2011年1月17日月曜日

アドミニストレーターへの飛躍 2

日本福祉大学常任理事の篠田道夫さんが、文部科学教育通信(No259 2011.1.10)に寄稿されている「『戦略遂行を担う職員』の続編」をご紹介します。

(過去記事)アドミニストレーターへの飛躍 1(2011年1月11日)

ちなみに、篠田さんは、リクルートが発行しているカレッジマネジメント(No166 Jan.-Feb.2011)でも、「戦略立案・遂行を担う新たな職員の役割」と題する同様の論考を寄稿されています。あわせてどうぞ。

戦略遂行を担う職員 2

教学、経営職員に求められる力

教学、経営職員には、具体的にどのような仕事が求められているのか。例えば教学分野では、全入時代の中、多様な学生を育成するための教育の充実は焦眉の課題である。それは正課授業のみならず、入学前教育からキャリア教育、資格教育、情報教育やeラーニング、実習やインターンシップ教育、国際交流、学習支援や各種相談業務など多岐にわたる。そして職員は、これら正課外教育体系を中心とする業務を企画段階から担っており、職員の教育マネジメントなしに成り立たない教育分野は急速に拡大している。これまでの教育条件整備的仕事から、学生の成長に入学から卒業まで直接責任を負い、教員任せでなく「エンロールメントマネジメント」*1としてトータルに学習支援するという姿勢なしに、真の学生満足度の向上や学生の成長は望めない。教育の事務処理から、教育を共に担い教育を作るスタンスへの転換が求められている。

今注目のIR(Institutional Research)も、学習到達度や授業評価、履修実態などの各種データに基づき教育成果を検証し、改善課題を明らかにし、恒常的な教育の充実を推進する上で大きな役割を果たす。ここでもデータを持つ職員の力は欠かせない。中退率を減らす取り組みなど、従来型の課の縦割り業務では解決できない課題が急増しており、横断的プロジェクトや教育開発専門部署の設置も必要となっている。

研究領域においても同様に、研究を企業・自治体や社会のニーズと繋ぎ、地域と連携して進めることが、大学の社会貢献を前進させ、また研究の活性化を促す。自大学の研究資源を把握し、外部ニーズと結びつける「研究プロデューサー」とも呼ぶべき職員業務、外部資金を獲得するための研究計画の策定支援やテーマに基づく適切な研究チーム編成、知的財産管理などの新たな力が求められる。

これらを基盤に進められる社会連携事業の企画推進業務は、地域に存立する大学の存在意義を明らかにするもので、とりわけ、自治体や地元企業との連携は大切である。普段からこれらとつながりを持ち、かつ学内の資源を熟知している職員が、いかに知恵を出して共同事業を組織できるかが要となる。

困難さを増す経営の分野ではもちろん中心的な役割を担う。例えば財務の基本業務は、出納の予算・決算・資産管理などだが、財務の本質は収入と支出の制御、有効な投資と効果を検証し、大学目標の達成を財政面から推進することにある。そのためには事業別・学部別収支分析、財政指標の設定とシミュレーション、予算投下の優先順位判断、さらには補助金獲得政策、経費削減計画など実務型から財務分析・政策型への進化が求められる。総務・人事においても、人事計画・処遇政策・業務改革・施設計画など経営を支える戦略プランニングに軸足を移していかねばならない。

学生募集は大学の盛衰にかかわる最も中心的な市場に接している。厳しい学募状況を打破するためには、徹底した現状分析に基づく、学募事業・入試制度・広報活動の革新が不可欠だ。あわせて重要なのが、高校生ニーズの変化、高校の大学評価、競合他大学の改革や強み、売りは何か等、市場の評価や競合関係とその対応策の学内機関への発信だ。営業部隊の中心任務の一つはここにあり、市場評価・ニーズに基づく大学の特色化のための改革提起こそ学募の根源的力といえる。

人事採用担当と面談し、企業からの大学評価に日々直面する就職業務もこの点まったく同じである。大学教育の最終結果が社会人としての輩出にある以上、企業等の人材要請にも応え得る大学四年間の充実した教育システムへの改善、教養教育や資格教育が求められる。

力量の形成、発揮のシステム

こうした能力を形成するためには、学内で新任研修から年代別研修、管理者研修の体系的な実施、外部セミナーへの派遣とフィードバック、全国に設置された大学院への入学などはいずれも有効だ。しかし大切なのはSDをそれだけに解消しては駄目だという点だ。危機の時代に直面する厳しい現実課題の解決を通してこそ、実践的な開発・統治力量を育てることができる。今あらためてOJTの再構築、さらに進んだ、名城大学大学院学校づくり研究科などで定式化されつつあるOJD(オンザ・ ジョブ・ディベロップメント)による育成制度の構築が求められている。

業務提案を決定に持ち込み、事業実施をマネジメントする。この政策目標の達成行動そのものの過程に、調査・分析・研修計画を組み込み、開発と統治の力量を持続的に評価し、育成するシステムがいる。これが、高い業務目標を掲げチャレンジする中で力をつけるOJDだ。そのためには大学の戦略課題に連動した業務課題の設定と遂行、すなわち業務を処理型から政策型に作り変えることが欠かせない。「目標管理制度」とも言いうるこのシステムは、専任職員のコア業務へのシフト、開発・企画と統治・マネジメントへの力の集中を求めるが、これこそが今日、プロフェッショナルとしての職員に求められる業務である。これを中核にして、さらに、採用方針から計画的異動、考課制度、管理者選抜などトータルな育成型人事政策が不可欠である。

もうひとつ重要な点に職員の管理運営への参画問題がある。職員の役割の重要性の一般論から、経営組織や大学機構への職員参加、ポストや権限の拡大などの具体策と実行が欠かせない。運営への責任を持った参加なしには、職員の主体性の確立、急速な力量形成、真の教職協働は難しい。特に重要なのは政策決定機関(過程)への職員の正式参加だ。そのためには学内の各種委員会等へのメンバー参加に始まり、理事や副学長をはじめ幹部スタッフへの職員の任命も大切だ。教職協働から教職幹部の一体的業務遂行への進化なしには、教職の壁を越えた行政管理専門職としての大学アドミニストレーターの実現はできない。

改革を担うチェンジリーダーの育成

最後に強調したいのは、これらの課題の推進を実際に担う現場責任者、リーダーの役割である。チームで仕事をする職員にとって管理者の役割や力量は決定的だ。元気な企業は、中堅層、課長補佐クラスが会社を動かす原動力になっており、現場の実態やニーズを熟知したミドル層が、自立的な動きで経営事業の立案に関与し、市場評価を勝ち取っている。トヨタでは都下の仕事のチェックばかりの「赤エンピツ」型ではなく、「黒エンピツ」を離さない実践型の管理者育成を重視してきた。ところが大学管理者は調整型、実務チェック型のスタイルもまだ少なくない。管理者は業務(現場)と戦略の結び目におり、その自覚や資質が事業の成否に大きな影響を持つ。現場からの発信を基礎におく大学運営の構築こそが、大学の革新性を維持し、持続的な大学改革を保障するが、これを担うのが管理者だ。

年功型の打破、実力主義に基づく管理職人事の刷新や若手幹部の登用、管理業務の水準の向上は、多くの組織改革の中でも最重要課題の一つである。戦略に確信を持ちその実現の先頭に立つのは、紛れもなくこの最前線で指揮を取る管理者集団以外にないからだ。戦略を現場の言葉で語り、課員を組織し、第一線から課題を構築し事業を構想する、この敏感な市場への対応と不断の事業革新こそ、チェンジリーダーたる管理者の今日の役割に他ならない。管理者集団のアドミニストレーターの進化こそが、困難な大学改革の推進を支える。