億円(新規)
(2)高度な教育研究拠点形成関係
    • グローバルCOEプログラム 349億円(342億円)
    • 先導的ITスペシャリスト等育成推進プログラム 13億円(9億円)
【政策目標】
  • 学部教育鷺大学院教育の質の保証・向上による、我が国の発展を担う人材の輩出と研究者の養成
  • 優秀な教員・学生を結集させた、国際的に卓越した拠点の形成

6 産学連携による分野別の評価活動支援事業 10億円(新規)

【背景・課題】
  • 設置基準と設置認可審査による「事前規制」から、平成15年の認可事項の縮減等や平成16年度の認証評価の導入により「事前規制と事後確認の併用型」に転換
  • 大学教育において保証されるべき質の対象には、教育課程の内容・水準、教育研究環境の整備状況など様々な要素があり、その保証は、各大学が責任を持つことが大前提
  • 今後、公的な質保証の取組に加えて、大学関係者及び関係業界関係者による、分野別の質保証の仕組みを確立することが課題
【対応】
  • 大学と産業界や学協会等が連携して行う、評価活動等を含めた、各分野毎の専門的人材養成教育の質保証の取組を支援
【要求内容】
  • 産学連携による分野別の評価活動支援事業 10億円(25件×40百万円(2年間支援)(事業は5年間の継続事業とし、社会的ニーズの高い分野を計画的に支援)
    • 評価基準・方法の開発や評価者の育成等評価システムの構築
    • 到達目標の設定、カリキュラム、FD等の共同開発・共同実施 等

7 大学のリソースを有効に活用した大学間連携・共同利用の促進 90億円(60億円)

【背景・課題】
  • 大学の機能別分化を踏まえて、その教育研究資源を有効活用することが必要
  • 地域社会の様々な課題に対応した地域貢献活動や地域で活躍する人材育成を図るためには「大学だけでは実現が困難であり、大学間連携が必要
  • 地方自治体の首長などから大学間連携による教育の充実や地域活性化への期待が高い。
【対応】
  • 1大学だけでは実現困難な課題に対して複数大学が連携・共同した取組を支援
  • 例えば、1)教育の相互評価や共通教材の作成、2)各種教育関連施設の共同利用、3)地方自治体等とも連携した人材育成 等の連携取組を推進
【要求内容】

大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム
90億円(22年度新規選定 35件×5千万円~1億円 過年度選定取組とともに支援)

【制度面におlナる取組】

教育・学生支援分野において複数大学が共同利用するための拠点を整備・運営するに当たっての大臣認定制度として「教育関係共同利用拠点制度」を創設。(学校教育法施行規則改正等)

【政策効果】
  • 全国各地域で国公私を超え、大学の力を結集させた教育の充実と地域活性化
  • 学生に対してより良い教育研究環境を提供(例えば、単位互換制度を活用した受講科目の拡大や実験・実習機器の相互利用)
  • 複数大学で地域社会の諸課題への対応や地域で活躍する人材の育成を実現(例えば、大学窓口の一本化、環境問題への対応や地域病院と連携した医療人材の育成)

8 国立大学法人運営費交付金の充実 1兆1,833億円(1兆1,695億円)

【現状・課題】

(運営費交付金全般)
  • 近年の歳出改革などにより、平成16年度の法人化以降、国立大学法人等に対する基盤的経費である運営費交付金は大幅に削減(▲720億円減)され、日常的な教育研究活動に支障が発生(国立大学法人運営費交付金 H16:12,415億円→H21:11,695億円(▲720億円、▲5.8%減)
(附属病院の運営)
  • 地域医療の崩壊を背景として、従来にも増して地域の中核的医療機関としての大学病院の医療ニーズ(周産期医療、救急医療、高度医療等)が拡大
  • 一方で、国立大学病院の重大な使命である教育研究機能が弱体化(例:教育研究時間の減少、論文数の減少)する傾向
(授業料等教育費負担)
  • 昨今の経済情勢の悪化により、経済的理由により大学進学や入学後の就学の継続を断念するなどの例が顕在化しており、国立大学法人の使命である経済状況、居住地域等に左右されない「教育機会の保障」の確保が必要
【対応・要求内容】

(運営費交付金全般)
  • 国立大学法人等における教育研究活動の水準を維持・向上させ、各法人の個性あふれる発展を継続的・安定的に支援するための基盤的経費である国立大学法人運営費交付金を確保
  • 国立大学法人運営費交付金において、大学が目指す方向性を踏まえた教育研究の取組に対し重点支援をするなど新たな仕組みを導入
(附属病院の運営)
  • 教育・研究・診療機能の充実を図るため、小児科、産科等の地域医療ニーズが高く、かつ採算性が低い診療部門(標記に加えて、周産期医療、救急医療、高度医療等)への支援を行い、財政基盤を強化することで自律的な病院運営を実現
(授業料等教育費負担)
  • 経済的困窮者(免除適格者)の増加率に応じて、既定の授業料等の免除枠を拡大 203億円(189億円)(授業料免除率 5.8%→6.2%など(新たに約2,500人分の授業料免除などが可能)

9 私立大学等経常費補助の充実 3,403億円(3,218億円)

【背景・課題】

私立大学等は、我が国の高等教育機関の約8割を占めており、高等教育機会の提供に寄与。今後とも、その役割を果たしていくためには、それぞれに期待される役割・機能を十分に踏まえた教育研究を展開するとともに、経営の健全性を高めることが不可欠である。
また、今般の経済状況等を勘案し、私立大学生の修学上の経済的負担の軽減を図る必要がある。

【要求内容】

私立大学等の運営に必要な基盤的経費を確実に措置するとともに、各大学の個性特色を生かした教育の質の向上、研究の振興、経営の健全性の向上、学生の経済的負担の軽減等を図る。
  • 戦略的研究基盤形成支援事業(研究費分)の拡充 17億円(10億円)
  • 授業料減免事業等への支援の拡充 135意円(20億円)
  • 未来経営戦略推進経費の拡充 22億円(12億円)
  • 地方における高等教育機会の提供支援 54億円(-)
【政策目標(達成内容)】
  • 各大学の個性特色の明確化
  • 私立大学等の経営の健全性の向上
  • 学ぶ意欲のある私立大学生への修学機会の確保