2010年3月12日金曜日

SD研修プログラムの在り方

去る2月23日、国立大学協会から、各国立大学長あてに「SD(スタッフ・ディベロップメント)に関するアンケート調査結果について」と題する報告書が届きました。

これは、昨年5月に国立大学協会が行ったSDに関するアンケート調査のとりまとめ結果と、調査結果に基づき作成された各大学におけるSD研修の在り方(基本的方向性)を内容としたものです。

大学におけるFDはもとより、SDの重要性については、読者の皆様も十分ご理解のとおりですが、今回国立大学協会から示された内容は、各大学がSDを推進して行く際の指針として活用することが期待されると考えましたのでご紹介したいと思います。

SD(スタッフ・ディベロップメント)に関するアンケート調査報告


1 調査実施に係る経緯

中央教育審議会は、平成20年12月24日に開催された総会において、我が国の学士課程教育が、社会からの信頼に応え、国際的通用性を備えたものとして発展するよう、その改革の必要性と具体的な改善方策について提言した「学士課程教育の構築に向けて(答申)」をまとめ、学士課程教育における方針の明確化について、1)学位授与の方針の明確化、2)教育課程編成・実施方針の明確化、3)入学者受入れ方針の明確化など、大きく分けて3つの方針を示した。また、同答申の第3章において、各大学が組織的・総合的に学士課程教育を運用、そのための改革を推し進めるうえで、「教職員の職能開発(FD・SD)の実質化を図るための取組みが必要である」としている。

大学においては、中期目標・計画期間中の目標を達成するための措置として、ほぼ全ての大学が職員の資質向上・職能開発を掲げ、各大学において、鋭意取り組まれている。当協会主催のマネジメントセミナーにおいても適宜SD、人材育成等のテーマをプログラムに盛り込むなどにより、大学における自主的な取り組みを促してきたが、近年、セミナー参加者から「職員の資質向上の方策を教示して欲しい」、「職員の自覚を促すセミナーを検討して欲しい」等の声が、多く寄せられるようになった。

さらに平成21年6月に国立大学協会が取りまとめた「国立大学法人の幹部職員の人事交流について(申合せ)」の参考資料、今後留意すべき事項として、「各法人は、その専門性や職種に応じて、人事交流と併せて、SDによる能力向上を図るなど職員の育成のためのシステムを構築していくことが必要である。これについては、国立大学法人全体の課題として検討することも求められる。」などとしたことから、理事会において事業実施委員会が担当することとされたものである。

2 職員の研修に関する大学の現状

このような経緯を踏まえ、大学における実態を検証すべくアンケートを実施した。本調査は職員研修に関する大学の特色のある取り組みに係る資料の提供を受け、ホームページ上での紹介や、マネジメントセミナーにおける研修プログラムに組込む際の参考として、また、標準的なSD研修プログラムを提供する際の参照とすることを目的に実施しており、調査の指標に文部科学省が財務分析に用いる「大学の特性別・機能別」による分類により調査を実施した。調査結果の概要は、以下のとおりである。

(1)研修内容と実施形態等の変化

研修内容は、SDの定義が明確でないため、大学によってまちまちであるが、法人化前には見られなかった新しい視点での研修が際立って増加傾向にあることが分かった。

具体的には、1)課題解決及び論理的思考の訓練を取り入れた研修の実施方式、2)ソリューション・ビジネスへの研修業務の委託・講師の派遣等、3)国公私の枠を超えた大学コンソーシアムによる合同研修、4)国際感覚を醸成するための交流協定先での語学研修等、5)大学院修士課程への就学等々、大学において、鋭意取り組まれていることが明らかになった。

(2)研修の実態

「大学の特性別・機能別」分類によれば、旧帝大・大規模大学(学生定員が1万人以上)においては、一大学あたりの研修の平均実施件数が一番多く、研修の内容等詳細は不明だが、各分野満遍なく実施している。

なお、分野を問わず全体的に、教育支援、研究支援、知財・産学連携、地域連携に関連する研修については、平成20年度における実施件数が極端に少ないことも明らかとなった。

3 国大協における今後の研修のあり方・対応等

当協会は、これまで、学長、理事、部局長等を対象としたマネジメント研修を行ってきた。また、これ以外の研修、つまり、実務を担当する職員の研修は、現場に近い支部や大学において企画・実施する方が効率的・効果的であるため、今後も、この方向性を堅持することとするが、特に前記2(2)のような実態もあることから、次のとおり対処することとしたい。

(1)アンケート結果の公開について

今回、回答のあった87の大学及び大学共同利用機関のうち、58の大学が、提出したアンケートを公開してよいとする一方で、29もの大学が戦略的な理由と推察されるが非公開としている。このことから、公開する大学と公開しないとする大学間で公平性を失することとなるため、アンケート結果そのものは原則非公開とする。

(2)参考情報の提供等について

ただし、上記(1)に関わらず、今回、大学から提供を受けた研修プログラムのうち、特徴的ないくつかの事例等については、1)当協会主催のマネジメントセミナー等において実践例として事例紹介いただくよう、関係大学に別途、お願いすることとしたい。

また、職員の職能開発に係るSD研修が各大学において円滑に推し進められるよう、加えて業務の分野によっては極端に研修の実施が少ない分野もあるなどの実態もあることから、2)SD研修プログラムの標準モデルを作成のうえ、大学に提供することとしたい。


SD研修プログラムの基本フレーム

1 基本認識
  1. 教育研究の質の向上と強固な経営基盤の確立のためには、マネジメント力の強化が不可欠である。

  2. 国立大学を取り巻く環境や制度的枠組みが変化する中、業務の高度化・複雑化が急速に進展している。

  3. これらの要請や状況に的確に対応し得る組織づくりとそれを担う職員育成が急務である。

2 SD研修プログラムの目的

職員育成は、OJT(On the Job Training)を基本とした上で、それを補完するものとして、Off JTを組み合わせることで実効性を最大限に高めることができるとの認識に基づき、能力向上や意識改革の契機となる機会の提供を目的としたOff JTとしてSD研修プログラムを企画・実施する。

3 SD研修プログラムにおいて重視すべき要素
  1. 高等教育を取り巻く環境、政策・制度的枠組みの動向に関する理解

  2. 大学の歴史、制度・関係法令、諸外国の大学事情に関する理解

  3. 組織の効率的な運営、健全で活力のある職場づくり、人材の効果的な育成等に資する組織マネジメントの考え方・方法論(主として管理職層を対象)

  4. 問題解決、組織内・組織間の連携・協働、コミュニケーションを促進するための考え方・方法論(主として実務層を対象)

  5. 自分の大学の歴史、特色、現状等に関する理解

  6. 担当職務に関するプロフェッションを確立するための知識・考え方

    1. 教育に関する基本的知識 :教育の質の保証、設置基準、関係法令、関連政策等

    2. 研究に関する基本的知識 :大学における研究の意義、競争的資金の獲得、知的財産等

    3. 学生・キャリア支援に関する基本的知識:学生・キャリア支援の現状と課題、学生のメンタルヘルス、奨学金等経済支援、同窓ネットワーク、就職支援等

    4. 国際交流に関する基本的知識:国際交流の現状と課題、関係法令、留学生の受入れから帰国までの支援のあり方、交流協定、海外拠点等

    5. 財務に関する基本的知識 :会計の目的と財務部門の役割、会計ルール、資金・資産の効果的活用、契約方式、外部資金の獲得等

    6. 人事に関する基本的知識 :人事管理の現状と課題、労働関係法令、人事・給与制度の先進事例、人材育成施策の事例等

    7. 附属病院に関する基本的知識:附属病院の現状と課題、経営改善事例(収支改善・サービス向上等)、医療情報、リスクマネジメント等

    8. 広報に関する考え方、方法論:大学広報の現状と課題、効果的な情報発信、報道対応、HPの高度化等

    9. 情報システムに関する考え方:大学における情報システムの現状と課題、情報システムの構築・改善・維持、契約方式、セキュリティ等

    10. リスクマネジメントに関する基本的知識:ハラスメント対応、入試ミス等

    11. 社会連携に関する基本的知識:産学官連携、大学間連携、地域連携、卒業生との連携