2009年11月2日月曜日

教員の基礎資格の高学歴化

今、政権交代に伴う、いくつかの大きな教育政策の転換が大きく取り沙汰されています。

そのうち、教員養成に関わる政策課題としては、「免許状更新講習制度の廃止」問題、さらには、「教員養成6年制の導入」問題があります。

先日、我が国の教員養成系大学・学部が加盟する日本教育大学協会が、この二つの政策課題について各会員校へ意見聴取を行い、その結果、会員校からは主に次のような意見が出されたようです。抜粋・編集しご紹介します。

「免許状更新講習制度」の廃止について

賛成意見
  • 10年研修等など教員研修システムの中での検討課題が残されており、廃止に異議はない。
  • 「最新の知識技能を身に付ける」という点で意味のないことではないが、日々の実践と学んだ知識技能を結びつけるのは、個々の教員まかせとなりその効果は限定的。
  • 教員免許状の発行権者でも任命権者でもない大学に、免許状の失効にかかわる権限・責任が任されていること、不適格教員の排除も目的とされているところがあること、受講料負担を含め、個人の責任とされていること、など問題が多い。
  • 将来的なことを考えるとできるだけ早く廃止すべき。今後の教員養成制度を構築するなかで、免許状更新講習制度は大幅に変更せざるを得ない。
  • 実施する大学の負担が非常に大きいし、受講生、学校、教育委員会の負担の重さもあり、中止することもやむを得ない。
  • 「更新制」と「更新講習制度」は分けて考えるべき。30時間の座学中心の講習制度は、現場のニーズに合致しているか疑問。別の形の研修制度と組み合わせるのが現実的ではないか。
  • 各都道府県により講習内容がまちまちであり、教員の質保証の妥当性が充分あるとは言い難い。
  • 10年経験者研修との関連性が明確でないし、免許状更新講習制度は知識のリニューアルが目的であり、問題教師の排除を目的とするものではないことが理解されていない。
  • 教員研修は県教育センター中心に実施され、県も市町村も学校もそれぞれの企画が特色をもって行われていることが多く、現行の研修制度に屋上屋を架す制度の感が否めない。免許状更新講習は教育委員会の各種研修に吸収するのが妥当。
  • 受講者(教員)は、実践現場の対応に追われ全体に時間的なゆとりがなくなり、子どもと向き合う時間不足から焦燥感を抱いている。免許状更新講習のため学校を空けることで、かえって学校現場が忙しくなり、従来の学校単位の実践的な研修が弱くなっている。学校がもつ基本的業務を見据えて、学校本来の機能回復を念頭に制度設計をやり直すことが必要。
  • 学校内の教員同士の模擬授業などの実践的な研修が、その学校の児童生徒の学力向上に資することは、全国学力状況調査で明らか。教師の専門性の向上にとっては、それぞれの学校現場に密着した研修システムを構築し、こうした学校現場の取り組みを大学が支援することが「教員の資質能力の保持」に必要ではないか。
  • 小・中・高及び特別支援を含む全ての校種の教員に対して同じ講習でよいのか、10年に1回、30時間の講習で「更新」の意味があるか問題が多い。

反対意見
  • 教員という職業は高度に専門的な職業であり、常に継続的な研修・研究が必要。免許状更新講習制度は大学を中心とした外部機関が研究的視点から行うところに意義がある。
  • 大学側の負担が大きいにもかかわらず取り組んだのは真の教員研修研究の体制づくりにつなげられる可能性をもつと理解・納得したから。発足して1年で廃止することは政策的観点から理解できない。
  • 始めたばかりの制度を評価や分析、総括しないまま廃止することは反対。効果を判定した上で廃止するどうかを決めるべき。

「教員養成6年制」の導入について

賛成意見
  • 6年制を実現する場合、単純に期間を延長して6年間で教員免許を与えるのではなく、4年卒業後教員として10年程度経験した者に、5~6年の期間中に大学院で修士の学位を取得させ免許状を更新する制度が望ましい。
  • 修士の学位を取得した者にその後15年程度の教職を約束し、その後何らかの研修を経て終身雇用あるいは管理職への登用する制度を検討すべき。
  • 6年一貫教育の意義は、平成9年の教育職員養成審議会答申「新たな時代に向けた教員養成」でも指摘されている。
  • 教員養成大学・学部は、学部課程の教育システムの改善と大学院へ連続するカリキコラムのグランドデザインを策定する責任がある。
  • 高度な教員養成をめざして県・市とも連携し「実践性」「総合性」「地域性」の理念をもとに、学部と大学院をつなげたカリキュラムに実現を図ることが必要。
  • 教育に関する優れた実践力・指導力を有する教員の養成は欧米並みの最低5年以上の高等教育による教員養成が望ましい。
  • 教職大学院の教育課程で示されている指導力の養成に加えて、本来の教科に関する知識の蓄積と授業力の強化も不可欠であり、教職大学院と教育学研究科修士課程とを融合させた教員養成を進める必要。
  • 教員養成の高度化・専門職化の観点からは4年制の教育で不十分であることは明白。
  • 開放制における教員免許取得を今後も維持するならば、一般学部から教員になる方法として、教職大学院の在り方を早急に検討すべき。
  • 教科専門の在り方を抜本的に見直すことも必要で、学部間・大学間の連携を大胆に推し進めることもあわせて検討すべき。
  • 教科の力が不足していることに対する危惧からは6年制への移行に賛成だが、教員を目指す学生を対象とする奨学制度の整備が不可欠。
  • 学部4年+修土2年の連続したカリキュラムの策定、ニーズを調査した上で学部に6年一貫コースを設けてはどうか。
反対意見
  • 将来的には6年制に移行すべきと考えるが、現在の体制のまま安易に移行することは反対。
  • 教員養成の真のカリキュラムを開発し、それを日本のスタンダードなものとして、それの試行の結果、6年制への移行がどうしても必要であるとの結論を得られた特に移行すべき。
  • このまま6年制に移行するならば、緒についたばかりの教職大学院制度への問題も生じる。
  • 具体的な制度設計が示されない段階では、十分な検討は困難。必要なことは教員に求められている資質能力の水準についての到達目標を明らかにすること。そのうえで、学部4年の制度で済むのか、6年制が必要なのか問われるべき。
  • 理念的、理想的には是とするが、その具体的制度設計については多くの課題があり、十分な現状分析を踏まえた検討が必要。
  • 免許制度との関連で、どのような制度設計がなされるのが不透明。
  • 6年制になることにより、教員養成学部に進学を希望する受験生の確保が問題となり、薬学部の修業年限問題の鉄を踏まないことが肝要。
  • 6年制よりも4年制を基本として、新任教員の研修の在り方を見直すことが先決。
  • 現在の教員養成が開放制と免許主義に基づいてい行われている以上、それを制度改革として教員養成6年制を導入するのは困難。
  • 現在の修士課程を足せばいいという議論ならば暴論であり、6年間かけて何を教育するのか議論が必要。免許更新講習の廃止の議論は容易いが、教員養成6年制問題は安易に考えることはよくない、時間をかけて議論しそれを国民に知らせることが大切。

その他の意見

  • 現在、教育批判(国民総教育評論家)に一般論に流されず、国として幼児からの教育はどうあるべきか、これとの関連で国は高等教育(教員養成教育)にどうかかわる(責任をもつ)べきかについて、本質的な議論をなすべきで、現状の対症療法的・対策論的な議論だけではないものを組織すべきである。
  • 教員養成大学(単科大学)や総合大学の中での教育学部は、免許状の関係から開設授業科目が多いため、教員や設備への財政措置が十分でなく大学運営が危機的状況である。
  • 教員養成大学の人件費比率は7~8割であるが、これは法人化前からの構造であり、その中で人件費の抑制及び効率化係数による運営費交付金の削減は、大学存立の危機に関わる極めて大きな問題である。
  • 法人化後、財政面で大学運営に競争的原理が持ち込まれたことにより、大学間格差がさらに拡大し特に教員養成系大学は早晩経営が成り立たなくなる。
今後の教員養成制度、教員免許制度に関する政府の正式な政策方針は未だ示されていません。関係者はマスコミ報道に翻弄されることなく、冷静な判断のもと、迅速で的確な検討を進めることが求められています。