2012年3月14日水曜日

大学におけるトップ・ミドル・ロワーの役割と課題(2)

前回に続き、「経営管理の視点から大学の組織変革を考える」(吉武博通:筑波大学大学研究センター長、ビジネスサイエンス系教授)(リクルート カレッジマネジメント 173)をご紹介します。


ミドル-取り次ぎにとどまるか変革の起点となるか

経営組織として企業と大学を比較した時に、最も大きな違いがあると考えられることの一つがミドルの働きである。

ミドルアップダウンという概念が示すように、日本企業においてはミドル、とりわけ課長が重要な役割を果たしてきた。組織構造上、課が仕事のまとまりであり、課が機能することで会社全体が動く。それゆえに入社すると課長への昇進が当面の目標になり、そこに向かって研鑽を重ねることになる。最近は様相も変わってきているが、実務最前線の組織単位を率いる課長の役割が重要であることに変わりない。

ちなみに部長は経営層と頻繁に接することでその意向を的確に理解し、複数の課を束ねながら、各課長に包括的な指示を与え、その職務遂行を促すことを主たる役割としている。課長が実務第一線の責任者であるのに対して、部長は経営と実務を強く結びつける役目を負っているといえる。

大学の場合は、企業に比べて課長や部長の存在感が希薄な印象を拭えない。もちろん、国公私立間、あるいは大学間や部署間で違いがあり、個人差もある。新たな施策が次々に展開され、活力や勢いを感じる大学には、比較的若く行動力ある課長が少なくない。その一方で、大学全体で見れば、経営と実務の間の情報の取り次ぎにとどまっている部課長が少なくないように思われる。部課長層の保守的な姿勢が変革を妨げる要因の一つとなっていることも考えられる。

これらの事柄については、印象論にとどめず、実証的に現状を明らかにする必要があるが、まずはそれぞれの大学の実態がどうであるか、大学ごとに自己点検する必要がある。

仮にここで指摘したような課題があるとしたら、トップマネジメントによる部課長層の使い方、責任・権限や機能分担などの組織設計、部課長の配置・選抜、そこに至る育成環境や昇任後の学習機会、組織文化など、どこに問題があるかについて十分に検討する必要がある。

その上で、既に部課長層にいる人材については、適切な刺激を与えつつ、個々人の知識や経験を活かした活用方策を考えていかなければならない。同時に、将来の部課長人材を効果的に育成するための、キャリアパスやトレーニングの仕組みを検討する必要がある。そのためにも部課長層に求められる役割を部長層と課長層に分けて大学として明確にしておくことが重要である。

ミドルがトップとロワーの単なる取り次ぎにとどまるのか、トップを動かし、ロワーに活力を与える、変革の起点となり得るのかが、大学の将来を左右する極めて重要なポイントであることは確かである。


ロワー-多様な価値観の尊重と成長実感の重視

大学職員は、教育研究への貢献、学生とのかかわり、語学力や専門知識の活用、雇用や生活の安定など多様な魅力を持った職種であり、さらに近年は大学経営や教育・研究・社会貢献等により積極的にかかわりたいと考える者にとって、挑戦し甲斐のある職場として、その魅力を増しているようである。それゆえに、同じ職員間でも動機や価値観を異にすることが多く、世代間での意識やキャリア的背景に開きが生じることも少なくない。

これらはミドル・ロワーを通した職員組織共通の特徴だが、とりわけ実務第一線を担う一般職員層に働きかけるにあたって、彼ら彼女らが仕事や職場に何を期待しており、どこを刺激すれば力を引き出すことができるのかを知ることが全ての出発点となる。その上で、多様な価値観の尊重と成長実感を重視した配置・育成を心がける必要がある。

ただ単に職員におもねることではない。職員共通に求めるものを明確化し、仕事の基本を確実に身につけさせた上で、キャリアパスや働き方について個々人の動機や価値観を尊重することに意味がある。

その点からも複線型人事は有効な方法の一つとなり得る。複数部門を経験しながらジェネラリストとして上位職層に向かうコース、特定の専門分野で上位職層に向かうコース、一般職員層にとどまり実務を担い続けるコースなどが考えられるが、2つめのコースについても部下を率いる役職と部下なしで高度な職務を担当する役職の2類型があり得る。このような点を踏まえ、従来の枠組みに捉われない組織・役職制度を自校の特質に合ったものとして設計する必要がある。

なお、これらの制度変更を行うことで、既に部課長に登用されている人材も、その適性や経験により、処遇条件を変えずに、部下を率いる役職と部下はいないが高度な実務を自己完結的に担当する役職に再配置することができる。

成長実感は、職業人生を通して常に大切であるが、とりわけ20代や30代の職員を動機づけ、職務遂行能力を高める上で極めて重要な要素である。

試行錯誤の中からより良い業務処理方法を見出したとき、問題と格闘した挙げ句にそれを解決したとき、提案を上司や周囲が受け入れてくれたときなど、自身の成長を実感できる様々な場面があるはずである。

このような機会や環境がどの程度整っているか、トップやミドルは絶えず目を配り、組織編成、人の組み合わせ、人事ローテーション、賦与する業務、仕事の仕方などを考えていく必要がある。

この層を構成する職員自身も、受け身に構えるのではなく、周囲の環境は自分で整え、機会は自らつくり出していく気概としたたかさを持たなければならない。例えば、与えられた仕事の目的を問い直し、より有効で効率的な方法に変えてみる。小さな改善の積み重ねが、自身の成長につながり、周囲を少しずつ動かしていくのである。


経営管理の要諦である対話を根気強く続ける

これまで述べてきた事柄は短期間で一気に実現できるものではなく、手順の踏み方が重要になる。まず取り組むことを一つだけ挙げれば、全ての職員に、自分の持ち味は何で、自分に何ができ、何をやりたいのか、配慮して欲しいことは何かなど自問自答させた上で、上司または人事担当者がそれをじっくり聞き込むことである。その後に、今度はトップが上司や人事担当者の報告を受け、彼らが職員との対話から何を理解し、どういう手を打とうとしているのかを聞く。

このようなプロセスを繰り返すことで、かかわった全ての人々の頭が整理され、トップ・ミドル・ロワー相互の理解も深まっていく。

経営管理の要諦は対話である。変革は急がなければならないが、対話だけは時間をかけてかけ過ぎることはない。理解が深まるまでの根気も必要だ。