2010年9月15日水曜日

第一期の変化を踏まえた第二期における課題

国立大学の法人化に関する検証については、既に文部科学省により「国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)」が取りまとめられていることはご案内のとおりです。


実は、最近、国立大学協会内部でも多面的な観点から検証が行われていることを知りました。

9月1日(水曜日)に開催された国立大学協会経営委員会において配付された「第一期中期目標期間の検証について」という資料から、「第一期の変化を踏まえた第二期における課題」として整理された内容を抜粋してご紹介したいと思います。

関係者の皆様におかれては、今後の参考になるのではないかと思います。

組織体制(経営委員会)

  • 学長が法人の長となる仕組みについては、有効であったとの意見が多い。
  • 学長を中心とした迅速なトップダウンによる意思決定が可能となったが、法人化以前に行われていた教授会などといった各部局からのボトムアップ型の大学運営からの移行が円滑に行われているとは言い難い。これらのボトムアップの意思を大学全体の意思決定に組み込みつつ、迅速な意思決定を図ることが必要である。
  • 教育研究評議会及び経営協議会については、その委員が大学全体の教育研究面、経営面の現状等について充分理解したうえで、一部の利益にとらわれず大学全体の発展に寄与する助言を行うことが重要である。教育研究評議会の委員については、各部局の代表としての立場に加え、大学全体の立場で考えるよう変化が生じており、引き続き意識改革が進むことが期待される。経営協議会の委員については、大学の果たす教育研究等の機能に理解があり、そのうえで専門的見地からの助言が可能な学外者の確保が引き続きの課題である。
  • 監事の民間的発想に基づく有効な意見を学長に進言するためには、監事においては国立大学における教育研究の特性についてより理解を深める必要があると考えるとともに、学内においては緊張感を持ちつつも、学長や理事はもとより、教職員との信頼関係の構築が重要であり、引き続き双方一体となって課題を共有する環境の整備が必要である。


組織の見直し(経営委員会)


教育研究組織

総人件費の抑制や基盤的運営費の削減等の影響により、法人化のメリットを活用した上での既存の教育研究組織の改組・再編等組織の見直しが充分活性化されていない。

世界規模の経済状況の悪化に端を発した各国の財政状況の悪化に伴い、社会保障制度を始めとした社会構造に対し国民全体が大きな不安を抱えている。

このような状況のなかで、最先端の研究成果により国を豊かにする研究機能やそれらの成果に裏付けされた人材養成機能の促進は喫緊の課題であり、国内外の社会の変化に適切に対応した教育研究組織の整備が必要である。

一方で、従来より国立大学において行われてきた、将来、ノーベル賞につながるような自由な発想による萌芽的な基礎研究、またリベラルアーツの厚み、インド哲学やサンスクリット語などといった希少な学問分野にわたる必要な人材養成の維持などについても国立大学法人に課せられた重要な使命であると考える。

これら国立大学の使命を引き続き果たしていくために必要な教育研究組織の整備にあたっては、各国立大学が法人化のメリットを最大限活用できるよう、継続的かつ安定的な制度面・財政面での国によるフォローアップが必要不可欠である。それと同時に、各国立大学においても継続的な教職員の意識改革を図ることにより、大学改革の取り組みが促進される環境の醸成に努めた組織の見直しを促進することが必要である。

事務組織

教育研究組織に比べ各大学において積極的にメリットを活かし、スタッフ制の導入や部局事務の一元化、中間職制度の整備を図るなど見直しが進んでいる。他方、組織が複雑化し外部から見えづらいなどの問題も発生している。

第1期中期目標期間を終え、未だ法人化後に生じた新たな事務の所掌が不明確であるための混乱や一部の部署への業務の偏り、また各種外部資金の処理方法が異なることによる円滑な事務体制確立の阻害など、様々な課題を残している。

国立大学における教育研究活動の推進を支えていくため、事務組織についても更なる業務の効率化を目指し、不断の改革に努める必要があると考える。

国立大学における財務制度(財務・施設小委員会)


法人化による変化を今以上に活用するためにも、また的確な情報を開示するためにも、制度上に未だ残る問題を解消していくことが重要であると思われる。

特に、財政の透明性や公正性を確保し、法人の運営状態を明確にするために、まずは、一般的に理解しにくい用語等の問題を解消し、さらに複雑な国立大学法人会計基準そのものについても見直し、ステークホルダーの理解を深め、広範な支持を得るようなものにする必要がある。

施設整備・安全管理(財務・施設小委員会)


各国立大学法人の業務を着実に遂行するためにも、長期的視座からのキャンバスプランと施設改善計画を策定し、資金を戦略的に整備に充てていく等のより効率的な施設マネジメントを推進していく必要がある。

同時に、国との連携協力関係を一層強化し、国立大学法人等全体に係る適切な施設整備計画の策定や、施設整備に必要となる財源の確保が、今まで以上に積極的に行われるよう、働きかけを続けていく。併せて、各国立大学法人が自らの創意工夫により財源を確保することを容易にできるように制度の仕組みを改善することが必要である。

国立大学における公財政負担の在り方(財務・施設小委員会)


国立大学法人の自由化が進んでいる現状、それぞれの国立大学法人がそれぞれの特長を活かし、その特長的部分によって国あるいは地方への貢献をしつつ、日本の高等教育がおかれている現状を幅広く訴え、理解を求めていくことが公財政負担を認知していただく方策であると思われる。

今以上の運営費交付金の削減を避けるために継続的かつ草の根的な広報活動を続けつつ、また同時に健全な財政を維持しながら、各々の特長をいかにして育成し強化するかについてのモデル化が、今後の課題として挙げられる。

非公務員化(人事・労務小委員会)


国立大学法人を含め、日本社会を取り巻く経済的政治的情勢は未だ不透明であり、その中で生き残りを模索するためには、各国立大学法人の戦略にあった人事組織を独自に構築し、活用していくことが重要だと思われる。

退職手当の財源について、基本部分の所要額は現在と同様に国から予算措置を継続してもらいつつ使用に当たっては弾力的な取扱いを認めるなど、現在障壁となっている制度を第1期の経験から洗い出し、適切な形へ改正できるよう各方面に働きかけていく必要がある。

また、労働基準法等の法律については教育・研究・診療業務の特殊性に考慮し、国立大学法人への適用について検討することも必要である。

教職員の在り方(人事・労務小委員会)


各法人は、その専門性や職種に応じて、職員の育成のためのシステムを構築していくことが必要である。

一万で、特に若手研究者にとって、長期にわたる雇用が確保できない状況となってしまっては、いかに人事管理の面で優れたシステムが構築できようとも、大学に本来課されている高度な教育研究を継続的に発展させることは出来ないので、教育研究の継続的な発展のために、また、我が国の教育研究機関が世界に存在感を示すためにも、特に若手研究者に対する、長期的な人事戦略を可能とするシステムの構築が重要である。

また、大学の使命である教育・研究を通じた社会貢献を支えるプロとしての事務組織の構築が、様々な試みにもかかわらず未だに不十分である。今後の大学の役割を考えれば、プ□集団の育成が実現できるような、事務系職員の採用制度(学長の指揮の下、大学の運営方針に基づく事務系職員の採用)や、事務職員幹部の強化を可能にする育成システムを早急に整備する必要がある。

人事交流(人事・労務小委員会)


民間企業等も含めた外部との人事交流は、職員の能力向上や、各法人組織の刷新に資するものと考えられる。法人化による利点を活かし、様々な交流先を想定した取り組みを積極的に推し進めていくことが重要である。

そのためにも、各国立大学法人が、各法人内及びブ□ツク内において、人事交流の意義や必要性について共通の認識を持つ必要がある。

また、多様な人事交流の現実的な運用についてのノウハウや経験の蓄積、民間登用職員と各大学生え抜きの職員との意思疎通(相互理解、相互協力体制の構築等)がスムースに進むような工夫等について、学長の自主的・自律的判断を支える情報提供体制の充実等も進める必要がある。