2012年3月9日金曜日

戦略的大学経営に資する職員の専門能力の開発(2)

前回に引き続き、「大学経営の専門職養成」(大場淳)をご紹介します。


2 大学職員のキャリア形成への支援

もっとも、そうした大学経営の専門性を身に付けるのは、全ての職員ではないことは言うまでもない。どのような組織においても、ある程度一定規模以上になれば、職員の役割の分担が不可欠となり、程度の差はあれ官僚制的な組織構造を採らざるを得ない。その上で、コアとなる職員(中核職員)とそれ以外の職員(非中核職員)に分離され、後者は非常勤化乃至外部化されていく(大場, 2003:29)。当該専門性を身に付けていくべき職員は、中核職員であることは言うまでもない。

とは言え、資格の明確な弁護士や医師のように、大学の職員が最初から専門性を有していることを前提とすることはできない。米国の例を見ても、プロフェッショナルとして大学経営に従事する者の専門性は、そのキャリアが形成されていく中で次第に明確になってくるものである6。そうしたキャリア形成の中に、専門職団体や大学院教育といった能力開発のための仕組みが位置付いている。

ところで、企業における職員の能力開発の在り方は、近年、雇用者主導から個人主導へ移行していると言われる。このことは、個人が自己の責任で能力を開発すべきで雇用者側が関与しないということを意味するものではなく、能力開発を含むキャリア開発は雇用者と従業員の協同作業であることは既に述べた通りである。企業の多くでキャリア開発プログラム(CDP)が導入され、それを実施・支援するための、社内公募制、FA制、キャリア・カウンセリングといった環境整備も進みつつある。しかしながら、こういった施策を採用した大学は極めて少ない。平成16年に行われた財団法人社会経済生産性本部の調査によれば、人材マネジメントに関する懸案事項における優先順位で、「従業員のキャリア開発支援」は全17項目中5位(40.3%、5千人以上では43.2%)を占める。仮に同じ調査を大学に対して行った場合、どのような結果が出るであろうか。

高度に複雑となった大学組織を管理し、急速に変わる環境に対応していくためには、第一線で活動する下部組織の自立性を高め、専門性の高い職員を配置していく他はない。ドラッカー(2000:35)は、「組織は、変化に対応するために高度に分権化する必要がある。なぜならば、意思決定を迅速に行わなければならないからである」と述べるが、これは大学についても当てはまるであろう。そして、そういった自立性の高い組織の中核となる専門性の高い職員は、組織が計画的に育成できるものではない。

先に述べたような大学で体系的に進められている研修活動は、いずれにせよ、所属部署や人事部門が主体となって、各大学の組織目的や組織戦略に沿って、職員の職務遂行能力の体系化を図るべく、大学経営にとって必要とされる能力開発を進めるものである。すなわち、各大学の教育訓練ニーズに従って能力開発が行われている訳である。しかるに、自立性の高い組織で必要とされる専門性は、職員が自ら学んで身に付けなければならない。組織ができるのは、それを支援することだけである。舘(2002:5)が、「組織には完全に依存しない彼らのSDは、また、完全には組織には依存しない。それは、大学側から提供されるものは主として機会だけであって、その中身はプロフェッショナル世界からしか供給されないことを意味している」と述べる所以である。

他方、職員個人にとっても、18歳人口が減少していく中、その人生を職場である大学に委ねることは、次第に危険を伴うものとなっている。既に、短期大学でなく、四年制大学でも閉学するところが出始めた。今後、各職員は就業能力を高めつつ、主体的に自己のキャリアを形成していくことが不可欠となろう。

各大学にとって、組織改革等と併せて、キャリア形成支援のための諸制度の整備が、現在の厳しい環境を乗り切り、組織を永続化させるために避けられない。もはや、従来の年功制や終身雇用制、そしてそれに基づいた雇用者主導の能力開発には戻れない。職員の自発性に基づいた能力開発を進めるための制度作りが必要である。そのことは、職場としての大学の魅力を高め、職員のモラルを高めるとともに、優秀な人材が集めるための有効な手段でもある。(続く)