2010年12月4日土曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (3)

組織の編成と運営


構成員個々の職務遂行の次に考えるべきは組織の編成と運営のあり方である。その中で本稿において特に強調しておきたいことは、「組織編成原理」、「教員と職員の関係」、「本部・部局・個々の教員の関係」である。

【組織編成原理】

最近はあまり話題にならないが、日本と米国ではどちらの生産性が高いかという議論が経営学者や企業の実務家の間で盛んであったことがある。客観的なデータをもっていずれかの優位性を説明することは容易ではないが、経験的に見て日米両国の組織編成原理には次のような違いがあると考えている。

つまり、日本の多くの組織は部・課という部門単位で機能を設定し、部門単位で活動することが多い。部や課に位置づけられた機能も大まかなものであり、部長・課長や組織内の構成員個々の権限が明記されることは少ない。それに対して、米国の場合は個々の職位(Position)ごとに責任・権限が明確であり、それが職務記述書(Job description)に明記されている。職位ごとに「report to ~」と報告すべき相手が定まっており、これらの職位を線で結んだものが組織になっているのである。どちらが優れているかは一概に言えないが、日本型は部長・課長のマネジメント能力次第で当該組織の成果や構成員の能力伸長に大きな差が生じる可能性がある。

大学の事務組織にあてはめた場合、教員が部長を務め、職員がその指揮下に入る体制や、従来の職員観の中でキャリアアップしてきた部課長の下に、優秀な若手職員が位置づけられるシステムの中で、アドミニストレーターと呼ばれる人材をどう育てるかは難しい課題である。

職員個々の能力・力量に応じて責任・権限と報告すべき相手を明確に位置づけ、関係者と連携・協力しながら自律的に職務を遂行する新たな組織編成のあり方を検討する時期がきているように思われる。

【教員と職員の関係】

これまでも述べてきたように、教員と職員を二分した身分制的要素の残る組織体制や人材配置・育成システムから、これからの大学に必要な業務を最も効果的に遂行し得る機能本位の仕組みに変えていかなければならない。

教育の企画と質の保証、キャリア支援、競争的資金獲得、産学連携と知的財産、国際連携と留学生交流、広報戦略などの業務は多くの大学において重要な戦略課題になっているであろう。それぞれに高度な知識と能力が求められ、情熱を持ってこれらの仕事に専念できる人材の配置が必要になる。

そのためには、教員、職員、外部人材などから幅広く適材を求めなければならない。ただ、外部人材の登用は人件費増にもつながるため、職務遂行能力を有した教員を専任配置するか、職員を育成して配置するかのいずれかの方法が中心にならざるを得ない。これらの職位は教員の職位でも職員の職位でもなく、高度な職務を遂行するために必要な責任と権限を付与された機能本位の職位である。
大学教員という職種は今後も残るが、大学職員というカテゴリーは次第に希薄化し、機能ごとにDirector、Manager、Coordinatorなどのタイトルを持った人材が大学の戦略課題を遂行するような体制にシフトしていかなければならないと考えている。真のプロフェッショナル集団が形成された時に、生産性は画期的に高まるはずである。

【本部・部局・個々の教員の関係】

大学運営において生産性の観点から最も改善が必要と考えられているのは、会議運営をはじめとする意思決定に関わる業務ではなかろうか。部局は自らの研究環境を守るために本部に様々な要求を行い、本部はその調整に時間と労力を費やす。同様のことは部局内においても見られ、部局執行部が個々の教員の利害調整に時間と神経を使う。全学や部局内の会議では、後々問題が起きないように些細なことまで付議・報告され、少数意見を主張する教員のために会議が長時間化することもある。
学長・部局長等によるトップダウンと教授会自治に基づくボトムアップを調和させた新たな運営システムの構築が不可欠である。詳細については別の機会で述べることにするが、国立大学を例にとると、学長権限事項、教育研究評議会付議事項、部局長権限事項、部局教授会付議事項などを、国立大学法人法や学校教育法の趣旨に基づき整理し直して、権限基準表や付議・報告基準表等の形で明確化する必要がある。惰性で評議会や教授会の付議事項としているものも少なくないはずである。

また、会議を効率化・実質化するための運営方法を議事運営責任者が身につけられるように研修やハンドブック作成等の措置を講じる必要もある。(つづく)