2014年5月7日水曜日

電子ジャーナル問題

近年、「電子ジャーナル」は、継続的な値上がりに加え、円安も手伝って、各大学の大きな経営問題の一つとして大きくクローズアップされています。

文部科学省では、こういった状況を受け、このたび「ジャーナル問題に関する検討会」を立ち上げ、ジャーナルの現状や課題の正確な把握・分析を行うとともに、対応策について議論を行うことにしたようです。

過日、第1回会議の配布資料と議事録が公表されました。大学におけるジャーナルの財政負担や、論文等の研究成果に無償でアクセスできるオープンアクセス等について議論されています。今後の動向を注視したいと思います。



今回は、取り巻く状況についての文部科学省の認識と、各大学(図書館)に求められる現状把握・取組みに関する部分を、議事録から抜粋してご紹介します。(下線は拙者)


ジャーナル問題に関する検討会(第1回、2014年3月26日開催)議事概要(抜粋)

【文部科学省】

本検討会の設置の趣旨は今、局長から申し上げましたとおりでございますけれども、資料1のとおり掲げておるところでございます。研究成果の流通において重要なジャーナルの在り方ということで、毎年、継続的に値上げが続いてございますけれども、特に大学の財政負担を考えますと、これを維持することは非常に難しくなってきていることは皆様方、御承知のとおりだと思っております。これをどう考えるかは国としても考えないといけないわけですけれども、先生方にも御意見を頂いて発信していきたい。

オープンアクセスの確保は、世界でG8の科学技術大臣・アカデミー会長会合においても議題として取り上げられております。そういった流れの中で、実際に緊急性が高い内容、ジャーナル問題を考えていきたい。

検討事項は2に掲げてございますけれども、ジャーナル流通の現状、課題及び対応策は本日、御議論いただきまして、また次回以降はオープンアクセスへの対応、その他のジャーナルに関しての課題としては、3月13日の日本学術会議のフォーラムでも必要性が議論されておりました日本発のリーディングジャーナルの育成といったものの課題に対しても御議論いただいて、方向性をまとめて発信していきたいと考えておるところでございます。

設置期間は今年の7月いっぱいで、夏前までに集中的に審議させていただきたいと思っておるところでございます。

特に購読料の問題につきましては、配付資料の中で、参考資料として一番最後に、昨日、25年度の学術情報基盤実態調査の結果を報道発表した資料を付けさせていただいております。後で御参考として御覧いただければ大変有り難いと思っているんですが、この中で5ページの真ん中辺にグラフがございまして、電子ジャーナルの総経費と平均経費というところの下の表を御覧いただきますと、国公私立大学の総経費の合計が23年度は218億円でしたが、24年度は227億円で、約10億円、4.5%も必要経費が増えている現状でございます。こういった形でどんどんジャーナルの購読に係る経費の負担が各大学で大きくなっていることが明らかなデータで見てとれることもございますので、改めてしっかりと検討していきたいと考えているところでございます。

【谷藤委員(独立行政法人物質・材料研究機構科学情報室長)

脱パッケージが何を意味するかというと、研究資料をタイトル数の規模で判断するのではなく、ジャーナルという単位で判断し、あるいはそのジャーナルに載った有用な論文がどれだけあったのかという粒度が小さいレベルで検討、議論しなければならないことを意味しています。それを研究する人たちに、これが最適な回答であると図書館が示すためには、当然に、科学者を相手にしていることもありますので、論文単位でどれだけ使われているか、あるいはどの研究領域に使われているか、その単価を掛け算するとどの程度の支出の規模になるのか、研究ユニットごとに若手が主体なのか、あるいはシニアの研究者で小規模に行われているのか、研究のスタイルはいろいろありますので、このような多様性を踏まえて、横断的な調査、分析をして提示する必要があります。

【安達委員(国立情報学研究所副所長)

Big Dealで論文数が増えているのかという問題があります。これに対して、少なくともマックス・プランクで投稿しているエルゼビアやシュプリンガーへの投稿論文は増えていないといっておりました。また、別の議論として、オープンアクセス雑誌が若い研究者が投稿する論文を吸収するところになっているという紹介もありました。このようにとにかく、データを持って交渉しないことには価格の高騰について戦えないわけです。図書館の立場として各大学におかれましては、種々の論文に対してどのようなアクセスをしているのか、そしてそれに払う対価が妥当なのかというデータを把握した上で交渉しなければならない段階になったと思います。

【引原委員(京都大学図書館機構長・附属図書館長)】 

我々がもうやっている話なんですけれども、まずデータを取ること。各大学が自分たちがどの雑誌が欲しいかの把握をちゃんとすること。予算の裏付けをきちんとすること。そのときそのときで適当な予算を持ってきて処理するのではなくて、オーバーヘッドならオーバーヘッドで、その範囲内で運営することを図書館がきちんと把握すること。ないからおねだりするのではないということは何度も言われています。さらに、こういう選考のときに、自分の関係の雑誌、共通の雑誌がなくなることに反対する方々はいっぱいいらっしゃいますので、ルールを明確にすること、そして全てをオープンにすることというのはどこの大学でも言われていることです。

【引原委員(京都大学図書館機構長・附属図書館長)

大学の経営関係の方々が図書館のことは図書館の関係者に任せてしまわれています。ですから、予算に関しては出さないとおっしゃりながら、情報を自分たちで把握されていないのも現実だと御理解いただきたいと思います。

【竹内委員(千葉大学附属図書館長兼アカデミック・リンク・センター長)

契約情報に関しては各大学で守秘義務が生じている可能性があります。うちの大学はこうですと、今日も私は余り具体的な数字は申し上げませんでしたが、そういう状況にあるので、これはちょっと工夫をしないと情報の共有ができないと思います。ただ、完全に匿名化された状況で構わないので、この大学はこういう買い方で、こういう形でこういう判断をしたというケーススタディみたいなものは、やはりここできちんとやっておくべきであって、その情報共有が議論していく上での基本になるのではないかと思います。ですから、この点については、もしも可能でしたら、完全に匿名化する形で、つまりこの大学がどこか想像もつかないような形で情報を共有するしかないんじゃないかと思います。

【文部科学省】

私どもは、今日、それぞれの大学の事情を御説明いただいたことだけでも十分意義があったと思っておりまして、それさえも全く分からなくて、各大学がどういう状況で、どういうジャーナルの購読状況にあるのか分からない中で、Big Dealについては維持しないといけない。だから、その経費についてどうするんですかと。そうすると、結局のところ、実際に読んでいるかどうか分からないんですけれども、そういったニーズに対してはアクセス環境を用意することは当然、非常に重要なことで、それも理念として大事なのは分かっているんですけれども、どれぐらい必要なのか、それをやめた場合にどうなるのかが分からない状況の中で、予算は確保しないといけないから、国で契約をしてくださいということにすれば自分たちは楽になるというのでナショナル・サイト・ライセンスにしてほしいという話が出てくるわけです。しかしながら、それだとこれまでの価格上昇を抑える要因にはならなくて、国が予算を確保したら、それで問題が解決するかというと、そうではないと思いますので、そういう各大学の状況、例えば今日、出席していただいた大学の例を公開の中でお話ししていただいたことをまとめて、こういうことになっていますよと明らかにするだけでも、今、どうしたらいいか困っている大学図書館関係者や大学関係者の方々には参考になります。また、状況が大学によっていろいろ異なりますから、一律にこれをやめるべきだ、継続すべきだという議論は適切ではないことはよく分かりましたので、こういったものを事例として公開できる範囲のアイデアをいろいろ提供していって、この場合は実際どうだったのか、全然問題はなかったのか、こういったことが問題だったので、更に改善していくという取り組みをまとめて発信していって、今後できることにつきましては、当然、JUSTICEの方やNIIとも相談しながら、今後はどういう情報提供が望ましいかという方向性だけでも示して、役所としてできることをやって、更に付加的な情報としてそれを蓄積して公開していくことまではできると思います。

ですので、こういった一概にBig Dealを維持するかどうか、そのコストをどこが担うのかという短絡的な議論ではなくて、様々な現状があって、大学として適切に公開する中で、そのセーフティネットとしてオープンアクセスを捉えて、それはNIIや国としてどう取り組むべきか、また、別途、混乱したというお話がございましたけれども、それとは別に日本のジャーナルをどうするかについては、そういったオープンアクセスを支援するとか、国が日本のジャーナルを戦略的にどうするかに対しては国として支援するところもあるかもしれません。科研費などでもありますし、そういった予算を拡充していくという仕組みもできますので、そういったことは別途、考えていくという形で総合的にこの委員会でまとめていただければ、非常に意義がある取りまとめができるんではないかと感じております。


参考:オープンアクセスに関する記事


参考:シェアード・プリントに関する記事