2014年12月12日金曜日

政治に問われる子どもの貧困問題

「「夕食は「おにぎりパーティー」 子どもの貧困6人に1人」(2014年12月9日朝日新聞)をご紹介します。


給料日前の月末になると、夕食の食卓に連日、おにぎりだけが数個並ぶことがある。

都内の母親(50)は、小6の長女(12)に「さあ、おにぎりパーティーの始まりよ」と声をかける。

「だって『おにぎりしかない』って言うと暗くなっちゃうでしょ」。具は何がいいか、リクエストも聞く。「おかかとみそ、塩の3種類しかないけどね」

母子家庭になったのは、長女が生まれてすぐだった。母親は専業主婦だったが、介護の仕事を始め、資格もとった。

週4日、病院で介護士としてパートで働く。もっと働きたいが、周りになじめず低学年から不登校になった長女を放ってはおけない。パートの収入は月12万~13万円。生活保護も一部受ける。生活費にあてられるのは月7万2千円。うち食費は2万円ほどだ。

長女は昨年からようやく、フリースクールに通えるようになった。給食は出ないので、昼ご飯を食べずに過ごすことが多い。帰り道の夕方、100円で9個入りの小さなシュークリームを買うのが楽しみだ。

夕食は、午後7時すぎに帰宅する母親と食べる。モヤシだけの焼きそば、肉のかわりに12個で87円のウズラの卵が入ったカレー。「育ちざかりなのに。虐待じゃないかと思うこともある」と母親は打ち明ける。

7月は電気、8月はガス、9月は水道などと数カ月に1回順ぐりに払う。それでも払えないこともあり、昨年のクリスマスには水道が止められた。炊飯器の釜やペットボトルを手に公園へ行き、水をくんだ。

長女はいう。「わたしはがまんしてない。お母さんの方ががまんしてる」

国民1人の平均所得の半分に満たない家庭の子どもは、6人に1人。子どもの貧困が広がっている。

留守番の夜、夕飯は児童館で

タラとキノコの酒蒸し、ニンジンとホウレン草のサラダ。「いただきまーす」。夕方6時、小学生3人と、学生らボランティアの大人たち7人の夕食が始まった。東京都豊島区のお寺の施設を利用し、地元のNPO法人が毎週火曜日に開く「夜の児童館」だ。

子どもたちは午後4時から8時まで、夕食を食べ、宿題をしたり遊んだりして過ごす。「なんの魚か分かる?」「骨があるから気をつけて」。会話も楽しむ。

通うのは、ひとり親や共働きの家庭の子たちだ。児童館を開くNPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」事務局長の天野敬子さんによると、こうした家庭では学童保育のあと、子どもが家で1人で過ごすことが少なくない。夕食は菓子パンなど簡単なもので済ませがちだ。

「栄養面だけではない。家族とごはんを食べたり、おしゃべりしたりという経験が抜け落ちていく。働かなければいけない親が帰ってこられないのなら、地域で支える場所が必要だ」と天野さんは話す。

このNPOは3年前、不登校や引きこもりの子の支援をしてきた天野さんらが立ち上げた。夜、家で1人ですごす子の話を聞き、夕食の場を提供しようと、11月から児童館を始めた。

小学2年の長男(8)が通うシングルマザーの母親(38)は「児童館のある火曜日だけは少し残業もできて、助かる」と話す。

旅行会社でパートで働き、時給は950円。月の収入は13万~15万円ほどだ。午後5時半に会社を出て、学童保育のお迎えに駆け込む。パートでボーナスもなく、「ぎりぎりで生活は回っているけど、貯金ができないのが悩み」。

経済的な貧しさは、子どもたちが受けられる教育の問題につながり、「貧困の連鎖」を生む。

福岡県の公立高3年の男子生徒(18)は中学3年のときに母を亡くし、姉と生活保護で暮らす。すべり止めの私立を受けられず、志望校のランクを下げていまの高校に入った。母を失ったショックや学校への不満から、1~2年のころはあまり学校に行けなかった。

大学の夜間部に進みたいが、お金や学力など不安だらけだ。塾や予備校に通う余裕もない。「いま勉強して意味があるのかな、と考えてしまう」

名古屋市に住む女性(20)はこの春、愛知県立の夜間定時制高校から県内の専門学校に入学した。

中学時代に両親が離婚した。母は恋人をつくって留守がちになり、祖父母宅に身を寄せた。大学進学を考え、喫茶店やライブ会場などのアルバイトを掛け持ちして働き、高校卒業までに100万円以上をためた。

昼に働いた後で学校に行き、深夜再び働いたこともある。入試に失敗し、専門学校に通いながら来春の大学編入試験を目指す。

担任だった高校の教師(60)は「定時制にはひとり親で生活保護を受けている生徒が多い」という。幼い弟妹の面倒を見るため中学に通えなかったという生徒もいた。「祖父母の代から生活保護という子もいる。貧しい層の固定化が顕著になっている」と話す。

子どもの貧困率、悪化続く

子どもの貧困率はデータを取り始めた1985年以降、悪化が続いている。厚生労働省の調べでは、2012年には国民1人あたりの平均所得の半分(12年は122万円)にも満たない家庭で暮らす子どもたちの割合が、過去最悪の16・3%になった。

政府が子どもの貧困率を公表したのは、民主党政権になった直後の09年秋。安倍政権下で昨年、貧困の連鎖に歯止めをかける対策を国の責務とする「子どもの貧困対策法」が成立した。今年8月には、学校を支援の拠点に位置づけるなどの重点施策を示した「子供の貧困対策大綱」ができた。

法律や大綱ができたのは評価できる。ただ、大綱には子どもの貧困率をどれだけ削減するかの数値目標すら盛り込まれなかった。児童扶養手当の増額や返済のいらない奨学金の創設など有識者の検討会が求めた策も見送られた。

そもそも実態調査は遅れている。いまは家庭の所得を元に貧困率を出しているが、都道府県別や年齢別などのくわしい調査は進んでいない。これでは、子どもの状況に応じたきめ細かな対策は難しい。

あしなが育英会など17団体が今回の衆院選を前に、政党にたずねたアンケートでは「子どもの貧困について多面的な実態調査をする」との項目に全党が「取り組む」と答えた。

子どもの貧困は、日本が直面する「格差」の問題でもある。詳しい実態調査に加え、低賃金の非正社員が増える雇用の問題、教育への支援など対策は多岐にわたる。政治のリーダーシップが問われている。