2010年12月3日金曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (2)

構成員個々の職務遂行


最も基本となる要素は構成員個々の職務遂行である。組織で仕事をするといっても構成員がそれぞれの役割分担に応じて職務を遂行するその総体が組織の仕事であり、業務の生産性は何よりも構成員個々の職務遂行のあり方に大きく依存しているのである。

構成員個々の職務遂行の成果を最大限に高めるためには何が必要であろうか。動機付け(Motivation)、権限付与(Empowerment)、方向付け(Direction)、行動基準(Principle)、能力・力量(Competence)の5つの要素が特に重要であると考える。

以下、それぞれについてそのポイントを述べる。

【動機付け(Motivation)】

構成員に対する動機付け(Motivation)が全ての出発点である。教育を最大の使命とする大学という組織において、教員や職員のMotivationに対する配慮が思いのほか欠けていることに強い危惧を抱いている。

自己の興味・関心に基づき研究を進めている教員のMotivationに、組織としてどれだけ気を配る必要があるのかについて明確な説明はできないが、個々の教員との対話や若手教員グループとの議論の後に、大学運営に関する問題意識を共有できたという実感を得ることも少なくない。組織への帰属意識が乏しい面があったとしても、教員も一人の構成員である。問題意識を共有し、組織運営に参加しているという実感を持つことによりMotivationが高まるという側面を大学はより重視すべきである。

職員については、近年急速に大学職員の役割の重要性が認識され、それに相応しい処遇もなされるようになってきたが、全体としてみればトップマネジメントや教員の職務に対する補完的な役割に止まり、周囲も職員自身もその認識から脱却できていないように思われる。国立大学においては特にそれが顕著である。教員と職員という身分制の要素を色濃く残す体制を、構成員一人ひとりの職責を明確にした運営体制に転換した上で、これまでとは異なる新たな職員像を確立する必要がある。職員のMotivationを高めるためにはそれがベースとなる。

【権限付与(Empowerment)】

大学職員の仕事を観察すると、課長クラスでも自身の責任と権限で物事を判断・処理するケースが極めて少ないことに気付く。教員組織の長か職員組織の上位者に決定を委ねるだけの起案者か伝達者である期間が長期にわたると、自分で新たな課題に挑戦し、リスクをとることを避ける傾向が強まる。そのことが大学組織の活性度を著しく低いものにしているのである。

国立大学の場合、生え抜き職員の課長登用がようやく進み始めたが、近年大学職員に採用される人材の多くはどのような職場でも活躍できるだけの十分な資質を有している。30歳代後半に課長や支店長に登用し、自分の責任で社外と交渉させる企業と同じように、同年代の職員を海外の大学に出向かせ一人で国際交流協定の交渉をさせるくらいにまで権限の付与を行わないと、大学の真の国際化などは画餅に終わるであろう。

【方向付け(Direction)、行動基準(Principle)】

最も生産性の高い理想的な姿は、個別の指示・監督の必要もなく、個々の構成員が自律的に的確な判断・行動、必要な連携・協力を行いながら、組織目的が達成される状態である。

そのためには、大学全体や構成員が所属する組織がどちらの方向に進もうとしているのかが明らかであり、それが構成員に十分に理解されていることと、判断・行動にあたっての原理・原則や重視すべき価値観などが共有されている必要がある。

教育研究現場や事務組織で仕事の処理や問題の解決に時間がかかったり、混乱をきたしたりすることがあるが、大学の方針に関する解釈の違いや何を優先すべきかの判断基準が明確でないことが、それらの原因であることが少なくない。

全ての構成員が理解できる形で方向付けがなされ、判断・行動の基準が明確であれば、それぞれの現場で遅滞や混乱なく業務が進行するはずである。

【能力・力量(Competence)】

能力・力量については、先天的な資質を含めて採用段階で見極められるはずであるから、組織の中で如何にその伸長を図るかが重要になる。その基本はOJT(On the Job Training)であり、それを補完する形で研修(Off the Job Training)を加えるべきである。

OJTにおいて重要なことは、これまで述べてきた4つの要素が十分に考慮されていること、自らの能力・力量の限界に挑戦するような課題が与えられること、適切な助言者が配置されていることである。

また、あくまでも補完的なものにとどまるが、大学の場合、育成すべき教員像や職員像を明らかにした上で、合目的的な研修体系を確立すべきである。部局長や専攻長などの役職に就いた教員に対するマネジメント研修のようなものも不可欠であろう。それにより、教員組織の運営の改善・効率化が進む可能性は大いにある。

業務の生産性という観点から、OJTや研修で身につける必要があるのは、具体的な問題を解く場合の発想法や手順、解決策を提案する場合の文書の作成方法、議論や説明の仕方などである。運営の円滑化や下位者への動機付けのためにコミュニケーションの重要性を理解し、その方法論を学ぶことも重要である。

また、判断力を訓練する必要もある。日々直面する問題は、瞬時または短時間に決断を下せるものか、どれだけ時間をかけても十分な結論を得られないもののいずれかである。そのどちらであるかを見極め、前者についてはその場で判断して問題を先送りしないこと、後者については期限を区切って判断をする習慣をつけることである。「検討してみる」や「考えておく」では、自身の仕事の在庫を増やし、業務のスピードを低下させるだけである。(つづく)