2014年9月1日月曜日

電子ジャーナル問題

先日、文部科学省は、大学等におけるジャーナル環境の整備と我が国のジャーナルの発信力強化の在り方について」(平成26年8月、ジャーナル問題に関する検討会)という報告書を取りまとめ公表しました。

文部科学省のホームページには、報告書の背景及び内容として次のように書かれています。

(背景)
  • 学術研究の成果が論文として掲載される学術雑誌(ジャーナル)は、研究の推進や成果の社会での応用を実現する上で、必要不可欠な情報資源です。
  • 我が国では、学協会がジャーナル刊行・流通を海外の有力出版社に依存しているケースが多く、また、研究者は評価を得るために、論文を海外中心の国際的なジャーナルに投稿せざるを得ないという問題があります。そのため、日本のジャーナル強化と海外ジャーナルの国内利用環境の整備は重要な政策的課題になっています。
  • 特に、今般、ジャーナルは、購読価格の継続的な上昇、為替変動(円安)の影響に加えて、消費税課税の可能性が高まり、大学等ではアクセス環境を予算的に維持することが難しくなってきており、ジャーナルの長期的な維持及び発展について本質的に考え直す必要があるとの判断から検討を行うこととしました。


(報告書の内容)

本検討会では、直面する問題として、
  1. 大学等のジャーナル価格上昇への対応
  2. 世界的に進むオープンアクセスへの取組
  3. 日本の競争力強化のためのジャーナル強化
に関し、現状及び今後の課題と対応の方向性についてまとめています。


報告書の「問題意識」にも書かれてあるように、現在、多くの大学では、電子ジャーナル価格の継続的な上昇に加え、包括的購読契約への依存に伴う予算の硬直化、さらには、為替変動(円安)に伴い、購読経費が急増し、また、従来課税対象となっていなかった海外からの電子的サービスに対する消費税課税の可能性が高まっていることも相まって、電子ジャーナルの購読維持が予算的に大変厳しい状況になっています。

この問題は、個別大学の努力だけでは解決が困難な面があり、このたび、文部科学省が重い腰を上げ、この問題に取り組もうとしたことについては、大きな期待が寄せられたのではないでしょうか。

しかし、報告書は、全体としてその期待には十分応えたものとは言い難く、電子ジャーナルの購読を維持する方策についての国の責任や具体的な解決方法等が明らかにされているようには思えませんし、結局は、従来どおり、各大学や関連機関・団体に問題解決に向けた努力を促すことに終始しているような気がします。

難しい問題だからこそ、時間をかけでじっくりと議論し、国としての具体的な政策を明示すべきではなかったか、財務省向けの概算要求のためのアリバイづくりといったことになってはいないか、関係者はしっかりと検証すべきかもしれませんね。

現在、多くの大学で、来年度に向けた購読契約方法見直しの検討が進められているのではないかと思います。

大学図書館は、学生の教育だけではなく、研究の高度化、特に若手研究者の養成に必須の重要な「学術情報基盤」です。しかしながら、図書館の資料費は、近年の運営費交付金等の削減に連動する形で減らされており、その中で、年々増加する電子ジャーナル経費を維持することは不可能です。ひいては学生用図書費の減少を余儀なくさせ、図書館の存在意義が問われかねない状況を招きかねません。

大学の経営トップや財務担当者は、大学図書館の重要性や取り巻く厳しい状況を再確認し、大学経営の健全化を前提としつつも、安定した財政基盤による図書館運営が可能となるよう努力していただきたいと思います。

さて、このたび文部科学省が取りまとめた報告書の中に示された「大学における対応」を中心に抜粋してみましたので、参考までご紹介します。(下線は小生)


2 ジャーナルの利用状況と価格上昇への対応

(1)現 状

ジャーナルの購読契約については、ジャーナルに対するニーズや利用状況をデータに基づいて分析した上で、包括的購読契約の見直しを行っている大学等がある一方で、包括的購読契約のメリットを踏まえて継続している大学等もある。

購読経費の負担方法は、本部・図書館経費で負担している大学等、各部局からの拠出によって維持する体制をとる大学等、本部と部局等で折半している大学等、研究経費を削って購読経費に回している大学等など、様々である。

また、大学等では、ジャーナルに関する支出の継続的上昇に対応するために、基盤的経費以外の財源からの支出を余儀なくされているところもある。

具体的な対応については、以下のような事例が見受けられる。

  • A大学では、これまで全ての包括的購読契約の購入費について、一定額を共通経費で支援、残りを部局等負担としていたが、数件をインフラパッケージと見なしてその額を共通経費で負担することとし、その他の必要な契約については、部局の利用実績に基づき決定する方式に変更した。包括的購読契約におけるジャーナルの利用状況を分析すると、利用されているジャーナルは1/3から半分以内程度に収まっており、利用されているジャーナルでも年間数アクセスというものもあったことから、これらを包括的購読契約を維持する必要性について検討する根拠としている。
  • B大学では、ジャーナル経費は1/4を本部負担、残りを部局等負担としている。電子ジャーナルを含む外国雑誌の今後の必要経費の試算において、5年間で2.5億円の増額になると想定されたことから、経営判断としてメジャーな包括的購読契約を取りやめ、削減される経費を若手教員雇用経費等の財源に振り向ける選択をした。
  • C大学では、全体経費の約10%に相当する額を本部経費から負担し、残りを「学術基盤資料費」として部局等から収集している。包括的購読契約は相当の費用対効果をもたらしており、研究大学としての研究力を維持するため、包括的購読契約の継続による情報アクセス環境の維持に努めている。
  • D大学では、基本的に本部負担で、教育、研究等に必要な電子資料の購入を増やしてきたが、今後現状を維持することも難しくなった。そのため、コアジャーナルの選定基準を定め、中期的にコアとしたものは優先購入し、残りは適時対応することとした。
  • E大学では、電子ジャーナル経費を図書館予算と学部予算で負担しているが、双方とも増額は望めない。このまま価格上昇が続く中で購読を継続することは困難であるため、包括的購読契約を見直し、ジャーナルごとの契約への切替えや論文単位の購入を利用せざるを得ない。利用可能タイトル数が大幅に減ると、大学の研究力、特に若手研究者への影響が懸念されるため、何らかの対応をする必要がある。
  • F研究機関では、図書館予算(運営費交付金)で負担しているが、運営費交付金の年10%近い削減が続き、毎年値上げされるジャーナル、データベースを維持するに足る図書館予算の確保ができない状況にある。包括的購読契約からジャーナル・論文単位購入に移行、その原資に研究費を充てるなど、限定的な維持を強いられている状況であり、非購読誌の論文入手にかかる時間増が懸念されている。海外との共同研究や連携大学院等により研究者がグローバルに行き来する中、分野を代表する研究機関にふさわしい資料確保ができず、先端的・競争的研究、若手研究者等への影響を懸念している。

(2)今後の課題と対応の方向性

ジャーナルの購読契約の見直しに当たっては、同様の課題に先行して対応してきている米国の例も参考にすると、①データを取ること、②必要とするジャーナルを把握すること、③購入予算の裏づけを明確にしておくこと、④選定するルールを明確にすること、⑤情報をオープンにすることが重要である。また、各機関での取組事例や情報を可能な範囲で共有することが有用である。

その上で、各大学等では、それぞれのミッションや利用者のニーズを勘案しつつ、限られた資源を有効に活用することを視野に入れ、教育研究に不可欠な情報資源としてのジャーナルを責任を持って整備することを第一に考えるべきである。

既に述べたように、ジャーナルに関しては多様な購読/契約形態が可能であり、それぞれの置かれた状況を考慮した上で、最も合理的なものを各大学等が判断し、選択することが求められる。そのために必要なデータの収集・情報提供等については、大学等の図書館が責任をもって行い、機関内で意思決定者と十分な情報の共有を行う必要がある。

また、このジャーナルの価格上昇問題への対応等、ジャーナル整備にかかる課題の解決に当たっては、購読契約の見直しのみならず、大学間の広範な連携・協力を積極的に進めることが重要である。

5 おわりに

大学等は、各機関の状況に応じたジャーナルの契約形態の見直し、学問領域ごとの資料需要に応えるジャーナル・論文取得の最適化、新たな購読方法の創出、併せてセーフティネットとしてのオープンアクセスの推進により、包括的購読契約等の従来のジャーナル購読モデルに過度に依存しない環境整備への転換が必要である。

また、このような課題に取り組むためには、学術情報流通に関わるステークホルダーの意識改革が何より必要である。研究者が有力ジャーナルへの論文掲載数を競い、それを国も評価するという状況が変わらない限り、ジャーナル価格の上昇基調は継続すると思われる。国としても評価に関する姿勢を改め、オープンアクセスを推進していることを研究者に積極的にアピールし、意識改革に努めることが重要である。あわせて、大学等においても、教員・研究職員評価等の際の研究評価に多面的な指標を活用する体制を整備すべきである。

また、大学等においても、分野特性や需要に応えるべく、研究資料の収集と利用、オープンアクセスを含む発信、イノベーションを創出するオープンサイエンスとして包括的にとらえた学術・研究情報流通基盤の創出に取り組むべきである。