2010年6月2日水曜日

SDの体系化と実践(3)

スタッフ・デイベロップメント(SD)の体系化と実践 (続き)

吉武博通 筑波大学大学研究センター長・大学院ビジネス科学研究科教授著 (リクルート・カレッジマネジメント161 Mar-Apr.2010号掲載)

職員が自らを成長させるための5つの条件

大学職員に求められる能力について述べてきたが、職員がそれらを身につけながら自らを成長させるためには、目的意識、質の高い職務、良き指導・助言者(メンター)、健全な職場環境、評価・処遇の5つの条件が整っていることが望ましい。

目的意識については、経営の一翼を担う気概を有する職員、ルーティン業務を着実に処理することで信頼を得たいと考える職員、学生に接することに喜びを感じながら親身に相談や質問に応じる職員など、様々であろう。大切なことはそれぞれの生き方や価値観に基づき、自分の持ち味を生かして大学に貢献する、そのような意識をもち続けることである。

職員に仕事を与えるに際しては、質の高い職務を適切に課すことを大学として常に心がけておかなければならない。仕事の目的や進め方に疑問を感じながら担当業務を処理している職員は決して少なくない。仕事の目的を明確にし、効率的に処理できる仕組みを整え、適切に職務を配分する。その役目を担うのはマネジャーである。

手本については前述したが、仕事の仕方や働き万の手本となる存在、必要な時に良き指導・助言を与えてくれる上司・先輩・同僚がいることは成長を強く後押しする。メンターと呼ばれる存在であるが、思考・行動特性を含む広義のスキルは彼らから学ぶことが多いし、どのような知識を身につけるべきかについても彼らの影響を強く受ける。

これと関連するが、職場環境の健全性も重要な条件である。フランクな対話、方針や情報の共有、新しい取組みや改善の奨励、職場内の連携・協力などが行われにくい職場では成長も阻害されよう。

最後は評価・処遇である。行き過ぎた成果主義は弊害のほうが多いが、上司や人事部門がきっちり見てくれているという信頼感や安心感がなければ意欲も長続きしない。

人材育成を目的に組織・制度・人事・研修を再構成

これまで述べてきたことからわかるように、職員の多様な生き方や価値観を尊重し、職員が自らの責任において自らを成長させることがSDの基本である。その成長を促すのはOJT(on the Job Training)であり、その効果が発揮されやすい環境を整えるのが大学の役割であると考えている。

その場合、大学は何に重点を置いてSDの環境を整えればよいのであろうか。3つに絞り、本稿のまとめとしたい。

1つめはマネジャーとメンターの育成・配置である。それ自体がSDであり、メンターについては本来自然発生的なものであるが、両方とも現段階においては意図的な育成・配置が必要と考えている。

マネジャーについては、同じ部課長級であっても組織を束ねるマネジャーと専門知識や経験を生かした上級スタッフの2種類の役職を設け、前者については、学内外で開催されるマネジメントプログラムの受講を義務付けるなど、マネジャー教育の徹底に力を注ぐ必要がある。

メンターについてはマネジャーがその役割を果たすことも多いだろうが、それに加えて、メンターの役割を担い得る人材をみつけ、戦略的な人事配置を行うとともに、後輩の指導をしながら自らも育つ仕掛けとしてチューター制を導入するなど、メンターが育つ基盤を整えることも重要である。

2つめは健全な職場づくりの促進である。理事や事務局長などが気軽に職場に出かけて職員に声をかける、定期的に職員との懇談会を設けるなど、すぐにでもできる工夫で、職場の雰囲気や組織の風通しは大幅に改善する可能性がある。

3つめはOJTを補うための、学外の教育・研修機会も活用した研修体系の構築とその計画的実施である。同時に、これら研修の成果を日常業務に根づかせるための方法論を確立しなければならない。

人を育てるためには、組織、制度、人事、研修などの総点検が必要であり、SDを掛け声倒れにしないためにも、それらを人材育成という1つの目的に向けて再構成する必要があると考えている。(おわり)