2011年12月19日月曜日

入試広報の腕をみがく(3)

「大学の広報戦略」に関する日本私立大学協会私学高等教育研究所・岩田雅明氏の論考をシリーズでご紹介していますが、今回は3回目「広報活動の具体的展開」です。

(関連過去記事)

知恵を絞る

ここからは少し、広報の各論的なこと、すなわち大学が具体的に広報を展開するに当たって留意すべきことを考えていきたい。

学生募集のための広報活動の一般的な活動として挙げられるものは、受験雑誌や受験情報サイトへの大学情報の掲載、新聞広告、テレビやラジオでのCM、駅構内や電車内などへポスターや看板を掲示する交通広告、といったものであろうか。ほとんどの大学は、これらの媒体の一部、ないしは全部を活用して、広報活動を行っていると思う。

これらの媒体は、例えば受験雑誌であれば広範囲の受験生に情報を届けることができるし、駅構内の看板や電車内のポスターといったものであれば、保護者も含めた多くの人たちに大学の存在や内容を知ってもらうことができる、有用な媒体であることは間違いない。ただし、これらの広報手段はお金さえ支払えばどの大学でも実施できるものであるし、現実に多くの大学が実施しているため、インパクトという面では弱く、大学の内容がよほど特色のあるものでないと他の大学との差別化を図ることは難しい。また、少なからぬ費用がかかるものも多いので、財政的にあまり余裕のない大学にとっては利用が制限されることにもなる。

競争戦略において重要なことは、差別化である。差別化ができて初めて自分の大学の魅力を伝えることができるのである。広報戦略においても同じで、差別化ができて初めて強く印象付けることができるのである。そうであるならば、他の大学が実施していないもので効果が期待できるもの、しかも費用もあまりかからない広報手段というものを考え出すことが、効果的な広報活動を行うためには重要なポイントとなるであろう。大学に関する情報が、氾濫といわれるほど豊かに流れている現在のような状況では、情報の信頼度、特に当事者である大学側から発信する情報の信頼度は低下しているといえる。しかし一方では、前に述べた通り『クチコミマーケティング』の効果、重要性は増加しているのである。情報が氾濫する状況ゆえ、知っている人や同じ立場の人から伝えられる情報の有効性、信頼性が高まっているのである。このような状況を考えると、知恵の出し方次第では、お金をかけることなく大きな成果を得ることも期待できるのである。

企業の例であるが、知恵を絞った広報ということでは、ペットボトルのお茶で有名な伊藤園の例が参考になる。「お茶はただで飲むもの」と考えている人が多い日本においては、緑茶飲料を商品として定着させていくということは大変難しいことであった。この難しい課題を与えられた担当者が、いろいろと考えた末に探った手法は、消費者から俳句を寄せてもらい、入選作をボトルのラベルに掲載するというものであった。日本の文化を代表する「お茶と俳句」という組み合わせの妙と、自分の俳句が掲載されるという魅力があいまって作戦は大当たりとなり、伊藤園のペットボトル入りのお茶は現在の確固たる地位を獲得したという。

私の大学でも大ヒットとはならなかったが、知恵を絞っていく中でいくつかの新しい広報手段が出てきた。その一つが、本に挟む栞である。「大学と本」という、アカデミックという点で共通性を持つ両者を組み合わせることで大学のイメージアップを図ること、本屋には高校生が多く立ち寄ること、栞だったら制作費が余りかからないという三つの点から、読書の有用性と大学のアピールポイントを記載した栞をつくり、県内の約30の書店に置いてもらった。その栞を、本を買った人に挟みこんで渡してもらうのである。この栞の効果を図ることはできないが、私自身は良いアイディアではないかと思っている。

知恵を絞ることで、その大学に相応しい広報手段は必ず出てくると思う。特に規模があまり大きくない大学、地域性の強い大学では、これからはマス媒体というよりは手づくりの広報が重要になると考えられる。また、皆で知恵を絞り合うことは、よりよい広告手段を考えだすという成果のほかに、組織の一体感を醸成するという効果も期待できる。ぜひ、実施してほしいことである。


繰り返し、語り尽くす広報

次は、広報活動の姿勢について述べたい。大学の交通広告やパンフレットを見ていて感じることは、まだまだ抽象的・定型的な内容が多いということである。出張の際などに、駅構内に掲げられている大学の看板をよく目にするが、ほとんどが大学名と学部名、所在地が記載されているだけのものである。駅構内に看板を掲出している目的は何かと言えば、大学名を知ってもらうことだけでなく、ターゲットである高校生や保護者に興味を持ってもらうことであろう。そのためには、インパクトのあるコンパクトな表現で、相手が受けられるメリットを伝えることが必要である。

高等学校内で掲示してもらうことを目的としてつくるポスターについても、同じことがいえる。大学名、学部名のほかに、時期によりオープンキャンパスの日程や、入試日程だけが記載されているものが多い。人気のある学部、学科であれば、それだけで見る人の興味を喚起できるであろうが、そうでない場合には、そのポスターだけで興味を覚える可能性は低いといえる。広告は、その大学の良いところを伝えるためのツールである。いうなれば、広告はセールスパーソンと同じなのである。セールスパーソンが高等学校の廊下に立って宣伝する機会を与えられたならば、高校生たち何を伝えるだろうか。大学名と学部名、オープンキャンパスや入試の日程だけを伝えるだろうか。もちろんそんなことはない。当然ながらその大学の特色や、入学したら得られるメリット等について、語り尽くすであ
ろう。

そうであるならば、いろいろな広告の内容についても、その大学の強みや、与えることのできるメリットを語り尽くすという姿勢が大切である。もちろん表現は簡潔な方が良いが、セールスパーソンに対して話す言葉数を制限しないのと同じように、広告にも必要なものは盛り込むべきである。なぜなら出会いは見てもらったその時だけであり、しかも見るのは多少なりとも関心のある人なのだから、余すところなく伝える方が効果的だからである。そういう意味で、広告でしか消費者との接点が持てない通信販売の広告には、語り尽くすという点で学ぶところが多いと感じている。通販広告をぜひ一度、じっくりとご覧いただきたい。

見る側に情報をきちんと受け取ってもらうためには、語り尽くすという姿勢とともに、繰り返し伝えるという姿勢を持つことも重要なポイントとなる。普段の生活でも経験していると思うが、伝えたはずなのに相手には伝わっていないというケースは少なくない。むしろ、こちらの言いたいことはなかなか伝わらない、というスタンスで臨むことが大切である。また、繰り返し伝えることで、接触効果を得ることもできる。接触効果とは、繰り返し接触することで好感度や印象が強まる効果のことをいう。オープンキャンパスのりピート率を高めることもそうであるし、資料請求者に対して定期的にいろいろな資料を送付することも、この効果を生むことになる。この効果が生じるためには、7回から25回の接触が必要だといわれている。くれぐれも一回パンフレットを送付しておしまい、というようなことのないように気をつけたい。(文部科学教育通信 No.281 2011.12.12)