2012年8月23日木曜日

大学経営とそれを担う人材(1)

広島大学高等教育研究開発センター高等教育研究叢書(第39回(2011年度)研究員集会「これからの大学経営-誰がどのような役割を担うのか-」の記録)から、金子元久さん(当時:国立大学財務・経営センター、現在:筑波大学大学研究センター)による基調講演録を抜粋してご紹介します。


大学経営-課題、組織、人材-

1 大学経営とは何か

まず最初にお話ししてみたいのは大学経営、「経営」というのは何か。それを考えるために、組織としての大学というものはどうやってできたのかという、古い話に立ち戻ってみたいと思います。

ギルドとしての大学

大学が作られたのは、12、3世紀の中世ヨーロッパでありまして、大学の起源は、ご存知のように、ギルド(guild)でありました。ボローニア大学は学生のギルドで、パリ大学、ソルボンヌが教師のギルドだというふうに一般的に言われていますが、一般的には教師のギルドでした。ウニベルシタス(universitas)という言葉は、ギルドとほとんど同じ意味で使われており、それが今日のuniversity の語源です。

ギルドとは何なのかというと、これは要するに組合なわけです。なぜそうした組織が必要だったのかと言うと、二つの側面があるわけです。一つは個々の教師ではなくて、教師が集まって組織となることによって、体系的な知識を供給することができ、それを求める学生を集めることができる。今ひとつは、学位というものを出すことができる。社会的に価値のある、知識に対して社会的な価値の証明を与えることができる。それはなぜかと言えば、それと同時に団体として質の保証を政府から受ける、チャーターを受けることによって、質の保証をすることができる。それによって、学生は授業料を払い、教師の生活も成り立つ。個々の一人ひとりの教師ではそういった事は出来なかったわけです。

しかし同時に具体的な教育活動というのは、やはり個々の教師がやるしかない。大学全体でやるものではないわけですね。しかも知識の価値自体は、その教師にしか分からないわけでありますし、知識全体をカバーする論理的な、パーフェクトの体系はない。従ってその中には、知識の体系の中に上下関係もない、従って個々の教師を統制する絶対的な権威というのはないわけです。やはり個々の先生が、独自の信念と研究に基づいて研究活動をするしかない。しかし、それでは学問は発達しないので、それがギルドをつくることによって社会的な承認を得て社会的な資源を獲得することができる。

これがギルドとしての大学の非常に重要な役割を果たした点であると思います。中世の社会では大体何でも経済活動、社会活動はギルドによって行われていたわけですが、逆に言いますとそれからほかの組織はだんだん官僚組織に変わっていって、ギルド的な性格を失ってきた。唯一ギルドとして性格を失っていないのが大学なわけです。

それは大学自体にギルドによってしかカバーできないような側面を持っているからだろうと思います。それは何かというと本質的に組織としての統合性を持たなければいけないのだけれども、しかし個々の構成要素の自律性がなければいけない。統合性と自律性、この二つを併存させる仕組みとしてギルドというものの原理が使われ、それは大学については特に根幹的な組織原理となってきた。

ではこの二つの間を結ぶのは何か。官僚制的な上意下達の命令、一定の目的の完成に向かっての命令、そういった原理ではない。そういった原理では動かない。しかし、にもかかわらず組織の統合性は保たなければいけないわけですから。それを保つ機能が何かと言えば「管理運営」という言葉だろうと思います。(続く)