2012年5月20日日曜日

ITマネジメントの確立

論考「大学の情報化とITマネジメントを考える」(筑波大学大学研究センター長・ビジネスサイエンス系教授 吉武博通 氏)(リクルート カレッジマネジメント 174 May-Jun.2012)を抜粋してご紹介します。


何を集約し共通化することで全学最適を実現するか

大学の情報化に関してよく言われることは、学内の各部門で様々なハード・ソフトが使われ、それぞれにデータが蓄積されているにも拘らず、それらをより有効かつ効率的に活用するための、全学レベルでの最適化の仕組みが整っていないというものである。

国立大学に例をとると、初期の計算機導入の目的は学術研究のための計算機利用やプログラミングなどの情報処理教育にあった。大型汎用計算機が導入され、その運用を学術情報センターなどの組織が担い、学内各組織からの要請を受けて、提供する機能やサービスを漸次拡大してきた。

その一方で、分散処理化の流れを受けて、個々の教育研究組織が独自にサーバーやソフトウェアを導入したり、人事・財務などの業務部門が個々にシステムを導入したりという動きが加速されてくる。その結果、学内の様々な部門で異なるハード・ソフトが用いられ、システム相互間の連携、大学全体のシステム構成や費用構造の把握が容易に行えない状況が生まれる。

法人化以降の国立大学がセンターの上部組織として情報環境機構などの組織を置き、副学長の担当を明確化するなどの措置を講じていることの背景に、このような事情がある。同様の体制整備は私立大学や公立大学でも見受けられ、センターと共に図書館を機構等の組織下に置くケースもある。

現在でも、学部・研究科などの組織ごとに自己決定しようとする意識は根強く、ITに詳しい教員のいる組織では、それらの教員の考え方に強く影響を受けることもあるといわれている。組織とシステムの両面において個々の自律性が高いことは大学の大きな強みでもあるが、大学が保有する知や情報の連結・活用、限られた経営資源の効率的投入といった観点からも、集約や共通化は必要である。

ITの導入や利用に関する業務のどこまでを各組織に委ね、何を集約し共通化することで全学最適を実現するか、大学における一つの重要な課題である。


中小規模の大学こそ経営層の関心と理解が不可欠

前述の状況は規模の大きな大学ほどより顕著であると考えられるが、中小規模の大学においてはそれ以上に情報化推進に係る人的資源の制約の方が大きな課題であると思われる。

ITを専門に扱うセンターや事務組織を置き、そこに専任の教職員を配置するだけの余裕がなく、知識・情報や経験の蓄積も不十分な大学も少なくないだろう。組織を設置していても、兼任の教職員の下に常勤職員が1名配置されるだけで、他にはITベンダーの社員が同じ場所に常駐しているだけというケースもある。

このような状態では、法人や大学のトップが関心を持たない限り、新たな取り組みが行われなかったり、事実上ITベンダーに丸投げされたりといった状況が起こり得る。学内で一定の判断や業務を行うにしても、特定の担当者の属人的な能力に依存せざるを得ず、情報化推進の実務を担う人材の計画的育成も難しくなる。

教育や学生サービスの面で特色を出しながら、一方で経営の効率を高めていくためにITは極めて有力な武器となり得るが、経営層の関心や理解、実務を担う人材の育成などに問題を抱えたままであれば、大学として競争力を維持していくことは益々困難になる。

大規模な大学においても、程度の違いはあるが、本質的な部分で同様の問題を抱えていると考えられる。限られた人的資源の中で、情報化推進を担う組織をどう構え、そこに配置する人材をどのように育成していくかは、規模の大小を問わず多くの大学に共通する課題である。


自校の特質に即したITマネジメントの確立

以上のことを踏まえ、大学のITマネジメントを考える上で重視すべき事項を整理してみると、
  1. 法人・大学を率いるトップ自らがITに対する理解と関心を深め、CIO(Chief Information Officer)の明確化を含めて、情報化推進に向けた全学的な取り組み姿勢を明示する

  2. 全学的な立場での情報化戦略の立案と推進の総合調整機能を担う組織を明確化し、そこに情報化にかかわる学内諸部門の情報及びITの動向や他校の事例に係る情報を集約させる

  3. システムを利用するユーザー部門において、自らの業務を分析し、さらなる効率化や新たな価値の付加を目的とした情報化を主導できるように、システム的思考を身につけた人材を長期的視点で育成する

  4. ITベンダーやコンサルティングなどに関する情報を収集し、評価能力を高めながら、これらの外部機能を効果的に活用する

  5. 自校の情報化の全体像、システムの整備・運用・利用状況、保有するIT資産や契約の状況、投資・費用の構造など、情報化に関する実態を可視化する
の5点が挙げられる。


これらの視点で自校の状況を確認した上で、それぞれの大学の規模、組織、経緯などを十分に考慮し、自校の特質に即したITマネジメントを確立していく必要がある。