2011年11月29日火曜日

入試広報の腕をみがく(2)

前回に続き、日本私立大学協会私学高等教育研究所研究員の岩田雅明氏が、文部科学教育通信(No280 2011.11.28)に寄稿された「受験へとつなげていく広報」をご紹介します。


アクセス者を承認する

学生募集にとって、資料請求者といったアクセス者を受験者、入学者につなぎ止めていくプロセスが非常に重要であり、このプロセスを強化することで、相当程度の改善を図れることを前稿で述べた。

では、アクセス者を受験生へとつなぎ止めていくためには、具体的にはどのようにしたらいいのかについて考えていきたい。つなぎ止めるためには、関係性を常に保つことが必要となる。人間関係でも、顔を合わせる機会が無くなるとその人に対する意識が薄れてくるのと同じで、アクセスをした高校生も大学からの働きかけがないと、その大学に対する興味が薄れてくる可能性は高くなると考えられる。したがって、つなぎ止めるプロセスにおいて不可欠なのは、大学からの継続したフォロー活動である。

私も勉強のために他の大学の資料を請求することがあるが、パンフレットが一度送られてきただけで、その後は何のフォローもないという大学も少なくない。確かに表面的な依頼内容は「パンフレットを送付してください」ということであるが、パンフレット送付を希望した背景には、その大学に多少なりとも関心がある、場合によっては受験するかもしれないという気持ちも含まれているのである。その気持ちに対応しないということは、資料請求者の欲求に対して、きちんと応えていないことになる。これは非常にもったいない話である。同じ程度に関心を持った大学が二つあったとして、一方の大学は継続して資料が送られてくるのに対して、もう一方の大学はパンフレットが一度送られてきただけというような状況であれば、どちらの大学を受験先として選択する確率が高いのかは自明のことであろう。

組織づくりや、モチベーション・アップという場面で重要な働きをするものとして、『承認』という概念がある。文字通り、その人を認めるということである。人間、誰しも自分の存在や行動を認められたいという欲求を持っている(マズローの欲求五段階説でも、四段階目の人間らしい欲求として「承認の欲求」が挙げられている)。自分のことを認めてもらえれば意欲も湧くし、行動も積極的になるものである。また、人は認めてくれた相手に対しては、好感を持っものである。研究調査の結果からも、承認の存在とモチベーションの向上には相関関係が認められたということである。したがって学生との信頼関係を構築し、学生の意欲を引き出し、高いパフォーマンスを発揮させるためには、この『承認』を活用することが効果的である。

この『承認』を、在学生だけでなく、在学生候補者であるアクセスしてきた高校生に対しても活用するのである。そうすることにより、大学とアクセス者との間に、好ましい関係が構築されることが期待できるのである。承認の基盤は相手を尊重するということである。自分の大学に興味を示すという行動をとった高校生を尊重するということはどういうことかといえば、関心があるという、その高校生の気持に誠実に対応して、パンフレットだけでなく、いろいろな時期における大学の状況や、教育の特色が分かる資料を継続的に送付するということである。具体的には、新入生の大学生活についての感想や海外研修参加者の体験談、普段の生活情報、就職内定者が語る大学の就職サポート、卒業生の四年間の学生生活を振り返っての感想、といったものが掲載された資料をタイムリーに送付するのである。そうすることでアクセスしてきた高校生は、関心を持った大学の詳細な内容を理解することができ、受験するかどうかについて適切な判断を下すことができるようになるのである。

もちろん、その判断において選択してもらう確率をできるだけ高くするようにするためには教育内容の充実が最も大切なことではあるが、広報活動としては大学の内容、特に強みや特色といったことに関しては、十分に語り尽くすという姿勢が不可欠である。大学の内容を十分に知ってもらった上で選んでもらえなかったのは仕方ないことで、内容のより充実を図るしかないわけであるが、十分に知らなかったため選ばれなかったという事態は広報活動の責任ということになる。


アクセス者の行動をデザインする

最近注目されているマーケティング手法に、感性マーケティングというものがある。人の心と行動を読み解くことで、顧客をつかむマーケティング手法である。『「感性」のマーケティング』(小阪裕司著)で紹介されている、酒屋さんの事例がある。お正月向けに販売される日本酒で、普通に店に置いておいただけでは20本ほどしか売れない銘柄の酒を、感性マーケティングを活用することで売り上げを600本に伸ばし、その翌年には1080本もの売り上げをあげたという。どんなことをしたかといえば、既存の顧客に毎月毎月、ニューズレターを送ったり、蔵元を招いて試飲会を開いたりといったことで、特別な秘策を実施したわけではない。その日本酒を買うという行動を顧客に起こしてもらうためには、どうしたらいいかということを考え続け、そこから生まれてきた施策を実行したのである。

「若者を中心に日本酒離れが進んでいるから、日本酒が売れない」という言葉はよく聞く。売れない原因は「日本酒離れ」、と捉えてしまうと、そのあとの行動は生じてこない。同じように、大学の場合であれば、学部が時代遅れだからとか、立地が悪いから、大学に対する社会の評価が低いから受験生が集まらないのだというように考えてしまうと、何とかしようという行動は生じてこない。どのような状況にあっても、受験という行動をとってもらうためには何をしたらいいのかということを考えて、対応していくことが大切なことである。どの大学でも、一つぐらいは誇れる強みはあるものである。それを根気強く、分かりやすく、丁寧に伝えていくことである。これにより、必ず受験につながる比率は増えるはずである。得意とするシャンプーだけを宣伝した美容室が、売り上げを二倍とした例も前述の書籍に紹介されていた。


コミュニティーを構築する

前述の「承認の欲求」と同じく、人間にはどこかに属していたいという「所属の欲求」がある。行きつけの居酒屋を持つということも、そこに行くと落ち着ける空間があるということであると思うし、1000円床屋が出てきても行きつけの床屋に行くというのも、この所属の欲求に起因していると思われる。

大学に入学するということは、ほとんどの人の場合、初めての体験である。どの程度のサービスを受けられるかは、本来は入学してみないとわからないのである。したがって、入学前に、大学というコミュニティーの一員として有用なサポートが得られるということを確信できるということは、受験という行動をとってもらうためには非常に大切な要素である。

アクセス者に対するフォロー活動やオープンキャンパスでの対応で大切なことは、このコミュニティーの構築である。そのためには、資料請求などのアクセスをした高校生が大学生活を疑似体験できるような情報提供をすることが大切である。例えば、在学生用の海外研修や就職ガイダンスの資料を送付したり、オープンキャンパスでゼミナールを体験してもらったりすることも有用である。

未成熟な消費者である高校生に対して、責任を持ってサポートするという決意の伝達は、高校生に対して信頼感を与えるだけでなく、大学内容の改善の決意につながる重要なことである。(文部科学教育通信 No.280 2011.11.28)

2011年11月28日月曜日

入試広報の腕をみがく(1)

いよいよ受験シーズン到来です。新聞・雑誌に大学の広告が目に付くようになりました。大学広報の腕の見せどころといったところでしょうか。

限られた財源でいかに効果的な広報を行うか、いかに質の高い学生を確保するかは、少子化時代における大学の重要な戦略的課題の一つです。そこで、今回は、日本私立大学協会私学高等教育研究所研究員の岩田雅明氏が、文部科学教育通信(No279 2011.11.14)に寄稿された「広報活動の効果的な組み立てと点検を」をご紹介します。


「AISAS」に対応した広報活動

最初の「A=Attention、大学を知ってもらう」ためには、高校生が進学先選択に際して見る媒体、または日常的に目に触れる媒体に大学の情報を掲載することが必要である。具体的には受験雑誌、新聞、ポスター、看板などを使っての大学情報の提供ということになる。存在を知ってもらわなければ選ばれようがないので、広報のスタートに当たる活動である。そしてこの段階から次の「I=Interest、興味を持つ」につなげるためには、知ってもらう段階でターゲットの興味を引くことのできる情報の掲載が必要となる。この意味では、学校名、学部名と所在地だけが記載されている大学の交通看板などは、「I」につなげる機能としては不十分であるといえる。

「I=興味を持つ」につなげるためには、ターゲットにとってのメリットが情報として提供されている必要がある。メリットとして何をアピールするかについては、前述の大学の現状認識、ターゲットのニーズ把握、競合校に対しての優位性を検討するプロセスの中から出てくることになる。皆さんの周りにある看板やポスターを点検してみると、メリットとなる情報が何も掲載されていない、抽象的な表現のものが多いことに気づくと思う。それは、このプロセスをきちんと経ていないことに大きな原因があるといえる。

次の「S=Search、検索する」の段階では、アピールポイントをより具体的に、より詳細に、かついろいろな切り口で伝えることが重要となる。具体的にはパンフレットやホームページで何をアピールするかということと、オープンキャンパスをどのように実施するかということになるであろう。いろいろな大学のパンフレットを見ていると、大学が伝えたいことと、ターゲットが知りたいことの間にギャップがあると感じられるケースも少なくない。例えば、伝統のある大学はその点を強調したくなるものであるが、伝統が生徒にとってどの程度のメリットがあるものなのかについては、吟味する必要があるであろう。ターゲットが大学選択の際に重視する事項について、日頃からアンケート等で把握していれば、パンフレットに掲載する事項や、そのボリュームもおのずから決まってくるであろう。

オープンキャンパスに関しては、ビフォー・アフターのアフターである学生の成長した姿を見せることが最も効果的である。また、学んでいる立場からの説明の方が、高校生には受け入れられやすいので、学部・学科内容の説明を学生に担当してもらうということも効果的である。在学生を活用する場合には、ある程度の事前指導は必要であるが、命令通りに動くということでなく、ある程度裁量を持たせた形で協力してもらう方が、高校生に近い立場にある学生ならではの工夫が生まれ、活性化したオープンキャンパスになるように思う。またオープンキャンパスは、その大学の熱心さが最もよくターゲットに伝わる機会なので、来場者の立場に立った対応が必須である。ある受験産業の調査によると、オープンキャンパスの日に最寄りの駅に出迎えのスタッフを配置していた大学は、調査した38大学中、わずか4大学であったという。不親切さをアピールしているようなものである。ここまでの段階での対応状況により、生徒は「A=Action、受験する」へと、行動を続けていくかどうかを決定することになる。

最後の「S=Share、分かち合う」は、入学後、大学の内容を知人等に話したりして評判を広めるという行動である。これは入学後のことであるが、最初の「A=大学を知ってもらう」や「I=興味を持つ」につながる、大事な広報プロセスである。ここは、その大学のさまざまな学生サポートサービスにかかっているところであるが、良いサービスを提供していてもそれが伝わらないということもある。そのようなことのないようにするため、在学生に評判を広めてもらうシステム、例えば定期的に出身校を訪ねてもらうとか、ホームページや受験生に送る資料に在学生を頻繁に登場させ、大学の良いところを伝えてもらうといった方法も実施するとよいであろう。

大学マーケットの需給関係からして、選択権は完全に受験生側に移っている。そのような状況の中では、一般的な商品の場合と同じく、「クチコミ」マーケティングが不可欠なものとなっている。これは費用もかからず、しかも大変強力な手段である。上手に活用することが広報活動における重要ポイントの一つといってもいいであろう。


広報活動の点検

以上のような広報のプロセスが順調に流れていれば、学生募集は所期の効果を上げられるはずである。そのような結果になっていない場合には、広報プロセスのどこかに課題があるといえる。この点を点検し、修正することが必要である。

「A=大学を知ってもらう」の部分が弱いのであれば、大学を知ってもらうための媒体を増やすなど、大学名が広く知られるための活動を展開する必要がある。ここは大学に対して資料を請求してくる生徒、すなわち受験者予備軍といえる母集団を形成する段階なので、ある程度の数を確保することが必要である。どのくらいの資料請求者があればいいのかという明確な基準はもちろんないが、首都圏にある大学、短大の場合で入学定員の15から20倍程度、近畿圏で20倍程度、それ以外の地方では15倍前後あれば合格ではないだろうか。

大学名を知り、多少の興味を持った結果、資料を請求してきた生徒に対して、大学のパンフレット等を送ることになる。それを見て、ある程度の強い興味を覚えた受験生は、ホームページを頻繁に閲覧したり、オープンキャンパスに参加したりという段階にまで進んでくることになる。すなわち「I=興味を持つ」の段階を経て、「S=検索する」の段階に入ってきたことになる。この段階まで進んできた受験生は、オープンキャンパスに参加して良い印象を感じたり、大学からのいろいろな働きかけに熱意を感じたりすることで、受験へとつながることになる。この段階で受験者予備軍が受験者となるのである。これも明確な基準はないが、大学、短大では資料請求者の10から15%がオープンキャンパスに参加し、そのうちの40から50%が受験につながれば、標準的と判断してよいだろう。

このプロセスが弱い場合には、弱い部分に応じてパンフレットやホームページの内容や表現方法、オープンキャンパスの内容、実施方法等を再点検していく必要がある。高校生や保護者のニーズに対応した、その大学ならではの特色がきちんとパンフレットでアピールされているだろうか。ホームページでは、高校生、保護者に伝えたい事柄が、分かりやすく、漏れなく盛り込まれているだろうか、といったことを再点検することが不可欠である。その結果、アピールポイント自体が不十分という場合は、それを創り出すことも必要になってくる。また、オープンキャンパスの内容、実施方法についても、参加者の立場に立って企画・実施されているかどうかをチェックする必要がある。

私の個人的な感覚ではあるが、学生募集に課題のある大学は、このアクセス者を受験者へとつなぎ止めていくプロセスが弱いように感じている。逆にいえば、ここを強化することで、ある程度の改善を図れる重要なプロセスと考えられる。(文部科学教育通信 No.279 2011.11.14)

2011年11月26日土曜日

廃棄のシステムをつくる(ドラッカー)

顧客を知ることによって、いかなる成果を得られるかが明らかになる。目標を明らかにし、何を現実のものにできるかを知ることができる。

「われわれは何をしようとしているのか」「大学の質と規模を継続するには、どれだけの学力の入学者をどれだけ確保しなければならないか」

これを知っておけば結果からフィードバックすることができる。そのとき、「あれはうまくいっているが、これはあまりうまくいっていない。これにもう少し力を入れよう」あるいは「もう少し強力な者に担当させよう」「入って欲しい学生に入ってもらうには何を考えなければならないか」ということができる。

イノベーションのための戦略を成功させるには、機能しなくなったもの、貢献しなくなったもの、役に立たなくなったものを廃棄するシステムが必要である。

これを行わないかぎり、いかなる組織といえども、肥大化の挙げ句、重要な資源を成果の望みえないところへ注ぎ続けることになる。

非営利組織が常に考えるべき問題が、「顧客にとって大事な何を行うことができるか」である。そのあとで、提供できるサービスの構造を考え、提供の仕方を考え、人の手配を考える。そして再び基本に返り、何を、いつ、どこで行うかを考える。さらに重要なこととして、誰が行うかを考える。

非営利組織が応えようとするニーズのほとんどは、いつになっても消えることのないものである。人間がいるかぎり存在するものである。しかしそのニーズの現れ方は変化する。それを見つけることがマーケットリサーチの役割である。

特に、顧客であるべきなのに、サービスの提供のされ方が合っていないために顧客になっていない者にとって、それがどのようなニーズかを明らかにする。マーケットリサーチが明らかにするものは、「われわれの強みに合い、顧客を満足させるサービスを開発できるか」である。そして「動くべき時はいつか」である。

戦略があれば、行動にコミットしたも同様である。戦略の真髄は行動にある。ミッション、目標、マーケット、そして「その時」を統合したものとしての行動である。

戦略の成否は成果にかかっている。戦略はニーズに始まり満足に終わる。したがって顧客にとっての満足が何であるかを知る必要がある。

非営利組織たるものは、顧客と寄付者に敬意を払い、彼らにとって価値あることを聞き、彼らの満足を理解することができなければならない。万が一にも、仕えるべき相手に、自らの考えを押しつけることがあってはならない。


2011年11月24日木曜日

人をトレーニングする (ドラッカー)

非営利組織の戦略にとって、重要なことは人のトレーニングである。

これは、説教ではなくトレーニングによって身につけさせるべきものである。態度の問題ではない。行動の問題である。態度はトレーニングでどうこうすべきものではない。人のトレーニングは行動に関して行わなければならない。「これが行うべきことである」といわなければならない。

新しいことを始めるための戦略、イノベーションのための戦略においては、どこから誰が始めるかについて十分な思考とプランが必要である。その新しいものを成功させたがっている者から始めなければならない。最初から組織の中の者全員を関わらせてはならない。それでは必ず問題にぶつかる。機会のターゲットを探さなければならない。それを求め、信じ、コミットする者を探さなければならない。

イノベーションの戦略とは、最初の段階からこれらのプロセスを考え抜くことである。そして新しいものを成功させるために積極的に動く者、その成功が組織に乗数効果をもたらす者を確保しなければならない。

世界を変えるとの大いなる望みのもとに大々的にスタートしておきながら、五年後には「まあよくいっている。ちょっと特殊なプログラムだが」というようでは、戦略として最低である。それでは失敗である。資源の使い方を誤っている。


2011年11月23日水曜日

政策仕分け結果の十分な精査と着実な政策への反映を

既に報道等で承知されていると思いますが、去る11月20日~23日の4日間にかけて、行政刷新会議ワーキンググループによる「提言型政策仕分け」が実施されました。

この「提言型政策仕分け」は、無駄や非効率の根絶といったこれまでの視点にとどまらず、主要な歳出分野を対象として、政策的・制度的な問題にまで掘り下げた検討を行い、改革を進めるに当たっての検討の視点や方向性を整理することを目的に実施されているものですが、折角の貴重な議論の結果を、国政や予算配分に確実に反映していただきたいというのが多数の国民の願いではないでしょうか。

さて、この仕分けの様子は、インターネットを通じてライブ中継されましたが、平日の場合は、多くの方々は勤務中でご覧になることができなかったのではないでしょうか。そこで今回は、「教育:大学改革の方向性の在り方」をテーマとして行われた仕分け(11月21日開催)関係の論点等を整理した資料(文部科学省、財務省がそれぞれ提出)や評価結果を行政刷新会議のホームページから国立大学関係を中心に引用抜粋してご紹介します。

なお、論点の捉え方は、相変わらず文部科学省、財務省の双方で異なります。この”VS”構造をどう理解し、今後将来の大学の在り方をどう考えるかは、政治家、学識経験者、官僚、そして大学関係者だけに依存するのではなく、まさに国民一人ひとりにその責任があると思います。この政策仕分けを契機に、広く国民的な議論が展開されることを願わずにはいられません。


行政刷新会議-提言型政策仕分け「大学改革の方向性の在り方」

論点
  1. 大学の総収入・総支出は増加しているのに、世界の中で日本の大学のレベルは低下しているのではないか。

  2. 少子化の傾向にも関わらず、大学数や入学定員、教職員数が増えているのではないか。

  3. 定員割れによる学力低下等や赤字経営の大学の増加等をどう考えるか。

  4. 大学は、将来を見据えた明確な人材育成ビジョンを持っているのか。

  5. 大学が社会の実情と乖離し、社会のニーズに十分な対応ができていないのは、大学改革が進んでいないからではないか。どのように改革を進めるべきか。

とりまとめ(提言)
  • 大学の国際通用力の向上の在り方については、「教育分野」における向上などその具体的な達成目標と達成時期並びにその評価基準について明確化を図る。まずは各大学による自己改革によってその実現を図る。

  • 少子化傾向の中での大学経営の在り方については、教育の質の確保と安定的な経営の確保に資するため、大学の教育の内容、例えば、生涯教育の拡充などへの転換を含む自律的な改革を促すとともに、寄付金税制の拡充等自主的な財源の安定に向けた取組を促す仕組みを整備する。

  • 法科大学院の需給のミスマッチの問題については、定員の適正化を計画的に進めるとともに、産業界・経済界との連携も取りながら、法科大学院制度の在り方そのものを抜本的に見直すことを検討する。

  • 大学改革の全体の在り方については、国は大学教育において如何なる人材を育成するかといったビジョン及びその達成の時期を明示した上で、その実現のため第三者による評価などの外部性の強化に加え、運営費交付金などの算定基準の見直しなどの政策的誘導の在り方について検討する。加えて政策評価の仕組みの改善についても併せて検討する。

論点別シート

(論点1)大学の総収入・総支出は増加しているのに、世界の中で日本の大学のレベルは低下しているのではないか。

文部科学省(考え方)
  • 限られた財政状況の中で予算効果を最大限発揮するため、各大学で、特色ある機能を発揮・強化するための組織運営改革を加速化させる。また、基盤的経費(運営費交付金・私学助成)や国公私を通じ たプロジェクト補助を通じて、メリハリのある資源配分を更に強化。
財務省
  • 大学の総収入・総支出は増加

    • 国立大学法人運営費交付金や私学助成の減少はわずかなもの(法人化後△385億円)である一方で、競争的資金等の補助金の増(同+1,711億円)等により大学全体の総収入は、大幅に増加(同+4,155億円)している。その結果、総支出も2.4兆円から2.7兆円に約14%増となり、特に教育経費は56%(同+585億円)増、研究経費は24%(同+549億円)増と著しく増加した。(注:公表されている21年度決算までのデータによる。)

    • 世界的にみても国立大学生一人当たりの公財政支出をみれば、日本は公財政支出が多い(日345万円、米232万円、英116万円、仏239万円、独165万円)。また、G5の国立大学1校当たりの公財政支出をみても遜色なく、1校あたりの規模が日本は他国に比べ小さいことを考えるあわせると、十分な支援とも言える。

  • 世界的にみても日本の研究力は低下

    • 成果を検証する一つの指標として世界大学ランキングをみると、世界のトップ100に入る大学はわずかであり、ランキングも下がってきている現状である。

    • 世界大学ランキング400位までにランクインされている大学数は、2006年に27校であったが、2010年は16校に4割減少。(注1:Times Higher Education 最新版によれば、世界大学トップ100に入っているのは、わずか東大と京大の2校のみであり、日本トップの東大でさえ30位どまりである。注2:QS社の世界大学ランキング最新版では、100位以内に日本の大学が6大学入っているが、アジアのトップは香港大学)

    • 論文数、トップ10%論文数ともに世界シェア、順位が低下している。

  • 研究力は必ずしも予算の問題ではない

    • 大学の研究力を図る指標として、世界大学ランキングの算出要因の一つでもある論文の被引用数と予算の関係を検証(例1:東京工業大学は筑波大学の予算の約半分であるが、論文の被引用数は約1.3倍、例2:予算の少ない大学の方が論文の被引用数が多い)

    • 検証の結果、両者の相関性は明確でない。

(論点2)少子化の傾向にも関わらず、大学数や入学定員、教職員数が増えているのではないか。

文部科学省(考え方)
  • 大学間の競争の中で社会からの評価と選択を受ける質保証システムの仕組みを確立し、大学はその教育内容・方法の不断の改善を図り、大学の質的充実を図る。

  • 大学の質保証を徹底しつつ、学ぶ意欲と能力を持つ若者の大学進学意欲の高まりに応えられるよう、高等教育への進学機会の確保を図る。
財務省
  • 18歳人口は減少してきており、私立大学の定員割れは約4割

    • 平成初期には200万人を超えていた18歳人口は、それから20年経た今では120万人台に減少。更に、平成35年には110万人を切る見込み。

    • 一方、大学(短大含む)の収容力(当該年度の入学者数/進学希望者)を見ると年々増加してきており、23年度は96%となり、ほぼ全入時代を迎えたと言える状況になった。これからは、大学が学生の獲得争いをしなくては生き残れなくなってきた。

    • 我が国の大学の約8割を占める私立大学をみると、少子化にもかかわらず、平成になってから大学数は1.6倍、入学定員は1.5倍となったため、現実には定員割れの大学が4割となっている。今の大学入学定員では持続可能と言えないのではないか。

    • 現在、6大学、24短大が募集停止に至っている中で、24年度から7大学、5大学院、2大学院大学が開設する予定となっているが、大学を増やしても大丈夫か。今後の大学開設には、より慎重な検討が必要であり、むしろ、統廃合を加速すべきではないか。

  • 国立大学は学生数が増えない中でも、教職員数は増加

    • 国立大学の学生数は、近年増えていない中で、教員は国立大学法人化以降、1,785人増、職員は12,066人増となっている。

  • 設置基準に比べ、教員の数は多過ぎないか

    • 国立大学は設置基準の数倍の教員を配置している。特に理系学部においては、設置基準上の教員数と実際の教員数の乖離が多い。

  • 国立大学の数は多過ぎないか

    • 近隣に同じ工学系や教員養成系等の大学が存在しており、その存在意義が問われる。また、少子化、過疎化の中で共倒れのリスクが懸念される。(例1:工学部:東京大学工学部と東京工業大学と東京農工大学、名古屋大学工学部と名古屋工業大学と豊橋技術科学大学など、例2:教員養成系:京都教育大学と奈良教育大学と大阪教育大学と兵庫教育大学など)

(論点3)定員割れによる学力低下等や赤字経営の大学の増加等の問題をどう考えるか。(省略)

(論点4)大学は、将来を見据えた明確な人材育成ビジョンを持っているのか。

文部科学省(考え方)
  • 産業界など社会の要請を踏まえた大学教育の重視

    • 国レベルでは、産学のトップの協働による「円卓会議」を開催

    • 各大学では、地域企業などとの連携を、カリキュラム作成から行い、社会ニーズを組み込む。また、カリキュラムの体系化、厳格な成績評価(例:GPA)による出口管理を徹底

  • 大学の教育情報の公表を徹底

    • 大学がどのような教育を行っているか、社会に分かりやく示すデータベース整備。また、企業、学生・保護者の評価やニーズを大学教育の改善に反映させる。
財務省
  • 人材育成ができていないのではないか-専門教育を行っても効果があげられない例が多くみられる。
(例1)法科大学院
    • 法科大学院の入学定員は、平成21年度までは約5,800人前後であったが、定員割れの現状から22年度、23年度と段階的に定員を削減し、来年度は21年度までと比べ2割以上減の4,500人程度となった。しかし、法科大学院の入学者は23年度で3,620人で定員充足率は8割を切っている状況である。定員削減は定員割れの現状の追認でしかなく、人材育成のビジョンが見えない。

    • 法科大学院の平成23年度入学者のうち、10人以下であった法科大学院が14校(うち国立大3校)あり、教育環境の充実と効率的な経営の両面を考え合わせれば、統廃合も考えていく必要がある。

    • 新司法試験の合格率は年々減少を続け、平成23年度の合格率は23.5%となり、約6,700人の不合格者を出した。また、退学や休学により法科大学院を終了しなかった人が約1,400人(平成22年度)、更に修了者の受験率が約8割程度であることを考えると、相当数の人が希望通りになっていない状況であり、年々増加を続けている。

    • 平成23年度の新司法試験合格者数が10人以下の大学が74大学中半数以上の39校に上っている。さらにそのうち、合格者が5人以下の法科大学院が23校もあり、このような状況では、大学も社会も、そして何より学生が不幸であり、その存在意義が問われる。
(例2)教員養成系大学
    • 公立学校の新規教員採用者のうち教員養成系大学・学部の占める割合は3割程度まで減少してきた。この結果、公立学校教員総数における教員養成系大学出身者の占める割合が小学校で6割、中学校で4割、高校においては2割程度となり、一般大学・学部卒出身者の占める割合が高くなった。教員養成系大学の存在意義が問われる状況になってきている。

  • 計画的に人材を育成しているのか-将来見通しが甘く、計画的な人材育成がされていない事例が多くみられる。
(例1)法科大学院
    • 前年に司法試験合格者の弁護士希望の司法修習生のうち就職先が未定のものは43%(7月末現在)であり、弁護士数の増大による就職難が発生
(例2)教員養成系大学
    • 卒業生のうち教員になった人数の割合は約45%にとどまる。
(例3)薬学部
    • 厚生労働省の調べでは平成18年に25万人いる薬剤師が、平成28年頃には37万人になる一方で薬剤師のニーズは約30万人程度という推計もあるが、薬学部の入学定員は平成13年は7,910人であったが、平成23年には13,029人となっており、10年で5,119人(65%増)となっている。(6年制だけみても11,792人で1.5倍となっている。)
(例4)歯学部
    • 1970年代に計画性なく歯学部を開設・増員した一方、少子化に加え子供が虫歯にかかる率が減少したため、歯科医師過剰時代が到来し、平成10年の厚生省の報告書によれば、入学定員の削減と歯科医師国家試験の見直しを行うことにより、新規参入歯科医師を10%程度抑制としている。平成10年度の入学定員2,714人から平成23年度2,459人と9%程度削減しているが、23年度の入学者が2,158人で300人ほど定員に達していないことや4割近い大学で定員割れになっていることを考えるとまだ不十分と言える。
(例5)医学部
    • 厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会資料によれば、前提条件によって幅があるものの、2010年代後半から2030年頃にかけて医師の需要と供給の関係が逆転するという報告もされているが、近年、医学部の入学定員を大幅に増加させている。問題の本質は、地域偏在や診療科目偏在であり、本当に将来を見据えた人材育成になっているのか疑問である。

(論点5)大学が社会の実情と乖離し、社会のニーズに十分な対応ができていないのは、大学改革が進んでいないからではないか。どのように改革を進めるべきか。

文部科学省(考え方)
  • 改革を実質化し、大学の強みを伸ばす環境整備のため、次のような方向で改革を進める。
1 機能別分化の推進とガバナンスの強化
    • 質の高い教育のため、国公私の設置形態や地域・国境を超えた大学間連携を加速

    • 学長のリーダーシップによる全学体制を確立し、ガバナンスを強化
2 グローバル化社会で活躍できる人材育成の体制整備
    • 卒業時の学修成果を重視した学部教育への転換

    • リーディング大学院等産学官共同での修士・博士一貫教育

    • 日本人学生の海外留学促進や外国語能力の強化
3 世界標準の質保証の仕組みを整備
    • 大学の活動や特色の公開を徹底する仕組みを整備(大学情報の可視化)

    • 産業界・学生の視点を踏まえた評価軸の検討
財務省
  • 国民の大学教育に対する評価は低い

    • 世論調査によれば、世界に通用する人材を育てられないとの回答が63%、企業や社会が求める人材を育てられないとの回答が64%。一方、人材育成ができるとの回答は、わずか4人に1人程度に過ぎず、大学教育に対する評価は低い結果となっている。

  • なぜバーバード大など外国の大学は強いのか

    • 例えば、ハーバード大学と東京大学の教授を比較した場合、ハーバード大学の教授にはハーバード大学出身者が少ない。一方、東京大学の場合はほとんどが東京大学出身者である。つまり、外国の大学の場合は、経歴でなく実績社会であり、多様な人材による大学の活性化が図られている。

    • 学の財務体質について他国の主要な国公立大学と比較すると、政府からの収入がケンブリッジ大学17%、オックスフォード大学23%、カリフォルニア大学バークレー校22%に対して、日本の国立大学は収入の約4割が政府支援(運営費交付金及び施設整備費補助金)となっている。

    • 一方、競争的資金については、収入に占める割合がオックスフォード大学42%、UCバークレー32%に対して、日本の国立大学は12%に過ぎない。私立大学においてもハーバード、イェール、プリンストン等の有力大学をみると、競争的資金が収入の20~25%を占めており、日本の大学に比べ競争的資金の獲得が大学の財務体力となっている。また、外国の大学の場合は、企業からの研究支援や投資収入、出版事業など多様な財源が多く、とりわけ、民間研究資金の割合が日本の大学より多い。

    • つまり、外国の大学は競争原理が大学の内外で働いており、厳しい環境下に置かれているが、日本の大学は競争原理が機能しておらず大学改革が遅れていると言える。

  • 国際競争力を高めるには、統廃合が必要

    • 大学定員の規模別に充足率を見た場合、入学定員が600人以上の大学は定員を充足している。一方、600人未満の大学は定員を充たせず、規模が小さいほど充足率が低くなる。このため、少子化時代において大学が生き残っていくには、統合により大学規模を大きくする必要がある。他方、生涯教育の充実による学生規模と多様性の確保も有用である。

    • 1校当たりの学生数を国際比較してみると、日本の場合1校あたり3万7千人となり、G5のうち日本が一番小さい結果となっている。つまり、小さい大学が数多くある姿であるため、国際競争力を高めていくには、大学の統合を図り、諸外国に対抗できるような大学に組み立てなおす必要がある。

  • 大学倒産時代に向え、統廃合や大学間連携、産学連携等の多様な自己財源確保が必要

    • 大学経営(財務体力)を考えても、国大法人運営費交付金や私学助成に頼らず、大学間連携等による事務の効率化、または産学連携等による多様な財源の確保が必要

    • 事務の効率化や多様な財源の確保ができない場合は、大学の統合による体力強化、または廃止も検討する必要がある。なお、大学の閉鎖に関しては、その仕組み作りが必要

    • 国立大学の法人化は、事務機構と財政基盤の国からの独立と責任あるマネジメント体制の確立であったはずである。

    • 短期的な実現は困難でも、中長期的な大学のあり方をいつまでにどうするのか明確にすべき。昨年の予算編成過程で今年末までに大学改革の方向性を打ち出すこととされているところ。例えば、トップレベルの国際競争力が期待できる大学・学部(地方大学にも世界的な学部や講座が存在)に国費を集中投資する一方、地方の人材育成を担う大学は、大学間連携、統廃合により持続可能性を強化しつつ、コミュニティ・カレッジとして生き残れるようにしてはどうか。

    • このような改革のインセンティブとして、大学の教育研究能力のプロファイリングと実績の情報公開の充実が必須。

2011年11月20日日曜日

壁を毎日破れ(土光敏夫)

ボクらの生活は、毎日が行き詰まりだ。行き詰まらん方がおかしい。前に進んでいれば必ず行き詰まる。
「壁を毎日破れ」といったら「私には壁はありません」という人がいた。
「そうかないか、君は座っているじゃあないか。立って歩いてみろよ。四畳半だろうと六畳だろうと、立ってあるけば、壁にすぐにぶつかる」といったんだ。
つまり、この人には問題意識がないのだ。
だから、「歩いて毎日ぶつかれ」といったんだ。(土光敏夫 21世紀への遺産)


2011年11月12日土曜日

一日も早く”地力”をつけよ、サラブレッドより野ネズミの方が強い(土光敏夫)

この日記を始めて、11月9日で丸4年が経ちました。読者の皆様のおかげでなんとか続けることができています。心からお礼申し上げます。
最近は、ニュースなどの”情報提供型”に偏ってしまって、少々魅力のない内容が続いておりますが、なるべく自分の意見なども取り入れていきたいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


今日から、時折、土光敏夫さんの言葉を紹介していきたいと思います。

よく若い人に言うのだが、一日も早く”地力”をつけよ、と。僕はこの”地力”という言葉が好きで、これは人間の足腰を鍛え、少々のことではへこたれない本物の力を意味する。地力をつけるには、苦労を体験するのが必須条件だ。苦労を知らぬ人間は、端から見れは一にしかみえぬ打撃が十にも二十にも感じられ、そのショックひとつで潰れてしまうことがある。学校秀才型の、いわゆるエリートにその傾向が多くみられる。

土産物店などで、”上げ底”がよく問題になるが、人間もそれと同じで底辺を知らぬ「上げ底人間」は総じて弱い。叩かれ踏まれた体験がないものだから、僕らがなんとも思わないことでも、なにか問題が起きたとき、その対応に右往左往する。しっかりと受けとめて、冷静に対処することができないんです。

一のショックを十に感じる者もいれば、十のショックを毛ほどにも思わぬ者もいる。厚顔無恥は困るけれども、そのくらいの根性がないと、長いサラリーマン生活はやっていけません。いつも自分を最低の線、つまり社会の底辺に置いておけば、何が起こったって怖くはない。矢でも鉄砲でも持ってきやがれ--と、そのくらいの気概で生きることですよ。

サラブレッドはカッコいいが、僕はそれよりも野ネズミのほうが、より強いと思うわけです。サラブレッドは、みんなが寄ってたかってエリート馬に仕立てあげる。しかし、役目が了わればそれまでだ。が、野ネズミは踏まれても蹴られても、へこたれない生命力を持っている。人間だって、その本質に変わりはなく、いざとなれば野ネズミのしぶとさを持つ者が、サバイバル戦争に勝ち残る。

目先の現象に一喜一憂せず、どんと構えて正面から物事を受けとめる、そういう根性のある人こそが生き残る時代だと思うのだが、はたしてこれは極論すぎるのでしょうか。(土光敏夫大辞典)

昭和人間記録 土光敏夫大事典

2011年11月8日火曜日

国立大学法人の決算から垣間見えるもの

国立大学法人の中期評価や年度評価を行う国立大学法人評価委員会の下に、「国立大学法人分科会 業務及び財務等審議専門部会」というものが設置されています。このたび、国立大学法人の平成22事業年度の財務諸表の承認に係る議論等の概要が文部科学省のホームページに掲載されましたので読んでみました。

国立大学法人の会計処理は「国立大学法人会計基準」に基づいて行われていますが、企業会計や学校法人会計とは異なる特殊な会計処理が多々あることから、アウトプットとしての財務諸表ほか決算関係資料は、一般の国民の皆様にはとりわけわかりずらい構造になっています。このため、各国立大学法人では、独自の財務レポートなどを作成し、各大学のホームページ等を通じて説明しています。

今回の議事録を見る限り、議論を行っている委員の方々は、大学教員出身者が多く、国立大学法人の会計に必ずしも精通している方々だけではないようですが、その分、一般の国民と同様の目線での質疑も垣間見え、あるいは意外と鋭い意見も出されており、興味深く読ませていただきました。委員の意見をいくつか抜粋してご紹介します。事務局(文部科学省)とのやり取りについては、WEBサイトをご参照ください。


国立大学法人の財務諸表の承認及び剰余金の繰越承認について

【宮内委員】

決算書を見てちょっと感じた点で、これは昨年もたしか言ったかと思うのですが、概要の参考1の2ページで寄附金債務がこれは2,214億で、前年度対比で139億増加しています。大学としては、これはバッファーとして持っていたいというのは非常に個別事情としてはよくわかるのだけれども、寄附金をいただいておいて研究をやらないのですかという素朴な意見もあります。そんなにいただいたのに、やらないで腰だめしているのですかという社会的な指摘を受けたときに、大学が本当にきちんとした説明ができるのだろうかということです。研究体制がまだできておりませんという説明をしてしまって、研究体制もできないものを寄附金もらっているのですかと言われたときに返す言葉が次にあるのかないのか、その辺も含めて、この寄附金債務の執行というのはやっぱり、まじめにと言っては失礼かもわからないけれども、執行するということを前提にして考えていただかないと、多分これは、ずっとたまっていくと思います。個々の健全な感覚が全体としては合成の誤謬ではないけれども、その辺はやっぱり気をつけていただきたいと思うのです。

【宮内委員】

特殊な会計処理というよりは中期計画の最終年度における特殊事情として目的積立金の執行をかなり大幅に活用されたということなのだろうと、会計処理そのものではないのだろうと思いますので、そこは整理していただいたほうがよいと思います。
これも感想で申しわけないのですが、附属病院収益が増加したことについて、世の中の病院等がみんな減収減益に悩んでいるところで附属病院収益が上がっていくということは、それだけ大変に頑張っているという証左なのだろうと思うのですが、逆にそのことによって教員の方々が疲弊してしまって、結果として研究論文が減ってしまうというような事態になるほど、ここがあまり頑張り過ぎるというのも決していい話ではありません。だから、その辺の大学側におけるよいバランスというのですか、その辺を模索するための何らかのガイドなり何なりというのを、これは多分大学によって状況が違いますから、研究中心の大学で附属病院収益がどんどん上がっていくということは多分ないのだろうとも思うのですけれども、中核病院等においては、役割を期待されているところはやっぱり増えてしまうのだろうと思うのです。ただ、それをやっていったときに人件費との関係で、どういうバランスを保ちながらやられていくのかというのは今後の重要なテーマに多分なっていくのだろうと思いますので、そこも何かコメントをいただきたいと思います。

【金原委員】

去年もちょうど9月のころ、新聞報道で、先ほど出ました、会計検査院の目的積立金の使途についての話です。私がいつも感じているのは、現場にいて、やっぱり本来やるべき事業というのはたくさんあるということです。それは、すべて年度計画で吸い上げられているとは限りません。しかし、例えば学生の寮は、昭和40年代にできた古いのがあるのです。それも、夏は暑いのにクーラーも入っていません。あるいはお風呂場も、例えばお湯を張る浴槽が壊れたままである場合は、真冬でも学生さんはシャワーで過ごしているわけです。私は、これはひどいではないかと思います。やっぱり早急に資金繰りをきちんとしてやってあげなさいということも申し上げたこともあるのですけど、そうすると、予算がないという話なのです。結果的には剰余金を出しているわけです。ですから、いつも感じるのは、資金管理のプロがいないのかなというような感じがします。
例えば月別の資金需要、あるいは年度末までの資金需要、あと収入の見通し、そういうのが的確にできるプロの会計者を育てないと、学長さんに、こういう状況です、ですから年度末までにはこのぐらい、間違いなく使えそうなのが出てきますと、そういうのが頭に入っていれば、学長さんもそういう現場の声を聞けば、やっぱりそこにお金を振り向ける、やっぱり学生のために、そういうこともできると思うのです。結果として剰余金が出てしまうのです。その辺のその改善というのは何か、文部科学省で指導するとかということはありますか。

【金原委員】

外部資金の非常に多いところはいいのですけれども、やっぱり文系の大学はどうしても外部資金に頼る部分が厳しいのですよね。一方においては、運営費交付金も年々減っています。そういった中で剰余金が出てくるということは、今言ったような背景があるというか、どこの大学も目的積立金をつくるのが第一命題のような、極端に言えばそういうことですが、そういうふうになされてもちょっと困るなという気がします。

【稲永委員】

中期目標期間の間に何を整備するのかといったマスタープランのようなものがきちんとあって、これを実現していくためのものが剰余金、目的積立金と思うのです。交付金で措置がすぐできるものは、どんどんそれでやっていく。それでも整備できないものは剰余金でやるのだときちんとしておけば、先ほどの寄附金にしても、1つの期間の中で、こういう目的にここまで達したときに順位をつけて使うのだとかという説明がしやすくなると思うのですが、大学の現場はどうなのですか。

【宮内委員】

使うべき目的についても、絵にかいたもちで終わる可能性があるわけですよ。そんなものがいっぱい出てきてしまったら、何だ、絵にかいたもちで今まで会計をやっていたのかというふうに言われかねません。僕は事実に基づいて会計はやるべきだと思っていますから、出てしまった利益に対してどう使うかというのは一度社会的批判を受けた上で決めていく話ですから、それはそれでちゃんと世の中のフィルターを通っていると思うのだけど、ここはフィルターにかからないようにしてしまっていますから、社会との関係でいくと危険な感じがします。

【宮内委員】

これから使います、使うから、まだ使っていませんから収益には上げません。基本的に期間進行基準にするということは、いただいたものについてはこの年度で使うということを前提に、多分運営費交付金の積算も、この年度で使うということを前提に積算されているはずなのです。なのに、そのうち使わないものを自分で決めてしまうというのはおかしくないかというのが私の指摘です。
これはこれで、そういうやり方を今回導入してきたのか前からあったのかわかりませんけれども、出てきて、これがどんどん増えていってしまうと、これはまたやっぱり問題にされる可能性は大いにあると思います。

【金原委員】

隠し財源ではないですけど、キャッシュフローでいわゆる有価証券の部分が、かなり額が大きいですよね。購入と売却です。この辺も一般国民からするとかなり、これも余裕があるのではないかという話になるのではないでしょうか。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kokuritu/004/gijiroku/1312910.htm

2011年11月7日月曜日

親と就活

「教育ななめ読み」梨戸茂史(文部科学教育通信 No278 2011.10.24)からの引用です。


入学式に親が出て話題になったがもうずっと昔のこと。考えてみれば、中学受験あるいは、小学校や幼稚園などの「お受験」から、親が叱咤激励して、一緒になって勝ち取った「ゴール」が超難関大学の合格だったのだから、親が晴れがましく思ったとて無理のないところ。ところが今や大学全人時代で、普通の大学合格くらいでは感動はない。次なるターゲットはちゃんと就職できるかだ。

まずは、雇用条件が大きく変化している。昔のように「大卒印エリート」ではなくなった。もちろん同世代の五割が大学に行く時代、かつての高卒市場を大卒者が占めることにいささかの敗北感もない。就職が難しいというのには、不況もあるが、雇用形態の変化も大きい。親の時代の終身雇用から、今は一時雇用、派遣社員など形態が変化した。その上、工場が海外に移転して就職しようにも職場がない。事務系だって仕事はコンピューターやら集約化など人が多くはいらない時代。いきおい販売など入手のいる部門に流れる。

親の役割は、会社選びから始まって、自分の経験を踏まえた面接アドバイスなど、これも「受験」パターンに近いものがある。ただし、親の知っている「有名企業」やテレビなどのコマーシャルで名前の売れた企業を”推薦”してしまう危険や、その結果、子どもが大都会に就職して親元に帰らない心配も出る。

だから晴れて「地元」の一流企業などに入れたら、子どもは地元に住んでくれるし、うれしくなって入社式まで行こうという気持ちにもなるのであろうか。九月二日付の読売新聞によると、静岡銀行の頭取の入社式のあいさつが「新人社員の皆様、ご家族の皆様、本日はおめでとうございます・・・」と始まったのを紹介している。大学生を見ていると、幼くて高校生の延長に見えるし言動はまだ子どもを引きずる。でも、この銀行、考え方が面白い。そこまで親が出てくるならと逆手に取ったかどうか知らないが、二OO七年から入社式に親を招き始めた。発想は「社員の成長には家族の支援が不可欠だ」という。親を見れば子がわかるというから、そのうち面接で親も一緒にするところも出るかもしれぬ。

同記事では、兵庫県の大手前大学のキャリアサポート室が「保護者のための就職ガイドブック」を二OO九年に作成、配布したそうだ。

帝京大学の八王子キャンパスは、新入生の親を対象にした説明会まで開いているとのこと。そこでは「・・・入学前の三月、「就職戦線を勝ち抜くための『親の就活学』」と題し、キャリア教育担当教員らが企業が求める人材像や親の心得などを伝えている」。”入学前”というのは恐れ入る。もっともその時期に出席して話を聞いたら”面倒見がいい”と思ってしまいますよね。

大学も、学生より親にアッピールするほうが学生を集めやすい。親も授業料を払う以上、言いたいことも言うし要求もする。でも実際に就職が内定するのは四年生も後半になってからということも少なくない。

国立大学で就職率一番は福井大学だ。それも四年連続。卒業生が一千ニ百人という規模は学生を細かくフォローできる。携帯に求人情報を流したり、返信がなければ呼び出したり訪問して面談までしているそうだから相当力が入っている。

それと地元企業との連携も効果がありそうだ。学生はテレビコマーシャルなどで有名企業を志望するけれど、実際は地元にも優秀な面白い企業が少なくないのが福井県だ。そこを上手に紹介したり、インターン制度などを使うと学生も新たな目が開かれるのだろう。この地元の優良会社探しというのは、親もよく知っているし、良いアイディアだ。まだ「親」まで出てこないが、「就活」にも、国立大学は対応の時代ですね。

2011年11月6日日曜日

しあわせ運べるように

東日本大震災:被災地応援歌、心一つに合唱-神戸市立盲学校文化祭(2011年11月4日 毎日新聞)

◇音楽の力で元気届けたい♪

音楽の力で被災地に元気を送りたい--。神戸市中央区の市立盲学校で3日に行われた文化祭で、全校生徒ら54人に歌詞を募集して作った東日本大震災の被災地応援歌「歌おう一つになれるように」を生徒と教職員らが合唱、集まった保護者や卒業生ら約200人を前に、心を一つにして歌い上げた。近く録音し、岩手、宮城、福島3県の盲学校へ届けられる。

阪神大震災(95年)では、全国の盲学校職員らが同校を訪れ支援した経緯から「今度は自分たちができる支援でお返ししなければ」と生徒らが歌での支援を提案。生徒らから集めた詞を生徒会が歌詞にまとめ、以前から交流のあったNPO法人「国際音楽協会」の張文乃理事長に作曲を依頼した。

この日は文化祭の一環で、同校の幼稚部から高等部の生徒らと教職員約100人が参加。張理事長の伴奏に合わせて歌声を披露した。音楽の授業や休み時間などを使って練習した息の合った歌声に、来場者からは大きな拍手が送られた。

<歌おう一つになれるように/きみが前に進めるように>

生徒らはこの歌と、被災地の校歌や阪神大震災の復興歌「しあわせ運べるように」など計8曲を録音し、12月上旬に被災地の盲学校へ送る。同校の増田和幸教頭は「生徒らが心を込めて歌った歌が、被災地の生徒らの心を少しでも癒やしてくれればうれしい」と話していた。

iv>

東北の皆さん、今はまだ『復興』なんて信じられないかも知れませ­んが、十六年前の神戸もそうでした。大阪から大好きだった神戸の­街に支援に入った時『神戸が死んでしまった』と思ってしまいまし­たが、深く深く傷付いたけど決して死んではいませんでした。だか­ら『希望』を持って、少しづつ少しづつでいいから一歩一歩前に進­んでいけるように祈っています。不幸にも亡くされた命の多さを知­るに皆様の辛さを思い涙を禁じえませんが、この曲の歌詞にもある­ように生きている皆様が一日一日を大切に生きて行かれる事が何よ­りの供養だと思います。皆様が持った『希望』が次世代の子供達に­受け継がれ、地震にも津波にも負けない絆を創り、傷付いた街を強­く蘇らせてくれると信じています。そして本当に『幸せを運んでく­れる東北』になってくれる日を信じて待っています。(You Tubeから)

2011年11月4日金曜日

国立大学法人の改革推進状況(平成22年度)

国立大学法人等の平成22年度に係る業務の実績に関する評価の結果が確定したことについては、既にこの日記でもご紹介したところですが、この評価結果の確定に合わせ、文部科学省は、各国立大学法人の平成22年度の各種取組みのうち、注目すべき取組みをまとめて公表しています。

(関連過去記事)国立大学法人の2010年度評価結果決定(2011年10月28日)

各国立大学法人が国立大学法人評価委員会に提出した平成22年度の実績報告書に記載された膨大な取り組みの中から抽出されているだけあって、いずれも素晴らしい改革事例です。多くの大学で実施可能なものも多く、他大学の事例と割り切らずに、積極的に取り入れてはいかがでしょうか。

国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況(平成22年度)(平成23年10月27日 国立大学法人評価委員会)

(参考)
国立大学法人・大学共同利用機関法人の改革推進状況(第1期中期目標期間)(平成23年5月24日 国立大学法人評価委員会)

2011年11月2日水曜日

国立大学の復興と再生に向けて

東日本大震災の発生から7か月ほど経ちましたが、テレビの画面から見る変わらない現地の姿に、あらためて被害の甚大さを実感させられます。港にあった大きな倉庫や事業所などは津波で流され、未だにコンクリートの基礎だけになっていたり、ねじ曲がって赤さびた鉄骨だけになっています。ガレキを満載したトラックが頻繁に行き交っています。被災地の復興に向けた取り組みが少しでも早く進むことを願ってやみません。

さて、東日本大震災では、被災地にある国立大学も大きな被害を受けました。しかし、多くの関係者が力を結集して再生に向け取り組んでいます。このたび、国立大学協会から、「復興と再生に向けて」と題する協会情報誌 JANU の「震災特別号」が発行されました。まだ、国立大学協会のホームページに掲載されていないようですので、少々見づらいかもしれませんが、全ページご紹介したいと思います。

被災大学からのメッセージ



2011.3.11 東日本大震災により被災地にある国立大学も被害を受けました。






大学は、被災者の救援活動に努めるとともに、
被災地への緊急的な支援のために、
全国から集まる支援物資を届け、
被災者たちを構内に受け入れました。
生活が安定を取り戻しつつある中、
大学では講義や研究等を再開するための準備を進めました。
また、被災地の復旧のために学生たちは
被災直後から活発にボランティア活動を行いました。
5月には全ての大学で教育・研究活動が再開し、
これまでどおりの活動を行っています。






被災地の国立大学は、未来に向けて立ち上がり、
地域社会の復興と再生に向けて
引き続き努力していきます。



東日本大震災と国立大学の医療支援




全国の国立大学は、医療支援活動のために、
多くの医療チームを、被災地に派遣しました。






国立大学は、震災直後から救急医療チームを派遣し、
その後も継続的に多彩な医療人材を派遣することで、
被災地の医療を支えています。



国立大学の学生ボランティア




国立大学生たちは、被災直後より積極的に
ボランティア活動を行っています。






教員養成系大学をはじめとして各国立大学の学生達は、
被災地の学習支援のためにボランティア活動を行っています。



被災地の復興を支えるための人材を
国立大学は輩出しています。

2011年11月1日火曜日

希望の種を蒔く

今日から11月。今年もわずかになりました。今日は、昨日アップされた「野田総理官邸ブログ」にとてもいい記事がありましたので抜粋してご紹介します。タイトルは「希望をつくる覚悟と器量」です。


希望を失わず、困難を乗り越え、試練を乗り越えていく、そんな人生を歩んでいきたいものです。

今回の演説の最後で、大越桂(おおごえ かつら)さんの詩を引用させていただきました。

私がこの詩を知ったのは、震災から二ヶ月後頃だったでしょうか、とある新聞記事で彼女のことが載っていたのを拝見してからです。彼女のことを知れば知るほど、畏敬の念を感じずにはいられませんでした。障害を抱え、声も失い、十三歳で筆談を知るまで、言葉で意思を伝えることができなかったそうです。それまでの頃を「私は石だった」としつつ、「でも、母や周りのおかげで、人にしてもらった」と語った言葉を忘れることができません。

演説で引用させていただいた「花の冠」という詩ですが、一読して、その中の言葉が実に温かいな、という印象を受けました。合唱曲になったこの詩を聴いて、改めてそうした思いを強くしました。そして、こうした境遇のもとにありながらも、これだけ温かい言葉を紡ぐことができることに強く心を打たれました。ご家族の献身的な支えとそれに対する感謝の念が確かに響きあっているように思います。

人が生きることへの確かな希望は、互いに支え合う中で生まれるということではないでしょうか。「希望」は、そのことを確認する中で生まれていくように思います。

演説の後、大越さん御本人から、「希望の種を蒔き、花を咲かせる総理大臣は『はなさかそうり』ですね!」と激励のメッセージが届きました。そうした存在になれるように、私自身も含め、政治家としての「覚悟と器量」を、これからの国会審議や「実行」の中で明らかにしていければ、と思っています。平成23年10月31日 内閣総理大臣 野田佳彦

http://kawaraban.kantei.go.jp/2011/10/20111031.html




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