2010年9月5日日曜日

研究の前にモラルの修得を

最近、研究不正に関する2つの記事が目にとまりました。一つは、琉球大学大学院医学研究科の教授が学術誌に発表した論文に不正があったとして懲戒解雇された件、もう一つは、宮崎大学農学部教授による研究成果報告書に実験内容のねつ造が認められた件です。

研究者が命とする「論文」がデーターのねつ造で作成されたり、ほかの論文の無断使用などで成り立つ ことがあるとすれば、それはまさに犯罪行為です。研究不正については、この日記でもこれまで何度も取り上げていますが、研究者の人間としてのモラルの低さ、機能しない不正防止策にはいいかげんいやになります。特に国立大学法人の場合、研究資金は、内部からだろうが外部からだろうが、ほとんど税金が原資です。納税者への謝罪と当事者や責任者への厳罰など真摯な対応が求められます。


論文不正 組織としての防止策を(2010年8月29日 沖縄タイムス)


「大学の研究の自由は、不正がないという前提で保障されている。不正論文は大学を死に至らしめる重大な誤りだ」

数年前、論文のデータ捏造(ねつぞう)が発覚した関西の大学で、責任者はそう謝罪し、信頼の回復を強調した。

真実を追究する研究にとって、疑義を生じさせる不正はそれだけ深刻で、研究全体の信頼を損なう恥ずべき行為ということだ。

琉球大学大学院医学研究科の40代の教授が学術誌に発表した論文に不正があったとして懲戒解雇された。

実に、かかわった50編のうち38編で、過去の実験結果を毎回の結果のように装い使い回し、ほかの論文で使ったデータの出典を明示せずに別の論文に転用したりしていたという。

38編のうち11編は同教授の指導の下に書かれた大学院生の学位論文だった。これにより学位が取り消される可能性もあるというから、影響が懸念される。

同教授は「データを偽造したと言われても仕方ない」「論文作成のルールに疎かった」など不正を認めている。あまりに稚拙な言い訳とモラルの低さに驚く。

論文不正に対し琉大側は会見で「医学研究の信頼を著しく失墜させる行為」「多数の大学院生の学位が取り消される可能性を考えると、社会的にも大きな問題」と説明している。38編という数の多さからすると、その根は深く、気付かなかった責任もまた問われる。

不正の発覚は、論文が掲載された米学術誌の編集責任者からの指摘によるものだった。

大学内では、どのように研究結果を評価し、学位審査などが行われていたのだろうか。その仕組みを明らかにした上で、倫理綱領や相互評価の仕組みなど、再発防止のためのルールを構築すべきである。

同教授の研究には文部科学省の科学研究費など公的な資金も使われていたという。それ自体、納税者を裏切る行為であり、自主的に研究費を返還するなど襟を正してほしい。

学位が取り消されるかもしれない学生には気の毒ではあるが、この問題は不正を防ぐ教育など若い研究者たちへの取り組みが必要なことを浮き彫りにした。

過去の不正に学びながら、研究者としてのモラルを育てるのも大学側の仕事である。

2005年、韓国のソウル大で最先端とみられた胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究論文のデータ捏造が表面化し、世界に衝撃が走った。国内でも論文の盗用やデータ改ざん、捏造など不正が相次いでいる。

競争が激化し功を焦るあまり、不正のわなに足を踏み入れるのだろう。しかし不正は研究者生命を絶つ「自傷行為」である。研究者として守るべき倫理基準を絶えず確認してほしい。

研究者個人はもちろん、不正が起こらない環境整備など、組織として信頼回復に取り組むべきだ。