2010年12月29日水曜日

今年も感謝で一年を終えます

今年もまもなく終わろうとしています。皆様にとってどんな一年でしたか?

人によりいろんな総括の仕方があろうかと思いますが、最後は”この一年の自分を褒め、お世話になった方々に感謝する”というごく当たり前のことに尽きるのではないかと思います。

今年もこの日記を気にかけていただき誠にありがとうございました。皆様にとりまして、新たな年がよりハッピーな年となりますよう心からお祈りいたします。

2010年12月26日日曜日

国立大学法人運営費交付金の削減止まらず

2011年度政府予算案が12月24日に閣議決定されました。民主党政権になってからは2回目(概算要求段階から取り組んだという意味では初めて)の予算編成でしたが、ここ数日の各紙の報道を眺めてみると、厳しい論調ばかりのようです。

文部科学省関係予算]、とりわけ国立大学法人の基盤的経費である運営費交付金]についての詳細については未だ十分に明らかになっていませんが、文部科学省が各国立大学法人に配布した資料によれば、平成23年度の運営費交付金の総額(大学共同利用機関法人を含む)は、前年度予算に比べ、約58億円(0・5%)減の1兆1,528億円となっています。

国立大学法人の運営費交付金は、6年前の法人化以降、既に毎年約1%が削減(これまでの削減総額は約830億円:6年間で約26もの国立大学分が消えた計算)されてきました。このたびの予算編成における国民へのパブリックコメント「元気な日本復活特別枠」では、運営費交付金の拡充(事業番号1905:「強い人材」育成のための大学の機能強化イニシアティブ)に71,747件の意見が寄せられ、このうち97・7%が運営費交付金による事業を実施する必要があるとの声(そう思う:91.6%、どちらかといえばそう思う:6.1%)でした。

そもそも、民主党は政権交代に当たっての公約において「国立大学法人への運営費交付金の削減方針を見直す」としていました。そしてこのたびのパブリックコメントにおける多くの国民の声が現に数字となって表れなかったことはどういうことなのか。国民の一人として、財政規律と政策優先のはざまの中での決定だったのだろうと理解に努めつつも、年の暮れにいただく”通知表”としては少々納得がいかない内容でした。

関連サイト

2010年12月25日土曜日

総務省が国立大学法人の二次評価結果を公表

去る12月22日付けで、国立大学法人評価の二次評価を実施している総務省政策評価・独立行政法人評価委員会より、「平成21年度における国立大学法人及び大学共同利用機関法人の業務の実績に関する評価の結果についての意見」が公表されました。


意見の主旨は以下のとおりです。
  1. 各法人における資産の保有の必要性及び有効活用についての不断の見直しや、不要とされた資産の処分に向けた取組等を促すとともに、その見直しや進捗の適切性が国民に明らかになるような評価をすべき。

  2. 各法人の自律性に配慮しつつ、各法人の目指す方向に向けた法人の積極的な取組を促す観点から、財務情報等も活用し、引き続き学長・機構長裁量経費の活用や自己収入の拡大・一般管理費の節減等により捻出した財源の計画的な活用による資源配分の取組について、評価をすべき。

  3. 経営協議会が期待される役割を十分に発揮し、その意見が法人運営に適切に反映されているか明らかにする観点から、引き続き経営協議会に関する情報の公表状況に関する評価を行い、公表が行われていない法人については課題として評価結果等に記載するなど、その厳格な運用に努めるべき。

また、意見の締めくくりとして、「国立大学法人等は、第二期中期目標期間において、特に、国立大学法人にあっては、機能別分化を進めるものとされており、それを実現するためには、各法人において、明確なミッションを掲げ、学長等のリーダーシップの下、役員会、教育研究評議会、経営協議会を始めとした法人内の各組織がそれぞれ求められる役割を果たし、目標に向けて、法人全体として機能することが重要である。」との記載があります。

このことは、ある意味では、一部の国立大学法人においては、法人化後6年を経過した現在においても、「明確な法人としてのミッションが不在」、「学長のリーダーシップが発揮できる状態にない」、「国立大学法人法において定められた重要組織の役割が明確ではなく適切に機能していない」との疑問符を投げかけられているとも受け取れる内容であることに注意しておかなければならないと思います。直ちに検証すべきことでしょう。

意見の詳細はこちらをどうぞ
http://www.soumu.go.jp/main_content/000096038.pdf

2010年12月20日月曜日

創造性を高める

創造性を高めるにはどうすればいいか。創造性を高めるうえで最大の障害は、自分が創造的ではないという思い込みである。

そういう 思い込みにとらわれると、あなたは創造性を抑圧するよう自分の心に指令を出してしまう。その思い込みを克服するためには、メモ用紙に「私はいつも創造的で、素晴らしいアイデアをたくさん思いつく」と書き、それをポケットに入れて持ち運んで、一日に何度も確認するといい。

特定の事柄に意識を集中すれば、創造性を簡単に目覚めさせることができる。質問に答える形で自分の心を正しい方向に誘導すればいいのだ。たとえば、売上を伸ばす方法を考えるときは、「客単価を上げるためにはどうすればいいだろう?」と自問するといい。しばらく考えているうちに、新製品をつくるとか、既存の複数の製品をひとまとめにして売るといった創造的な解決策がいくつも思い浮かんでくるはずだ。

私生活でも、「私はどうすれば配偶者や友人、家族、親に感謝の気持ちを伝えることができるだろう?」と自問しよう。花束やカードを贈るといった平凡なアイデアではなく、さらに創造的な方法を考えてみよう。たとえば、美術館やスポーツのイベントに誘ってみるというのもいいかもしれない。

すぐに創造的なアイデアが思い浮かばなくても、がっかりする必要はない。深刻に考え込まずにリラックスしているときに、創造的なアイデアが思い浮かぶこともある。潜在意識は決して眠らないから、少し工夫すれば、創造的なアイデアをたえず見つけてくれるはずだ。


ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2006-06-15

2010年12月18日土曜日

科学技術の司令塔はいずこに

去る12月15日(水曜日)、政府の総合科学技術会議(議長=菅直人首相)は、2011年度から5年間の科学技術政策の方針を示す「第4期科学技術基本計画」の答申案を固めました。
政府による研究開発予算を5年間で25兆円、国内総生産(GDP)比1%とする目標を明記。現行の第3期計画を踏襲した内容となっており、来年3月に閣議決定するようです。

科学技術基本計画とは、総合科学技術会議のホームページには、「平成7年に制定された「科学技術基本法」により、政府は長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行することとなりました。この基本法の下で、これまで第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)の基本計画を策定しています。そして、第3期基本計画が、平成18年4月から次の5年間をにらんでスタートしました。総合科学技術会議は、この基本計画の策定と実行に責任を有しています。」と書かれてあります。

では、科学技術基本計画を策定している総合科学技術会議とはどのようなところなのでしょうか。同会議のホームページには、「総合科学技術会議は、平成13年1月の中央省庁再編に伴い、「重要政策に関する会議」の1つとして内閣府に設置されました。内閣総理大臣のリーダーシップの下、科学技術政策の推進のための司令塔として、わが国全体の科学技術を俯瞰し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行っています。
総合科学技術会議は、現在、原則月1回開催されており、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員などが出席しています。会議では、1)科学技術に関する基本的な政策についての調査審議、2)科学技術予算・人材の資源配分などについての調査審議、3)国家的に重要な研究開発の評価などを実施しています。」と書かれてあります。

このように、総合科学技術会議は、我が国の科学技術に関する重要政策を推進する”司令塔”として設置されているわけですが、高次元の話し合いばかりやっているわけではないようです。


譲れない「・」 科学技術か科学・技術か、専門家バトル(2010年12月16日 朝日新聞)

「科学技術」と「科学・技術」。表記をめぐり、譲れない攻防が続いている。学者の国会とも呼ばれる日本学術会議が「科学・技術」を使うのに対し、科学技術政策の司令塔の総合科学技術会議は再び「科学技術」に戻した。「・」にこだわる背景には、政策の方向をめぐる意識の違いがある。・・・
http://www.asahi.com//science/update/1214/TKY201012140441.html?ref=rss


学者の論争に政府が巻き込まれてやや混乱気味といった感じでしょうか。かなり国民生活から乖離した世界のようですし、こんな議論のために税金を使ってもらいたくないものですね。

関連して、山崎正和さんという方が読売新聞に寄稿されている記事を抜粋してご紹介します。個人的にはかなりうなづける内容でしたので。


学術振興に「司令塔」必要(2010年12月12日 読売新聞)

すでに旧聞に属することだが経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、もともと日本の大学予算は国内総生産(GDP)の0.5%、欧米先進国の半分にすぎなかった。それが昨今の財政緊縮のあおりを受け、国立大学への運営費交付金は毎年約1~2%ずつ減額されて、行き着く先も定かではない。旧帝大のような有名大学の場合、総予算の半分以上を授業料や付属病院の収入、それに政府の追加する競争的資金と産学連携の果実でまかなっている。

だがこれはあくまで糊口の策にすぎず、このうち外部資金を真に競争的に拡大する風土は日本にはない。大学は受け入れ機関も設けて努力しているが、不況下の企業現場は貧すれば鈍するの喩え通り、目先の利用を超えて研究を種子の段階から育てるほどの見識はない。個々の学者も自分の研究を解説し、市場を説得して資金を獲得する才覚に乏しい。弱小の私学や地方大学の場合、これに少子化と大都市集中の影響が加わり、倒産、廃校の危険さえあることを私は経験から知っている。

そのうえ大学授業料は高騰をつづけ、奨学金の拡充の見込みはなく、外国留学などを志す学生には失業の不安が待っている。大学院修了者の失業は限度に達しているのに、大学にも企業にも研究職の席は絶望的に少ない。にもかかわらず奇怪なことに、大学の新設は規制緩和で今もなおつづいているのである。

最大の問題は日本には学術振興の司令塔がなく、知的生産の将来を決める永続的な政策がないことである。文部科学省には危機感があっても、財政当局には問題意識が乏しく、政治家には政策がないという認識さえない。

必要なのは国民の総意にもとづく選択であって、持続的に一貫した戦略である。かりに高度研究は集中化を進め、地方大学には教養教育や地域に特化した研究のみを許すというなら、同時に各地の学生が自由に国内を移動する費用を給付しなければなるまい。大学の淘汰を認めて弱小大学の廃校もやむなしとするなら、廃校後の学生を救済する法的施策が必要だろう。

上山(隆大)氏も引用している福沢諭吉が力説したように、「学問社会の中央局」を定め、「百般の文事を一手に統括」する中枢を持つことが、今ほど切実に求められているときはないのである。

山崎正和(劇作家)
1934年、京都生まれ。大阪大学教授などを務め、現サントリー文化財団副理事長、前中央教育審議会会長。

2010年12月12日日曜日

教員就職率と教員の資質能力向上

去る12月8日(水曜日)に、国立大学教員養成課程の就職状況が文部科学省から公表されました。

公表資料:国立の教員養成大学・学部(教員養成課程)の平成22年3月卒業者の就職状況について(文部科学省)

今年は前年比3.0ポイント増の59.6%。やや回復傾向のようです。
文部科学省によれば、底を打った平成11年(32%)以降は、教員採用者数の増加や大学の入学定員減などにより、近年は50%台を維持しているとのこと。


教員就職率の推移

平成11年 32.0%(過去最低)
平成12年 33.7%
平成13年 37.8%
平成14年 45.0%
平成15年 52.2%
平成16年 55.5%
平成17年 56.4%
平成18年 56.2%
平成19年 56.9%
平成20年 56.7%
平成21年 56.6%
平成22年 59.6%


就職率の高かった大学
  1. 鳴門教育大学 78.3%
  2. 和歌山大学   75.5%
  3. 奈良教育大学 74.3%
  4. 愛知教育大学 74.3%
  5. 兵庫教育大学 71.9%

就職率の低かった大学
  1. 鹿児島大学   39.9%
  2. 横浜国立大学 43.0%
  3. 琉球大学       43.3%
  4. 秋田大学       44.0%
  5. 熊本大学       46.5%

前年比増加率の高かった大学
  1. 大分大学 21.5%
  2. 長崎大学 14.1%
  3. 奈良教育大学 13.9%
  4. 山梨大学 13.1%
  5. 鳴門教育大学 12.8%

前年比減少率の高かった大学
  1. 兵庫教育大学 ▲13.0%
  2. 埼玉大学       ▲  9.3%
  3. 横浜国立大学 ▲ 6.4%
  4. 琉球大学       ▲ 5.3%
  5. 和歌山大学    ▲ 4.5%

関連報道

教員就職率59・6%に上昇 国立教員養成大の卒業者(2010年12月8日 共同通信)

全国44の国立の教員養成大学・学部を今春卒業した人の教員就職率は9月末時点で前年比3・0ポイント増の59・6%だったことが8日、文部科学省の調査で分かった。・・・
http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010120801000631.html



今後、現職教員の大量退職(今後10年間に教員全体の34%、20万人の教員が退職)により、就職率そのものは全体として高まっていくことが予想されています。
しかし、一方で、経験の浅い教員が大量に誕生することが予想されるため、現在、中央教育審議会・教員の資質能力向上特別部会では、教員の質を確保・向上させるための施策についての議論が行われており、今年中には一定の方向性が示されることになっているようです。国の将来を左右する重要な課題であり、国民的議論が求められるところです。


審議経過報告(会議資料)の中から、「教員養成の在り方」に関する記述(議論の方向性)を抜粋してご紹介します。
  • 教員養成は学部4年に加え、1年から2年程度の修士レベルの課程等での学修を要すること(修士レベル化)について今後検討。
  • この場合、例えば、当面は、学士課程修了者に暫定的な資格を付与し、教員として採用された後に、必要な課程等を終了すれば、修士レベルの資格取得を可能とすることも検討。
  • また、新たな仕組みと現行の初任者研修制度との関係や、採用段階との関係も整理する必要。
  • 様々な段階で社会人等がその専門性を生かしつつ、教員を志せるようにするため、学士の教職課程を終了していない者を対象とした修士レベルの課程等を設け、修了者には、修士レベルの資格取得を可能とすることについて検討。
  • 教員養成を修士レベル化することに伴い、養成の規模や大学の組織体制の在り方、奨学金の活用等による学生の経済的負担の軽減についても併せて検討。
  • 学部・大学院等における教員養成に係る課程認定審査や設置審査をより厳格化するとともに、事後評価システムを強化し、教員養成の質の保証を図る。


中央教育審議会教員の資質能力向上特別部会における配付資料等

教員の資質能力向上特別部会(第7回)配付資料資料「審議経過報告(案)」

2010年12月8日水曜日

夢をかなえる

夢をかなえるためにはどういうステップを踏めばいいか。まず、夢をかなえる第一歩は心の中から始まることをしっかり認識する必要がある。夢をかなえるために役立つふたつの方法を紹介しよう。

夢を紙に書く。一定額のお金を稼ぎたいなら、あたかもそれがすでに実現しているかのように現在形で書くといい。たとえば、「私は○○円の年収を得ているから、ほしい物を買うお金が十分にある」という書き方をするといい。そしてその紙を一日に何度も見る。そうすればそのメッセージが潜在意識に刻み込まれるから、あなたはその夢に向って進みだすことができる。

イメージトレーニングをする。椅子に座ってリラックスし、両目を閉じる。夢をかなえたらどういう人生が送れるかを心の中で描いてみよう。視覚、聴覚、触覚などの感覚をできるだけ多く働かせよう。職場で管理職に昇進したいなら、自分が新しいポストに就いて管理職として職場の人たちに接している姿をイメージしよう。どこかで休暇を過ごしたいなら、自分が現地に行ってそこの風景を楽しんでいる姿をイメージしよう。あなたの心はそのイメージを現実に変える力を持っているのだ。

ディスカヴァー・トゥエンティワン
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2010年12月6日月曜日

どうなる国立大学予算 2

最近の報道によれば、政府は今週にも平成23年度の予算編成方針を策定し、24日の政府予算案決定を目指すようです。

国立大学関係予算を取り巻く状況は、以下のように一段と厳しさを増すばかりで、最悪の結果も想定されています。年末の政府予算案での復活を願うばかりです。

行政刷新会議による事業仕分け第一弾(11月18日)の結果
  1. グローバルCOEプログラム ⇒ 事業仕分け第一弾の評価結果(予算要求の削減(1/3程度の縮減))が反映されていない。第一弾の評価結果の確実な実施。
  2. 博士課程教育リーディングプログラム ⇒ 見直しを要する。
  3. 大学教育質向上事業等3事業 ⇒ 3事業とも廃止。
  4. 国際化拠点整備事業 ⇒ 一旦廃止し、組み立て直す。
  5. 大学の世界展開力強化事業 ⇒ 見直しを要する。
  6. 科学研究費補助金等17事業(競争的資金) ⇒ 予算要求の縮減(1割程度)。

元気な日本復活特別枠に関する評価会議(12月1日)の結果

元気な日本復活特別枠に関する評価会議(第3回)資料をご参照ください。

文部科学省分の要望のうち、事業番号1905「強い人材育成」(運営費交付金等)関係については、4段階評価のうちのB評価となりましたが、事業番号1904「総合的な学び支援」(授業料減免等)関係及び事業番号1906「若手研究人材育成(科研費を含む)」関係については、残念ながらC評価となりました。

また、文部科学省の要望については、「特別枠」の趣旨に照らして問題が大きいので、「全般的に大幅な要望の圧縮と、要求の削減による新たな財源捻出が必要」との条件が付されています。

事業番号1905と1906については、「行政刷新会議の指摘を踏まえた対応が必要」との記述もあります。

このように、国立大学関係予算については、パブコメの結果を適切に反映した評価が得られたとは言えず、平成23年度政府予算において要望額に沿った予算額が確保できるか否かについては、極めて厳しい状況にあると思われます。

今回の予算は、実質的に民主党としての初めての予算であり、今後3年間の国立大学関係予算の帰趨を決するものと言えます。

民主党の政策である「コンクリートから人へ」の理念を実行し、「強い人材、強い大学、元気な日本」を実現するために、また、現場の声・国民の声を大切にするという民主党の精神を貫徹し、パブリックコメントに寄せられた圧倒的な国民の声、危機感に溢れた現場の声が予算編成に反映されることを強く求めたいと思います。

2010年12月5日日曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (4)

職務の設定と戦力の配分


職員個々の職務遂行、組織の編成と運営という順に論じてきたが、最後に職務の設定と戦力の配分について述べたい。

大学の業務は、教育研究や学生支援など教学に関わる「直接業務」、それらの基盤となる経営に関する業務などの「間接業務」、新たな課題の設定とその企画・推進に関わる「戦略的業務」の3つに大別することができる。

直接業務は大学の本来機能そのものであり、入試や学位認定などミスが許されない業務が多い。これらの業務についても効率化は必要であるが、完璧さときめ細やかさが何よりも優先されなければならない。

そのことを前提にしながら大学全体の生産性向上を実現するためには、間接業務を可能な限り簡素化・効率化するとともに、それによって捻出した時間や労力を戦略的業務にシフトしていく必要がある。

企業では直間比率が重要な管理指標になる。つまり、営業・調達・生産などの直接部門に対して、総務・経理・人事などの間接部門が多過ぎないかが絶えず問われているのである。

学長・理事長をはじめとするトップマネジメントは大学全体の業務のバランスや戦力配置に目を配り、間接業務から直接業務や戦略的業務にシフトできるように、またそれぞれの業務においてもルーティン業務から創造的な業務にウェートが移るように、職務の設定を行い、戦力の配分を行ってい必要がある。

教職員の働く姿の中で最も強く印象に残るのは入試業務である。特に厳冬の路上に立ち受験生を誘導する職員の姿は大学ならではの光景であり、これらの地道な仕事によって大学が支えられていることを毎年実感する。

派手さや新しさはないが強い責任意識をもって着実に実行される業務と、教育研究や経営の質を高めるための創造的・挑戦的業務の両方が相俟って、大学の生産性が高められなければならない。(おわり)

2010年12月4日土曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (3)

組織の編成と運営


構成員個々の職務遂行の次に考えるべきは組織の編成と運営のあり方である。その中で本稿において特に強調しておきたいことは、「組織編成原理」、「教員と職員の関係」、「本部・部局・個々の教員の関係」である。

【組織編成原理】

最近はあまり話題にならないが、日本と米国ではどちらの生産性が高いかという議論が経営学者や企業の実務家の間で盛んであったことがある。客観的なデータをもっていずれかの優位性を説明することは容易ではないが、経験的に見て日米両国の組織編成原理には次のような違いがあると考えている。

つまり、日本の多くの組織は部・課という部門単位で機能を設定し、部門単位で活動することが多い。部や課に位置づけられた機能も大まかなものであり、部長・課長や組織内の構成員個々の権限が明記されることは少ない。それに対して、米国の場合は個々の職位(Position)ごとに責任・権限が明確であり、それが職務記述書(Job description)に明記されている。職位ごとに「report to ~」と報告すべき相手が定まっており、これらの職位を線で結んだものが組織になっているのである。どちらが優れているかは一概に言えないが、日本型は部長・課長のマネジメント能力次第で当該組織の成果や構成員の能力伸長に大きな差が生じる可能性がある。

大学の事務組織にあてはめた場合、教員が部長を務め、職員がその指揮下に入る体制や、従来の職員観の中でキャリアアップしてきた部課長の下に、優秀な若手職員が位置づけられるシステムの中で、アドミニストレーターと呼ばれる人材をどう育てるかは難しい課題である。

職員個々の能力・力量に応じて責任・権限と報告すべき相手を明確に位置づけ、関係者と連携・協力しながら自律的に職務を遂行する新たな組織編成のあり方を検討する時期がきているように思われる。

【教員と職員の関係】

これまでも述べてきたように、教員と職員を二分した身分制的要素の残る組織体制や人材配置・育成システムから、これからの大学に必要な業務を最も効果的に遂行し得る機能本位の仕組みに変えていかなければならない。

教育の企画と質の保証、キャリア支援、競争的資金獲得、産学連携と知的財産、国際連携と留学生交流、広報戦略などの業務は多くの大学において重要な戦略課題になっているであろう。それぞれに高度な知識と能力が求められ、情熱を持ってこれらの仕事に専念できる人材の配置が必要になる。

そのためには、教員、職員、外部人材などから幅広く適材を求めなければならない。ただ、外部人材の登用は人件費増にもつながるため、職務遂行能力を有した教員を専任配置するか、職員を育成して配置するかのいずれかの方法が中心にならざるを得ない。これらの職位は教員の職位でも職員の職位でもなく、高度な職務を遂行するために必要な責任と権限を付与された機能本位の職位である。
大学教員という職種は今後も残るが、大学職員というカテゴリーは次第に希薄化し、機能ごとにDirector、Manager、Coordinatorなどのタイトルを持った人材が大学の戦略課題を遂行するような体制にシフトしていかなければならないと考えている。真のプロフェッショナル集団が形成された時に、生産性は画期的に高まるはずである。

【本部・部局・個々の教員の関係】

大学運営において生産性の観点から最も改善が必要と考えられているのは、会議運営をはじめとする意思決定に関わる業務ではなかろうか。部局は自らの研究環境を守るために本部に様々な要求を行い、本部はその調整に時間と労力を費やす。同様のことは部局内においても見られ、部局執行部が個々の教員の利害調整に時間と神経を使う。全学や部局内の会議では、後々問題が起きないように些細なことまで付議・報告され、少数意見を主張する教員のために会議が長時間化することもある。
学長・部局長等によるトップダウンと教授会自治に基づくボトムアップを調和させた新たな運営システムの構築が不可欠である。詳細については別の機会で述べることにするが、国立大学を例にとると、学長権限事項、教育研究評議会付議事項、部局長権限事項、部局教授会付議事項などを、国立大学法人法や学校教育法の趣旨に基づき整理し直して、権限基準表や付議・報告基準表等の形で明確化する必要がある。惰性で評議会や教授会の付議事項としているものも少なくないはずである。

また、会議を効率化・実質化するための運営方法を議事運営責任者が身につけられるように研修やハンドブック作成等の措置を講じる必要もある。(つづく)

2010年12月3日金曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (2)

構成員個々の職務遂行


最も基本となる要素は構成員個々の職務遂行である。組織で仕事をするといっても構成員がそれぞれの役割分担に応じて職務を遂行するその総体が組織の仕事であり、業務の生産性は何よりも構成員個々の職務遂行のあり方に大きく依存しているのである。

構成員個々の職務遂行の成果を最大限に高めるためには何が必要であろうか。動機付け(Motivation)、権限付与(Empowerment)、方向付け(Direction)、行動基準(Principle)、能力・力量(Competence)の5つの要素が特に重要であると考える。

以下、それぞれについてそのポイントを述べる。

【動機付け(Motivation)】

構成員に対する動機付け(Motivation)が全ての出発点である。教育を最大の使命とする大学という組織において、教員や職員のMotivationに対する配慮が思いのほか欠けていることに強い危惧を抱いている。

自己の興味・関心に基づき研究を進めている教員のMotivationに、組織としてどれだけ気を配る必要があるのかについて明確な説明はできないが、個々の教員との対話や若手教員グループとの議論の後に、大学運営に関する問題意識を共有できたという実感を得ることも少なくない。組織への帰属意識が乏しい面があったとしても、教員も一人の構成員である。問題意識を共有し、組織運営に参加しているという実感を持つことによりMotivationが高まるという側面を大学はより重視すべきである。

職員については、近年急速に大学職員の役割の重要性が認識され、それに相応しい処遇もなされるようになってきたが、全体としてみればトップマネジメントや教員の職務に対する補完的な役割に止まり、周囲も職員自身もその認識から脱却できていないように思われる。国立大学においては特にそれが顕著である。教員と職員という身分制の要素を色濃く残す体制を、構成員一人ひとりの職責を明確にした運営体制に転換した上で、これまでとは異なる新たな職員像を確立する必要がある。職員のMotivationを高めるためにはそれがベースとなる。

【権限付与(Empowerment)】

大学職員の仕事を観察すると、課長クラスでも自身の責任と権限で物事を判断・処理するケースが極めて少ないことに気付く。教員組織の長か職員組織の上位者に決定を委ねるだけの起案者か伝達者である期間が長期にわたると、自分で新たな課題に挑戦し、リスクをとることを避ける傾向が強まる。そのことが大学組織の活性度を著しく低いものにしているのである。

国立大学の場合、生え抜き職員の課長登用がようやく進み始めたが、近年大学職員に採用される人材の多くはどのような職場でも活躍できるだけの十分な資質を有している。30歳代後半に課長や支店長に登用し、自分の責任で社外と交渉させる企業と同じように、同年代の職員を海外の大学に出向かせ一人で国際交流協定の交渉をさせるくらいにまで権限の付与を行わないと、大学の真の国際化などは画餅に終わるであろう。

【方向付け(Direction)、行動基準(Principle)】

最も生産性の高い理想的な姿は、個別の指示・監督の必要もなく、個々の構成員が自律的に的確な判断・行動、必要な連携・協力を行いながら、組織目的が達成される状態である。

そのためには、大学全体や構成員が所属する組織がどちらの方向に進もうとしているのかが明らかであり、それが構成員に十分に理解されていることと、判断・行動にあたっての原理・原則や重視すべき価値観などが共有されている必要がある。

教育研究現場や事務組織で仕事の処理や問題の解決に時間がかかったり、混乱をきたしたりすることがあるが、大学の方針に関する解釈の違いや何を優先すべきかの判断基準が明確でないことが、それらの原因であることが少なくない。

全ての構成員が理解できる形で方向付けがなされ、判断・行動の基準が明確であれば、それぞれの現場で遅滞や混乱なく業務が進行するはずである。

【能力・力量(Competence)】

能力・力量については、先天的な資質を含めて採用段階で見極められるはずであるから、組織の中で如何にその伸長を図るかが重要になる。その基本はOJT(On the Job Training)であり、それを補完する形で研修(Off the Job Training)を加えるべきである。

OJTにおいて重要なことは、これまで述べてきた4つの要素が十分に考慮されていること、自らの能力・力量の限界に挑戦するような課題が与えられること、適切な助言者が配置されていることである。

また、あくまでも補完的なものにとどまるが、大学の場合、育成すべき教員像や職員像を明らかにした上で、合目的的な研修体系を確立すべきである。部局長や専攻長などの役職に就いた教員に対するマネジメント研修のようなものも不可欠であろう。それにより、教員組織の運営の改善・効率化が進む可能性は大いにある。

業務の生産性という観点から、OJTや研修で身につける必要があるのは、具体的な問題を解く場合の発想法や手順、解決策を提案する場合の文書の作成方法、議論や説明の仕方などである。運営の円滑化や下位者への動機付けのためにコミュニケーションの重要性を理解し、その方法論を学ぶことも重要である。

また、判断力を訓練する必要もある。日々直面する問題は、瞬時または短時間に決断を下せるものか、どれだけ時間をかけても十分な結論を得られないもののいずれかである。そのどちらであるかを見極め、前者についてはその場で判断して問題を先送りしないこと、後者については期限を区切って判断をする習慣をつけることである。「検討してみる」や「考えておく」では、自身の仕事の在庫を増やし、業務のスピードを低下させるだけである。(つづく)

2010年12月2日木曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (1)

国立大学の法人化以降、各大学は様々な創意工夫を通じて、多くの業務改革に取り組んできています。

そもそも、国立大学法人の業務とはどういったものなのでしょうか。国立大学法人法には次のように書かれています。

(業務の範囲等)
第22条  国立大学法人は、次の業務を行う。
  1. 国立大学を設置し、これを運営すること。
  2. 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
  3. 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと。
  4. 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
  5. 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
  6. 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
  7. 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。

それでは、国立大学法人はこれまでどのような業務改革に取り組んできたのでしょうか。
主な業務改革については、国立大学法人評価委員会が毎年度取りまとめている「国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況」という資料に具体的に整理されてあります。

平成21年度の取組状況はこちらです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/houkoku/1298893.htm

こうした業務改革の取り組みは、今後とも継続し更なる改革を推進していかなければなりません。そのために大学人はどのようなことを自覚していく必要があるのでしょうか。

筑波大学理事・副学長・大学院ビジネス科学研究科教授の吉武博通さんが書かれた論考「大学業務の生産性をいかにして高めるか」(リクルート・カレッジマネジメント 145 Jul.-Aug.2007)が多くの示唆を与えてくれます。数回に分けてご紹介します。

大学業務における「生産性」の意味


業務の生産性を如何にして高めるかというテーマは、企業、官公庁、教育機関などあらゆる組織において常に問われ続けていくべきものである。

民間企業部門における業務の生産性は、国内外における競争の激化と顧客・投資家からの厳しい要求などを背景に飛躍的に高まっている。従業員に実質的な負担増を強いている面もあり、その真の成果については十分に見極める必要があるが、企業の取り組みに比べて官公庁や教育機関などが大きく立ち遅れていることは明らかであろう。

大学、とりわけ国立大学における業務については、教学・経営の両面において抜本的な改善が必要であり、全構成員が強い危機意識と緊張感を持って生産性向上に向けた取り組みを展開する必要がある。

公立大学や私立大学の場合、国立大学に比べると危機感も強く、より大きな努力や工夫が図られていると理解している。しかしながら、大学ごとに置かれている状況も異なり、取り組みに差があるであろうし、教学・経営の両面で大学業務全体を改めて見直せば、多くの大学で改善すべき点が少なくないことに気づくのではなかろうか。

経済の世界で用いられている生産性指標を大学にそのまま持ち込むことはできないが、教員や職員という大学における最も重要な生産要素を投入して、どれだけの質と量の教育研究成果を産み出したかという発想で、大学業務の生産性を考え、その向上に取り組むことは大いに意味のあることである。分母を教職員数、分子を教育研究成果とする分数の発想である。

その場合、分数の値を大きくするために、教職員数を減らすことに関心が向きがちになるが、そのことで我が国の大学が問われている本質的な問題の解決が図られるものではない。18歳人口の減少という量の問題への対処はもちろん必要であるが、それ以上に重要なのは教育研究の質であり、それを支える経営の質である。

国公私立を問わず多くの大学において教学と経営の両面で様々な取り組みが行われ、大学もその実態を変貌させつつある。しかしながら、トップマネジメントや教職員の意識構造、教育研究の本質的な部分、組織運営などにおいて、本来変革されるべき部分がどれほどに変わってきたのか、国際的な視野で教育研究や経営の質を評価した場合に十分な水準にあるといえるのかといった問いに、自信をもって答えられるだけの変革が行われてきたとは言い難い。

本稿においては、教育研究の質とその基盤である経営の質を画期的に向上させるために大学業務の生産性を如何に高めるかという問題意識に基づいて論を進めることにする。

業務の生産性という場合、会議や稟議などの意思決定のあり方、情報技術(IT)の利用、アウトソーシングといった目に見える部分に関心が向きがちであるが、問題を深く掘り下げて、業務の基盤となるべき構造的要素の見直しを行わない限り、根本的な解決にならない。

業務の生産性の基底をなすその構造的要素とは、「構成員個々の職務遂行」、「組織の編成と運営」、「職務の設定と戦力の配分」の3つである。(つづく)

2010年12月1日水曜日

夢に向かって走り続ける

先日、ある大学で建築家安藤忠雄氏の講義を聴く機会に恵まれた。立ち見と通路まで座席となる超満員の盛況であった。「夢に向かって走り続ける」と題し学生・若者にエールを送る内容であったが若者のみならず会場を埋めた多くの聴衆が何かしらの力をいただいた気がしている。氏を世に知らしめた「住吉の長屋」に始まり、数々の作品を作り上げる過程で行政機関や施主とのさまざまな折衝エピソード等を交えた軽妙な語りに会場は沸き惹き込まれた。

氏の作品には通常の設計者が避けて通るような行政機関への不屈の説得と調整によって実現にこぎつけた作品が多いことを知らされ、納得するとともにそのエネルギーに改めて恐れ入った。世界的に著名になってからではない時代の作品での行動であったことに驚いたのである。

自分のため、日本のために「夢に向かって走り続ける」若者が一人でも多く育ってほしいとの熱気に最後まで溢れていた。近年、若者の引きこもり内向きが指摘されているが、この講義を聞いていて若者だけはなく様々な場に現役で働く世代にも共通に求められる言葉として響いた。

現在、官民にかかわらず既存のたて組織・システム・業務所掌にとらわれていては最良の解にたどりつかない課題がほとんどである。にも拘らず従前のフレームの中で課題を処理しようとするところに大変な限界を発生させていると映る。

縦の発想から横の発想への転換が特に成熟した組織には必要な時を迎えている。

組織の枠や垣根を越えた柔軟な発想と行動ができ組織を牽引できる人材をいかに確保してゆくかが官民ともに求められているし、その動きにブレーキをかける雰囲気があってはならないのだと強く感じる。

この原稿を書いている最中に安藤忠雄氏の文化勲章受賞の報が飛び込んできた。受賞はゴールラインではなくスタートラインと発言されていた。「夢に向かって走り続けること」「夢を持ち続ける限りいつでも青春」「外から日本を眺めること」大学での講義は、これからの時代を背負う若者世代に向けられた講義であり発せられた言葉であったが、その土壌を造ってきた責任世代であり、現在もその土壌というシステムを造っているわれわれ世代も、又元気なリタイアメント世代にとっても大切な言葉であると自省させられる。(2010年11月8日 文教ニュース 第2111号 文教ニュース社)