2014年10月5日日曜日

公正な研究の推進に向けて

理化学研究所における小保方問題など、近時、研究活動における不正事案が後を絶たず、大きな社会問題になっています。

この間、文部科学省では、「研究活動における不正行為」や「研究費の不正使用」に関する防止策についての検討が行われ、特に、研究活動における不正行為への対応については、以下のように、副大臣をトップとするタスクホースや、ガイドラインの見直し・運用改善等に関する協力者会議における検討を経て、このたび、ようやくガイドラインの見直しが行われたことはご案内のとおりです。

(文部科学省における検討の経緯)



(関係機関による提言等)



また、先月末には、東京と大阪を会場として、文部科学省によるガイドラインに係る説明会が開催され、出席者から入手した情報によれば、主に次のような内容の説明が行われています(ほぼ配付資料の内容と重なっておりますが)。

なお、新たなガイドラインは、平成27年4月1日から適用され、平成27年3月31日までをガイドラインの適用のための「集中改革期間」とし、大学等の研究機関は、期間内にガイドラインが求める規程の整備などを実施することが求められています。

また、今後、英語版のガイドラインが年度内に公表されるとともに、ガイドラインに関するQ&Aも10月中旬を目途に公表される予定とのことです。

(参考)説明会配付資料



(適用範囲等)

  • 新ガイドラインでは、研究活動における不正行為への対応強化の観点から、「研究者個人」だけでなく、今後は「研究機関」にも責任を課すことを明確化した。
  • 従来は、「競争的資金」を活用した研究活動のみを対象としていたが、昨今、運営費交付金等の基盤的経費により行われた研究活動においても不正行為が認定されていることから、新ガイドラインでは、「基盤的経費」により行われる研究活動についても対象とした。なお、「基盤的経費」により行われた研究活動における不正行為に係る「研究費の返還等」に関する措置については、新ガイドラインでは一律に対応を定めていないため、各研究機関において適切に対応することになる。
  • 新ガイドラインは、平成27年4月1日から適用されるため、平成26年度以前の予算における研究活動による不正行為については対象外となるが、競争的資金の配分機関等がそれぞれのルール等に基づき措置を講じることを妨げるものではない。また、平成26年度以前の予算における競争的資金において不正行為が発生した場合は、旧ガイドライン等に基づき、競争的資金の返還、競争的資金への申請及び参加資格の制限の措置が行われることになる。
  • 文部科学省以外の「他府省」が配分する競争的資金等による研究活動の不正行為については、他府省から示されるガイドライン等に基づき対応することになる。なお、今後、文部科学省のガイドラインが示す対応策について関係府省においても統一的な運用がなされるよう働きかけを行う。
  • 「企業等」からの受託研究等による研究活動の不正行為については、企業における自己資金を原資とした研究ではあるが、公正な研究活動を推進するため、不正行為が発生した場合は、各研究機関において適切に対応すること。


(研究者の範囲)

  • 学生は、原則として研究者には含まれないが、競争的資金等を受給するなど、文部科学省の予算の配分又は措置により研究活動を行っている場合には、ガイドラインの対象となる(研究者とみなす)。
  • ガイドラインは、研究活動における不正行為への対応等を定めたものであるため、大学院教育の一環として作成される学位論文における不正行為は、ガイドラインの対象外となる。


(不正行為の定義)

  • 研究活動における不正行為とは、研究者倫理に背馳し、研究活動、研究成果の発表において、その本質ないし本来の趣旨を歪め、科学コミュニティの正常な科学コミュニケーションを妨げる行為である。なお、ガイドラインでは、「故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、捏造、改ざん、盗用」に限定している。このうち、「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務」については、分野に応じた具体的な検討が必要であるため、現在、日本学術会議に指針作成を依頼中である(年明けに中間まとめが公表される予定)。
  • 「捏造、改ざん、盗用」については、ガイドラインに基づき、告発や調査の対象となり、不正行為と認定された場合には、研究者や研究機関に対して競争的資金等の返還などの措置が行われる。
  • ガイドラインの対象とはならないが、他の学術誌等に既発表又は投稿中の論文と本質的に同じ論文を投稿する「二重投稿」、論文著作者が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」などの不正行為については、分野に応じた具体的な検討が必要であるため、現在、日本学術会議に対して審議を依頼中である(こちらも年明けに中間まとめが公表される予定)。


(各研究機関における対応)

  • 研究活動における不正行為は、研究活動とその成果発表の本質に反するものであり、科学そのものに対する背信行為であることから、個々の研究者はもとより、大学等の研究機関は、不正行為に対して厳しい姿勢で臨むこと。
  • また、大学等の研究機関が責任を持って不正行為の防止に関わることにより、不正行為が起こりにくい環境がつくられるよう対応の強化を図ること。特に、組織としての責任体制の確立による管理責任の明確化、不正行為を事前に防止する取組を推進すること。
  • 研究活動における不正行為の疑惑が生じたときの調査手続や方法等に関する規定等(①不正行為に対応するための責任者の明確化、②責任者の役割や責任の範囲、③告発者等の秘密保持の徹底、④告発後の具体的な手続きの明確化、⑤不正行為の調査の実施などについての文部科学省等への報告義務化等)を整備し、公表すること。
  • 不正行為の告発の受付から事案の調査(予備調査、本調査、認定、不服申立て、調査結果の公表等)までの手続き・方法(①告発・相談窓ロの設置・周知、②調査期間の目安・上限の設定、③調査委員会に外部有識者を半数以上入れること(利害関係者の排除を含む)、④調査委員会が必要と認める場合、調査委員会の指導・監督のもと再現実験の機会を確保、⑤調査の専門性に関する不服申立ては、調査委員を交代・追加等して審査等)についても規定すること。
  • 組織の管理責任を明確化する観点等に鑑み、調査結果についてどこまで公表すべきかは、各調査機関で判断すること。


(研究倫理教育の実施)

  • 大学等の研究機関は、「研究倫理教育責任者」を部局ごとに配置するなど、必要な体制整備を図り、広く研究活動にかかわる者を対象に、定期的に研究倫理教育を実施すること。
  • ガイドラインに定める「研究倫理教育責任者」と、研究費の不正使用防止に係るガイドラインに定める「コンプライアンス推進責任者」は、各ガイドラインで示される研究倫理教育やコンプライアンス教育の着実な実施に対応するための責任者であり、それぞれについて設置すること。ただし、それぞれの対応が行われれば、同一者でも可能。
  • 研究倫理教育の受講対象者は、基本的には「研究者」を想定しているが、将来研究者を目指す人材や研究支援人材など広く研究活動に関わる者についても、業務や専門分野の特性等も踏まえ、研究倫理教育を受講できるよう、適切に配慮すること。
  • 研究機関に所属する研究者に対しては、文部科学省が日本学術会議及び日本学術振興会と連携して作成する標準的な倫理教育プログラムと同等の研究倫理教育を実施すること。なお、研究者の負担軽減の観点から、競争的資金の配分機関が一義的に受講することが望ましいプログラムを示していた場合でも、別のプログラムを受講していた場合、内容的に同等であれば代替可能となるよう今後調整する予定。
  • 文部科学省は、現在、日本学術会議及び日本学術振興会と連携し、研究倫理教育に関する標準的なプログラム(テキスト版)を作成中であり、10~11月上旬には公表する予定。また、e-learning(電子)教材の開発を平成27年度に行い、平成28年度から運用できるよう、平成27年度概算要求中(研究公正推進事業)である。研究機関は、これらの内容や既に研究機関において先行的に実施しているプログラムを参考に、機関の実情に合ったプログラムを選定し、研究倫理教育を実施すること。
  • 大学においては、学生の研究者倫理に関する規範意識を徹底していくため、学生に対する研究倫理教育の実施を推進すること。学生に対する研究倫理教育の提供方法及び内容については、各大学の教育研究上の目的及び専門分野の特性に応じて、標準的な倫理教育プログラムや大学間が連携して作成した教育プログラム(例:CITI Japan)に準じた教育を行うことが望ましい。


(研究データの保存・開示)

  • 研究データの保存対象や期間については、分野に依る部分が大きいため、現在、日本学術会議に対し分野ごとの保存期間や方法について、一定の指針を示すよう審議を依頼中である(年明けに中間まとめが公表される予定)。
  • ガイドライン上は、平成26年度以前の研究データの義務付けはなされていないが、故意による研究データの破棄や不適切な管理による紛失は、責任ある研究行為とはいえず、また、不正行為の疑いを受けた場合に自己防衛ができなくなるため望ましいものではない。なお、平成18年ガイドラインから、不正行為の疑惑への説明責任は研究者に課されており、データの不存在により証拠を示せない場合は不正行為と認定されることがある。


(不正行為・管理責任に対する措置)

  • 不正行為に対する研究者、大学等の研究機関への措置としては、①不正行為に係る競争的資金等の返還、②競争的資金等への申請及び参加資格の制限がある。なお、競争的資金等のみならず、運営費交付金等の基盤的経費により行われた研究活動の不正行為も対象となる。
  • 組織としての管理責任に対する大学等の研究機関への措置としては、①研究活動における不正行為への対応体制の整備等に不備があることが確認された場合、文部科学省が「管理条件」を付与、②管理条件の履行が認められない場合、機関に対する「間接経費」を削減等、③正当な理由なく不正行為に係る調査が遅れた場合、「間接経費」を削減する。


(履行状況調査)

  • 履行状況調査の実施方針等については、毎年度定めることになるが、対象機関の選定に当たっては、不正行為の事案が確認された機関のほか、競争的資金の受給状況等を基に一定数を抽出する。
  • 実施時期については、調査対象機関の準備期間等を考慮して適切に定める(平成27年度は、施行初年度ということを勘案し、夏以降の実施を予定)。
  • 調査対象は、不正行為の事前防止のための取組みや、研究活動における不正行為への対応のための規定・体制の整備状況など、ガイドライン上求められている事項の全てについての実施状況であり、具体的には、今後、外部有識者からなる委員会において、履行状況調査に係る指針を定めて対応することになるが、研究倫理教育に関しては、「研究倫理教育責任者」が設置されていることや、研究機関に所属する研究者に対して、文部科学省が日本学術会議と学術振興会と連携して作成する標準的な倫理教育プログラムと同等の研究倫理教育がなされていることなどを確認する予定。


(管理条件の付与)

  • 管理条件とは、機関の体制整備等の状況について調査した結果、ガイドラインが求める事項を実施するための規程等が整備されていない場合、また、規程等は整備されているが、それに基づき実施されていない場合に、個別に改善事項とその履行条件を示して付与するもの。
  • 措置を講じるに当たっては、有識者による検討を踏まえるとともに、機関に対して弁明の機会を付与する。
  • 間接経費の削減については、従来、研究者個人に委ねられていた研究不正への対応について、研究機関も責任を持って不正行為を事前に防止するための体制を整備する観点から、これらの対応を研究機関が適切に実施できていないと認めた場合には、一定の管理条件を付した上で、管理条件の履行が十分でないと判断した場合には、組織としての責任体制の確保を求める観点から、不正行為に無関係な部局や研究者を含む研究機関全体を対象として間接経費を削減する。


さて、大学等研究機関においては、今後、改訂されたガイドラインを踏まえ、文部科学省が称する「集中改革期間」である今年度内に、関連規程等の整備、研究倫理教育の実施に向けた体制整備、研究データの保存・開示に係るルールづくりなど多くの作業を進めなければなりません。

研究費の不正使用防止に係る作業とは大きく異なり、今回は研究者サイドの協力が欠かせない全学的な作業になります。ある意味では教職協働の真価が問われる一つの事例になるのかもしれません。

作業を効率的・効果的進めるためにも、他大学の状況を知っておくのは大切なことではないかと思います。そこで、全ての国立大学のサイトをのぞいてみました。研究活動における不正防止の取組みに関する専用ページを公表している大学を以下にご紹介したいと思います。(リンクのない大学は小生の調査不足により見つけることができなかったものが含まれます。ご連絡いただければ追加させていただきます。)

多くの大学が、①研究者の行動規範や指針、②関連規程、③規程を補完するガイドラインやマニュアル、④理解を深めるためのリーフレットやハンドブックなどを整備し、体系的に整理した上で関連資料とともに公表していました。また、不正事案が発生した場合の通報窓口や通報の方法等について丁寧に説明している大学も多数見受けられました。

なお、調べる過程で感じたことですが、①研究費の不正使用防止に関する専用ページはしっかり作成されてあるものの、研究活動の不正防止については作成されていない大学が散見されました。担当事務組織の縦割り仕事や力量の影響でしょうか。②単科大学など比較的小規模の大学がしっかりとしたページを作成していることが意外でした。逆に、比較的研究規模の大きい大学でも、専用ページがなかったり、関連規程がPDF版でそれとなく貼り付けてあるだけの大学も見受けられました。③研究不正事案の通報窓口が不明確な大学も散見されました。公益通報窓口と同じなのか、別の窓口を設けているのかを明確にしておく必要があります(そもそも公益通報窓口すら公表されていない大学もありました。これはゆゆしき問題です。)。

関係者の方々におかれましては、いい機会ですので、一度自大学の状況を確認されてはいかがでしょうか。危機管理、コンプライアンスの推進、あるいは社会に対する説明責任等の観点からも、とても重要なことだと思いますし、奇をてらう大きな改革よりも、まずは、足元からの改革が必要ではないでしょうか。

<北海道・東北地区>



<関東・甲信越地区>



<東海・北陸・近畿地区>


<中国・四国地区>


<九州・沖縄地区>