2015年2月21日土曜日

子どもの居場所

子どもの貧困、支える「食堂」 手料理提供、各地で試み」(2015年2月5日朝日新聞)をご紹介します。


出来合いの弁当や菓子パンだけで毎日の食事を済ます子。家計が苦しく食事を抜く子。心と体の成長の土台である「食」が揺らぐ。様々な生きづらさを抱えた子どもたちを、手作りの温かな食事で支えたい。そんな「子ども食堂」の試みが各地に広がり始めた。

「もう、ひとりぼっちで食べなくてすむ」「(給食がない)夏休みの食事が心配だった」。食卓を囲む子どもたちから、ふとそんな言葉がもれる。


京王線つつじケ丘駅前。飲食店が入居するビルの3階に、NPO「青少年の居場所キートス」(東京都調布市)はある。

2年前から通う男子中学生は、ここで初めて食べたミートソースの味が忘れられない。家ではパンやカップ麺が中心。それまでの数年間、親の手料理を口にしたことはほとんどなく、経済的事情から食事を抜く日も。「給食以外では何年かぶりのスパゲティ。最高だった」

市の中高生向け児童館で相談員をしていた白旗眞生(まき)さん(65)が5年前、キートスを立ち上げた。勉強をしたり、ゲームや昼寝をしたり。自由な居場所を、という思いだった。

活動開始後、満足に食事をしていない子が目立つことに気づいた。親の病気や貧困、虐待。理由は様々だった。週5回の活動日、昼食と夕食の提供を始めた。無条件ではなく、家庭状況を聞き、必要と判断した子が対象だ。

登録者は220人。市子ども家庭支援センターなどの紹介が多い。中高生ら15人ほどが毎日顔を出す。食事代は無料。家賃などの運営費は市の補助金や寄付などでまかなう。食材も農家や支援団体からの寄付が頼みの綱だ。

食を含む生活支援の大切さを白旗さんは強調する。「食がととのって初めて勉強にも目が向く。生活の土台となる食の支援は待ったなしです」

東京都大田区の青果店「気まぐれ八百屋だんだん」には月2回、店の入り口にのれんが掛かる。12年夏から続ける「子ども食堂」だ。かつて居酒屋だった空きスペースを活用する。店主の近藤博子さん(55)がボランティアと一緒に運営する。

献立はポトフなど野菜中心。毎回20人ほどがテーブルを囲む。共働きの両親の帰りを待つきょうだい。保育所に預けた子を引き取って来る勤め帰りの母親も。必ずしも生活に困った家庭ではない。それでも、一緒にご飯を食べていると家族の溝が見えることがある。「大勢とだんらんすることで変わっていきます」と近藤さんは話す。



月2回の子ども食堂の開催日には、手作りののれんをかける=東京都大田区の「気まぐれ八百屋だんだん」


キートスなど食支援に取り組む団体が一堂に会した初の「子ども食堂サミット」が1月12日、都内で開かれ、約200人が参加した。対象者も運営方法も様々だが、支援の網からこぼれがちな子の暮らしを支えようとする思いは共通だ。

「親が精神的な疾患を抱えていて外出できない。子どもはコンビニのおにぎりを買い、炊きたての米の味を知らない」。川崎市のNPO法人フリースペースたまりば理事長・西野博之さんは事例を報告した。公設民営の不登校児などの居場所では、昼食づくりが活動の核だ。5人に1人は生活困窮家庭の子だという。

要(かなめ)町あさやけ子ども食堂」(東京都豊島区)は13年の開設。元会社員の山田和夫さんが月2回、自宅を開放、ボランティアが作った夕食をふるまう。母子家庭や外国人の子ら35人ほどが利用する。近所の商店や農家の差し入れで食材を補っている。

子ども村:中高生ホッとステーション」(東京都荒川区)は、有志が民家を借りてつくった中高生の居場所だ。学習支援に加え、週1回、スタッフを含め約30人が夕食をともにする。コメは支援団体からの提供で、1口1千円の寄付も募る。子ども料理教室も。「生きていく術を身につけてほしい」と代表の大村みさ子さんは言う。

取り組みはさらに広がりそうだ。横浜市のNPO法人「スペースナナ」は2月から月2回程度実施する予定。東京都八王子市でも大学生の有志が2月からの定期開催を目指す。高知市では少年事件を扱う弁護士らが、夏をめどに週3日の学習支援や食事提供の定期開催を目指し準備中だ。

サミットを主催したNPO法人・豊島子どもWAKUWAKUネットワークによると、関西などでも数カ所で準備や検討が始まっているという。同ネットワーク理事長の栗林知絵子さんは言う。「家族のあり方や生活リズムが多様化し、みんなで食卓を囲む暮らし方ができない状況が増えている。そこを少しでも支えられれば、と思います」



〈子どもの貧困〉
 「子どもの貧困率」は2012年、16・3%と過去最悪を記録した。貧困率とは、世帯収入から子どもを含む国民全員の所得を仮に計算して上位から順番に並べたとき、真ん中の人の所得の半分に満たない18歳未満の人の割合を指す。経済的な苦しさが親から子に引き継がれる「貧困の連鎖」に歯止めをかけるため、14年1月に「子どもの貧困対策法」が施行された。各地で学習支援などの取り組みが広がっていて、食支援はその一環でもある。