2012年8月25日土曜日

大学経営とそれを担う人材(3)

前回に続き、広島大学高等教育研究開発センター高等教育研究叢書(第39回(2011年度)研究員集会「これからの大学経営-誰がどのような役割を担うのか-」の記録)から、金子元久さん(当時:国立大学財務・経営センター、現在:筑波大学大学研究センター)による基調講演録を抜粋してご紹介します。


 二つのパターン

ところで具体的な管理運営の形態には二つのパターンがあったと思います。

一つは大陸ヨーロッパ型です。このパターンでは教授会とともに、「事務局」というのがある。基本的なガバナンス(governance)組織としては教授会があり、それに対して先ほど申し上げた三つの機能を持つ事務局がそれを補佐するというパターンです。教授会は基本的にはギルド的組織ですが、事務局というのは事務局長に統括される官僚組織である。官僚組織というのは上部の命令によって動く組織であるという意味で使っておきます。

もう一つのタイプはアメリカ型です。アメリカ型の大学では、学長の権限が強力であることは事実だと思います。それはどうしてかと言うと学長の選出、承認自体は教授会によって行われるのではなくて理事会によって行われるからです。大学の、言ってみればオーナーというのが明確であって、それは理事会なのです。理事会によって任命・監督されるからその権限の基盤は非常に明確である。

それで管理運営はどうして行われるかというと、学長が任命する副学長、あるいは学部長等々によって幹部教員、幹部職員によって分割統治されていて、それぞれに補佐するというかたちで事務職員が配置される。事務局としての統一的なハイアラーキー(hierarchy)をもつ官僚組織というのは存在しません。その意味では、必ずしも一元的な管理体制ではない。ただし、特に最近になって、管理業務を担当する専門職的な人たちが増えているのは、先ほど山本先生のお話しにもありました。ただこの人たちは、ほとんど大学外部との流動性も非常に高い、従って大学独自の職員とは必ずしも言えない。しかも彼らが専門職団体をつくっていて、その知識技能というのはその専門職団体によってかなり形成され、従ってその専門職の中で大学間を異動するというパターンを取っているわけです。

その中で日本的な特質は何かと言うことですけれども、私は大陸系の学長・事務局型であると思います。ただ、もちろん国立大学法人になって非常に大きな制度的な変化が起こりました。制度上は学長に強力な権限が与えられています。ある意味では奇形的な強力な権限があたえられています。しかし実際には、教授会の力というのは決して衰えていない。また国立大学法人については理事が担当部局制を担当して、理事が個々の事務局部門を対応するようにダンダン今変化しつつありますが、事務局のやはり官僚的な体制というのはそのまま保たれていると思います。それから私学の場合には参加型の理事会と言いますか、教員代表、あるいは専務理事、あるいは少なくとも教員、職員の代表が参加するような理事会を持っている参加型の理事会の場合と、それからオーナー型の学長に典型的に見られるような何らかの特定の個人に、あるいはその家族に権力がさまざまないろんなかたちで集中するようにできている場合と、そういったかたちがあると思います。

その中での管理運営組織というのは、先ほど申し上げましたけれども基本的にはやはり組織の維持管理が主たる目的であって、それは大学というのは放っておけば分裂してしまうからです。維持管理自体は非常に重要な意味を持っている。そのために官僚的な組織がつくられているということです。その中で事務職員は比較的幅広い経験をする。特定の分野に偏らない、異動することによって幅広い経験を積み重ねていく、その中でルーティン的な業務を消化する能力を形成していくわけです。逆に専門職化は抑制される、ある程度までしか専門職は進まないというような傾向をもっているわけです。これが今までの大学の管理運営の日本的特質であったと思います。

管理運営から経営へ

その中で「経営」というのはどういう意味を持っていたかというと、基本的には財務管理のことを経営と言っていたのだと思います。あるいは財政的な健全さを基準とした意思決定、入試学者政策が、経営問題だと言っていたのです。なぜ入試が重要かというと、要するに入学者を獲得しなければ財政的に困るからで、やっぱり基本的にはそれは財政問題として捉えられていた。

ではなぜ今「経営」をわれわれは語らなければいけないのか。「経営」というのは私は、一定の目的の実現のために体系的な意思決定をして、それを執行するということだと思います。そうだとすると何か目的がないとやはり「経営」とはそんなに実は語る意味があまりないのではないか。ただ運営するということであるのであれば、実はそんなに「経営」というふうなことを言う必要はない。

では何が今、最も大きな課題なのか。私は日本の大学にとって最大の課題は大学教育になっていると思います。(続く)