2015年2月28日土曜日

機能しない生活保護制度

福祉が人を殺すとき-貧困大国ニッポンで機能しない社会福祉-」(2015年2月26日BLOGOS)をご紹介します。


『福祉が人を殺すとき』という衝撃的なテーマの本がある。27年前に出版されたものである。

社会福祉を学ぶ者にとっては、バイブルのような存在として重宝されている文献だ。

今も色あせない生々しいルポルタージュである。

当時、この本を出版したのは、埼玉県内の福祉事務所で生活保護の相談支援を担当していたケースワーカーの寺久保光良氏である。

28年前に3人の子どもを残して、母子家庭の母親が栄養失調により餓死をした状態で発見される衝撃的な事件があった。

享年39歳である。本書はこの事件の詳細や背景を取材し、記録したものだった。

そのなかで、紹介される一節がある。

彼女が子どもたちに残した遺言のようなものだ。


母さんは負けました

この世で親を信じて生きた

お前たち三人を残して

先立つことは

とてもふびんでならないが

もう、お前たちにかける声が

出ない

起きあがれない

なさけない

涙もかれ、力もつきました

お前たち

空腹だろう

許しておくれ

母さんを


これを書いた母親はどれほど苦しく絶望のなかで息を引き取ったのだろうか。

その姿を見ていた3人の子どもたちは何を想っていたのだろうか。

この悲惨な事件を福祉が機能しなかった社会問題として、「福祉が人を殺した」と寺久保氏は表現した。

実はこのような事件は日本において、その後も頻発する。

そして、これから先も生まれるかもしれない。

最近では、2012年1月に、同じく札幌市で病弱な姉(42)と知的障害がある妹(40)の二人が室内で餓死している状態で発見された。

福祉事務所に姉が3回も訪問して、生活保護の申請意思も示していたが、申請は受理されなかった。

福祉事務所の違法運用が指摘されているところだ。

寺久保氏は、生活保護制度が必要な人に届いて、十分に機能していれば、このような悲惨な事件は防げると考える。

それにもかかわらず、なぜ福祉は必要な人々のもとに常に届かないのか。

彼の重大な問題提起であり、その背景には生活保護に対する私たちの意識の問題が含まれていることが分かる。

寺久保氏はその後、大学で教鞭をとりながら、生活保護を研究し、後輩指導を行ってきた。

生活保護制度に対する正しい知識やその普及にも取り組んできた。

その生涯を生活保護制度の改善にかけてきたといっても言い過ぎではないだろう。

そして、大学を退職した彼が現在も力を入れる活動がある。

それは、埼玉県で提訴された生活保護基準引き下げ取り消し訴訟である。

埼玉県内の生活保護受給者である原告25名が、2013年から生活扶助基準を引き下げられた処分に対して、その取り消しを求めて、昨年から係争している。

彼は弁護団や原告、支援団体や地域住民に対して、まとめ役となり、生活保護裁判で厚生労働省に向き合っている。

原告の主張は、厚生労働省が生活保護基準を算定する際の根拠が不透明で、引き下げが著しく妥当性を欠くというものだ。

厚生労働省が引き下げありきで、社会保障審議会の議論や学識経験者らの声を無視する形で、押し進めることに異議を唱えている。

この裁判に対する人々の意見は、なかなかに厳しいものだ。

「生活保護受給者がさらに権利を主張するなんてとんでもない」、「恩恵として静かに受けていればいいのに傲慢だ」という意見も散見される。

しかし、彼は裁判を通じて、生活保護受給者だけの問題ではないことを指摘する。

生活保護基準が低所得世帯の課税最低限や就学援助制度の支給基準など様々な制度に影響を与えている。

そのため、基準が引き下げられると、関係ないと思っていた多くの国民に不利益が生じると指摘する。

要するに、弱い立場にある人々を見捨てると、次は私たちの番だということになるだろう。

その際に、当然関係ないと思っていた制度が必要にも関わらず、救済してくれなかったら困ってしまう状況が生まれる。

しかし、「生活保護制度は不正受給が多いのではないか」、「怠けている奴がもらっているのではないか」、という見方が根強い制度でもある。

実際には、「あなたも使える生活保護」(日本弁護士連合会発行)に、制度への誤解に気づいてもらったり、正しい知識を促す情報が掲載されているので確認いただきたい。

日本では、過剰に生活保護制度を利用することは恥ずかしいというスティグマ感(受給への恥辱感)を作りだしている。

生活保護はすでに「困ったら活用するもの」ではなく、「活用すること自体が恥ずかしいこと」なのだと思わされている人が多い。

だから、はじめに書いたような餓死するほどに我慢してしまう事例は後を絶たない。

そして、福祉事務所のケースワーカーすら、生活保護を受けることを良しとしない風潮が生み出される。

日本はすでに先進諸国では珍しいくらいに、相対的貧困率が高い国である。

実に国民の16,3%(2012年)が貧困に苦しんでいる。貧困大国ニッポンといってもいい。

そこで、救貧機能を持つ生活保護制度が相変わらず機能しないままで、さらに削減を続けると、次は何が起こるかは想像していただきたい。

私たちはいつまで28年前の繰り返しを続けていくのだろうか。

生活保護制度をそろそろ一面的な情報で見ることから脱却し、メリットを含めて、利用しやすい方向性に議論を進めていきたいと思う。

さまざまな悲惨な事件をこれ以上繰り返さないためにも。


2015年2月27日金曜日

俺が俺がの「我」を捨てて、お陰お陰の「げ」で生きる

ブログ「今日言葉」からしすぎない」(2015-02-24)をご紹介します。


仕事というものは、全部をやってはいけない。

八分まででいい。八分までが困難の道である。

あとの二分はたれでも出来る。

その二分は人にやらせて完成の功を譲ってしまう。

それでなければ大事業というものはできない。

司馬 遼太郎


歴史小説「竜馬がゆく」の中で作者である司馬遼太郎氏が、坂本龍馬に語らせていたのが、上記の言葉です。

大政奉還を提案した龍馬が、その後の新政府において自らの役職や手柄を求めず、薩長や岩倉具視に譲ろうとした場面です。

司馬氏はあとがきでこのようにも語っています。

『私心を去って自分をむなしくしておかなければ人は集まらない。人が集まることによって知恵と力が持ち寄られてくる。仕事をする人間というものの条件のひとつなのである。』

他の誰から認められなくても自分は知っている、認めている。その強さと謙遜が強さになっていくのでしょう。

俺が俺がの「我」を捨てて、お陰お陰の「げ」で生きる。

2015年2月26日木曜日

一灯照隅、万灯照国

ブログ「今日の言葉」から深く掘れ」(2015-02-13)をご紹介します。


汝の立つ処

深く掘れ

そこに必ず

泉あり

高山 蝸牛(かぎゅう)


今いる境遇や環境は意識的か無意識的かを問わず、

自分が選んでそこにあるのです。

だからそこにいることに意味と天命があるのです。

上甲晃氏の言葉を引用すると、

『私は、諸君に、“歴史を創り、歴史を変える人”になってほしいと切に願っています。

現実の仕事や家族を放り出して、「何か特別なこと」をしろと言っているのではありません。

「あなたが足場を置いている、その現実に立って、“歴史を創り、歴史を変える人”」になってほしいのです。

「あの人が、売り場のレジの“歴史を変えた人”」

「あの人が、職場のお茶くみの“歴史を創った人”」

「あの人が、鉄工所の職場環境の“歴史を変えた人”」

など、枚挙に暇がありません。』

これが自分の今いるところ、すなわち一隅を照らすということになるのです。

2015年2月25日水曜日

ビジネスマナー

PRESIDENT STOREから「ビジネスマナー・バイブル5講座セット」の「サンプル動画」が公開されていますのでご紹介します(決して商品の購入を促すものではありません)。

多忙な日常業務に追われ、OJTがなかなか機能しづらくなっている今日、このような動画を参考に部下や後輩への”しつけ”を行うことも一考かと思います。












2015年2月24日火曜日

無知の知

ブログ「教授のひとりごと」から「底知れぬ「無知」」(2015年02月13日)をご紹介します。


日経新聞(1/29付けの夕刊紙)に批評家の若松英輔氏が『底知れぬ「無知」』と題して寄稿している。

何かを本当に知りたいと思うなら、心のうちに無知の部屋を作らなくてはならない。分かったと思ったとき人は、なかなかそれ以上、探求を続けようとはしないからだ。

(略)

哲学の祖と呼ばれているソクラテスは、哲学の極意は「無知の知」を生きることだと語った。本当に知らない、と心の底から感じることが、哲学がはじまる場所だというのである。

ソクラテスがいう「哲学」とは、単に知識を積み重ねることではない。むしろこの人物は、いたずらな知識は不要だと感じていた。それは、真実にふれようとすること、あるいはそれを探求している状態を意味する。


(略)
哲学を意味するギリシア語は「知を愛する」ことを意味した。愛するという営みは、それが何であるかを断定しない、しかし、そこに語りえない意味を感じることだといえないだろうか。

仕事を愛するという人は、その仕事にめぐり合えたことの幸福を語る一方で、自分がそれを極めることはないだろうことを感じている。仕事は解き明かすことのできない、人生からの意味深い問いかけに映っている。また、愛することは、ときに静かな苦役を伴う。苦しみに意味があることを知っている。そうした道を生き抜こうとする者は皆、力を伴った徳を具(そな)えている。

ここでの「仕事」は、金銭を手に入れることを意味しない。人間が、その人に宿っている働きをもって、世界と交わることを意味する。子育て、病む者を介護することをはじめ、家族の無事をおもんばかることが、重要な人生の仕事であることはいうまでもない。


「仕事とは何か?」や「愛とは?」というテーマを語るのは難しい。仕事や愛のとらえ方は人によって異なるだろうし、「正解」というのはないのだろう。人それぞれが人生のなかで考えていくしかない。そういう意味でも我々は考え続けることが必要だといえる。

知らないことを知っている領域ならば、学習するなどの手立てがたてやすい。しかし、知らないことすら知らない領域をいかに意識できるかは大変だろう。やはり分野を超えた人たちとの議論が欠かせない。同じ分野・領域のなかだけで済む場合もあるかもしれないが、イノベーションを起こすには異分野との交流も大事となる。

知っている領域だけに満足せずに、知的関心の領域を広げていくところが大学でもある。大学は専門領域だけでなく、それを超えた分野との交流を促す仕組みを積極的につくることも必要だろう。本学は総合大学となっているが、各領域・分野の垣根を越えた交流を促進していくことも大切だ。

2015年2月23日月曜日

経済成長と大学改革

関係者の皆様は既にご案内のとおり、現在、政府の産業競争力会議 新陳代謝・イノベーションWGでは、大学改革・イノベーションに関する検討が精力的に行われています。

国立大学法人においては、第三期中期目標・中期計画(平成28年度から6年間)に向けた新たな制度設計が、政府全体でどのような考え方のもとに構築されようとしているのか注視しておかなければなりません。

これまでの議論に用いられた会議資料を抜粋してご紹介します。(下線は拙者)



1 大学改革・イノベーションの議論の必要性

2014年10月10日に開催された第3回実行実現点検会合(大学改革及びイノベーション)において、「日本再興戦略」改訂2014に盛り込まれた大学改革に関する施策については、国立大学改革プラン(2013年11月)に掲げられた強み・特色を生かした国立大学法人の機能強化の議論の中で全体設計が行われるべきと指摘したところである。 

既に文部科学省においては、国立大学改革プランに沿って改革が鋭意進められているところではあるが、平成28年度が国立大学法人の第3期中期目標期間がスタートする節目の年となること、本年4月に甘利経済財政担当大臣のイニシアティブで「我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略」が取りまとめられ、イノベーションの観点からの改革が強力に進められている時期に符合することからも、大学の機能強化については、こうした文脈をも踏まえ、イノベーションや地域活性化の観点など幅広い視点に立って改めて踏み込んだ検討を行うことが有意義であると考えられる。こうした認識に立って、第3回実行実現点検会合では、とりわけ文部科学省に対し、大学改革については、国立大学法人関係者や卓越した研究者、産業界や地域社会の関係者などの声を聴きつつ、大胆な改革構想をまとめ、来年度の法改正をも視野に入れて、来年央までに結論を得るべきと指摘したところである。

こうした指摘・会合での議論を踏まえ、甘利大臣からは、国立大学法人については、イノベーション・ナショナルシステムの構築に向け、「大学改革第2章」として、異次元の政策を講じるべく踏み込んだ議論を行うべきであり、WGに場を移して検討を行うべきとの指示が出された。

以上の経緯から、本WGでは、大学の機能強化をさらに強固に推し進めるために何が必要であるかを、法的措置の要否を含め、検討・議論することとする。・・・・・


イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方」(平成26年12月17 日 産業競争力会議新陳代謝・イノベーションWG)


1 大学改革の趣旨

我が国のイノベーション・ナショナルシステムにおいては、投資額を見ても民間企業の果たす役割が大きいが、新興国の猛追から様々な分野で国際競争が熾烈になるなどの環境変化の中で、民間企業の研究開発投資がどちらかと言えば短期的に成果が見込める分野に集中的に投下される傾向が強くなっている。

一方大学は、iPS細胞を用いた再生医療の研究、新材料の創成によるパワーデバイスの開発など、中長期的に大きなイノベーションの成果につながることが期待できる豊富な種を有している。中長期の経済成長を持続的に実現する上で、これまで以上にこうした技術シーズを有する大学の知の創出機能の強化、イノベーション創出力の強化、人材育成機能の強化が求められており、大学改革のさらなる加速が経済成長を実現する上での鍵となる。

大学改革の基本的な考え方は、

① 改革を進める大学への重点支援を通して大学(大学間及び大学内)の競争を活性化することである。そのために、客観的な評価指標の導入による評価プロセスの透明性の向上と評価結果の資金配分への反映を行い、競争的環境の下で各大学の強み、特色、社会的役割を踏まえた機能強化を図ることとする。

② また、グローバル競争を勝ち抜くための制度整備を同時に進めることも重要である 。そのため、新たに、世界の研究大学と競争する特定研究大学(仮称)制度を創設し、日本の将来を担う優秀な人材を育成する卓越大学院卓越研究員制度を創設する。

2 大学の機能強化

国立大学が多様な役割を果たしていることを踏まえつつ、平成28年度からの第3期中期目標期間においては、地域活性化・特定分野重点支援拠点(大学)特定分野重点支援拠点(大学)世界最高水準の教育研究重点支援拠点(大学)といった類型を踏まえた新たな枠組みを設けた上で、予算措置や評価をそれぞれの固有の機能や役割を最大化する観点からきめ細かく行い、大学としての機能強化を図る。

このため、各国立大学は、第3期中期目標期間中において、重点的に取り組むためのいずれかの類型を選択する。

各大学は、自ら選択した類型ごとに、機能強化のための取組に応じて、重点支援を受ける。地域活性化・特定分野重点支援拠点型の類型については、改革の取組を行う大学に対して、より安定的な取組を推進できるよう支援する。特定分野重点支援拠点型の類型については、特定分野に重点を置いた研究力強化や人材育成のための優れた取組を行う大学を支援する。世界最高水準の教育研究重点支援拠点型の類型については、グローバル・スタンダードの下、世界水準の研究力強化や人材育成のための優れた取組を行う大学を支援する。

重点的な支援は、各大学の取組の状況や実績の評価の結果を運営費交付金の配分にも反映させる形で行う。その際、評価指標の設定を含めた評価の在り方(後述)等により、各類型で競争が促進されるようにする。

3 特定研究大学(仮称)

世界水準の教育研究機能を有する国立大学などで一定の条件を満たしているものを特定研究大学(仮称)とし、特例措置を講じて支援する制度を創設する 。特定研究大学制度を「今後 10 年間でグローバルランキングトップ100に10校以上入る」とのKPIを達成する上での1つのツールとし、世界の研究大学を意識した経営等を行う ことを促進する。

特定研究大学になることは中期目標期間の期中でも可能とする。

特定研究大学の条件として、学内ガバナンス、教育研究、学内評価のグローバル度等を勘案する (※)。例えば、
- 学内ガバナンスに関して、学長選考会議や経営協議会等への海外トップ研究大学経営陣(経験者を含む)等の参画の有無など。
- 教育研究に関して、外国人教員や外国人留学生が一定割合(数)以上、英語による学位コースの割合など。
- 学内評価に関して、グローバル評価(海外の研究大学等の関係者の参画による厳格な評価)の実施など。
(※)なお、上記の事項は、必要に応じて、特定研究大学以外の世界最高水準の教育研究を目指す大学についても、積極的な対応が求められるものである。

厳しい条件とする一方で、教育研究の自由度の拡大(大学院と学部の定員見直しなど、組織編成の設置手続きの弾力化、授業料設定の自由度の拡大(授業料減免を含む)等)、財務基盤の強化(余裕金運用対象範囲拡大、優秀な内外の学生確保のための支援(奨学金、RA経費等)等)などについて、競争的資金改革の動向をも踏まえて、インセンティブ を付与し、大学自らが競争力強化の取組を行うことを支援する。

加えて、グローバルに競争する世界水準の研究大学として格段の競争的環境が求められることから、競争的資金や寄付金を含め財源の多元化を図り運営費交付金への依存度を下げるなど財政構造の変革を図る。

また、特定研究大学は、卓越大学院を有し、卓越研究員 (いずれも後述)の制度を積極的に活用することが想定される。

4 客観的な評価指標の設定

評価指標は、大学の目標と、その目標実現のための具体的な取組との関係が明確になるように設定されるものとする。

評価指標の考え方は以下のとおりとするが、詳細の評価項目は引き続き検討を行う。その際、中長期の経済成長を実現する上で鍵となる大学の知・イノベーション創出機能、人材育成機能が的確に評価できる指標も検討する。
- 全国立大学共通の指標
- 地域活性化に係る指標
- 特定分野の教育研究に係る指標
- 世界水準の教育研究に係る指標
- その他大学独自に設ける指標 など

※全国立大学共通の指標の例-IRの活用状況、科研費等の競争的資金の獲得状況など

※地域活性化に係る指標の例-地域ニーズに応じた人材育成や地域連携の状況など

※特定分野の教育研究に係る指標-特定の分野の人材育成や研究の状況など

※世界水準の教育研究に係る指標-論文数、論文被引用数などの研究の状況や、留学生、外国人教員など、グローバル化の状況など

各大学の目標・評価指標の設定は、経営協議会等が実質的に関与しつつ、学長のリーダーシップの下で行われるものとする。目標・評価指標の設定の妥当性(目標達成の難易度、具体的な取組)については、事前又は事後に検証する。

5 評価の在り方

3つの類型ごとに評価を行うことができるような体制とすること等を検討する。

共通的な要素、3つの類型に応じた要素、大学自ら設定する要素に関して、予め評価の構成点を明らかにする等、評価手法の透明性を図る。その際、教育研究組織や分野を考慮し、メリハリのある評価が可能となる仕組みとする。なお、評価の公平性が担保されるような仕組みも検討する。

特定研究大学の評価に当たっては、評価のメンバーの中に、海外トップレベルの研究大学の関係者、あるいは、大学間の国際比較の分野での専門家、世界的に定評のある研究開発機関の関係者等を入れることを検討する。地域活性化や特定分野重点支援拠点については、評価のメンバーに産業界、自治体関係者を含むこと等を検討する。

欧州大学協会(EUE)では、歴史のある評価システムを構築しており、大学長経験者がチームとなって評価対象大学へ派遣され、フォローアップも含めたピアレビューやアドバイスを実施しており、そのような手法の活用も検討する。

評価は、大学ごとの強みや特色、課題などを明らかにし、3つの類型ごとに大学間の取組内容、状況の比較が可能となるよう、例えば、KPI の活用や他大学とのベンチマークなどを通じてきめ細かく行う。評価結果については、大学の魅力を「見える化」する観点から、評価指標を含め情報公開を徹底する。

6 評価結果の資源配分への反映

運営費交付金の各大学への配分について、取組状況、実績の評価と連動させる。その際、現在の大学改革促進係数を見直した新たな係数により捻出した財源を重点配分枠として、各大学の改革の取組状況等の評価に基づいて、以下の区分ごとに各大学に配分する。

(1)各大学の機能強化の方向性を踏まえた改革の取組状況に基づく配分(毎年度(又は一部複数年))
(2)大学のビジョンによる取組状況の評価に基づく配分(中期目標期間(6年)の評価及び中間評価(2~3年))

重点配分枠については、その一定割合を学長の裁量による資源再配分の経費として配分することを検討し、学内資源再配分における学長のリーダーシップ強化を促進する。

第3期中期目標期間を通じての各大学の改革の取組への配分及びその影響を受ける総額を、運営費交付金の3~4割とする。

7 競争的資金等との一体的改革

運営費交付金の配分の抜本的見直しについては、大学間の競争を活性化させ、各大学の強み・特色を踏まえた組織再編成や資源配分の最適化を図る改革を促すことを目的とするものである。運営費交付金1兆2千億のうち1兆円が人件費に充当されている現状で組織再編・資源配分の最適化は学長のリーダーシップを発揮する学長経費捻出等の上でも不可欠であるが、それと同時に、優れた研究者の支援の強化と優れた教育研究拠点の持続的な形成を促進することも今般の大学改革のもう一つの目的である。特に後者の観点に力点を置き、運営費交付金の改革と併せて、競争的資金等の外部資金の改革を一体的に進める。

競争的資金等の改革については、優れた研究者の支援を強化する観点 から、例えば、直接経費の使途として、米国同様に基盤的経費からの給与支給を一定期間(例えば9か月)に限定しつつ、厳格なエフォート管理を前提に、資金を獲得した研究者の人件費を一部支出することを認めることや、優れた研究成果を導出できる拠点の形成の観点 から、例えば、間接経費の改善・充実(例えば、30%ルールの競争的資金以外の外部資金への拡大等)(※)、格段の競争的環境における特定研究大学等の大学・研究機関の機能強化とガバナンスの確立など、研究成果最大化に資する間接経費の在り方の見直し等(マネジメントや研究力強化の観点からこれまで必ずしも十分な対応ができていない事項として、若手研究者や支援人材の確保若手研究者のスタートアップ経費留学生や外国人研究者の日常的なサポート予算で実施した研究活動の継続支援などの支援策の充実を含む)について検討する。

(※)現在、競争的資金ではない外部資金においては間接経費が措置されていないが、当該資金により大学等が研究を行う際には、その施設設備や研究者など、大学等の研究インフラを活用していることから、外部資金のうち一部を大学が研究インフラを維持・向上するための間接経費として競争的資金でない外部資金にも措置していくことを検討する必要がある。

また、関係府省の競争的資金等全体についても 、基礎から応用・実用段階に至るまでシームレスに研究が可能となるよう、例えば、異なる制度間の連続的な採択(研究期間の最終年度前年度に、次の段階の研究を対象とした異なる制度への申請を可能とする)、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)をはじめとした各機関が有するデータベースの充実・拡充等について検討する。

なお、競争的資金等の改革を進める上で、競争的資金等を活用した研究開発が知・イノベーションの創出の観点からどのような成果を生み出しているのかについて評価・検証が行われることも重要である。

8 卓越大学院

グローバル競争に勝ち抜くため、世界水準の大学院学位プログラムと教育研究環境を整備することを目的として、卓越大学院の形成を促進する。卓越大学院は、複数の大学の連携、研究開発機関や企業等との連携・協力を促進することも視野に入れ、他大学、大学共同利用機関、研究開発法人、企業等の優れた研究者や学生が交流・結集する「人材交流・共同研究のハブ」の形成を目指す。

卓越大学院の形成は国立大学法人に限定しない。特出した分野を有する大学であれば国立、公立、私立を問わず申請が可能とする。また、各大学が強みを有する分野において形成するほか、ICTベースの文理融合分野等のこれまでの日本に存在しない分野においても形成する。分野の選定に当たっては、日本が世界で勝たなければならない分野での形成を積極的に進める観点をも踏まえ、産業界の意見も聴く仕組みとすることを検討する。

申請の要件としては、研究分野で一定の水準を満たしているほか(例えば、論文被引用数、外部資金獲得率等)、国内外に開かれた魅力ある教職員体制となっていること(例えば、教員の国際公募・年俸制への取組、企業や研究機関等とのクロスアポイントメントの取組、テニュアポストに占める若手教員率、URAの配置状況等)などを課すことを検討する。採択された大学院に対しては、世界水準の教職員の配置、国内外の優秀な学生の受入れ環境(給付型支援等)など、魅力的な教育研究環境の整備が進むよう、所要の支援や評価の在り方についても検討する。

他大学、大学共同利用機関、研究開発法人、企業等の研究者や学生が交流・結集して行う共同研究を円滑に推進する観点から、知財の取扱いに関するルールの整備についても検討を行う。なお、その前提として、イノベーション創出を促進する観点から、大学の機能をも踏まえた知財管理の在り方を整理し、知財戦略を策定・強化していくことも必要である。

9 卓越研究員

任期なしのテニュアポストの在籍者の年齢が高まる一方で、若手研究者が40歳代半ばまで、短期の任期付ポストに滞留しがちであることから、優秀な学生が不安定な研究職を目指さなくなっていることは、将来の日本の知・イノベーション創出力を考える上で大きな問題である。このような状況を改善し、研究職を若手にとって魅力あるキャリアパスにするため、卓越研究員制度を新たに創設する。

卓越研究員制度は、各研究機関に対して年俸制パーマネント職の導入を促すとともに、国全体での研究員の選定も視野に、長期雇用を保証する研究員を一定規模で確保するものである。例えば、通算 10 年など比較的長期間の任期付きの身分とし、大学や研究機関の人事制度改革と連動させ、無期雇用化をはかる。既存の人件費財源を最大限活用する(例えば、国立大学法人で定年退職する大学教授が運営してきた研究室の助教ポスト等を活用するとともに、競争的資金等の改革による直接経費等の使途の柔軟化や間接経費等の活用により、自立して研究室を主宰できるポジションにふさわしい給与を支給する魅力的なポストとする。研究機関や企業等とのクロスアポイントメントや混合給与も積極的に活用する。)。また、国による研究費等の支援も検討する。

その際、大学改革プランの中で、各大学は、卓越研究員の 任期終了後のテニュア化、上乗せ給与、研究資源配分の優遇などの条件を提示し、各大学が卓越研究員を競争して引き合うような制度とする。卓越大学院、特定研究大学をはじめ 地域活性化の支援拠点等を目指す 大学等の准教授ポスト、教授ポストに自らの意思で応募して就けることができるようにする。なお、卓越研究員が研究機関や企業等の職に就く事も可能とする。

卓越研究員の雇用が特定の大学に偏ることのないように制度設計上の工夫を図る。

卓越研究員には若手ポスドクを研究支援者としてつけること等により、大学の中では教授と対等な立場を付与するほか、独立した研究環境を保証し、自らの意志で自由に移動できるようにする。競争的資金等への応募も独立して行うことができるほか、大学の教授等とチームで研究を行うことももちろん排除されないようにする。

10 大学共同利用機関や附置研究所等の研究拠点

大学共同利用機関や附置研究所は学術研究ネットワークの要としての機能を有するが、大学改革における機能強化の方向性を踏まえ、第3期中期目標期間に向けて、例えば、大学の枠を超えた共同利用・共同研究の推進拠点、国際的な頭脳循環ハブとしての拠点などそれぞれの機関の意義やミッションの再定義を行う体制を構築し、我が国の大学全体の機能強化を図る研究拠点としての機能強化を図る。

また、大学共同利用機関や附置研究所の機能強化と併せ、研究開発法人を含めた産学官連携のネットワークの強化を進める。



本WGでは平成26年12月17日に「イノベーションの観点からの大学改革の基本的考え方」(以下、「基本的考え方」という。)をとりまとめたところであり、この「基本的考え方」では、大学の機能強化のために、予算措置や評価のための3つの新たな枠組を設けることを盛り込んだ。

国立大学関係者の中には、大学の機能強化に関して、「世界最高水準の教育研究の重点支援拠点」において支援を受ける大学のみが結果として厚遇されることになるのではないか、また、特に「地域活性化・特定分野重点支援拠点」の大学においては、長い研究上の蓄積や優秀な若手研究者による世界水準の研究活動を行うことができなくなるのではないかとの懸念が存在するように思われる。しかし、国立大学の機能強化は特定の大学のみを強化するために行うものではない86国立大学を大学の規模や財政構造等に応じていくつかの財政支援上のトラックに分け、真の切磋琢磨を可能とする競争的環境を醸成することを目的として行うのでなければ、個々の国立大学の機能や役割を最大化させることもできないし、我が国全体のイノベーションの源泉である大学が機能を発揮することはできない

その意味で3つの新たな枠組は、個々の国立大学のミッションの多様性を等しく重視しながら機能強化に向けた重点支援を行うためのものであり、「地域活性化・特定分野重点支援拠点」「特定分野重点支援拠点」において支援を受ける大学においても、それぞれの大学の固有のミッションを実現していくことを通じて、我が国のイノベーションを支える極めて重要な役割を担うことが期待されるものである。

なお、3つの枠組の選択は固定化されるべきものではなく、個々の大学の戦略や成果、財政構造などに基づくミッションの変化に応じて変更も可能と考えるべきである。

また、文部科学省においては、86国立大学長と丁寧な対話を重ね、上記のような懸念を払拭すること、また、それぞれの学長の機能強化のためのビジョンや戦略を実現するためには各大学の規模や財政構造等に応じたきめの細かい大学ファンディングシステムが不可欠であることを踏まえ、具体的な制度設計の検討をさらに深めることを求めたい。

1 「地域活性化・特定分野重点支援拠点」の大学の役割

昨年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び「総合戦略」は、人口減少の克服と地方創生の確実な実現を掲げ、地方における安定した雇用の創出、地方への新たな人の流れの創出、地域と地域の連携の強化等を政策目標に据えたところである。

今後、国の「長期ビジョン」及び「総合戦略」に基づき、各地方で5か年の「地方版総合戦略」が策定されることになるが、地域に存在する大学には、地域の特性に根ざしたイノベーションの創出拠点として、また、地域ニーズに対応した人材輩出の拠点として、さらには、地域間連携の結節点として、これまで以上に大きな役割が求められている 。

より具体的には、地域の抱える課題解決に貢献しているか(イノベーション)、地域のニーズに対応した人材を育成しているか(教育・人材育成)、強みを持つ分野の強化等を図る中で地域間或いは世界とのネットワーク構築を実現しているかなどの観点から、地域活性化の核 となることが期待されている(※)。
(※)具体的な評価指標の在り方については、現在文部科学省の検討会で検討が行われている。

同時に、強みを持つ分野については、多岐にわたる地球規模課題の解決に資する日本発イノベーションの多様性の一翼を担うべく、地域と大学の個性に基づき日本をリードする世界レベルの特色ある教育研究が推進されるべきである。グローバル化時代にあっては、そのことこそが新たな雇用創出をふくむ真の地域活性化をもたらすことに留意すべきである。

こうした役割を果たす際には、積極的なクロスアポイントメント制度の活用などを通じて、自治体、大学、研究機関(公設試を含む)、産業界との連携・協力を強化する ことが求められるが、その際の連携・協力は、地域内にとどまるべきではなく、むしろ、地域を越えた連携(海外との連携を含む)を視野に入れることが不可欠であると思われる(地域課題の解決のために地域外の知見の活用、地域資源の地域外への展開等の可能性も考えられる)。こうした取組の蓄積を通じて、地域のハブ機能の強化はもとより、強み・特色のある特定分野の全国的、世界的競争力の強化につながるものと考えられる。

地域活性化の核となることを積極的に進める大学に対しては、「基本的考え方」にも記載したように、運営費交付金の配分を含め より安定的な教育研究活動が推進できるようにするとともに、特色ある取組を行っている大学には重点的な支援が行われることが必要である 。そのためにも、評価指標については、地域活性化の拠点としての取組と強みを持つ分野をより強化する取組を区別して設定するとともに、評価も分けて行うべきである。

2 「特定分野重点支援拠点」の大学の役割

国立大学の中には、ある分野の教育・研究に特化した、或いは傑出することにそのミッションを有する大学も存在する。こうした大学については、その特化・傑出した分野に資源を重点的に配分し当該分野を強化することがその大学の特色の明確化につながり、ひいては大学の機能の最大化にもつながる 。特化・傑出した分野は、理工医系に限定されず、人文社会科学系なども当然含まれ、また、研究でなく、教育に強みを持つ場合も想定される。

「特定分野重点支援拠点」において支援を受ける大学については、強みを持つ分野で求心力を持つ 全国的な拠点になる役割 、或いは世界レベルでも注目される 世界的な拠点になる役割 も期待され、その役割を果たせるよう、積極的な取組を行っている大学には重点的な支援が行われることになる 。

なお、学問の分野間で研究成果の性質や標準的な成果量は大きく異なる。そこで各大学の機能強化に関する評価指標は、分野別の指標を設定するべきである 。また、評価指標の設定においては、大学の規模の相違も十分に考慮するなどして、各大学の特色と強みが活かされ、さらに強化されるような制度設計をすべきである。

2015年2月22日日曜日

学べない子ども­たち

一般社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事の奥野慧氏による「学べない子ども­たち」のショートプレゼンテーション(2013年11月15日開催の神戸モトマ­チ大学「Sparks!」第4回)をご紹介します。


2015年2月21日土曜日

子どもの居場所

子どもの貧困、支える「食堂」 手料理提供、各地で試み」(2015年2月5日朝日新聞)をご紹介します。


出来合いの弁当や菓子パンだけで毎日の食事を済ます子。家計が苦しく食事を抜く子。心と体の成長の土台である「食」が揺らぐ。様々な生きづらさを抱えた子どもたちを、手作りの温かな食事で支えたい。そんな「子ども食堂」の試みが各地に広がり始めた。

「もう、ひとりぼっちで食べなくてすむ」「(給食がない)夏休みの食事が心配だった」。食卓を囲む子どもたちから、ふとそんな言葉がもれる。


京王線つつじケ丘駅前。飲食店が入居するビルの3階に、NPO「青少年の居場所キートス」(東京都調布市)はある。

2年前から通う男子中学生は、ここで初めて食べたミートソースの味が忘れられない。家ではパンやカップ麺が中心。それまでの数年間、親の手料理を口にしたことはほとんどなく、経済的事情から食事を抜く日も。「給食以外では何年かぶりのスパゲティ。最高だった」

市の中高生向け児童館で相談員をしていた白旗眞生(まき)さん(65)が5年前、キートスを立ち上げた。勉強をしたり、ゲームや昼寝をしたり。自由な居場所を、という思いだった。

活動開始後、満足に食事をしていない子が目立つことに気づいた。親の病気や貧困、虐待。理由は様々だった。週5回の活動日、昼食と夕食の提供を始めた。無条件ではなく、家庭状況を聞き、必要と判断した子が対象だ。

登録者は220人。市子ども家庭支援センターなどの紹介が多い。中高生ら15人ほどが毎日顔を出す。食事代は無料。家賃などの運営費は市の補助金や寄付などでまかなう。食材も農家や支援団体からの寄付が頼みの綱だ。

食を含む生活支援の大切さを白旗さんは強調する。「食がととのって初めて勉強にも目が向く。生活の土台となる食の支援は待ったなしです」

東京都大田区の青果店「気まぐれ八百屋だんだん」には月2回、店の入り口にのれんが掛かる。12年夏から続ける「子ども食堂」だ。かつて居酒屋だった空きスペースを活用する。店主の近藤博子さん(55)がボランティアと一緒に運営する。

献立はポトフなど野菜中心。毎回20人ほどがテーブルを囲む。共働きの両親の帰りを待つきょうだい。保育所に預けた子を引き取って来る勤め帰りの母親も。必ずしも生活に困った家庭ではない。それでも、一緒にご飯を食べていると家族の溝が見えることがある。「大勢とだんらんすることで変わっていきます」と近藤さんは話す。



月2回の子ども食堂の開催日には、手作りののれんをかける=東京都大田区の「気まぐれ八百屋だんだん」


キートスなど食支援に取り組む団体が一堂に会した初の「子ども食堂サミット」が1月12日、都内で開かれ、約200人が参加した。対象者も運営方法も様々だが、支援の網からこぼれがちな子の暮らしを支えようとする思いは共通だ。

「親が精神的な疾患を抱えていて外出できない。子どもはコンビニのおにぎりを買い、炊きたての米の味を知らない」。川崎市のNPO法人フリースペースたまりば理事長・西野博之さんは事例を報告した。公設民営の不登校児などの居場所では、昼食づくりが活動の核だ。5人に1人は生活困窮家庭の子だという。

要(かなめ)町あさやけ子ども食堂」(東京都豊島区)は13年の開設。元会社員の山田和夫さんが月2回、自宅を開放、ボランティアが作った夕食をふるまう。母子家庭や外国人の子ら35人ほどが利用する。近所の商店や農家の差し入れで食材を補っている。

子ども村:中高生ホッとステーション」(東京都荒川区)は、有志が民家を借りてつくった中高生の居場所だ。学習支援に加え、週1回、スタッフを含め約30人が夕食をともにする。コメは支援団体からの提供で、1口1千円の寄付も募る。子ども料理教室も。「生きていく術を身につけてほしい」と代表の大村みさ子さんは言う。

取り組みはさらに広がりそうだ。横浜市のNPO法人「スペースナナ」は2月から月2回程度実施する予定。東京都八王子市でも大学生の有志が2月からの定期開催を目指す。高知市では少年事件を扱う弁護士らが、夏をめどに週3日の学習支援や食事提供の定期開催を目指し準備中だ。

サミットを主催したNPO法人・豊島子どもWAKUWAKUネットワークによると、関西などでも数カ所で準備や検討が始まっているという。同ネットワーク理事長の栗林知絵子さんは言う。「家族のあり方や生活リズムが多様化し、みんなで食卓を囲む暮らし方ができない状況が増えている。そこを少しでも支えられれば、と思います」



〈子どもの貧困〉
 「子どもの貧困率」は2012年、16・3%と過去最悪を記録した。貧困率とは、世帯収入から子どもを含む国民全員の所得を仮に計算して上位から順番に並べたとき、真ん中の人の所得の半分に満たない18歳未満の人の割合を指す。経済的な苦しさが親から子に引き継がれる「貧困の連鎖」に歯止めをかけるため、14年1月に「子どもの貧困対策法」が施行された。各地で学習支援などの取り組みが広がっていて、食支援はその一環でもある。

2015年2月20日金曜日

今眠る者は夢を見る。今勉強する者は夢を叶える

ブログ「今日の言葉」から」(2015-02-05)をご紹介します。


1. 今眠る者は夢を見る。今勉強する者は夢を叶える。

2. 君が無駄にした今日は、多くの人が願っても叶わなかった明日である。

3. もう遅いと感じたその瞬間が、物事をはじめる一番のタイミングである。

4. 明日やるより、今日やるほうが何倍もよい。

5. 勉強の苦しみは一瞬、勉強しなかった苦しみは一生。

6. 勉強に足りないものは時間ではなく努力だ。

7. 幸福には順位はないが、成功には順位をつけることができる。

8. 確かに勉強は君の人生全てではない。しかし生涯にわたって共にするものだ。

9. 苦しみから逃れようとするくらいなら、それを楽しめ。

10. 成功への道は、人より早起きし、人より努力することである。

11. 楽して成功することは決してない。本当の成功に必要なものは徹底的な自己管理と忍耐力である。

12. 光陰矢の如し

13. 今日のよだれは将来の涙。

14. 犬の様に学び、紳士の様に遊べ。

15. 今日歩くことを止めれば、明日は走ることになる。

16. 最も現実的な人は、未来に投資する。

17. 教育の差が収入の差。

18. 今日は二度とこない。

19. 今この瞬間も相手は学んでいる。

20. 苦しみなくして、前に進むことはできない。


数年前にネットで話題になったハーバード大学図書館の壁に書かれたと言われる20個の落書き。

実際には存在していないとハーバード大学が見解を出しているようです。

簡単に情報が拡散される時代ですから、きちんと自分で裏を取ってみるという疑いの気持ちも大事ですね。

しかしながらここに書かれている内容自体は示唆に富んだものとなっているため参考になります。

2015年2月19日木曜日

本当の失敗とは、挑戦するのをあきらめること

ブログ「人の心に灯をともす」から「うまくいかない方法を発見する」(2015-01-31)をご紹介します。


ある日、エジソンは彼のもっとも有名な発明である白熱電球について、若い記者からこんな質問を受けた。

「電球を完成させるのに、1年以上も実験し、5000回も失敗したそうですが、そのときはどういうお気持ちでしたか?」

エジソンは記者の顔を見て、こう答えた。

「5000回も失敗した?そんなことはないよ。うまくいかない5000通りの方法を発見するのに成功したんだからね」

エジソンは、失敗を成功への布石と考えて努力を重ねた。

週に100時間以上も働き、世界史上もっとも多くの発明をし、生涯に1000を超える特許を取得したことで知られている。

また、19世紀末に設立したエジソン電気照明会社は、ゼネラルエレクトリック(GE)という世界最大の総合電機メーカーにまで発展した。

自信を持ち続けるうえでもっとも重要なことは、失敗を前向きにとらえることだ。

失敗したからといって失敗者ではない。

失敗の代償とは、成功の価値を理解するための「授業料」なのだ。

何かに挑戦すれば失敗するのは当然である。

失敗したことが一度もないとすれば、失敗するだけの価値があることに挑戦していない証しである。

本当の失敗とは、挑戦するのをあきらめることだ。

失敗しても絶望してはいけない。

失敗は一時的な回り道にすぎず、さらに前進するための起爆剤なのだ。

失敗へ恐怖が、行動を起こすうえで障害になることがある。

過去の失敗を思い出すと、怖くて前進できなくなるのだ。

しかし、後ろを振り返ってはいけない。

目標を達成できなかったときは、エジソンと同じように「うまくいかない方法を発見するのに成功した」と自分に言い聞かせるといい。

失敗を重ねるたびに、うまくいく方法の発見に近づきつづあると考えるのだ。

勇気を出して失敗する人だけが、成功をおさめることができる。

失敗の割合を2倍に高めるといい。

そうすれば経験が2倍に増え、障害を乗り越える知恵が得られる。


トーマス・エジソンはこんなことも言っている。

「私たちの最大の弱点は諦めることにある。

成功するのに最も確実な方法は、常にもう一回だけ試してみることだ」

「しつこい」というとあまりいい意味では使われないことが多い。

「くどい」とか、「煩(わず)わしい」とか「執念深い」という意味で使われるからだ。

しかし、成功した人をみていると、たいていの人がこの「しつこさ」を持っている。

それは、いい意味での「あきらめない力」であり、「へこたれない」、「くじけない」、「めげない」というネバーギプアップの精神だ。

「うまくいかない方法を発見するのに成功した」

何度失敗してもめげずに挑戦し続ける人でありたい。


ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日 : 2005-08-18

2015年2月18日水曜日

「子どもの未来」を真剣に考える

世界中の「大人」を6分間黙らせた、12歳の少女による「伝説のスピーチ」」(TABILABO)をご紹介します。


1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロで行われた地球サミット。世界に衝撃を与えた一人の少女のスピーチをあなたは知っているだろうか?

セヴァン・カリス=スズキさん、当時12歳。9歳の時、自分で子ども環境NGOを立ち上げた環境活動家だ。

世界の指導者を前に、地球の危機を伝える、12歳とは思えない堂々たるスピーチを披露し、世界に衝撃を与えた。

身の周りで起こる環境の異変、出会ったストリートチルドレンからの言葉、資源の無駄づかいを続ける周りの大人たち・・・。

経験に基づいて語られる一つひとつのメッセージを、いま、私たちはもう一度思い出す必要がある。

「どうやって直すかわからないものを、壊し続けるのはもうやめてください。」

親たちはよく「大丈夫、すべてうまくいくよ」と言って子どもたちをなぐさめるものです。……しかし大人たちはもうこんななぐさめの言葉さえ使うことができなくなっているようです。お伺いしますが、我々「子どもの未来」を真剣に考えたことがありますか?

地球サミットで決まることが、未来に生きる若者に影響すると、幼い頃から気づいていたセヴァンさん。

彼女は大人になった今も、世界中の国際会議や学校に招かれ講演を行っている。彼女から行動を起こすことの大切さを学びたい。




2015年2月17日火曜日

地方大学を活用した雇用創出・若者定着

去る1月23日、総務大臣から各都道府県知事、各指定都市市長宛てに「地方大学を活用した雇用創出・若者定着の取組の促進について」と題する通知が発出されています。

通知の内容は以下のとおりです。地方創生の一環ですが、地方大学の在り方にも大きな影響をもたらす政策になりそうです。(下線は小生)


地方大学は、これまで、地域における高等教育機会の提供や学術研究の振興等の機能を通じ、地域社会における知的・文化的拠点としての中心的役割を担ってきました。今般、国を挙げて「人口減少 克服・地方創生」という課題に取り組む中で、地方大学が地方公共団体や地元企業などと連携して「地方への新しいひとの流れをつく る」取組や「地方にしごとをつくる」取組を実施することが期待さ れています。

とりわけ、地方からの人口流出は、大学進学時と卒業後の最初の就職時という2つの時点において顕著であることから、大学進学時や就職時の学生に直接働きかけることや、卒業後に地方に定住して働くことのできる雇用を創出することが重要であると考えており ます。

このため、地方大学への進学、地元企業への就職や都市部の大学から地方企業への就職を促進するよう、総務省と文部科学省が連携 して、地方公共団体と地元産業界が協力し、将来の地域産業の担い手となる学生の奨学金返還を支援するための基金を造成する取組や、地方公共団体と大学等が具体的な数値目標を掲げた「協定」を締結し、連携して雇用創出・若者定着にあたる取組を促進するための 財政措置等を決定したところです。なお、これらの取組においては、地元産業界の協力が必要であり、経済産業省とも連携し、協力要請を行うこととしております。

特に、サテライトキャンパスを活用した都市部の大学との単位互換や、地元企業への長期インターンシップの実施などにより、地方 大学の魅力を向上させることが、有効です。また、大学が有する教育研究機関としてのポテンシャルを活かして、地域の中核企業等との共同研究による産業振興や雇用創出も重要です。

各地方公共団体におかれては、今般の財政措置等も踏まえ、それ ぞれの地域の実情に応じて、地方大学を活用した雇用創出・若者定着に積極的に取り組んでいただくようお願いします。

なお、特に公立大学は、地方公共団体が設置する大学として、率先して地域課題の解決に取り組む使命を有していることから、積極的にこうした取組を行うよう特段のご配慮をお願いします。

また、各都道府県知事におかれては、貴都道府県内の指定都市を除く市町村長に対して本通知について速やかにご連絡いただき、通知の趣旨について適切に助言いただくようお願いします。

なお、地域の元気創造プラットフォームにおける調査・照会システムを通じて、各市町村に対して、本通知についての情報提供を行っていることを申し添えます。


参考資料

「奨学金」を活用した大学生等の地方定着の促進及び地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出・若者定着の促進




2015年2月16日月曜日

国立大学の行く末

NUPSパンダのブログ」から国立大学は既に国立とは言えないのではないか?」(2015年2月13日)をご紹介します。


国立大学法人は、自らの競争力強化を図る投資は優に及ばず、当面の運営費を賄う収入さえ確保できなくなりつつある。

これまでも折に触れて警鐘を鳴らしてきたが、私のような実務担当の目から見ても、国立大学法人の財務の破綻を回避するには、2016年4月からの第3期には授業料値上げが避けられない状況になっている。

恐らく多くの国立大学では、運営費交付金への影響がないとされる標準額プラス20%までの授業料値上げの検討が行われる可能性が高い。

かりにそれだけの上昇があったとしても、私立大学の大半よりはまだ受益者負担は小さいので、授業料を据え置かなくては学生募集に支障があると考えているような気弱な国立大学は、いよいよ統廃合の対象にならざるを得ないだろう。

10年にわたり真綿で首を絞めるような手法で、国立大学法人の財務を圧迫してきた効果(?)が得られつつある。

財務省は、18歳人口減少が進行する中で、国立大学全体を規模縮小に導くという筋書きが、順調に運んだと手ごたえを感じているのかもしれない。

法人化の際に、運営費交付金は大学法人の収支差を埋める補助だと聞かされたが、それ以降、一律削減が続いたために、そうした説明はとうの昔に実態に合わなくなっている。

財務面で見れば、既に国立大学は、国が設置し運営に責任を持っているとは言えず、元々はそうした存在だった大学=元国立大学とも呼ぶべきものになっている。

このところの状況を具に分析すれば、国立大学法人は一段と支出増圧力にさらされている。

特に、人事院勧告に準拠した給与改訂に関して、完全実施する方針を基本とするものの、財務状況がそれを許さなくなっている法人が26年度現在で4割ほどに上っている。

東日本大震災後の予算編成において、国家公務員給与を2年間にわたり平均7,8%抑制した際に、これと同様の措置を行った大半の国立大学法人は、今になって国家公務員に準拠した給与改訂を行わない訳にもいかない。

下げるときは合わせると言っておいて、上げるときは別だというのは、いかに財務状況が苦しいとしても二枚舌の誹りを免れないからである。

国家公務員準拠の決断をした法人も、恐らく物件費を削減して正規の教職員の人件費に回している。

26年度決算において、こうした苦肉の策の結果が数字で表れてくるだろう。しかも、一度増加した人件費は27年度以降も人減らしをしなければ圧縮できない。

財務が苦しい中でリストラが必要だと分かっていても、先頭に立って実行する経営トップ=国立大学長がどれほどいるだろうか?あまり期待しない方が良い。

もちろん、文部科学省からも、そうした劇薬を持ち込む施策の打ち出しはありそうにない。

したがって、大学法人の人件費が劇的に圧縮されるという事態はまず起こり得ない。

悪いことに、法人財務の3割ほどを占める附属病院の経営も26年度は芳しくないという情報が流布され、消費税率のアップが原因だとする解説がなされている。

こちらも、今年6月末に各大学法人の決算報告が出れば明確になるはずである。

病院が現金ベースで赤字になれば、大学法人の財務に少なからぬ影響が出る。病院では億円単位の損失が予期せずに出てしまうことがあるが、病院を除く大学からその損失を埋めることは、ほぼ不可能である。

そうなると法人は赤字決算になる。

さらに、施設整備費に関しても、26年度補正、27年度当初予算をみる限り、国家財政運営の帰結から抑制基調が明確になっており、安全性が疑われる老朽校舎が放っておかれる状態が長引く恐れがある。

特に、附属学校などは、これといった自己財源はなく基本的に国の補助金頼みでしかないが、補助金の総額抑制の中で待ち年月が長くなっている。

文部科学省にも必要性が分かっていながら、措置するだけの金がないのは実に情けない思いであろう。

以上のような状況なので、結局、最短で28年度からの授業料の値上げを実施する国立大学が出てくるだろう。

多くの法人は様子見かもしれないが、早晩追随することになるはずである。

学生募集の競争力の低い大学・学部では、値上げを躊躇するところもあろうが、かりに運営費交付金に影響がないとされている20%アップ(約10万7000円増)を実施できないようなところは、安かろう悪かろうに陥らないためにも、自ら組織再編(規模縮小)を実施すべきだろう。

さらに、国からの運営費交付金の減から受益者負担の増に繋がる流れは、恐らくその後も続くだろう。

我が国には、私学という高等教育機関が学生の8割近くの受け皿となっており、国立大学の授業料が私学並みになって学生が来なくなれば、つぶれても差し支えないと財務省が考えていても不思議ではない。

もちろん、国立大学は理工系の学生定員が相対的に多く、大学院のシェアも大きいので、そうした役割を否定するものではなかろう。

しかし、私学と競合する部分も確かにあり、現実に、文部科学省から人社系の教育組織に関して見直し方針が示されている。

国立大学は国立だから最後は国が面倒をみると考えている大学人は、好い加減に目を覚ました方が良い。

既に、財務的には元国立になっており、時間が経てば経つだけ、私学化傾向が強まると覚悟して、もらえる予算は可能な限りもらい続けながら、先んじて財務自立の道を探求すべきだというのが、私の考えである。

財務省主計局は、そこまで明確には言わないが、彼らの説明ぶりをロジカルに詰めていけば、どう転んでも近未来に国立大学法人への財政支出を維持するのは難しいことは明らかである。

したがって、国立大学法人にまず必要なことは、競争力が低い部門を捨てることである。

それに伴って不要な人的・物的資産をいち早く切り離すことである。

それによって財源を生み出して、競争力のある部門に自らの判断で投資することである。

文部科学省には、こうした中長期ビジョンに基づく施策は期待できない。

大学法人の経営者が自ら考えて、先回りして実行するしかない。

国立の看板は残っても、国立の実態は失われていくものと諦めることが、迷いなく未来への一歩を踏み出す知恵と勇気を生み出すだろう。

現在行われている運営費交付金の減額を、科学研究費等の競争的資金の間接経費の増額で補う(研究に直接当てられる経費は減少する)というような政策論は、あまりにも枝葉末節な提案である。

本当に国家のために必要な国立大学があるならば、財政が苦しくても運営費交付金の水準を堂々と維持するべきで、朝三暮四のような手法で大学人や国民を騙すべきではない。

こんなつまらないことを議論している国は、我が国のほかにあるだろうか?

2015年2月15日日曜日

大学における会計のあり方を 考える

「会計」を教育活動と経営の高度化に結びつける」(リクルートカレッジマネジメント190/Jan.-Feb.2015)を抜粋してご紹介します。


学校法人会計基準の改正を「会計」理解の好機に

国立大学についても、優れた取り組みを行う大学を重点支援する一方で、何もしない又はあまり優れていない取り組みを行う大学に対しては、教育研究組織の合理化・再編、他大学との再編統合等を通じた機能強化を促すとの運営費交付金の改革案が財務省より示され、国立大学関係者の間で大きな波紋を呼んでいる。地方財政の状況を考えると公立大学の状況も同様に厳しさを増しつつあるものと思われる。

一方で、大学には、教育の質保証、研究の高度化、社会・地域貢献、グローバル化といった課題への取り組みを加速し、その成果を広く社会に示すことが強く求められている。これらは個々の大学の持続可能性を高めるためにも必須な事柄であるが、これまで以上に多くの労力や経費を要することになる。とりわけ、教育の質保証については、新たな教育方法の導入、少人数教育、きめ細やかな学生支援など費用増に繋がる施策が多い。

質の高い教育活動(以下「教育活動」という場合、研究を含む教学全般の活動を指す)を持続的に展開するためには、安定した財政基盤が不可欠である。そのためにも、自校の財政状況を経理・財務担当の理事や職員のみならず、大学全体で広く共有する必要がある。

私立大学にとって学校法人会計基準の改正はその好機でもある。国公立大学においても、現下の情勢を考えると、広く役員・教職員が「会計」を通して、教育活動の基盤となる財政状況に対する理解を深める必要がある。

「会計」の理解なしに真の経営はあり得ない

そのような中で、法人化に伴い、国立大学法人や公立大学法人の会計に複式簿記が導入されたが、その意味や仕組みが役員・教職員にどれだけ理解され、法人経営に活かされているか疑問である。年度実績報告書に記載されている業務改善や財務改善に係る個々の施策が財務諸表にどう結びついているか不明なことが多い。

前述の通り、会計の目的や仕組みは法人の性格によって異なるが、会計を理解することは、経営の成り立ちを理解することであり、利害関係者に知らせるべき情報とその意味を理解することである。従って、会計の理解なしに真の経営はあり得ない。

「会計」を戦略的に活用し大学経営改革を加速

目まぐるしく変化する企業の経営環境と違い、「18歳人口減少に象徴される大学の外部環境変化は緩やかであり見通しも利く」(松本社長)。そのことが、環境変化への感度を鈍らせ、決断のタイミングを見極めにくくする。また、企業活動はその全てが最終的に決算数字に結びつくのに対して、大学の教育活動の成果は貨幣額で表せず、その活動を支える経営の状況を財務諸表で表しているに過ぎない。大学で「会計」への関心が広がらず、理解が深まらない理由もこれらの点にあると思われる。

しかしながら、18歳人口と進学率に依存する限り、需要は着実に縮小し、一方で社会的要請や競争激化により教育活動のための支出は増加を余儀なくされる。会計情報の開示や説明も一層の充実が求められるだろう。そのことに受け身で対応するのではなく、「会計」を戦略的に活用し、大学経営改革を加速させるという積極的な姿勢が不可欠である。

そのためにはまず、複式簿記と会計基準を理解し、会計処理や財務諸表作成等の実務を正確かつ効率的に行い、財務分析を通して課題や解決方法を提案し得る大学会計のプロを育てていかなければならない。

また、会計の仕組みと考え方、財務面から見た自校の経営状況と全国的な動向などを役員・教職員が理解できるように、簡潔で分かりやすい資料の配付や説明機会の設定など地道な取り組みを継続することも大切である。特に、役員・職員に対する研修は不可欠である。

理事会・役員会等での決算報告において、当該年度のみならず過去からの長期推移(例えば10年程度)を示すとともに、全国的な動向やベンチマーク校との比較を加えるなど、変化を的確に捉え、経営状況を多面的に評価し得るよう工夫を施し、このような見方を定着させることも重要である。

さらに、10年から20年程度先を見通す長期シミュレーションを行い、今のまま推移した場合、いつ頃にどのような状況が生じるかを描き出してみる必要がある。危機感を煽るだけでは具体的なアクションに結びつかない。将来起こり得る事態をリアルな形で理解することで、早い時点から計画的に対策を講じることができる。

最後に、大学に相応しい管理会計の構築とコスト意識の醸成について考えてみたい。教育活動の現場がコスト管理で縛られてはいけないが、教育研究経費の増加が財政状況の悪化につながりつつある状況は見てきた通りである。

これまで「大学のコスト」という場合、誰が負担するかに関心が注がれてきたが、大学自身が教育活動コストの適正な水準を考え、それに近づけるべく種々の工夫を行っていくことが重要になってきている。財務会計の枠組みだけでは、そのことに対応できず、IR(Institutional Research)と結びついた管理会計の構築が必要なのではないかと考えている。

2015年2月14日土曜日

研究と大学経営

科学研究費助成事業の分野別採択状況からみる「強み」と大学経営」(リクルートカレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015)を抜粋してご紹介します。


5 転換期を迎える大学・学術政策

今、大学・学術政策は大きな転換期を迎えている。厳しい財政状況にあっても「科学技術関係予算」は増加しているにも拘わらず、大学における知の創出力や人材育成力が低下し、学術研究に対する厳しい見方が止まないのはなぜか。そう感じる大学関係者は少なくないだろう。

科学技術・学術審議会学術分科会(平野眞一分科会長)が 2014年5月にとりまとめた「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について(中間報告)」は、この問いを率直に分析した。

その結果、その最大の原因は、本来基盤的経費により長期的な視野に基づく多様な教育研究基盤を確保するとともに、競争的資金等により教育研究活動の革新や高度化・拠点化を図るはずの「デュアルサポートシステム」が機能不全を起こしていることであり、政府に対しては予算・制度両面にわたって学術政策・大学政策・科学技術政策に横串を通し、基盤的経費・科研費・科研費以外の競争的資金等の一体的改革によるデュアルサポートシステムの再生を、大学には明確で周到な戦略のビジョンに基づく自らの教育研究上の強みの明確化と学内外の資源の柔軟な再配分や共有を求めた。

中間報告の構想力は経済界関係者を含む多くの要路の共通理解の形成を促し、「日本再興戦略2014」、「科学技術イノベーション総合戦略 2014」(2014年6月閣議決定)、学術分科会「我が国の学術研究の振興と科研費改革について」(中間まとめ)(同年8月)に反映された。

また、現在、文部科学省や総合科学技術・イノベーション会議、産業競争力会議においては、第三期国立大学中期目標期間と第五期科学技術基本計画がスタートする2016年に向けて、①各大学のビジョン・強みを踏まえた教育研究組織の再編成や学内資源の再配分を促すための(国立)大学改革、②研究者の研究ステージに応じ、細目を超える創造的な研究を引き出す科研費改革、③大学における学術研究を真理の探究と社会実装へと展開するための構造化など競争的資金改革、が一体的に検討されているが、これらの議論のベースとなっているのも、前述した中間報告である。

中間報告がトリガーとなって、それぞれの大学の構想力や機能をその特性に応じて最大化できるようなファンディングや評価の仕組みをどう構築するかについて、基盤的経費から競争的資金までを見渡した大胆な議論が、今まさに行われている。

大学経営へのインパクト

だからこそ、今後、各大学に求められる構想力や戦略は、その大学の規模等に応じて大きく異なってくる。例えば、東京大学のように科研費を活用してアクティブに研究している教員を 3000人規模で擁している大学は、世界水準の研究大学としてこれらの教員をどう組み合わせて刺激すればより多くの競争的資金を獲得し、研究力を最大化できるかが問われている。

他方で、新潟大学のように科研費で研究を行っている教員数自体は 600人規模で東京大学と同じ土俵では競合し難いが、専門分野によっては歯学分野をはじめ様々な強みを持っている大学は、これらの拠点の研究力を学内の資源再配分と基盤的経費による安定的な支援の獲得を通じ、いかに高めていくかのビジョンと戦略が求められていると言えよう。

経済産業省の産業バルーンチャート(「わが国主要産業の国際競争ポジション」)によれば、わが国には市場規模は小さいが世界市場シェアは高い「グローバルニッチ産業」が数多く存在する。特定分野で高い研究力を持つ大学がこれらの産業とどう向き合うかは、大学駆動型の成長戦略や地方創生の成否に大きく関わっている。

いずれの構想や戦略にとっても鍵は「蓄積」と「マネジメント力」。この双方を可視化している今回のデータは、大学関係者だけではなく、企業、起業家、ファンドマネージャー、非営利法人や官公庁など大学のステークホルダーにぜひ広くご覧頂きたいと考えている。

さらに、中央教育審議会において「高等学校基礎学力テスト(仮)」や「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」が構想され、K-16教育(幼児教育から高等教育までの教育)の連続性や一貫性の中で子ども達の能力をいかに伸ばすかへと学校教育が大きく舵を切るなか、大学教育の基盤である各大学の研究力の実相を示すデータは、高校生やその保護者にとってもますます重要となっていることは論を俟たない。

慶應義塾大学の上山隆大教授によれば、イギリス・タイムズ誌が世界大学ランキングを始めたのは、特にアメリカの研究大学との比較におけるイギリスの大学の国際的な通用性に対する危機感があったからだという。

このようにランキングは、それにこだわって一喜一憂するためのものではなく、自らの強みや特色・課題を冷静に認識・分析し、その課題を克服するためのビジョンや戦略を形成するために活用してこそ意味がある。だからこそ文部科学省には、今回のデータを施策の中で最大限活用し、大学ごとに異なるビジョンや構想を引き出すため、大学との丁寧な対話を積極的に重ねることが求められていると改めて認識している次第である。

2015年2月13日金曜日

地域創生とグローバル大学へ向けた教育改革

地域創生とグローバル大学へ向けた教育改革」(リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015)をご紹介します。


2011年に大学設置基準が改正され、「大学は、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し、教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むこと」が明記され、就業力育成は大学教育の重要な課題となっている。各大学が活動の方向性を模索するなか、地域産業人材の育成や地域経済の活性化にもつながるような就業力育成の取り組みが注目されている。

この連載では、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している事例などを、積極的に紹介していきたい。

今回は、2014年度「スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU事業)」「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」に採択された熊本大学で、谷口功学長にお話をうかがった。国際化と地域創生とを一体的に捉えた取り組みは、地方国立大学の目指す教育改革の方向性として注目される。

課題は学生のエンカレッジ

旧制五高の伝統を持ち、現在も地域のトップ校である熊本大学。谷口功学長は、「うちの学生は高いポテンシャルを持っていて、社会で十分に活躍できる。ただ、東京にいる人たちに比べて自己表現力や積極性がちょっと劣る。関西圏とか東京の学生は自分で自分を売り込むというのをやるでしょ。武士の社会を基盤とする熊本の文化的な特徴かもしれないけど、あまり自分を売り込むというのを良しとしないのです。そういう特性を捉えて、就職支援では学生一人ひとりの良いところをちゃんと主張できるように上手にエンカレッジ(刺激)して指導するようにと言っています」

出席率95%超の学長特別講義

学生の意識を醸成し、エンカレッジするために学長自らが手がけるのが『学長特別講義』だ。全学部の1年次全員(約2000人)が受講するため、4月から6月までかけて、約25回の講義が設定される。正課外の講義なので単位はつかない。講義時間は18時から19時30分。にもかかわらず、出席率は95%以上という。

始めたきっかけは、2011年3月の東日本大震災だ。
「当時、学生がちょっと浮き足立ったのです。被災地に応援に行かなくちゃ、ボランティアに行かなくちゃ、先生、行っていいですかと。気持ちは非常によくわかる。だけども、『とにかくボランティア』『行かないと悪い』というような感じもあったし、行ったらそれで終わりっていうのもダメだと思った。だから、もちろん行くのはいいけど、これは10年20年で終わる話じゃない。だからあなたたちは、ボランティアに行って免罪になるのでなくて、今ここでしっかり勉強して、日本の社会はどうあるべきかとか、新しい産業の創出とか、医学で人を救うとか、将来いろいろな役割を果たすことも、日本の復興のために役に立つということなんだと理解させて、落ち着いて勉強をさせようと思った」

この講義には、二つの目的がある。一つはこの地域=熊本の素晴らしいところを自覚させることであり、もう一つは、“なぜ・何のために学ぶのか”という、大学生としての使命を考えさせることだ。

「せっかく熊本にいるのだから、この土地の良いところを自覚して、自信を持てと伝えています。私は熊本出身ではないけれど、外から来たからかえって、熊本の良いところが目に付くということもあるわけです。ご当地の人は、良いところがあるのにそれに気が付かない。そのため、自分のいる地域の良いところを表現することが、意外とできないのです。そういう地域を見直すことをちゃんとやるべきだというと、ローカルばかりと取られがちだけれど、そうではない。ローカルで終わるのではなく、それを世界につなげるのです。その地域、熊本なら熊本の良いところを言うことが、自分たちを認めてもらうことだし、相手を認めることでもある。それが世界人であり、グローバル化なのですよ」

「だから、本学の歴史を振り返りながら、地域の話をしていくわけです。五高が明治20年にできましたと。なぜ一高から五高の5つの地域だったのかという話に始まってね。明治からの近代日本の150年の歴史は、私どもの大学の歴史そのものです」。歴代校長の中には講道館柔道の創始者である嘉納治五郎もいる、夏目漱石が教えた生徒の中に寺田寅彦がいるなど、著名人の話も交えて学生の興味を引きつつ、講義は2つめの目的につながっていく」

「勝海舟さんが、当時の五高の学生さんに書いてくれた『入神致用(ニュウシンチヨウ)』という言葉があります。学問でも仕事でも何でも人並みじゃダメで、もっと上まで行って、神様の領域に入れと。そうして初めて『用』をなす、人とか社会の役に立つところに到達すると。そういう人になれという意味です。私の解釈ですが」。当時の五高の学生は、日本のリーダーになるべく高等教育を受けていたエリートだが、谷口学長は今の熊本大生も同じだと言う。

「あなたたちは、こういう五高の歴史のある国立大学の、選ばれた学生なのだから、それだけのものは社会に返さないとダメだと。自分のために勉強するだけではダメだ、人や社会の役に立つという気持ちを持てと。そういう話を流れの中でしていくと、なんで勉強しないといけないかっていうのを、学生もある程度はわかるのですよ。その志を持つことは結果的に、就職のときも社会に出てからも、役に立っていくはずだと思います」

COCとSGUの接続

「国際化っていうのは、地域のことをちゃんと自慢できるということだよ」とたびたび話しているという谷口学長の構想の中では、『スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU事業)』と『地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)』とは、ごく自然に結びついている。

「地域の発展のためにもと申請した大学COC事業ですが、地域で終わってしまって世界につながらないのではダメで、学生さんのためにならない。さらに、学生を世界につなげることができる力を持たせるのに活用できる事業として、SGUを申請したわけです」

SGUの推進本部は学長直轄の組織だ。2013年度から先行した大学院先導機構などでの世界トップの先端研究の推進、大学COC事業、教養教育改革も同様に、学長をトップとする体制で推進している。

「いろんな実行部隊は作りますが、責任は全部学長にある形でコントロールしていく。といっても、学長が命令したらみんなそれを聞くというわけではない。多様性という意味ではそれが大学のいいところでもあるのですが。だから文科省などのプロジェクトはあったほうがいいのですよ。一般論で言っても、なかなか先生方に理解していただいて動いてもらうのは容易ではないのです。プロジェクトがあれば、これをやると伝えることができてわかりやすい」

教養教育としての『熊本学』

教養教育改革の一環として、2015年度からFYE(初年次教育プログラム)が始まる予定だ。そこでは例えば、地域研究の「熊本学」として複数の教員が担当するシリーズを組んで1単位程度とし、学長特別講義もその1コマになる方向だという。

「『熊本学』は教養教育の中で始まるのですが、世界とつながるSGUともいえる。オーバーラップしているわけです。そして最終的には全部マージ(結合)します」

谷口学長は「学生が、世界の中で生きていけるようにすること」が教養教育の基本的な目標だという。

「今の学生が活躍するのは10年後20年後の世界です。今よりも一段とグローバル化が進み、アジアもどんどん伸びてきているでしょう。そういう中で生きていくためには、日本のことを含めて地域のことをしっかり理解させておくというのがまず一つあるでしょう」

「地域のことを理解したら、それを世界につなげる、世界に向けて『地域』を発信する力をつけるということ、それがもう一つです。発信するためには英語なり中国語なりもあるかもしれないけれど、言葉を覚えるのが世界につながることじゃない。むしろ、日本の良いところを主張する、黙っていたらダメだという考え方、主張するコミュニケーションの力・意識・意欲のほうが必要です」

地域に関わる国立大学の役割

今後の課題を谷口学長に尋ねたところ、「課題といえば少子化・人口減少ですよ」という答えが返ってきた。

「私たちが18歳のときは、230万人とか240万人とかだった18歳人口が、今は110万人でしょ。80万人、つまりかつての3分の1になるのも遠い日ではない。大学について言えば、私立・国公立を問わず、定員の縮小ということも当然おこってくるでしょう」

ことは定員縮小にとどまらない。地域の人口が半減したとき、今は不足している人材、例えば医師が、余るかもしれない。そこまで考えて高等教育の役割をどう位置づけ、どう人を育てるかが、大学に問われていることだ。

「人口減少は、首都圏以外の地域はみんな抱えている問題で、それを乗り越えられるのは、たぶん大学の力だと思う。大学がどう機能強化して、その力を地域に及ぼせるか。大学から出てくる新しい『知』をイノベーションへと上手に育てて、地域に産業を作り雇用を作ることができるか」

熊本大学では、2003年に従来にない優れた強度と耐熱性を持つ「KUMADAIマグネシウム合金」、2012年には不燃マグネシウムを開発している。

「最先端技術として日本のみならず世界から注目されており、諸外国や他の地域の自治体や企業からの産業誘致の申し入れが絶えませんが、みんな断っています。世界のトップ技術をここ熊本に残しておくことで、世界中から熊本に人を呼ぶ、そういう核にするべきだと考えているので。これは一つの例ですが、新しい何かを作ることで、この地域を、人口の減り続ける日本の中だけでなく、成長する世界にどれだけつなげるか。それができるのは、大学しかないでしょう」

従来、地域に貢献すべき大学は公立、国のためにあるのが国立という、漠然とした役割分担があった。しかし谷口学長は、それが今は変わり、地域にきちんと関わることも国立大学の役割になったと捉えている。

「だからうちは、この地域でしっかりと役割を果たそうと思っているわけです。学生にも先生方にも理解してもらって、協力してもらわないといけない。でも、先生方より学生のためということをまず考えたいですね。学生たちの元気な活力あふれる雰囲気と、やる気と。何よりも学生が喜んでやるということですね。これからの学生たちをちゃんと育てておかないと、日本の将来がない。学生のためということが、日本の将来のため、地域の将来のためなのですよ」

2015年2月12日木曜日

自分の回りにいる人は、自分の鏡である

ブログ「今日の言葉」から変えるなら」(2015-01-29)をご紹介します。


誉めても叱りつけても

どのように接したとしても

人は、それに応じた育ち方をする

子を見れば、親がわかり、

部下を見れば、上司がわかり

社員を見れば、社長がわかる

人が勝手にひとりで育つことはない

人が育てたように、育っている

自分の回りにいる人は、自分の鏡である

相手がそうしているのは、自分がそうしてきたから

相手が本気にならないのは、自分が本気になっていないから

怒らないとやらないのは、怒ってやらせてきたから

まわりが助けてくれないのは、自分がまわりを助けてこなかったから

部下が上司を信頼しないのは、上司が部下を信頼してこなかったから

収入が少ないのは、価値を与えていないから

つまり

得るものを変えるためには、まず与えるものを変えれば良い

他人を変えたければ、自分を変えれば良い

人を育てたければ、自分が育つ姿を見せることである


「鏡の法則」や「引き寄せの法則」で語られているように、この世の中は自分が感じている世の中であり、自分が作り出している世の中といえるのでしょう。

同じことを見ても受け取り方や反応が人によって異なるように、物事を良くとるか悪くとるかで自分の人生そのものの価値が変わって来るのです。

他の誰かが代わってくれるものではなく、また自分のために他の誰かが変わってくれることは無いのです。

だとしたら、自分自身が変わっていくことが良い人生を生きるために必要なことなのですね。

2015年2月11日水曜日

虚にして往き、実にして帰る

ブログ「今日の言葉」から持ち帰る」(2015-01-27)をご紹介します。


私は中学生の時、満州から引き揚げてきた国語の先生から

「虚にして往き、実にして帰る」

という言葉を教わり、こう言われました。

「毎朝、何も入っていない袋を持って家を出た人が、

その日一日頑張って、その袋にたくさんの収穫物を入れて帰るように、

君たちも毎日の生活から必ず何か役に立つことを学んで帰りなさい。

満州から辛い思いをしながら幸運にも帰国できた私が言うのだら信じなさい」

田中 真澄


「なにがしかの満足が味わえたと思えなければ、その日は無駄に終わったのだ」というアイゼンハワー元大統領にもあるように、何か自分が成長したり、新しい気付きを得られたり、スキルを身に付けたり、新しい人間関係が増えたり、友人や知り合いとの仲が深まったりと、その日その日で得られるものは必ず何か有るはず。

大事なのは、「何かを持ち帰る」という目標意識でしょう。

この話を読んで思い出したのが、出雲大社でも祀られている大国主命です。

袋を背負って大黒様としても有名ですが、その背負っている袋のように私たち一人一人がその袋に価値あるものを背負ってそれを増やしていきましょう。

2015年2月10日火曜日

大学におけるブランド構築の本質

大学におけるブランド構築の本質を考える」(吉武博通・筑波大学 大学研究センター長・ビジネスサイエンス系教授)(リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014)をご紹介します。


ブランドを切り口に大学が為すべきことを検討する

本誌前号の特集「進学ブランド力調査」に象徴されるように、大学ブランドへの関心は高まり、ブランド価値やブランド・イメージを高めるための取り組みに力を入れる大学も多い。受験生や保護者に選択してもらえるか否かが大学の生き残りを左右する厳しい時代になったことがその背景にある。

その一方で、大学はブランドを論じる前に、教育研究の質を高めることを徹底し、その取り組みや成果を広く開示することで社会に対する説明責任を果たすべきという考え方も根強い。

公的資金への依存度の高い国公立大学の場合、説明責任が問われるのは当然であり、教育の質の保証や情報公開の充実は、国公私立を問わず全ての大学に求められている社会的要請でもある。

他方で、地道な教育改善や特色ある研究を行いながら、注目度が低く、志願者が集まりにくい、あるいは学生や教職員が自校に誇りを持てないといった状況に置かれている大学も少なくない。後者の大学が自校のブランド価値を高めたいと考えることは十分に理解できる。

これら2つの考え方は共に重要であり、ブランドや説明責任の表層のみを論じるのではなく、大学機能の根幹をなす教育研究や組織運営を含めて、トータルでその構造を捉え、あるべき姿を追求する必要がある。

このような考え方に基づき、大学におけるブランドの意味を問い直し、ブランドを切り口に大学が為すべきことを検討したものが本稿である。

ブランディングの起源は品質を保証するための商標

ブランド(brand)は、「銘柄」や「商標」を表す英語の名詞であるが、動詞が「焼き印を押す」ことを意味する通り、放牧場で自分の牛を識別するために牛の脇腹に焼き印を押したことなどが、今日の銘柄や商標につながったと言われている。

小川(2011)は、近代的な商業活動につながるブランディングは、中世ヨーロッパにおいて、商業ギルドが、品質を保証するために、商標(Trade Mark)を用いたのが始まりとした上で、現代的な意味でのブランドを「自社商品を他メーカーから容易に区別するためのシンボル、マーク、デザイン、名前など」と定義づけている。また、ブランディングを「競合商品に対して自社商品に優位性を与えるような、長期的な商品イメージの創造活動」としている。

その上で、ブランド・マネジメントの現代的な意義として、①固定客の獲得、②品質保証、③流通との交渉力、④ブランド拡張、の4つを挙げている。ここでいうブランド拡張とは、ブランド・イメージを活用して関連した製品分野や新規事業に進出することを意味する。

これらを基礎にした上で、ブランドの本質や大学における意味を掘り下げて考えるため、平成26年9月12日に開催された国立大学協会主催の平成26年度大学マネジメントセミナー「ブランド戦略の構築と実践」における2つの講演の要旨(要約は筆者)を、講師の了承を得て掲載することにした。

一人はマーケティング・サイエンスの研究者として東京大学教授などを歴任した後、現在丸の内ブランドフォーラムを主宰する片平秀貴氏、もう一人は片平氏がブランドづくりの第一人者と評する元ソニーマーケティング株式会社執行役員常務河野透氏である。ウォークマン®の名付け親でもある。

ブランドはつくるものではなく、できあがるもの(片平秀貴氏「大学のブランドを育てる」要約)

大学のブランドづくりは商品のブランドづくりよりはるかに難しいが基本的なメカニズムはそれほど変わらない。ブランドづくりで最初に強調したいのは「初心忘るべからず」ということ。初心者のとき自分達はどうだったか、そこからどうやって変わってきたかを忘れてはいけない。いつもビフォアからアフターを作り出そうという心構えが大切だ。

良い商品とブランドは何が違うのか。ブランドは名前を聞いただけでワクワクするものであり、大学であれば、入りたいし、入ってからも毎日がワクワクするような状態をいう。皆が知っていて一目置く、いわば社会的交渉力があることもブランドの要件である。

ブランドになるということは、顧客の頭の中に口座があり、口座に入金があるということである。大学の場合、学生、保護者、企業、プレス、海外の学会など関係者の頭の中に、数多い大学の中から自分の大学の口座をつくることであり、それらの関係者がその大学の何かと触れて、ポジティブな驚きを感じると、その度にその大学の口座に入金がある。それが繰り返されることで、社会の目も変わっていく。

情報過多の現代において目立つためには、①絞り込んで濃厚に、②社会の目と耳をどう開かせるか、③キーワードは1つ、の3点を重視することが大切である。教員の受賞などは小出しに公表するのではなく、いくつか貯めておいて、イベントを仕掛けて一気に発表する。そのような大きなことを何回か続けてやらないとハッと目が開くことはない。優秀な業績をコツコツ残しながら人々の頭の中に入らない大学も少なくない。伝え方が足りない、翻訳が足りない、発信が足りない、伝えるべき人に伝えていないからである。

商品の場合、モノに思いをのせて顧客に届ける。顧客は驚いて感動する。それを受けて企業は、今回は喜んでもらえたけれども、ゼロにリセットして新しいアイデアを考えて、再び挑戦する。この繰り返しで強いブランドができる。

職商人(しょくあきんど)という言葉があるが、教員は教える職人であり、自分の分野について世界の誰よりも習得し、新しいことを見つけ出す職人でもあるはず。それを届けて誰かを幸せにするのが商人。その両方に卓越している人が、強いブランドをつくる。

高校生はその大学の教員がどのような業績をあげているかなど知らない。頼りにするのは、なんとなくいい大学、なんとなくすごそうだといった漠とした名声であろう。その名声は、①個人が感動する、②それがマスコミを通して拡声し社会の声となる、③達人や目利きの称賛がマスに浸透する、という3つの段階を経て獲得できる。フランクミュラーという高級時計ブランドはまだ20年程度の歴史しかないが、スイスでトップクラスといわれる目利きの時計修理職人が一目置いたことからその名声がつくられてきた。

大学の場合、どのような分野でも良いので、優秀な教授がいる、優秀な仲間や院生が集まる、世界的な研究が行われる、世界の研究者が注目するという循環が、いくつかできることが重要だ。

コーネル大学のホテル経営学部のように、世界のホテル業界が人を派遣、熱心な学生が集まる、熱心な教育が行われる、国に戻って卓越した活躍をする、ということで名声が高まるケースもある。高い教育力がその背景にあるが、ハーバードビジネススクールの名声も同じメカニズムで形成されたものである。

研究や教育という大学の本来的な機能において卓越した能力を発揮し、それをうまく翻訳し、発信しない限り名声を得ることはできない。一方で、方向性を定めようにも、学長が変わるたびに目指す方向が変わったり、内部コミュニケーションが欠如したりという問題もある。会議は多いが、腹を割って自分の大学のことを語る場はほとんどない。学問という産業振興への努力と情熱も欠如している。

ブランドはつくるものではなく、このような努力の積み重ねの結果、できあがるものだと思う。

本質を変えず、新しい提案を発信し続ける活力(河野透氏「私がソニーで学んだこと」要約)

自身の経験を振り返るとブランドをつくるためにやってきたという意識は全くなかった。

ソニーというブランドは1960年代にアメリカで形成され、アメリカという舞台がグローバルメディアとなって世界に広がっていった。ブランドを語る前に、まずスタートポイントがあり、そこから自分達はどこへ行こうとしているかという方向性があり、そして現在は何をすべきか、そういう構造があるはずである。ブランドが突然できた訳ではない。

ソニーのスタートポイントは、創業者の一人である井深大氏がつくった設立趣意書ではないかと思う。①自由闊達にして愉快なる理想工場の建設、②日本再建と文化向上に貢献する、③他社の追随を絶対に許さない、真似をしない、他にないものをつくっていく、という3点に絞ったことで明瞭度が高まったと思う。

もう一人の創業者である盛田昭夫氏は、①発明・発見、技術革新のクリエイティビティ、②その技術をどういうふうに転換させるかというプロダクトプランニングのクリエイティビティ、③マーケットのクリエイティビティ、の3つを掲げた上で、技術が良いだけでは意味がなく、どういう形で人の生活に影響を与えるのかを創造することの重要性を強調した。

ソニーには多様な商品があり、様々な人々が関わることになるが、使って頂くのは一人の顧客だから、ソニーは一つというメッセージを含めて、“One Voice, One Image”という考えに基づき、一人の顧客の視点に立って、一人の顧客に訴えることを重視してきた。

ソニーは世の中にないものを生み出し、新しい市場、とりわけパーソナル市場を創ってきた。そこで求められるのはマーケット・エデュケーションであり、それにより効用が顧客に伝わり、新しいライフスタイルの提供とともに市場が形成されてきた。

メーカーである以上、出発点はプロダクトであり、そのアイデンティティがコーポレートアイデンティティになる。しかしながら、近年はブランド名を隠すと違いが見えなくなってきた。技術が進めば進むほど、エンジニアを含めてあれも言いたいこれも言いたいとなるが、そこがわかりにくさや競争相手と差がつかない原因となる。だからこそ明快なポイントに絞ることが大切である。一つに絞ると確実に伝わる。

スペックだけでなく、信頼、信用、所有満足感も力になる。差別化で最も重要なことは態度が変わるように仕向けることである。応援者になってもらうことも大切だ。

総合点が一位でもブランドは形成できない。かつてのシャープは総合点が高かったにも拘らず、一流とは言われなかったが、液晶でトップになった瞬間、シャープというブランドが意識された。ブランドは優等生とは限らない。“全ての人に好かれるクルマは、誰一人として熱狂させることはできない”という言葉があるが、顧客のニーズは千差万別で多様化しているため、万人向けの製品をつくろうとすれば、製品コンセプトが曖昧になったり、現実的な価格設定になったりしてしまう。そこからの脱却が必要だ。

調査機関やコンサルタントの意見も聞くが、そのような編集された情報以上に、無編集の一次情報を重視してきた。世の中でいわれる正解ではなく、自分達が納得できる解にこだわり、他人に依存するのではなく、自分達自身が考えることにもこだわってきた。

そういう活動に顧客からの共感と期待が寄せられ、ソニーはそれに敬意と感謝を払って、また新しいものに挑戦する。その関係が長期に継続して、ソニーファンを生み、ブランドを成り立たせてきた。変わらぬ本質と新しい提案を発信しつづける活力が、ブランドという形で顧客に認識されてきたと言うこともできる。

ブランドとは経営哲学や経営品質であり、そういうレベルまで行かないとブランドにはならない。

ブランドづくりは思いの強さと深さにかかっている

両氏の話から、企業か大学かの違いを超えた根源的ともいえる事柄が如何に大切であるかが理解できる。

その一つが、驚きと感動である。片平氏はブランドを「顧客の頭の中にある名札のついた幸せの泉」と形容しているが、企業が顧客を驚かせ、感動させようと商品に思いをのせるように、大学も卓越した教育で、学生に驚きと感動を与え、強みを発揮できる分野において、卓越した研究で学会や社会に驚きと感動を与えることが大切である。

二つめは、過剰と持続である。過剰なまでに徹底することと、現状に満足することなく、絶えず新たなことに挑戦し続けることで、卓越性もより確かなものになる。大学数が780校を超える中、多少のことでは個性や特色と言えない時代になってきた。そのような状況で他校にない新たな特色を打ち出すことは容易ではない。他校が同じようにやっていることでも、過剰なまでに徹底し、改善や新
たな試みを繰り返すことで、個性や特色を際立たせることができる。

三つめは、態度変容を促すコミュニケーションである。ただ単に知らせるだけではなく、誰に伝えるのかを明確にした上で、何をどのように伝えれば、その人達の態度・行動を変えることができるかを考え抜き、強い意志と思いをもって、真に効果的な発信になるよう努力を重ねる必要がある。

ブランドと呼ぶか否かは別にして、大学が受験生に選ばれ、社会にその存在価値を示していくために、これらの要素は極めて重要である。問題はそれらを実行し得る能力や活力を大学という組織が有しているかどうかという点である。

経営と教学、教員と職員など、組織体としての一体感の醸成が難しい大学に、そのような能力や活力を持たせるために何が必要なのだろうか。その考え方や方法論については本連載の中で述べてきたので、繰り返さないが、ブランドの意味を考えることを通して、組織のあり方を根本的に見直す必要がある。

最もブランドづくりに成功した日本企業といわれているソニーですら、創業者世代が去り、組織が巨大化して以降、ソニーらしい商品を生み出すことができなくなり、低迷から抜け出せずに苦しんでいる。

大学においても、計画を策定し、PDCAを回し、評価に対応し、情報公開の要請に応える中で、画一化が進み、個性が薄れていくことが危惧される。これらに振り回されるのではなく、受験生や社会の目を自分の大学に向けさせたいという強い思いを持ち続け、そのためにこれらのツールを能動的に使うくらいのしたたかさや攻めの姿勢が必要である。

ブランドづくりの成否はトップや教職員の思いの強さと深さにかかっている。

2015年2月9日月曜日

大学の地方創生戦略

大学の地方創生戦略」(清成忠男・事業構想大学院大学学長)(リクルートカレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014)をご紹介します。


政府の地方創生政策が本格的に動き出した。前号では、地方創生における大学の役割について検討した。今回は、具体的な大学の地方創生戦略を取り上げる。

戦略の課題

地方の活性化は、地方に立地する大学の存立基盤を強化する。したがって、地方の大学は、地方創生戦略展開の主たる担い手にならなければならない。

まず、注目すべきは、流動性の大きい若者の動向である。地方は若者の流出を抑制し、流入を促進する必要がある。困難ではあるが、地方は人口の社会増をはかることが望ましい。

問題は、地方の範囲である。ここでは、全国を数カ所に分けた広域的な地方圏を単位として考える。圏域内では、大学は機能分化を進め、ネットワーク化をはかる。各圏域では、大学志願者の東京圏への流出を抑制する。そして、東京圏における大学卒業者のUターンや Iターンを促進する。

ただ、東京一極集中にはそれなりの理由がある。東京には中枢管理機能が集積されている。多様な知的資源も蓄積されている。その結果、高い付加価値が生み出される。同時に、大量の雇用が創出されている。

したがって、大学志願者には、将来における雇用の機会の豊富な東京圏の大学への進学を志向する者が多くなる。地方大学の卒業生も地元に就職の機会が乏しいとなると、東京圏に流出することになる。

もちろん、東京には独自の都市文化が存在し、地方の人々を惹きつける。だが、東京には、影の部分も存在する。東京の 2013年の合計特殊出生率は、1.13と全国最低の水準にある。仕事優先という状況とともに、子育ての条件が必ずしも整備されていない。少子化は当然の結果である。自然環境という点でも、東京が望ましい状況にあるとはいえない。

最近では、若者の価値観は多様化している。若者の東京志向にも変化が見られるのである。地方の大学志願者は、東京の状況をトータルに判断して進学先を決めるはずである。

いずれにしても、地方創生は、若者の地方回帰を前提とする。それでは、大学の志願状況は、どのように推移しているのであろうか。

志願者地元志向の動向

地元大学への進学希望が強まる傾向にあるという調査がある。リクルート進学総研の調査によると、地元志向の割合は、2009年 40.1%、2011年 46.5%、2013年 49.4%と推移している。ただ、学校基本調査によると、大学入学者の自県内入学率は、2010年に 42.0%であったが、2011年41.9%、2012年 42.0%、2013年 42.3%、2014年 42.1%と横ばいに推移している。こうした数値から見る限り、地元進学は必ずしも強まっていない。

また、入学者総数に占める東京圏入学者の比率は、2004年には40.3%であったが、2009年41.3%、2013年 41.1%、2014年 41.6%と推移している。東京圏一極集中が強まっているわけではない。志願者の流動性は落ち着いているといえよう。

それにしても、大学入学者はすでに大都市圏に集中し過ぎている。前述したように、2014年には入学者の 41.6%を東京圏が占めているが、人口の集中度は 29.8%に止まっている。東京圏に愛知県及び関西圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)を加えた3大都市圏には、入学者の 67.3%が集中しており、人口の 51.4%を大きく上回っている。今後のあるべき国土構造に配慮すると、地方分散をはかるべきだという見解が成り立つ。ただ、地方分散は、地方創生の成否に依存する。

地方創生の課題は、地方における産業の創出である。地方の雇用の機会が拡大すれば、大学入学者の地元志向が強まるはずである。ただ、入学者の地元志向には、大きな地域差がある。まず、この点を確認しておこう。表1(略)は、都道府県別に地元進学率の推移を見たものである。地元進学率の高い地域と低い地域を対比してある。地元進学率の高い地域であるが、それぞれ事情はやや異なる。3大都市圏に属しているのは、半数の5都府県である。地元に大学が集積されており、地元志向が強い。これらの地域では、大学等進学率が高い。また、福岡県と広島県は、3大都市圏に次ぐ地方拠点である。やはり大学の集積が厚く、地元進学率が高い。これに対して、北海道と沖縄は、地元流出のコストが高く、もともと地元進学率が高い。なお、7都府県において、地元進学率が上昇している。

他方、地元進学率の低い県であるが、やはりそれぞれ事情がある。多くの大学が集積している大都市に隣接しているため志願者の流出が著しい和歌山県、佐賀県、岐阜県などが目につく。和歌山県は 2014年に地元残留者 479人に対して、大阪府への流出者は 1835人に達する。佐賀県は地元残留者 527人に対して福岡県への流出者 1390人、岐阜県は地元残留者 1793人に対して愛知県への流出者4535人という状況にある。福島県は地元残留者 1519人に対して東京への流出者1674人、山形県は地元残留者と宮城県への流出者が同数、鳥取県は関西に流出、島根県は岡山県と広島県に流出、香川県は関西と岡山県に流出、長崎県と宮崎県は福岡県への流出、といった状況が見られる。いずれも、地元における雇用の場の不足が影響している。

また、表1(略)によって明らかなことは、地元進学率が高い地域においては大学等進学率の高い地域が多い。逆に地元進学率の低い地域においては総じて大学等進学率が低い。所得水準を向上させ、大学等進学率が上昇すれば、地元に多くの大学が成り立つようになる。結果として、地元進学率が上昇する。

大学の戦略的対応の方向

わが国の地方分権・分散を考慮すると、広域圏としての創生が現実的であろう。この場合、中枢拠点都市の強化と各県の底上げをベースにすることが不可欠である。

地方創生の鍵は、新産業の創出である。新産業は所得効果と雇用効果をもたらすとともに、域際収支をプラスにし経済自立に貢献する。所得水準の上昇は大学進学率を上昇させ、地元での就職を可能にする。若者の流出を抑制し、地方回帰につながる。

このように、地方創生は、大学にとっても大きなメリットがある。ただ、新産業創出は容易ではないし、一定の時間を要する。しかも、どのような産業を起こすかが問題になる。そのための戦略が不可欠であり、策定には大学の専門家が寄与できるはずである。

さて、産業は、国際通用性を必要とする産業とローカルな産業に大別できる。前者は先端技術を集約した産業であり、後者の典型は農業やヘルスケア・サービス産業である。ここでは、さしあたり前者の検討から始める。

別図(略)は、スマイルの表情に類似した価値獲得のスマイリング・カーブである。縦軸は付加価値、横軸はヴァリュー・チェーンである。産業としては、ICT産業を想定している。もともとは台湾のパソコン・メーカーのエイサーの創業者である施氏が発案したモデルであり、欧米の研究者が精緻化したものである。意味するところは、カーブの両端において付加価値が高い。川上の事業構想、事業モデルの開発、研究開発、知財戦略、川下での顧客をサポートするアフターサービス、複雑なシステム提供などにおいて、付加価値が高い。このシステム提供とは、単独の産業を超えて、複数の関連産業をシステム化することを意味する。さらに、その延長上で、より高次の問題解決をはかり、顧客サイドから新しい産業を構想し創出することが可能になる。ヴァリュー・チェーンの最終段階において、まさに知的作業が拡大する。そして、低付加価値の領域は、外部化される。こうした低付加価領域を戦略産業として新興国が挑戦することになる。

さて、中枢管理機能に関連する領域は、このカーブの両端に位置する。先進国の企業においては、こうした領域が戦略のうえできわめて重要である。いわば知識基盤社会に対応した中核的領域である。大学が関わり、拠点都市に厚く蓄積されることが望ましい。

1970年代から80年代には、わが国産業の主流は、カーブの中央部の生産機能であった。ターゲットが定まっており、規格化された良質の製品を量産し、シェアを拡大すればよかったのである。だが、今や時代は重化学工業段階から知識基盤社会への移行が進んでいる。

このスマイリング・カーブ論は、多くの組立産業にあてはまる。その他の多くの産業についても、一定の示唆を与えている。のみならず、知的作業を集約した領域が企業から外部化され、知的サービス業が多様に広がっている。こうした産業は、大学とも関連が深化している。

ところで、もう一つのタイプのローカル分野においては状況はどうか。やはり、かつての地域産業と異なり、例えば、農業について見ると、一方では事業モデルの開発や研究開発、生産方法の改革、他方でブランディングやマーケティング、さらにはシステム化による高付加価値化を志向する「6次産業化」といった知的作業が重要になる。

さらに、今後、ますます重要性を増すローカル産業は、ヘルスケア・サービス産業である。とりわけ、超高齢社会に対応して、地域レベルで医療と介護をシームレスに統合し、新しい地域社会を構築することがきわめて重要な課題になっている。やはり地域住民の視点に立った地域福祉社会の構想、ヘルスケア・サービスを統合する事業体の経営、関連する医療・介護・看護施設等の管理、参加事業体のICT化、等々の知的作業が不可欠である。介護現場の改善による高付加価値化も実現しなければならない。

こうしたヘルスケア・サービスの構築は、大学及び大学病院の主導に成否が大きく依存している。課題解決に対応した教育が重要なことはいうまでもない。

いずれにしても、ローカル産業の創出・拡大は、地元に雇用の機会を広げ、大学卒業生の地元就職の拡大を可能にする。結果として、入学志願者の地元進学率も上昇する。

大学の地方創生戦略

以上の検討をふまえて、大学の地方創生戦略について検討しておこう。

地方創生の担い手は、地元の民・学・産・公である。地域住民、大学、産業界、地方公共団体といった地域力の結集が不可欠である。ここでは、新産業の創出を取り上げるが、大学の役割について論ずることにする。

大学の戦略的対応は、大学界としての対応と個別大学の対応に大別される。前者は、地域を単位とした連携が中心になる。とりわけ大学の広域圏における連携が重要な意味をもつ。広域圏については、3大都市圏はすでに知的資産の集積が進み、かなりの拠点性を有している。ここでは、北海道、東北、中国・四国及び九州について検討する。表2(略)は、こうした地域ブロックの状況を示したものである。中枢都市として、札幌、仙台、広島、福岡の拠点性を強める必要がある。圏域内では、有力大学を中心として大学クラスターまたはネットワークを形成することが望ましい。大学の機能分化に対応して多様な知的資源が蓄積されているから、相乗効果を拡大することが可能になろう。圏域内の中枢部に波及効果の大きい新産業を創出する。同時に、同一県内においても大学間連携によって新産業を創出し、県経済の底上げをはかる。もちろん、圏域にとらわれず、大学間ネットワークの自由かつ多様な展開が望ましい。

結果として、圏域内にはグローバルな産業とローカルな産業が創出されよう。鍵は、企業や大学に蓄積された知的資源の活用である。創出すべき産業の選択については、産・学・公の密接な連携が不可欠である。連携にあたっては、構想力を有し、参加者の統合・調整を進めるリーダーの存在がきわめて重要である。そして、リーダーを支える事務局の組織と専門人財も不可欠である。なお、連携にあたっては、前号で述べた独立の研究所が媒介機関として活動することが考えられる。

個別大学の意識改革も必要である。大学は地域社会と運命共同体である。研究型大学であれば、新産業のシーズの創造や大学発ベンチャーの設立などで地域に寄与できるはずである。また、教育型大学であれば、地域社会を支える多様な人財の育成に貢献することが可能である。とりわけローカルな産業の人財育成には積極的に対応すべきである。

タイムラグがあるにしても、新しい産業の創出は雇用を拡大させ、結果として大学の地元進学率を高めることになる。私立大学の入学定員割れも解消に向うと思われる。

個別大学は自己の知的資源を活用して新しい教育研究分野を開拓し、大学の役割を内外に明確に示すべきである。それが地域社会における大学の存在感を強化し、大学は地域社会によって評価されることになろう。