2012年8月3日金曜日

教学マネジメントの現状と課題(4)

第4回目は、近藤倫明北九州市立大学学長です。資料と照らし合わせながらお読みいただくと理解が深まるのではないかと思います。

資料「北九州市立大学における教学マネジメント-カリキュラム改革を通して-」


これまでの発表の皆さん方がグローバルな視点からという形でのお話だったと思います。私は、それこそローカルな話という形で進めたいと思います。地方にあります公立大学の現場からの事例報告という形で、ケーススタディーとして報告したいと思っております。

タイトルは「北九州市立大学における教学マネジメント」ということで、カリキュラム改革を通してということでお話をします。

まず、目次ですが、ここにありますように教学マネジメントのポイントから高校からの評価まで、大変ローカルな、具体的にこれまで取り組んできた内容についてのお話をしたいと思います。

その次。これは、教学マネジメントのポイントということで、これは最後にもう一度まとめたいと思いますが、6点ほど挙げさせていただいていますが、実は上の三つぐらいは、これまでいろいろな形で言われてきたことなのですが、それをいかに運営していくかということのほうが大変重要だということで、実際にカリキュラム改革を2回にわたってやりましたので、その経緯の中でマネジメントのポイントを最後にまとめたいと思っております。

3ページ目になりますが、本学の概要と歴史を少し御説明するということで、ちょっと見にくいので配付したプリント3ページのところを御覧いただきたいと思います。

本学の歴史に関しては、右の上のほうに載っております。1946年、戦後すぐ、次の年ですが、小倉外事専門学校としてスタートいたしました。当初は英米科、それから中国科という形で、世界に羽ばたく、いわゆる語学を中心とした専門学校としてスタートしました。それが外国語学部という形で設置形態をとりまして、そして、大学になりました。それから、経済学部、文学部、法学部、それから、2001年、21世紀になって環境工学部という形で、いわゆる文系、それから理工系合わせた総合大学として、現在は学生数6,600名程度です。公立大学、今、82校ほどありますが、学生数からいえば4番目、5番目あたりに位置する大学です。現在は、5学部1学群という形で学士課程においては構成されております。

まず、大学の運営に関してですが、左側上のほうから経営審議会、これは経営に対する審議会。本学の場合は、理事長と学長がいわゆる別置型という公立大学の特徴をとっております。この経営審議会は、民間からやってきた方ですが、理事長が統括する。それから、右側3番目にあります教育研究審議会、ここは教学マネジメントの主体ということで、学長が把握します。そして、真ん中に役員会を置くという構成になっております。

それぞれ経営審議会、役員会は年に4回とか月に1回という形です。教育研究審議会は2週間に1回という形で、ここが大学マネジメントの主体を担っているところです。

そこの役職のところを左に拡大しておりますが、ここは学長がトップになった教育研究審議会、ここを中心にしてやっています。22名で構成されていますが、事務局長は充て職という形で決まりますが、あと全員に関しては学長が指名という形になります。副学長3名、そして部局の長という形、それから重要な組織の長という形であります。ただし、完全なフリーハンドという形ではありませんで、4段目になりますか、外国語学部長から大学院マネジメント研究科長までの部局を持っているところの9名に関しては、部局で意向投票という形で2名を学長に推薦します。そして、その2名の中から私が選ぶという形をとっています。

もう一点、ここで皆さん方に見ていただきたいのは年齢構成で、網かけの部分が40代~50前半という形で、これは責任体制、中期計画、6年間とあった場合に最終結末まで責任をとるという形で、若い先生方を中心にした形、40代、50代という形でつくられております。

右のほうにありますグラフは、それぞれ本学の教員の構成を表しています。今、270名程度の教員ですが、このような分布をしているということです。

4ページ目に移ります。まず、第一期中期計画ということで、平成17年~22年と書いてあります。これは、国立大学が平成16年に一括して法人化されましたが、公立大学はその次の年ぐらいから、早い時期で本学は法人化をしたという形で、平成17年からの6年間、第一期の中期計画をつくりました。平成17年から22年までの間で、まず、カリキュラムに関係したところでは、いわゆる平成19年度に第一次カリキュラム改革がスタートするということを中期計画の中で決めました。中心になることは何かといいますと、基盤教育センターによる基盤教育の充実ということで、これまで大綱化以降、それから臨時定員等で、いわゆる教養教育がある意味でおざなりになっていたというところを強調する形で、責任体制を明確にするために基盤教育センターを設置するということで、18年に設置して、19年からの改革に臨むという形にしています。

基盤教育センターは、いわゆる責任を持ってもらうために専任張りつきという形で、これまで学部にいた先生方に移っていただくという作業をやって、現在は40名を超える人数が専任で所属していることになります。そして、卒業単位124単位のうちの40単位を、ここが責任を持ってやるという形で、分業体制となっています。センターを非常に強くするために、最初にセンター長は副学長が兼務したということで、私が第一期のときの副学長として、センターの立ち上げ時期にセンター長を兼務いたしました。

当然のことながら、学部から先生たちを異動させることになりますので、学部学科の再編ということが行われます。そして、それに伴って第一次カリキュラムをスタートするという形で、実際に平成19年度からスタートいたしました。ここでは基盤教育の充実、それから、これまで非常勤を教養教育等に非常に高い割合であて、専門教育の先生方を増やしていたという背景がありますので、専門科目を減らして、いわゆる基盤教育、教養教育を充実するという方向で改革を進めました。

そして、19年度から22年度までで完成年度を迎えます。実は平成21年、22年、この2年間をかけて次の中期計画をつくるということの中で、第一次カリキュラムにおける問題というのを、実際に23年から始まる学科再編のためのいわゆるカリキュラムの改正というところにもっていきました。それで、平成21年から22年の間に中期計画を策定するということです。

そして、実は20年度、21年度に大学評価・学位授与機構のほうから認証評価を受けました。そういうことも入れながら、いわゆる第二期の中期計画をスタートし、下にあります第二期中期計画は23年度から28年度ということで、現在、2年目を迎えています。この中では第二次のカリキュラム改革をスタートするということで、この中期計画の中に平成25年から新カリキュラムをスタートさせます。そのため平成23年度においては、いわゆる三つのポリシー、それからカリキュラム改革というのを実際に行ってきました。

その経緯について、5ページ目で御説明したいと思います。これが第二期中期計画です。実は第一期中期計画は169項目という非常に多くの計画をつくっておりました。今回、第二期に入りまして70項目という形で、大分絞った形で策定いたしました。「北の翼」とつけていますのは、文字が非常に小さくて見づらいとは思いますが、これを全紙に拡大したものを学長室に張って、ここに70項目全部書いてあります。これを毎日見ながら、一つずつ消していくというような作業で、ファイルにとじるのではなくて、一目瞭然という形で見えるような状況にしております。

そして、一番重要な点は左の一番上です。これ、「教育」と書いています。ここにいわゆる学士課程教育に関して、まず最初に取り扱うということで、70項目の中期計画の1番から並べています。この図自体は、いわゆる鳥を表しながら北という文字を模しているのですが、教育を左のウイングといいますか、研究を右、そして社会貢献を尾翼、頭の部分に経営という形で、それぞれどこに対応しているかということで、これがすぐに見えるような形で、中期計画をこのような形でナビとして表しているということになります。

次の6ページ目のスライドになりますが、第二期の中期計画の中で行った23年、24年度の取組ということで、一番最初にやったのは学長のミッションである、いわゆる70項目を6年間で処理していくということの中で、まず、それをやるための10のプロジェクトを23年早期につくり上げるという作業です。ここに10項、1から10までありますが、全て学長、それから副学長がトップになるプロジェクトです。これは、従来ありますカリキュラム委員会であるとか、そういう委員会を超えた形で、いわゆる第二期中期計画の主要な部分に関しては学長、副学長がトップになります。もう一つ重要なことは、それぞれ委員会というのは各学科、職員集団、学務課であるとか、そういうところにつくわけですが、学長、副学長がプロジェクトをやったときには経営企画課という特殊な課といいますか、戦略的な課が全てに張りつくという形です。

そして、網かけになっている1、4、7、8に関してがカリキュラム改革に関係したところで、本日少しお話をするという形になります。

まず一番最初、学部等教育改善ということで、1番目に挙げています。学部等教育改善委員会、これは学長が主管する委員会で、ここでカリキュラム改革を行う形になります。実はこの10個の主要施策のうちの三つが学長がトップ、あと7つに関して副学長3人がトップになるというような組織でスタートしております。

次の7ページ目を御覧ください。第二次カリキュラム改革の場合、目的を明確にするということで、いわゆる三つのポリシーの策定とカリキュラムの改革を平成25年度にスタートするという形を明記いたしました。そして、中期目標、計画に沿って、これを実行するという形で、学長、副学長で取り組んだということです。これが第二期の中期計画の第一番の仕事として23年4月からスタートしています。

学部等教育改善委員会自体は、左にありますように、部局長等が入った委員会です。そして、その下に副学長をトップにしたワーキンググループをつくっています。これは、方針案の策定を行います。そして、右端にあります部分が5学部1学群、いわゆるそれぞれの部局の学科ごとの部分ですが、ここにカリキュラムコーディネーター20名を置くという形で、実際に作業する集団という形になります。真ん中のところ、点線で書いてありますのがいわゆる経営企画課、先ほど申しました学長、副学長に直結した職員集団がこれをサポートする。

まず、そこに書いてありますように期限の明示、改革方針の提示、それから学部等の実施状況等のチェックということで、これを進めていくという体制をつくります。

次の8ページのところですが、これはテクニカルな部分ですから説明はあまり必要ないと思いますが、まず、先ほど言った学長をトップにした学部等教育改善委員会が左の端にあります。それが1から5までの方針に沿ってやるということで、右側のところが教育目的の検証・見直し、①からスタートしていますが、いわゆる法人化したときに学則等に書いたもの、それを平成19年度、第一期の中期計画の4年間の完成年度を迎えたときに、その目的に対して正しいかどうかという検証、PDCAサイクルを回すということ、そして、新たにDPの策定ということで、方針と同時にDPを策定している。実は14の能力をそれぞれの学科がカリキュラムコーディネーターによってつくられてきた。そして、DPの後にはカリキュラム・マップという形での策定を始める。

本学には2,000~3,000の開講科目がありますが、カリキュラム・マップの中で、全ての科目一つずつにわたって、その科目がどういう能力を身につけるかということを四つの能力に対応させる。次に、カリキュラム・ツリーという体系性、順次性というところで科目を配置する。

そして、このような作業の中で、それぞれ先生方一人一人が自分の科目がどのような位置付けになっている、意味を持っている、あるいは能力をつけるということがわかってきますので、自分たちの意識が若干変わってきたようです。

それから、非常に重要だったのは学長面接というのが網がけのところにあります。ここは、基本的にはそれぞれカリキュラムが構成されましたときに、学長が学部長、学科長、カリキュラムコーディネーター、18ほどの組織をそれぞれ個別に面談しまして、方針に沿ったカリキュラムになっているかどうか、すなわち学科間で同じようなものがあれば統一しなさいとか、受講生が過去において少なかった科目はやめなさい、いろいろな形でのやり合いがここであるということで、延べ7時間、第2ヒアリングは3.5時間と書いてあります。学長も勉強しないといけませんので、非常に多くの時間をかけています。

そういう形で、25年からのカリキュラムができ上がった後は、それを文章化するCP、APの策定という形で、一応、今年の3月末につくり上げました。そして、7月からは高校への説明会に入るという段階になっています。

次のスライド、9ページ目です。三つのポリシー策定、第二次カリキュラム改革で第一次と第二次の比較をやっています。いわゆる方向性、ねらいといったものをそれぞれ踏まえて、新たなカリキュラムをスタートするという削減、教育責任の明確化等も含めた形でのそれぞれの改革の結果をそこに書いています。

次の10ページ目になりますが、副次的に学生たちを学士課程では勉強させなければならない、どういう方法があるだろうかという一つの案として、平成25年度から副専攻の設置ということを二つ行いました。

まず、7番に書いております最初のほうがGlobal Education Program、これはグローバル人材の育成ということで、25年から始めようと実際には考えてスタートしたものですが、これまでの大学教育はユニバーサル化、学力の低下に伴って底上げというところを中心にした就学前教育や補充授業というのがあったわけですが、逆にトップを引き上げる教育システムというのはそれほど多くなかった。

それで、第二期中期計画の中では、いわゆる勉強できる学生にはもっと勉強させようという形での副専攻の設置です。大変ハードルの高いものをつくるという形で、例えばGlobal Educationですと、副専攻を修了するにはTOEICであったら800点以上とることを条件とするなどのことを含めながらやっていまする。

これに関しまして25年からのスタート予定だったのですが、理事長から準備のできるところから早くやりましょうということで、今年の4月から一部スタートしております。

次に、もう一つの環境ESDプログラム、これも副専攻で、25年から始まりますが、いわゆる地域力を高めようということで、オフキャンパスという形で学生たちを外に出した環境ESD演習というものを組み込んだ部分です。これは、北九州市が環境未来都市、あるいは環境モデル都市に指定されておりますので、環境人材ということで、こういうプログラムをつくりました。

この委員会にもおられます浦野委員がうちの経営審議会のメンバーなのですが、オフキャンパスという用語を使ったときに、オフキャンパスというのはちょっと消極的過ぎる、オンコミュニティという言葉のほうが、学外から見たほうがいいのではないかということで、大学人としての立場、違いというものを教えていただきました。

最後になりますが、12ページのところで、高校からの評価ということで、左の一番端、これは、朝日新聞社の大学ランキングということで、外部評価の中でランキングを目的にしている訳ではありませんが、利用できるものは利用しようということで。改革前、中期計画、法人化前はランク外だったのですが、徐々に高校から生徒に勧めたいという形で評価をされて、右端の状況に至っているということです。

プリントでは2ページ目に戻っていただきますと、まとめという形になりますが、教学マネジメントのポイントとして「学長、副学長指導体制と経営企画課」と書いています。先ほど申しましたように、すなわち従来の委員会ではなくて、中期計画というミッションが明確になった場合は学長、副学長をトップにしたプロジェクトを立ち上げる。これは時限的なものです。そして、それをサポートする事務組織は経営企画課、ここは中期計画のスケジュール管理、あるいは自己点検評価、PDCAを回す主管になっています。そこがサポートするという形で、こういうマネジメントのやり方をやっています。

2番目に、40代、50代教員を中心とした、教員集団に1割程度実働教員がいれば、大学改革は大体何とかなるということで、責任体制ということで、こういうことを中心にしてやっています。

それから3番目、認証評価、法人評価、外部評価の活用ということで、認証評価等によって課題を明確にして、それをやると中期計画の中に明示していくという形です。それから、外部評価の中では、ランキングも含めて、評価されているものに関してはそういうものを使うということです。

以下は少し違う観点からです。大学改革においてよく言われるのは意識を変えるということですが、それを出発点にしないということを基本的に心がけています。意識が変わるというのは成果物として、実際改革をやったり、プロセスや結果を見て、そうなのかと、そういう意識改革があるのだろうと思います。ただし、そうは言いつつも、学長の本音としては、意識をどう変えるのかということを絶えず考えています。その中では事実の積み重ねといいますか、これは学習過程だと思いますので、行動や実践、結果事実といいますか、そういうものを繰り返しながらやっていくものだと思います。

学長の号令の仕方としては、学生のためにやりましょうというような言葉がけ、あるいはステークホルダーへの説明責任、これは社会的な契約でしょう、約束守りましょう、そういうことが先ほどのプレゼンテーションにもあったように、説得のところになるのではないかという気がします。

もう一つ、ポイントということで、「シニア力の活用」と書いています。これは、既存の先生方ではなくて、本学を退職されたり、あるいはほかの大学を退職された先生方を特任、特命として、いわゆる学長直轄の形で学長のプロジェクトに対して、そういう人を置くことができると。第一期では、FD特命教授を置きました。これは、九州大学、国立大学ですが、そこを退職された教員に5年間で北九大方式のFDをつくってくださいということでお雇いしました。そして、今回、第二期では副専攻をやりますが、そういう副専攻を完成させてくださいということで特任の教授を選びます。直接的に学長裁量という形で、こういうシニア力を活用することも非常に重要だと思っています。

カリキュラム改革ということに関して、私がこれまで副学長、学長として経験したことのお話をいたしました。