2010年12月2日木曜日

大学業務の生産性をいかにして高めるか (1)

国立大学の法人化以降、各大学は様々な創意工夫を通じて、多くの業務改革に取り組んできています。

そもそも、国立大学法人の業務とはどういったものなのでしょうか。国立大学法人法には次のように書かれています。

(業務の範囲等)
第22条  国立大学法人は、次の業務を行う。
  1. 国立大学を設置し、これを運営すること。
  2. 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
  3. 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと。
  4. 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
  5. 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
  6. 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
  7. 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。

それでは、国立大学法人はこれまでどのような業務改革に取り組んできたのでしょうか。
主な業務改革については、国立大学法人評価委員会が毎年度取りまとめている「国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況」という資料に具体的に整理されてあります。

平成21年度の取組状況はこちらです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/houkoku/1298893.htm

こうした業務改革の取り組みは、今後とも継続し更なる改革を推進していかなければなりません。そのために大学人はどのようなことを自覚していく必要があるのでしょうか。

筑波大学理事・副学長・大学院ビジネス科学研究科教授の吉武博通さんが書かれた論考「大学業務の生産性をいかにして高めるか」(リクルート・カレッジマネジメント 145 Jul.-Aug.2007)が多くの示唆を与えてくれます。数回に分けてご紹介します。

大学業務における「生産性」の意味


業務の生産性を如何にして高めるかというテーマは、企業、官公庁、教育機関などあらゆる組織において常に問われ続けていくべきものである。

民間企業部門における業務の生産性は、国内外における競争の激化と顧客・投資家からの厳しい要求などを背景に飛躍的に高まっている。従業員に実質的な負担増を強いている面もあり、その真の成果については十分に見極める必要があるが、企業の取り組みに比べて官公庁や教育機関などが大きく立ち遅れていることは明らかであろう。

大学、とりわけ国立大学における業務については、教学・経営の両面において抜本的な改善が必要であり、全構成員が強い危機意識と緊張感を持って生産性向上に向けた取り組みを展開する必要がある。

公立大学や私立大学の場合、国立大学に比べると危機感も強く、より大きな努力や工夫が図られていると理解している。しかしながら、大学ごとに置かれている状況も異なり、取り組みに差があるであろうし、教学・経営の両面で大学業務全体を改めて見直せば、多くの大学で改善すべき点が少なくないことに気づくのではなかろうか。

経済の世界で用いられている生産性指標を大学にそのまま持ち込むことはできないが、教員や職員という大学における最も重要な生産要素を投入して、どれだけの質と量の教育研究成果を産み出したかという発想で、大学業務の生産性を考え、その向上に取り組むことは大いに意味のあることである。分母を教職員数、分子を教育研究成果とする分数の発想である。

その場合、分数の値を大きくするために、教職員数を減らすことに関心が向きがちになるが、そのことで我が国の大学が問われている本質的な問題の解決が図られるものではない。18歳人口の減少という量の問題への対処はもちろん必要であるが、それ以上に重要なのは教育研究の質であり、それを支える経営の質である。

国公私立を問わず多くの大学において教学と経営の両面で様々な取り組みが行われ、大学もその実態を変貌させつつある。しかしながら、トップマネジメントや教職員の意識構造、教育研究の本質的な部分、組織運営などにおいて、本来変革されるべき部分がどれほどに変わってきたのか、国際的な視野で教育研究や経営の質を評価した場合に十分な水準にあるといえるのかといった問いに、自信をもって答えられるだけの変革が行われてきたとは言い難い。

本稿においては、教育研究の質とその基盤である経営の質を画期的に向上させるために大学業務の生産性を如何に高めるかという問題意識に基づいて論を進めることにする。

業務の生産性という場合、会議や稟議などの意思決定のあり方、情報技術(IT)の利用、アウトソーシングといった目に見える部分に関心が向きがちであるが、問題を深く掘り下げて、業務の基盤となるべき構造的要素の見直しを行わない限り、根本的な解決にならない。

業務の生産性の基底をなすその構造的要素とは、「構成員個々の職務遂行」、「組織の編成と運営」、「職務の設定と戦力の配分」の3つである。(つづく)