2014年10月27日月曜日

救おう小さな命

社説「奪われる子の命 親を支え虐待の芽摘む」(2014-10-17東京新聞)をご紹介します。


子どもの命を脅かす事件が絶えない。全国の児童相談所が2013年度に対応した児童虐待件数は7万件を超え過去最多に。行政や医療、地域が妊娠期から親の支援に連携し、虐待の芽を摘みたい。

親が育てられない子どもを預かる慈恵病院(熊本市)の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」に今月初め、生後間もない男児の遺体が放置されていた。

警察の調べによると、死体遺棄容疑で逮捕された無職の母親(31)は数日前、頼る者もない中でひとり、自宅で出産した。同居する両親は妊娠や出産を知らず、母親は死んでしまった男児を家に置いておけないと、自分の車で病院に運んだ、という。

遺体を置き去りにされた病院の関係者は無念だろう。相次ぐ乳児遺棄事件に心を痛めてこの7年、全国で例のない事業に奔走してきた。目前でまた一人、小さな命を救えなかった。

病院側は匿名のまま子どもを預かるという、今のやり方を変えない。名乗ることを条件にすれば、親の事情で預けられないケースが出て、救える命も救えなくなる。

厚生労働省のまとめによると、03年7月から約10年間で、虐待死した子どもは546人。ゼロ歳児は240人で約4割を占める。身体的暴力、育児放棄、生まれたまま放置など、虐待死のケースで加害者の大半は実母だ。貧困や精神疾患、夫のDV、未成年など、虐待におよぶリスクをいくつも抱え、親としてどう振る舞えばいいのかが分からない。

助けて、と声を上げられない彼女たちにこそ、妊娠時から支援の手が差し伸べられるべきだ。

小児科のある中核的病院には虐待に対応する組織が整えられつつある。産科のある病院では妊娠期から不安な人を見つけ、出産後に育児支援が必要と判断すれば、地域の保健サービスにつなぐ。全国には予算や人手不足で体制をとれない施設が多い。地域や病院間の格差とならないよう、国は予算を投じ、取り組みを加速させてほしい。

「望まない妊娠」のために妊婦検診も受けず、病院に行かずに自宅で出産する人が少なくない。名古屋市や大阪府では電話やメールで助産師が相談を受ける「妊娠SOS」を開設し、効果を上げている。

地道な取り組みが親たちを孤立から守る。児童相談所や病院、保健所、地域が、支援の窓はいつでも開かれているのだというメッセージを、絶えず発信してほしい。