2016年3月13日日曜日

国立大学法人運営費交付金改革の経緯と今後の方向性(3)|財政審の審議に対する文部科学省の反応

(続き)

1 中央教育審議会

文部科学省の中央教育審議会も、平成27年10月、高等教育への投資の削減は将来に対し禍根を残すものであるとして、運営費交付金の機械的な削減ではなく、自己改革を進める大学を積極的に支援し、教育研究及び社会貢献機能の強化を図るために、運営費交付金等を充実・確保すべきであるとする次のような内容の緊急提言を取りまとめました。

提言では、過去12年間の約12%に及ぶ削減により、教育研究基盤に深刻な影響を与えていると指摘するとともに、機械的な削減ではなく教育研究や社会貢献機能の強化を図るため、運営費交付金の充実・確保が不可欠であることを強く訴えています。
人口減少社会の到来により生産年齢人口が減少する中、知識基盤社会を支える「知」を生み出していかなければならない今、大学が果たす役割は決定的に重要である。
中央教育審議会においては、文部科学大臣の諮問に応じ、大学教育の質的転換、大学ガバナンス、高大接続、大学院の改革をはじめ精力的な議論を行い、累次の答申等を取りまとめてきた。
日本の大学は、この重責を真摯に受け止め、自主的・積極的な改革を進めてきており、21世紀の日本と世界が直面する課題に、全力を挙げて取り組もうとしている。 
そのような中、国立大学法人運営費交付金について、財政制度等審議会において、運営費交付金を今後15年間毎年1%機械的に削減すべきなどの考え方が示された。 
財政事情が厳しい折、限られた財源の有効活用は必要であるが、過去12年間の約12%に及ぶ削減により、若手の育成など教育研究基盤に深刻な影響を与える中、運営費交付金の更なる長期的削減との主張は、グローバル化や地方創生への対応、イノベーション創出など日本社会の発展のため大学に期待されている数々の役割が踏まえられておらず、また諸外国が高等教育への投資を拡大させ、教育研究環境の充実を図る国際基調にも逆行するものである。また、自己収入の増加についても、多様な財源の確保の努力は必要だが、現下の経済状況や家計状況等を踏まえると、確実な増を見込むことは困難であり、大学の安定的な経営に支障をきたす恐れがある。 
政府が目指す生産性革命によるGDP拡大など「一億総活躍社会」や「地方創生」の実現は、今日、「知」の創造がなければ不可能であり、高等教育への投資の削減は、将来に対し禍根を残すものである。 
このような認識のもと、本審議会は、この緊急提言を行うものである。 
国立大学法人運営費交付金の機械的な削減ではなく、自己変革を進める大学を積極的に支援し、教育研究及び社会貢献機能の強化を図るために、国立大学法人運営費交付金等を充実・確保すべきである。 
中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(平成24年8月)以降、国立大学においては、「ミッションの再定義」により、大学ごと分野ごとに強み、特色の明確化を図るとともに、平成25年の「国立大学改革プラン」を踏まえ、教育研究組織の見直しや、人事給与システム改革を本格化させてきた。 
特に、「改革加速期間」と位置付けられたこの3年間(平成25~27年度)で、各国立大学においては、学内の人的・物的資源の再配分とあわせて、それぞれの強み・特色を更に伸ばす組織改革を進めており、更に平成28年度には、例えば、地域デザイン科学部、地域資源創生学部等の自然科学及び人文社会科学の連携・融合による新たな組織を設置するなど、社会的要請の高い分野の教育研究活動を意欲的に進めている。 
一方、平成16年度の法人化以降、運営費交付金は減少傾向が続いており、12年間で1,470億円(11.8%)が削減され、また、消費税率の引上げ、諸経費の値上りにより、人件費や基盤的教育研究費を更に圧迫している。その結果、教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に、若手研究者の常勤雇用が減少し、大学院進学者の減少など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少、論文増加率の伸び悩みなどの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる。 
このような状況下において、運営費交付金の削減は、各大学の改革に重大な支障をきたすことになりかねない。また、寄付金や民間との共同研究など自己収入の増加の努力は必要であるが、財政制度等審議会における提案にあるような大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である。 
国立大学には、世界最高水準の教育研究の推進、大規模な基礎研究や先導的・実験的な教育研究の実施、社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展、全国的な高等教育の機会均等の確保等について、引き続き、重要な役割が期待される。 
本審議会の審議まとめを受けて昨年行われたガバナンス改革の法改正及び本年6月の「国立大学経営力戦略」を踏まえ、国立大学では、学長のリーダーシップの下、戦略的な資源配分、多様な財源の確保など一層経営的な視点での大学運営を進めることとしており、また文部科学省でも各大学がより強みや特色を発揮するため3つの支援枠組みを設定し、予算での重点支援を行うなどの改革を進めようとしている。そうした取組にインセンティブを与え、国立大学の機能強化を真に実現するためには、経営力強化のための持続的な改革を支える運営費交付金の充実・確保が不可欠であり、本審議会はその点を強く求めるものである。 
なお、本提言は、財政制度等審議会における国立大学法人運営費交付金の削減提案に関する見解を表明するものであるが、我が国の持続的な成長、知識基盤社会への構造変革、地方創生を支える人材育成等に向けては、国公私立を通じた大学の機能強化が不可欠である。第2期教育振興基本計画や教育再生実行会議第8次提言でも教育投資の重要性が指摘されており、諸外国と比較して著しく低い高等教育予算全体の充実・確保がなければ、今後の日本社会の発展を支える人材育成、知の創出機能の低下を招きかねない。この点をあわせて強調したい。

(関連)
財政制度等審議会資料における考え方
  • 国立大学が高い質を確保しながら自律的、持続的な経営を続けていくため、今よりも運営費交付金に頼らず、自らの収益によって経営力を強化していくことが必要である。
  • そうした観点から、例えば、今後15年間(平成43年度まで)で、国立大学法人収入の全体に占める運営費交付金への依存度と自己収入の割合を同水準とすることを目標としてはどうか。
  • これを確実に実現するため、毎年度の運営費交付金の額を▲1%ずつ減少させる。(運営費交付金を毎年▲1%減少させ、自己収入を毎年+1.6%増加させることが必要)。 
運営費交付金の現状と国立大学の課題
  • 運営費交付金は、国立大学の運営基盤を支える経費であるが、既に過去12年間で約12%(1,470億円)減少。
  • この間、教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に若手教員の常勤雇用が減少し、優秀な人材の確保や研究時間の減少などに弊害。
  • 国立大学は、第3期中期目標期間に向けて機能強化のための大規模な改革を推進中だが、改革を進める戦略的な経費の確保が不可欠。
毎年1.6%の自己収入の増加についての考え方
  • 財源の多様化は重要であり、法人化以降は、各大学において自己収入の獲得に努力
  • しかし、寄附金や産学連携等研究収入が今後も継続的に増加することが必ずしも見込めない中で、これらで運営費交付金の削減分(平成32年まで▲536億円)を賄うことは困難
  • 「寄附金収入」は、自己収入に占める割合が約1割であり、法人化直後の伸びと比べると頭打ちの状態
  • 「産学連携等研究収入」の大半は、国の予算(委託費等)が基礎であり継続的増加が見込めず、かつ、限られた特定の研究活動に配分されるものであり、教育研究基盤を支える財源としては不十分
  • 財政審提案にあるような自己収入の大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難
国立大学を取り巻く状況
  • 先進主要国に比べ、我が国の高等教育への公財政支出の伸びは小さく、平成16年度の法人化以降、運営費交付金は減少が続いている。
  • 教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に、若手研究者の常勤雇用が減少し、大学院進学者の減少など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少などの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる。
  • 「寄附金収入」は、自己収入に占める割合が1割程度と小さく、また法人化直後の伸びに比べると頭打ちになっていること、「産学連携等研究収入」は、その大半が、現状では国の予算(委託費等)を基礎としていることを踏まえると、今後も継続的に増加することは必ずしも見込めない。
  • 財政制度等審議会提案にあるような自己収入の大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である。



2 国立大学法人評価委員会

国立大学法人評価委員会においても、第三期中期目標・中期計画の策定に向けた審議において、その着実な実現に不可欠な経営基盤である運営費交付金の充実の重要性から、平成27年11月、次のような委員会所見が示されています。
1)平成28年度から国立大学法人及び大学共同利用機関法人の第3期中期目標期間が始まります。平成16年の法人化以降、国立大学法人等は、法人制度のメリットを生かしながら、国立大学改革を着実に実行し、基盤的経費である運営費交付金の大幅な削減という厳しい環境に置かれながらも、質の高い教育研究の実践を通じ、人材育成、学術研究、その成果還元を通じた社会貢献において様々な成果を上げてきました。 
2)本日の国立大学法人評価委員会では、来年度から開始する第3期中期目標期間における各法人の中期目標・中期計画の素案に対する意見について審議を行いました。各法人の素案では、一部において強みや特色が明確でない、あるいは事後的な検証が困難な記述も見受けられましたが、多くの法人の素案においては、学術研究を通じた社会的価値の創造、未知の次代を牽引する有意な人材の育成をはじめ、大学ならではの教育研究の特性を根拠とした我が国社会の発展に対する貢献について、第1期・第2期に比べて飛躍的に取組を向上させていこうとする姿が強くうかがえました。 
こうした国立大学の改革に対する意欲を、第3期中期目標期間において確実に形あるものとしていくことが極めて重要です。各法人には来年度以降の取組において、自ら掲げる目標・計画の実現に向けてたゆまぬ努力を心から期待したいと思います。 
3)しかしながら、先日の財政制度等審議会財政制度分科会における議論においては、過去12年間を通じて約12%、約1,470億円もの削減をしてきた国立大学法人運営費交付金に関し、これからの向こう15年間においてもさらに毎年度1%ずつ削減し続けていくことが提案されています。 
国の財政状況が大変厳しい状況にある中、それぞれの立場から財政健全化に向けて尽力することが求められており、また、国立大学法人等が自己収入の確保に向けた努力を図っていくことは重要なことと考えますが、授業料収入・共同研究収入・資産運用収入といった自己収入の拡大により、15年間毎年1%削減に見合う規模の収入を得ることは非現実的なものと言わざるを得ません。 
4)我が国の未来を支えるのは人材であり、成長のエンジンとなるイノベーションの源泉となるのは学術研究の振興ということは自明でありますが、それを支える基盤的経費である運営費交付金を長期にわたり機械的に削減すれば、国立大学法人等の質の高い教育研究を通じた社会貢献が立ち行かなくなることは必至です。そのような状況を招こうとする財政制度等審議会の提案は、これからの知識基盤社会の中で我が国が新しい価値の創造を通じて中長期的に発展・成長していかなければならないという観点から断じて看過することができません。また、特に自己収入の大幅な増加を求めることは、授業料の大幅な増額につながりかねず、現下の経済状況や家計状況において国民の理解を得られるものとも考えられません。国立大学法人等が国民や社会の期待に応えていくためには、運営費交付金の確保・充実が必要不可欠であることをここで改めて強く訴えたいと思います。 
5)他方、各法人や教職員各位におかれては、極めて厳しい財政状況の下で国立大学の教育研究が国民によって支えられているという事実をさらに強く認識した上で、来年度から開始する第3期中期目標期間以降、国立大学法人等に求められている教育、研究、社会貢献に一層全力を以て取り組んでいただくことを切に願います。
事務局(文部科学省) 
今回、財政制度等審議会におきまして、今後の国立大学の財務運営についての考え方が示されたところ。 
国立大学の運営費交付金について、その依存度と自己収入の割合を平成43年度までに同水準にするという目標を立て、そのために、毎年度、運営費交付金を今後15年間、1%ずつ減少させて、その代わり、自己収入を毎年1.6%増加させていってはどうかということが提案されている。 
これに対して、現状、既に過去12年間で1,470億円減少しているという中で、教育研究活動を支える常勤研究員、常勤の教員の人件費が減少、特に若手教員の常勤雇用が減少しており、優秀な人材確保や研究時間の減少など、そういった弊害が出ているという現状があるということ、さらに、現在国立大学は、第3期中期目標期間に向けて、機能強化に向けて本当に大規模な改革を促進しているところであり、この改革を進める戦略的経費が必要であるという、そういった現状がある。 
また、毎年1.6%の自己収入を増加するという考え方については、当然、各法人、財源多様化は非常に重要であるということで、各法人、自己収入の獲得に努力しいるところであるが、寄附金や産学連携等の研究収入ということについて、なかなか今後も継続的にずっと増加していくことが必ずしも見込めないという中で、運営費交付金を削減するということ、それを賄うことはなかなか難しいと考えているところ。なお、寄附金収入について見れば、自己収入に占める割合というのは1割であって、法人化直後の伸びに比べると頭打ちの状況であり、また、産学連携等の研究収入というと、その大半は実は国の予算の委託費等、独立行政法人等による委託費等が基礎であって、継続的な増加が認めるかということがなかなか難しい状況にある。 
また、この収入自体、限られた特定の研究活動に配分されるということから、教育研究基盤を支える運営費交付金の代わりとなるものではないと思っており、また、そういった中で、それでも自己収入を大幅増加するということを求めるのであれば、授業料の大幅な引き上げにつながりかねないのではないかとも考える。そういったことになると、現在の経済状況や厳しい家計状況では困難ではないかと認識をしているところ。 
我が国の公財政支出の状況、常勤職員の人件費が年々下がってきていること、また、若手の研究者が任期付きの採用やポストの方に移っていること、また、寄附金収入の現状、また、民間からの研究資金の受入れ等の推移を示しているところ。また、家計の状況、民間企業の動向等も併せてお示しさせていただいている。 
こういった中で、各法人、第2期中期目標期間の後半3年間を改革加速期間ということで、本当に改革に尽力頂いているころであり、そういった中で、例えば学部のレベルであるが、様々な改革に今取り組み、また、進めていただこうとしているという状況であり、こういった改革を是非とも引き続き支援させていただきたいという観点から、是非とも運営費交付金の確保、充実に努めてまいりたいと考えているところ。 
第3期中期目標・中期計画の関係で申し上げると、例えば数値目標において、産学官共同研究であれば、寄附金の受入れ額ということについて設定する大学の数は、例えば産学官の共同研究で42大学、また、達成目標として、寄附金の受入れ額の指標を設定していただいているのが47大学。 
ただ、数値目標を設定している大学以外でも、経営基盤の強化という観点から、これまでも積極的に産学官の連携、又は、寄附金の受入れに努めているし、また、第3期中期目標においても努めたいとする大学が多数。 
また、国立大学経営力戦略において、各法人に今後求めていくというところから、財務基盤の強化ということで、収益事業、寄附金収入の拡大であるとか民間との共同研究等の拡大ということで、各法人、第2期、特に中盤以降、いろいろと工夫をしていただいているところであり、また、第3期においても様々な取組がなされていくということで計画をしていただいている、また、取り組もうとしていただいていると認識をしているところ。 
国大協においても、9月に国立大学の将来ビジョンに関するアクションプランというものが出され、その中で、厳しい財政状況というものを直視し、法人間の連携・共同による教育研究水準の向上を図ると同時に、寄附金等の外部資金を含む多様な財源確保に努めるということを併せてそのプランの中でうたっているところであり、各法人、そういった状況については直視し、また、できることはやって、是非とも取り組んでいくということで臨んでいるという状況。 
また、国の財政がこういう状況であるため、自己収入の拡大というようなことについては最大限の努力をしていこうということで取り組んできている。例えば、第1期でいうと、平成16年度から20年度にかけて、寄附金の受入れ額は1.5倍に増えている。それだけ、旧国立学校時代と比べれば、外部収入の獲得ということで大変な努力をしてきている。 
ただ、残念ながら、平成20年度になると、リーマンショック等もあり、なかなか産学連携や寄附金収入が伸びにくい状況があり、少し頭打ちになっている状況であるが、第3期に向けて、国立大学経営力戦略を作って、財務基盤の強化という観点から、収益を伴う事業の明確化や、非常に研究力の高い大学については、産学連携等をどんどん進めていただいて、外部収入を確保するよう考えている。その際に、一定の規制緩和で何とかできないのかということの議論も今具体的に進めており、その中で、経営力を高めていきたいという努力をしている。 
ただ、今回の財政審の提案は、そういうこれまでの努力の積み重ねから見ると、桁違いの自己収入を機械的に求めているような形になるので、このレベルの話になると、これはもう努力の問題とは少し違う次元の話になるので、それはなかなか受け入れられないのではないかという議論に現在なっているという状況。
(続く)