2013年12月16日月曜日

平成26年度予算編成の論点

去る12月12日(木曜日)に、「平成26年度予算の基本方針」が閣議決定され、いよいよ予算編成も大詰めです。

予算編成の基本方針のうち、大学関係部分を抜粋してご紹介します。「イノベーション人材育成」「グローバル人材育成」「教育再生」「大学改革」「ガバナンス強化」といった政府の重要施策が並んでいます。

また、予算編成の基本方針の策定に先立ち、財務省の財政制度等審議会が取りまとめた「平成26年度予算の編成等に関する建議」を合わせて抜粋しご紹介します。毎年のことではありますが、相変わらず、財務省主導の経済原理を一方的に押し付ける内容になっています。

先進国中、教育費に対する公財政支出が極めて低い(国民の家計負担が極めて高い)我が国の教育振興を国の責任でこれからどう進めていくのかが全く見えないばかりか、建議をとりまとめる審議会では、国立大学と私立大学の使命・役割の違いすら理解できていない視野の狭い有識者が、国民負担に直結する奨学金や授業料を教育の観点からではなく、経済理論一辺倒の議論・発言を行っています。

財務省一流の省益優先の政策誘導なのでしょうが、もうそのような国民不在の不毛なやり方はやめませんか。


平成26年度予算編成の基本方針(平成25年12月12日閣議決定)(抄)

Ⅱ 強い日本、強い経済、豊かで安全・安心な生活の実現

1 成長戦略の実行

(1)民間活力の最大限の発揮(日本産業再興プラン)

改正研究開発力強化法(「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年12月5日成立))の趣旨を踏まえ、人材活用と人材育成の強化に取り組むほか、「総合科学技術会議」の司令塔機能を強化しつつ、科学技術イノベーションを推進するため、府省横断型の「戦略的イノベーション創造プログラム」の創設、基礎研究を含めた科学技術イノベーションを担う人材の育成など、「科学技術イノベーション総合戦略」を推進する。

3 個人の能力・個性を伸ばすための基盤強化

(2)教育再生、文化・スポーツの振興

① 教育再生

「教育基本法」の理念や教育再生実行会議の提言を踏まえつつ、第2期教育振興基本計画等に基づき、教育の質の向上を目指し、人材養成のための施策を総合的に推進する。

グローバル化に対応する人材力を強化するため、意欲と能力ある若者に対する留学環境の整備や、必要な教育を牽引する学校群の形成を推進するとともに、産業界のニーズに対応した学び直し機会の拡大やキャリア教育等を推進する。ガバナンス強化を通じた大学改革及び大学における教育研究基盤の確立による教育研究の活性化に取り組む。

◇ 


3 文教・科学技術

3-1 文教予算

(3)大学関係予算

現在、国立大学においては、
・海外トップクラスの大学の教育プログラムや教員の積極的誘致等によるグローバル化に対応した人材の育成
・優秀な海外の人材の獲得や優秀な若手の研究者育成を可能となるよう、硬直化した人事を解消するための人事給与システムの改革
・日本の経済再生に向けて、大学の研究成果を社会の還元するためのイノベーション機能の強化
などの課題を抱えており、これらの課題解決に向けて国立大学改革に係る取組みを着実に推進していく必要がある。〔資料Ⅱ-3-12参照〕

国立大学に対する国からの主な支援である国立大学運営費交付金の配分については、固定化している傾向が見られる。国立大学改革の着実な実施を考慮すれば、大学のガバナンス改革等に資するよう、各大学の取組みの成果を具体的に検証し、国立大学運営費交付金のメリハリを利かせた配分が必要と考えられる。〔資料Ⅱ-3-13参照〕

国立大学の授業料についても、授業料標準額から120%の上限範囲で大学において自由に設定できるにもかかわらず、現状ではほぼ標準額に固定化している状況にあり、質の高い教育に向け、効果的な投資や授業料免除、大学独自の奨学金など教育環境に係る取組みにより、学生の多様なニーズ・価値観に応えていくために、授業料についてなおいっそう弾力化することで収入の増加・多様化を図り、当該収入を財源とした多様な教育の取組みを行っていく必要があると考えられる。〔資料Ⅱ-3-14参照〕

(4)奨学金の見直し

大学生等に対する奨学金については、無利子奨学金と有利子奨学金を合わせれば全学生の4割に貸与されており、希望者全員に貸与されている。そのような状況の下、文部科学省は26年度概算要求において、「有利子から無利子へ」との考え方に立ち、無利子奨学金貸与者数の大幅増員要求を行っている。

しかし、そもそも大学進学は将来の自分のための投資という側面があり、そのための資金は意欲と能力のある学生に対して有利子貸与で措置するのが原則といえる。在学中は返済義務は猶予され、大学卒業後に本人が所得の中で奨学金返済の責任を負うことを踏まえれば、本来は家計の所得に関わらず有利子奨学金で措置すべきであり、無利子奨学金は極めて例外的な場合に限定すべきである。法律上も、無利子奨学金は「特に優れた者であって経済的理由により著しく修学に困難があるものと認定された者に対して貸与する(日本学生支援機構法第14条)」とされており、その趣旨からいっても無利子奨学金の貸与は厳しい家計基準、成績基準で限定すべきである。

この点、無利子奨学金の家計基準は907万円以下(私立大・4人世帯・自宅)であり、基準を満たす世帯は全世帯の約8割に上っており、明らかに制度の趣旨から乖離した緩やかなものとなっている。無利子奨学金における収入階層別の配分を見てみると、児童のいる世帯の平均所得(697万円)以上の世帯が2割以上を占めており、低所得者世帯への資源の重点配分が行われていない。低所得者世帯に重点的な貸与を行うためにも、家計基準を厳格化する方向で見直すべきである。また、現行の家計基準の下であっても、低所得者世帯への重点的な貸与は可能であり、文部科学省はまずは制度の運用改善に努めるべきである。〔資料Ⅱ-3-15、16参照〕

回収強化については、貸与人員の拡充もあり、3ヶ月以上の滞納額が大幅に増加し、23年度末で2,600億円を超える水準(要返還債権に占める割合5.5%)に上っている。引き続き日本学生支援機構に対しては、学校別延滞率の公表などを通じて、責任をもって新規の延滞防止と延滞金の回収に当たるよう求めたい。

3-2 科学技術

(1)科学技術予算について

科学技術振興費は、平成に入り3倍に増加しており、社会保障関係費を上回る伸びとなっている。また研究開発費は主要国と比べて遜色ない水準となっている。〔資料Ⅱ-3-17~19参照〕

科学技術関係予算の伸びに伴い、我が国の一論文あたりの予算額を国際比較すると、主要国の中でも高額となっており、また我が国の総論文数は伸びているものの、論文の相対被引用度は、主要国と比べて低い水準で推移している。また、研究における不正行為や研究費の不正使用も後を絶たない状況である。〔資料Ⅱ-3-20、21参照〕

科学技術予算については、こうした現状を踏まえ、実績や成果に基づく研究資金の弾力的な配分等を通じた質の向上を図り、より高い成果を社会に還元すべきである。また、研究費の不正使用については、これを実効的に防止するための内部管理体制の構築を大学等に求め、応じない場合は間接経費を削減するための具体的なルール作りを早急に行う必要がある。〔資料Ⅱ-3-22参照〕

  • 国立大学改革の推進について(P133)
  • 各国立大学法人への運営費交付金の配分は固定化していないか?(P134)
  • 国立大学授業料の設定状況(P135)
  • 奨学金の家計基準(P136)
  • 高収入世帯でも奨学金の貸与を受けている状況(P137)
  • 科学技術振興費は平成元年度比で3倍と大きな伸び(P138)
  • 主要国研究開発費の対GDP比(P139)
  • 一般政府総支出に占める政府研究費の割合(P140)
  • 我が国の1論文あたり予算額と論文の質(主要国との比較)(P141)
  • 我が国の科学技術関係予算と論文の量・質の推移(P142)
  • 研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース 中間とりまとめ(案)概要(P143)

財政制度等審議会 財政制度分科会 議事録(平成25年10月28日)(抄)

議事:文教・科学技術について

(吉川分科会長)

では、後半、「文教・科学技術」に関する議論を始めたいと思います。
井藤主計官、説明をお願いいたします。

(井藤財務省主計官)

文部科学担当の主計官の井藤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、時間も限られておりますので、早速ご説明させていただきたいと思います。本日は資料2と3、文教・科学技術関係資料とオリンピック・パラリンピック関係資料、この2つの資料に沿ってご説明させていただきたいと思います。

若干ページをおめくりいただきまして、時間も限られてございますので、大学関係予算のほうに進みたいと考えてございます。大学関係につきましては、特に国立大学、38ページから41ページまで、いろいろな大学改革について参考資料をつけさせていただいております。いろいろ大事な点が含まれているんですけれども、時間の関係でご説明は省略させていただきますけれども、41ページでございまして、まさにこの秋にも国立大学改革プランを策定して、大学をどんどん改革していこうということになっているわけでございます。ただ、大学の改革の主体というのは、これはあくまでも大学でございまして、やっぱり大学がきっちりとやる気にならないと、さらに大学がきっちりと改革を実行できないと、幾ら笛を吹いても誰も踊らないというような、踊るというのは表現が悪いですけれども、改革が進まないので、かけ声倒れになると。中でもそういった改革を進めるためには、大学のガバナンス改革とか、学長のリーダーシップの発揮、こういったようなことで実際に改革へ向けて大学が動くようにしていくということが大事だろうと。予算面でもこういう方向でいろいろ考えていけないと思っている次第でございます。

一方、大学については、改革もいいんだけれども、42ページですけれども、近年運営費交付金をいろいろ削られて、とてもそれどころじゃないという話もあります。ただ、これは、43ページをおめくりいただければということなんですけれども、国立大学の法人全体の収入で見ると、これはかなり伸びているわけでございまして、運営費交付金が減っているのは、病院の赤字分が診療報酬の改定等によって改善して、その補塡がなくなるとか、いろいろな要因で運営費交付金は減っているんですけれども、全体の収入なりが決して減っているわけではないということでございます。

それで、45ページなんですけれども、大学改革を推進していく上で、予算面でどういうかかわりができるかということなんですけれども、そういう改革をいろいろ進めるために、大学の機能強化のために、実は国立大学運営費交付金の、今では約1割程度になっていますけれども、特別運営費交付金というものを設けて競争的に配分していこうとしているわけでございますけれども、左に表があるんですけれども、上位10校の配分実績で見ると、その配分の実績というのは、一般の交付金の配分と大差ないわけでございます。したがって、こういうところの配分というのは、より透明、競争的に配分し、さらには国立大学のガバナンス改革というものにより資するように活用していくような方向で見直すべきではないかというふうに考えている次第であります。

次に、国立大学の授業料の設定についてですけれども、46ページでございます。国立大学の授業料については、文科省が「標準額」というものを決めまして、2割増しの範囲で各大学が自由に設定するということなんですけれども、これは実は標準額にほとんど張りついてございます。「あるべき姿」と上に書いていますけれども、やっぱり質の高い教育を行って、それに見合う授業料を設定すると。そういうことで収入を増加させて、教育をいろいろ充実させたければ、そういった投資に使うし、さらには学生への還元も行えるのではないかということでございます。

現に、47ページですが、アメリカの例でございます。棒グラフ、右のほうに上下、私立と公立が載っていますけど、やっぱり選抜性の強い大学のほうが授業料も高く取ってございます。ただ、いずれにしても、競争性のいかんにかかわらず、一番上の四角の欄なんですけれども、米国では一般に授業料を高く設定した上で幅広く減免を行って、学生の支援にお金を使っているということなので、日本の大学もこういう方向で考えられたらいかがかというふうに思ってございます。

次に、奨学金事業の話でございます。同じような文脈なんですけれども、時間も限られてございますので、ポイントをご説明しますと、55ページでございます。一番上の点線の箱なんですけれども、文部科学省は、意欲と能力のある学生が、経済的理由により進学を断念してはいけないということで、今年も無利子の奨学金を5万人程度増やしてほしいというような要望をされてございます。ただ、無利子の貸与を受けている世帯の所得の実態を見ますと、2割以上の世帯が実際700万円以上の所得を得ているというような実態がございまして、より低所得者層の支援を充実させたいというようなことであれば、そこら辺を見直して財源を捻出するというか、プラスアルファの資金を投入するというようなことではなくて、そういう形で重点化をすべきではないかというようなことを考えてございます。

56ページですが、若干の参考ですけれども、ちょっと古い調査ですが、奨学金というものについては、一番上の左側の点のところですけれども、書籍購入代ではなくて、食費や日常費、電話代、海外旅行などに使われるというような疑いもありますので、高所得者の家庭の学生にどこまで支援するかというようなことも含めて、見直していける余地があるんじゃないかというふうに考えてございます。

57ページ、58ページは回収状況ということで、返してもらうための回収状況ですが、こういうことは引き続き力を入れてやらないといけないということでございます。

次に、科学技術関係予算でございます。67ページですけれども、科学技術振興費というのは、平成元年度比で3倍と大きな伸びをしております。こういう予算についてどう考えるかということですが、68ページですけれども、諸外国と比較して、よく科学技術も国の投資が少ないんだという話は聞きますけれども、近年の状況を見ると、必ずしもそうではないと。特に69ページなんですが、日本の場合は政府の規模がそんなに大きくないんだと。さらに社会保障費がどんどん増えているという財政制約の中で、一般政府総支出に占める政府研究費の割合を見ると、諸外国と比べても随分頑張っているということがフェアな評価ではないかと。

70ページですが、そういった中で、科学技術の投資を増やしてきている中で質が上がっているのかというと、1つの指標ですが、相対被引用度というのが質の指標になり得ると思うんですが、これがそんな改善しているわけではありません。また、71ページですが、質と量の、量のほうはどうかと言いますと、論文数というのもそんな増えているわけではなくて、限界効用が若干逓減しているのではないかという疑いがあるということでございます。やっぱりこういったことを考えると、重点化というものの中でより効果のある施策を見極めて、総額を増やすことということではなくて、重点化により対処していく必要があるのではないかということでございます。

72ページは近年不正という話も大きく取り上げていますので、こういったことにもきっちり対応しなくてはいけないと。

(吉川分科会長)

どうもありがとうございました。では、早速、質疑に移りたいと思います。

(田中委員:(独)大学評価・学位授与機構教授、日本NPO学会会長)

2点あります。1点目は資料の若干の補足であります。2点目は問題提起になります。
1点目、70ページの相対被引用度の推移という、論文のインパクトファクターと呼ばれているものなんですが、論文の質が高い・低いというふうに書かれているんですけれども、これは引用度が高いか低いかということを上下であらわしていまして、要は研究者という1つの市場の中でよく使われているか、使われていないかという1つの評価の指標であります。ただ、たしかにクオリティーが高い論文も評価されているんですが、あわせて、手法とか技法に関する論文は比較的引用度が高いものでありますので、ここも考慮していただいた上でこういう結果だということをお含みおきいただければと思います。

(老川委員:読売新聞グループ本社取締役最高顧問・主筆代理)

38ページにもありますが、グローバルの人材を育てるためには外国人教員の採用も大事だというご指摘があって、そのとおりだと思いますが、今度少し戻るんでしょうけれども、公務員給与のカット、これによって大学の教員の給料も相当カットされる。それに伴って、外国から来ていた教授が、とてもこれじゃかなわんと言ってやめちゃったとか、あるいは日本の教育者が日本じゃなくて外国のほうに職を求めて行っちゃうとか、こういう問題が生じているようです。そういうことについて、大学の中でいろいろ、例えば年俸制にする、制度的にはできるんでしょうが、そういう自由度をもう少し高めて、外国から喜んで日本に教育に来ると。こういうような仕組みをできないものかなと考えるんですが、そこら辺はどうなのでしょうかということをお尋ねしたいと思います。

(井藤財務省主計官)

大学につきましては、制度的には結局、大学の運営費交付金等の中でいろいろやれるわけでございます。ただ、外国から来た先生を優遇するということになると、その財源をどこから捻出するかという問題が一方でつきまとってきまして、だからその分を大学に予算を余分にくださいというのはなかなか今の事情では通らないわけで、そういったことは、例えば特別運営費交付金の中の重点化の仕組みというのが1つの事例かもしれませんけれども、あと、既存の大学の経費の中でどうやって捻出するかということだと思います。そうなると、重点化されないほうの人たちというのはどのように考えるかという問題が出てくるわけでございまして、ここら辺、難しい問題にもなるんですけれども、我々のほうとしては、改革を後押しするような形でどんどん進められたらというふうに思ってございます。

(土居委員:慶應義塾大学経済学部教授)

私も一大学人として、大学改革が進まないということを非常に隔靴掻痒(かっかそうよう)に思っていまして、学内ではあまり力がないので、このようなところで私が思い描く大学改革を述べさせていただくんですけれども、来年度予算編成に当たって喫緊の課題なのは奨学金事業だと思います。奨学金事業、無利子奨学金を増額するという要求があるという話ですけれども、私は、これは大学改革とセットで考えるべきだと。大学改革を担保できないようならば、奨学金を増額するというわけにはいかないというぐらいの構えでぜひ当たっていただきたいなと思います。

と申しますのは、先ほど主計官、ご説明ありましたけれども、46ページにあるように、授業料が極めて画一的である。優秀な学生に授業料を免除するということは、例外的にないわけじゃないけれども、基本的には大々的にやっていないと。例えば優秀な成績上位10%の学生の授業料を無料にするかわりに、下位10%の学生の授業料を基準の2倍にするというようなことでもすれば、これはあくまでも仮想的な話ですけれども、授業料収入は変わらない。それでいて、奨学金がなくても優秀な学生の経済的負担は軽くなると。こういうようなことがありますから、授業料の工夫もせずに、奨学金だけで何とかしようということでは全然問題の解決にならないというふうに私は思います。

そういう意味では、今日、あわせて主計官がご説明になったというのは、我が意を得たりというか、大学改革と奨学金事業を、急に授業料を変えるというのは難しいにしても、将来的に授業料の取り方を工夫するということを含めて大学の改革を進めるということが言質としてとれない限り、奨学金をどしどし増やすというわけにはいかないというようなところは私はあるんじゃないかというふうに思います。

しかも、50ページにありますように、日本学生支援機構が行っている奨学金は無利子と有利子とありまして、無利子が増やせないなら有利子を増やすというようなことでは、これは問題の解決になっていない。つまり、有利子奨学金というのは、財政投融資のお金が使われているわけですけれども、その原資は財投債という国債によって一時的に賄われるというわけですから、もちろん奨学金が返済されることによって、その原資は返ってくるということでありますけれども、あくまでも有利子奨学金だから問題の解決になるというわけではないと。やはりもう少しめりはりのきいた授業料の取り方ということを含めて大学改革を進めていただくと。

授業料収入は、私が先ほど上位10%をただにして、下位10%を2倍にすればと言いましたけれども、例えば下位15%を標準額の2倍にすれば、授業料収入全体は増えるわけでありますから、授業料の取り方を工夫することによって授業料収入全体を増やすということは、大学の努力によって、仮想的ではありますけれども、やろうと思ったらいろいろ工夫ができる余地がまだまだ残っているところだと思いますので、そういうところをもっと大学に改革を求めていくべきではないかなというふうに思います。

(赤井委員:大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)

大学に関しましては、41ページのところに大学改革が進んでいる。特に私も国立大学におりまして、進んでいるという気はするんですが、やはりガバナンス改革という意味では、学長、総長に権限を集約されている割にはなかなか思ったようにできない。ご存じのように教授会という組織がありまして、民主的に総長を選ぶということもありまして、いい面もあるんですが、なかなかそれで進まないということもあります。やはり予算的なところにめりはりをつけて改革を促していくことが重要というのが1つと。あと土居委員もおっしゃったように、私も同じように、この46ページ、授業料の横並びの話が重要かなと思いまして、大学で、特に私も本部など私の大学のトップの人ともしゃべることがあるんですが、なかなか授業料は、国立大学の協会みたいなところで横並びで、自分だけ新たな取組みをとりにくいというようなところがありまして、ここのところをもっと多様化させていく取組みが重要じゃないかなというふうに思います。

それとの兼ね合いで言いますと、土居委員がおっしゃったように、奨学金をうまく使って、授業料を上げるというかわりに、そのかわりに奨学金をもっと増やす。現在の制度とは別の制度でもいいと思うんですけれども、実際オーストラリアなどで導入されているHECSという所得連動の奨学金がありまして、授業料は高いんですが、ほとんどの人に奨学金を与えて、実質の授業料は下げておくと。そのかわり、将来、成長して稼いだ場合に返してもらうというような形の奨学金であれば、実際授業料が上がっても、それほど学生には負担はないということで、授業料の引上げと所得連動奨学金の導入で例えば大学の多様化が進み、財政再建、つまり、授業料を上げた分の一部を戻せば財政再建にも貢献しますし、ほんとうに貧しいというか、苦しい人には実際奨学金が与えられるということで低所得者対策が可能になりますし、その奨学金は例えば真面目な学生だけに渡すというふうにすれば、学習意欲の向上にもつながりますし、そういう意味でもこの多様化というのをどんどん進めていくと。それがガバナンス改革というのにつながるのではないかなというふうに思います。意見です。

(黒川委員:慶應義塾大学商学部教授)

大学の、要するに高等教育というところに関係してくると思うんですけれども、その大学の中でも、要するに研究大学と、それから、いわゆるコミュニティカレッジみたいな大学があって、我が国でもそれが一緒くたには絶対議論できなくて、それぞれの、僕の友人や弟子たちから聞いても、全然違う感じだと言うわけですね。慶應に先生はいるけれども、全然内容が違うと、対応も違うと、同じ大学と言っても。だからここの大学に対する我々の対処の仕方についても、要するにいろいろな大学があって、それぞれきめ細かに対処していかなければならないというふうに思いました。全てどういうような国民の姿形に我々はこの後していくのかという視点をいつも持たなければならないのではないか。

(富田委員:中央大学法学部教授)

55ページで、先ほど主計官より、来年度の概算要求として、奨学金でありますけれども、無利子貸与の大幅増員の要求が出ているというお話がございました。そもそも教育は、社会に出て役に立ち、所得を得て納税の義務を果たす人たちを育てることであって、最初から、大学のときに意欲と能力があるから無利子貸与だというのは、私は論理が矛盾しているように思います。機会均等であれば、有利子を全員に与えることが大事であって、無利子をなぜ充実する必要があるのか。ほんとうに納税義務のある人たちを育てるのであれば、そういう認識は改める必要があろうというのが1点です。

それに関連して、57ページでは延滞債権が非常に増えているという話がございます。先ほど大学改革の話もございました。これ、延滞債権が増えているということについての情報が、少なくとも大学単位で公表できるようにすれば、やはり大学のガバナンスの強化にもつながり得る。だから社会での評価ということで、フィードバックがかかるということでございます。


著者 : 西内啓
ダイヤモンド社
発売日 : 2013-01-25