2014年9月6日土曜日

自分らしく働く

池上彰氏に聞く「自分らしく働く」ために必要なこと」(2014/8/29 日本経済新聞)をご紹介します。


「給料が上がらない」「充実感が得られない」「自分らしく働きたい」──。そんな思いはあっても、どうしたらいいのか分からない。そもそも、自分らしく働くとはどういうことなのか? 池上彰氏に単刀直入に聞いてみました。


■「自分らしく」なんて考えたことがなかった

丁寧な語り口調と、万人に分かりやすい解説、歯に衣着せぬ鋭い指摘…。すっかり自身のカラーが世間に定着している池上彰氏。自分らしく働くことに相当なこだわりがあるのかと思いきや、意外にも「“自分らしさ”については、これまでほとんど考えたことがない」と話す。

「とにかく、興味のあることを追い続けてきただけ。でも、人と全く同じことをやっていても面白くないですよね。人が知らない特ダネを書き、人が発想しないようなユニークなリポートをしたいとは思っていました」と、NHK時代を振り返る。

「でも、今になって思えば、それが“自分らしく働く”ということなのかもしれませんね」

最近、仕事や働くことへのモチベーションが上がらず、「自分らしく働けていない」「このままずっと働いていけるか将来が不安」と悩む人が増えてきている。そんな声に対して池上氏は、「目の前の仕事に一生懸命になりすぎて、全体が見えなくなっているのでは」と案じる。

自身も、記者になりたての20代の頃は、与えられた仕事に精いっぱい向き合いながらも、「自分の成長のため」と意識することで、モチベーションを維持していたという。「つらかったし、『なんでこんな仕事をさせられるのか』と思うこともありましたが、『基礎を身に付けておけば、将来記者として、成長できるはずだ』と自分に言い聞かせていました」

■疲れたときは自分の世界に避難しよう

そもそも私たちはなんのために働くの? お金のため? 生活のため?

もちろん、それは大前提としてある。けれども、それ以外に、働くことは社会に貢献することだ、と語る。

「私たちは社会を構成する一員です。働いて対価を得て、そして納税をすることで国が成り立っていますし、社会保険料を納めることで高齢者の暮らしを支えています。読者の人たちにはぜひ、自分も働くことで社会を支えているんだ、という認識を持ってほしいですね」

日々抱く悩みのなかでも特に多いのが、「仕事がつまらない」「やりがいを感じられない」など、自身の仕事内容に関する不満だ。それに対して、大切なのは「『仕事がつまらない』と決めつける前に、その仕事の意味を見いだすこと」だと言う。

「自分の会社は、一体どんなことをしているのか。自分の仕事には、どんな意味があるのか。仕事の目的やゴールをきちんと見据えた上で働けば、仕事を無駄なく進めることができるし、力をつけていくこともできる。そうすると、今よりもっと面白く、効率的に、やりがいを持って働けるはず」

一方で、今後自分が成長するためには、時に会社や仕事を上手に利用することも必要だ、とも。「働くことは、確かに世のため人のため、会社のためですが、同時に自分のためでもあります。今の仕事を自分の成長につなげることを意識して働くこと。それが大切です」

さらに、成長に必要な要素として挙げるのが、ロールモデルを持つこと。「誰かに憧れるとか、誰かの働き方に共感するとか。『こうはなりたくない』という反面教師も含めて。『こういう働き方がいい』と思える上司や先輩を見つけるといいですよ」

ストイックかつアグレッシブに仕事をこなす池上さんでも、常に走り続けることは不可能だ。時には、息切れしてしまうこともある。「僕だって肉体的なくたびれはもちろん、精神的なくたびれだってあります。そりゃあ人間だもの。もちろん、立ち向かって戦わなければいけないときもあるけれど、常に戦い続けることはできません」

疲れたな、と思ったときにはひたすら眠ったり、本の世界に逃げ込んだりするのが池上流の「息切れせずに働き続けるコツ」。「くたびれたら、自分だけの隠れ場所に、ちょっと避難してみることをおすすめします」