2011年10月24日月曜日

求められる責任と権限の明確化

少し古い記事ですが、国立大学法人福岡教育大学の事務職員・寺田浩一氏が文部科学教育通信(No276 2011.9.26)に寄稿された記事をご紹介します。

この記事は、「大学のガバナンスの強化に向けた取組事例」として連載されているものの一部ですが、「効率的で責任のある大学の意思決定体制の構築」のためには、何が必要なのかを現場の目線から厳しく指摘しています。

大学内部の状況をすべてオープンにしての寄稿であり、現職の職員として所属する大学の実態を赤裸々に活字にすることは相当勇気のいることです。事例を紹介する場合は、得てしていいことづくめの内容になってしまいますし、大義名分ばかりになりがちな記事は、現場にとってはさほど役にたたないことが少なくありません。その点、この記事は、本当に悩んでいる職員にとっては役に立つのではないかと思います。多くの大学に共通しそうな部分を抜粋してご紹介します。


求められる責任と権限の明確化

一般的に、大学には会議が多い、あるいは多くなりがちと言われる。その原因を、ある識者は、教員が意思決定に関わり過ぎていること、またそのことを良とする風土が大学にあるためと分析している。教員の自治意識の高さが全員参加的な会議を生み、各教員の個性を尊重した民主的な決定が重要であるとの考えが会議を多くし、長くしているという。

教育研究に関する重要事項を審議する教育研究評議会が、学生への教育や分野横断的な研究など教学分野について徹底して議論することは大いに意義のあることであり、大学としても歓迎すべきことである。しかし、大学の管理運営に関わる課題について、4~5時間もの時間を要する会議を繰り返すことは、さほど有益なこととは思えないし、制度上も求められていないのではないだろうか。会議が出席者(列席を含む)の貴重な時間やコストの犠牲の上に成り立っていることを構成員は十分認識し、意思決定の手段が目的化することのないよう会議の効率的運用に努めなければならない。

第二期中期目標期間では、ガバナンスの強化、つまり迅速で責任ある意志決定体制の構築が特に求められている。会議においては、社会、特に保護者や学生に対して恥ずかしくない議論をすべきであり、生産性のない議論を続けるべきではない。非生産的な会議や議論が大学の経営効率化を阻害する大きな要因となることは周知のとおりである。国からの税金投入が年々削減されていく中で、大学は、権限や役割を超えた枝葉末節な議論を長時間繰り返し、結局、意思決定できないという非生産的な会議を繰り返すことは許されない。不要な会議を廃止し、必要最小限の会議の有効活用に向けた取り組みを進め、法人化の趣旨に則った運営体制を作り上げなければならない。

寺尾学長は、国立大学財務・経営センターが発行するメールマガジン(2010年7月15日付、第50号)の特別寄稿「 活き活きと働く教員をいかに養成するか」において、当時を次のように振り返っている。

「『教育の質的向上を実現し、活力ある福教大を創る』というのが、私が掲げた改革理念である。その背景には、自らの研究には熱心だが、学生の教育に対してやや関心が薄い大学教員の存在や、低迷する就職状況に対して改善策を提示できないでいる現状を変えたいという明確な意思がある。それゆえ運営組織の改革についても、熟慮した末の学長案を教育研究評議会や教授会に問うたのである。だが、これは教授会出席者の半数を超える者から激しい抵抗を受ける羽目になった。要するに、学長案による改革は性急すぎる、と言うのだった。私は、この時ほど大学教員の改革に臆する姿を目の当たりにしたことはない。「生きる力」を掲げた国の教育改革が進んでいるが、その理解が最も足らないと思われるのが、我が大学だったということだ。足元からの意識改革が強く求められている、と再確認した。」

また、国立大学協会が作成した「第一期中期目標期間の検証」(2011年2月16日)には、意思決定の迅速化、管理運営の効率化に関する検証結果として次のような記述がある。

「学長が法人の長となり、教育研究及び経営双方の最終責任者として、トップダウンによる意思決定により、強いリーダーシップと経営能力を発揮することが可能となった。仕組みは有効であったものの、法人化前のボトムアップ型の大学運営からの移行が円滑に行われているとは言い難いため、迅速な意思決定を図ることが必要である。教育研究面に関する重要事項や方針を審議する教育研究評議会が設置され、概ね適正かつ有効に機能していると考えられる。今後、現状を十分に理解した上で一部の利益にとらわれずに大学全体の発展に寄与する助言を行うことが重要である。」

私たち国立大学法人の構成員は、法人化したことの意味、すなわち国立大学法人のマネジメント改革、とりわけ民間的手法を活用した大学の経営力・ガバナンスの強化や、自主性・自律性の確保が強く求められていることを再認識し、今後とも不断の改革努力を継続していかなければならない。執行の最終責任者たる学長が、様々な場面でリーダーシップを発揮しうる権限と体制、及び教員と学長・理事との信頼関係に基づく適切な役割分担による迅速で責任ある意思決定体制の確立が求められている。