2016年6月22日水曜日

参院選挙戦スタート

参議院議員選挙が今日公示されました。各紙の社説をご紹介します。



参院選がきょう公示される。最大の焦点は安倍晋三首相の3年半の政権運営と、なかでもアベノミクスへの評価だろう。日本の成長力をどう底上げし、国民の将来不安をいかに解消していくのか。国の針路を明らかにするような与野党の論戦を望みたい。

アベノミクスを問う

公示に先立ち、21日に日本記者クラブ主催の9党首討論会が開かれた。かなりの時間が経済再生と財政健全化をどう実現していくのかの議論にあてられた。

安倍首相(自民党総裁)は「就職率も有効求人倍率も高い水準となった。成果を出してきた」と述べ、2016年度の税収が国と地方をあわせて12年度より21兆円増加すると強調した。

公明党の山口那津男代表は「経済再生、デフレ脱却をさらに進め、その実感を地方や中小企業、家計へと国の隅々まで届ける」と訴えた。

民進党や共産党などは経済政策の大きな変更が不可欠だと主張した。民進党の岡田克也代表は「一人ひとりが豊かになっていない。働き方の大改革を実現していくなかで持続的な成長がはじめて可能になる」と批判した。

共産党の志位和夫委員長は「アベノミクスによる国民生活の破壊、格差と貧困を是正する」と力を込めた。

アベノミクスは円安や株高で企業収益をいったん押し上げたが、規制改革をはじめとする成長戦略はまだ十分な効果があがっていない。与野党は子育て支援や所得の格差是正などを重点政策に掲げている。「分配と成長」の考え方や必要財源をどう確保していくかといった具体策をもっと分かりやすく説明すべきだ。

安倍政権は17年4月の消費増税を2年半延期すると決めた。野党も増税先送りを容認する立場のため争点になりにくい。だが2度の増税延期で旧民主、自民、公明3党による「社会保障と税の一体改革」の合意は事実上破綻した。給付と負担のバランスをきちんと議論しないと、財政はさらに危機的状況に追い込まれかねない。

外交や安全保障では、立場の違いが際立った。民進党や共産党などは昨年成立した集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法について「憲法9条の平和主義に反しており廃止を求める」との立場で足並みをそろえた。

民進党は環太平洋経済連携協定(TPP)に関しても、コメや麦など重要5品目の聖域が守られていないとして「今回の合意には反対」との立場を示している。

野党として「政府の対応は問題点が多い」と反対論を展開するのはたやすい。しかし民進党は政権を経験した幹部が多い野党第1党として、建設的な対案を示す責任がある。共産党などとの選挙協力を優先して基本政策の軸がかすむようでは困る。

憲法改正を巡っては、岡田代表が「改正は論点でないというのはおかしな話だ。しっかりと参院選で議論すべきだ」と指摘し、与党の争点隠しだと強調した。首相は「自民党はすでに改正案を示している。(衆参両院の)憲法審査会で冷静に議論し、集約していくべきだ」と述べるにとどめた。

次世代に何を残すのか

自民党では改憲で優先すべき項目として、大災害時などの政府の対応を定める「緊急事態条項」の新設が有力視されている。野党も「安倍政権での改憲論議には応じない」という態度ではなく、時代に合わせた憲法のあり方を議論していく必要がある。

首相は参院選の勝敗ラインについて「与党で改選定数の過半数(61議席)」と繰り返している。首相は「そんなに低い目標ではない。目標を定めた以上、責任が伴うのは当然だ」と語った。

民進党は本格的な初陣となる今回の選挙で、二大政党の一角を占め、将来の衆院選での政権交代を視野におく勢力を確保できるかがカギとなる。与党など改憲勢力が衆院に続き、参院でも改正案の発議に必要な3分の2以上の議席を確保できるかも焦点だ。

参院選では18歳と19歳が初めて選挙権を得る。日本は高齢者の声が政治に反映されやすい「シルバー民主主義」の問題点が指摘されている。与野党は互いに揚げ足を取るのではなく、次世代にどんな日本を引き継ぐのかという骨太の政策論争を展開してほしい。



参院選がきょう公示される。

安倍首相が前面に掲げるのは経済だ。一方、その裏に憲法改正があるのは明白だ。

首相は、必ずしも改憲を争点にする必要はないという。国会での議論がいまだ収斂(しゅうれん)していないというのが、その理由だ。

しかし、改憲に意欲的な首相自身がどこをどう変えたいのかをまったく明かさないのでは、有権者は判断しようがない。

こんな逆立ちした政治の進め方に弾みをつけるのか、ブレーキをかけるのか。この参院選には「政権の中間評価」ではすまない重みがある。

民意とのねじれ

安倍氏が2012年12月に首相に返り咲いてから、参院選は2度目になる。振り返れば「安倍1強政治」の出発点となったのは、政権交代から7カ月後に衆参の「ねじれ」を解消した13年の前回参院選だった。

この時に自民、公明両党に票を投じた有権者には、民主党政権の混乱にあきれ、安定した政治で景気回復に取り組んでほしいとの思いが見てとれた。

3年前のねじれ解消を受け、私たちは社説で「民意とのねじれを恐れよ」と書いた。中小企業や地方で働く人々の賃金は上がるのか、財源を確保して医療や福祉を安定させられるのか。首相がこうした期待に応えぬまま「戦後レジームからの脱却」にかじを切れば、民意を裏切ることになるとの趣旨だ。

昨年の安全保障関連法の制定からなお続く反対運動のうねりをみれば、この懸念は的外れではなかったと感じる。

消費増税先送りという「新しい判断」の信を問う。これが首相のいう争点だ。税収や就業者の増加といった経済指標を強調し、アベノミクスを前に進めるか後戻りさせるかと訴える。

首相は本来、増税を「確実に実施する」という約束を破った責任を取るべきだ。そうしない裏には、「苦い薬は飲みたくない」という多くの国民の率直な思いに乗じた計算が見える。

安倍氏は「与党で改選議席の過半数獲得」を勝敗ラインに掲げる。覚悟を示したかに見えるが、勝敗ラインを割れば退陣するのかは、はっきりしない。

低い投票率の結果

安倍氏率いる自民党と公明党が3連勝した12年以降の衆参両院の選挙には、共通の特徴がある。投票率が低いのだ。

12年衆院選で59%台、13年参院選と14年衆院選はともに52%台で、14年は衆院選として戦後最低を記録した。

民主党へと政権交代した09年衆院選の69%台と比べれば、その差は大きい。投票者数でみれば、09年の7202万人に対し14年は5474万人。単純計算で、1700万あまりの人が投票所に行くのをやめた。

自民党はこの間、野党転落と政権復帰の両方を経験したが、実は得票数に大きな変動はない。比例区では、いずれの選挙でも棄権を含めたすべての有権者の5人に1人に満たない支持で推移している。

つまり、安倍自民党は支持者をさほど増やしているわけではない。死票が出やすい選挙制度のもと、民主党支持の激減と棄権者の増加が、自民党に得票以上に多くの議席をもたらしているに過ぎない。

解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。特定秘密保護法の制定や、放送法を振りかざした国民の知る権利や報道の自由への威圧。憲法の縛りを緩めるばかりか、選挙で問わぬままに改正論議に手をつけようという政権の危うさを目の当たりにした有権者に何ができるか。

「悪さ加減」を選ぶ

答えの一つが、自らの一票を有効に使う「戦略的投票」だ。

聞き慣れない言葉かもしれない。一例を挙げれば、最も評価しない候補者や政党を勝たせないため、自分にとって最善でなくとも勝つ可能性のある次善の候補に投票することだ。

首相もたびたび演説に引用する福沢諭吉は、こんな言葉を残している。

「本来政府の性は善ならずして、注意す可(べ)きは只(ただ)その悪さ加減の如何(いかん)に在るの事実を、始めて発明することならん」(時事新報論集七)。政治学者の丸山真男は、戦後にこれを「政治的な選択とは〈中略〉悪さ加減の選択なのだ」(「政治的判断」)と紹介した。

民主党政権の失敗は、なお多くの有権者の記憶に生々しい。その後の低投票率には、政治への失望や無力感も反映されているのだろう。

だが、このままでは民主主義がやせ細るばかりか、立憲主義も危機に瀕(ひん)する。

意中の候補や政党がなくとも、「悪さ加減の選択」と割り切って投票所に足を運ぶ。7月10日の投票日までに、選挙区と比例区2枚の投票用紙をいかに有効に使うかを見極める。

18、19歳の240万人もの若者を有権者として新たに迎える選挙だ。上の世代が、ただ傍観しているわけにはいかない。



参院選がきょう公示される。安倍晋三首相による3年半にわたる政権運営に対し、有権者が評価を下す選挙だ。

消費税率引き上げの再延期で揺れる社会保障の将来像など、政党が中長期的な課題で責任あるビジョンを示せるかが試される。同時に選挙結果は首相が実現を目指す憲法改正の行方にも大きく影響する。国の針路を左右する審判だと捉えたい。

参院選の直前、首相は消費増税の再延期を決めた。国民に約束していた来春の引き上げ方針を覆し、「新しい判断」だとして海外の経済状況を理由に2年半先送りした。

本当の国民の利益とは

この判断が今回の選挙で大きなポイントになっている。首相はその是非を仰ぐとしている。消費増税の延期を理由に衆院を解散した2014年衆院選パターンの繰り返しだ。

増税の先送りは短期的には国民にとって負担軽減だ。来春の引き上げは野党もそろって反対している。

だが、政権与党が2度にわたり増税を延期した事実はより重い。

社会保障の拡充にあてるはずだった約1兆4500億円の財源が失われた。しかも、19年10月に引き上げるという首相の再約束が守られる保証はない。人口減少や超高齢化に備える税と社会保障の一体改革の枠組みが崩れかねない局面だ。

だからこそ、政党がどこまで将来に責任を持った公約を掲げているかが厳しく吟味されるべきだ。

自民党は「成長と分配の好循環」を掲げる。だが、肝心の成長戦略は思い通りの成果をあげていない。

増税先送りに伴う減収分は「赤字国債に頼らず安定財源を確保」と説明するが、当面は税収増頼みというのではこころもとない。減収に伴い社会保障拡充策の何を後回しにするかも首相は明確にしていない。「すべてを行うことはできない」と述べるにとどまっている。

野党、民進党はどうか。「分配と成長の両立」を強調し、保育士給与の月額5万円アップなどを公約に盛り込んだが、施策には財源の不安がつきまとう。増税を先送りしても予定通りに社会保障は拡充し、財源は行政改革で生み出すと主張する。足りなければ借金の赤字国債でまかなうというのでは説得力に乏しい。

与野党が学生への給付型奨学金の検討や子育て支援など、格差是正や女性、若い世代に政策をシフトさせようとしている方向は正しい。

ただ、国と地方の借金が1000兆円を超すうえ、医療や介護の支出は増えていくのが現実だ。痛みを先送りするほど将来の不利益は増す。持続可能な社会保障の全体像を各党はより踏み込んで示すべきだろう。

国の将来にかかわるテーマに改憲問題がある。

衆院に続き、参院でも自民党を中心とする改憲派の勢力が改正案の発議に必要な3分の2以上の多数を制するかが焦点だ。今回の参院選は、従来にも増して改憲問題の行方に直結する。

ところが自民は公約で「国民合意の形成に努め、実現を目指す」などとあっさりふれただけだ。首相は次の国会で具体的に議論するとしている。きのうの日本記者クラブの党首討論でも「(改憲を)決めるのは国民投票だ」との理屈で争点化に慎重な姿勢を示した。 ◇憲法の議論を避けるな

だが、改憲案を発議するのは国会だ。その国会の構成員を選ぶ選挙である以上、首相の説明はおかしい。選挙に不利だから争点にせず、発議に必要な議員の数は確保しておこうというのだろうか。

安倍政権はこれまでも選挙で経済政策を争点として強調し、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更や特定秘密保護法などの基本政策の転換を正面から提起してこなかった。自らの政権で改憲を目指すのに、首相が中身について語らないというのでは筋が通らない。

首相は自民、公明両党で改選議席過半数(61議席)の獲得を目標に掲げる。自民が57議席以上を得れば1989年以来、27年ぶりに参院での単独過半数を回復することになる。

野党側は共闘で対抗している。民進、共産、社民、生活4党が32ある1人区すべてで候補を統一し、自民候補と対決する。「自民1強」をより強めるか、それともブレーキをかけるのかの構図は明確になった。

4野党は「改憲派3分の2阻止」や安全保障関連法の廃止を共通目標に掲げる。ただ、憲法観や安全保障をめぐりそれぞれの主張にはかなりの違いがある。共闘を優先するあまり、踏み込んだ政策論争を避けるようなことがあってはならない。

近年の国政選挙では投票率の低下傾向が深刻化している。

政権批判票が行き場を失っていることや、政治全体への不信感の表れだろう。だが、有権者が政治を人ごとのように感じて距離を置いては、民主主義は正常に機能しない。

参院選公示とともに選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられる。約240万人の新有権者の政治参加が期待される。

未来に責任を持てる政党や候補を選ぶ時だ。18日間の舌戦にじっくりと耳を傾けたい。


参院選きょう公示 危機克服への青写真競え 国と国民守り抜く覚悟あるか|産経新聞

国と国民守り抜く覚悟あるか

日本が直面している内外の危機は、深刻さを増している。きょう公示される参院選では、どうやって国家として生き残り、国民の生活を守っていくかの構想力が問われている。

21日の日本記者クラブ主催の党首討論会では、その問いに対する明快な答えを与野党から聞くには至らなかった。

不人気な政策、国民に痛みを求める政策であっても、必要なものなら正面から提示し、理解を得る必要がある。それなしには選挙を重ねても、現実の懸案解決にはつながりにくいからだ。

安保の現実に目向けて

国民の関心と懸念に回答しようという姿勢が特に希薄なのが、外交・安全保障の分野である。

中国の軍艦が、尖閣諸島(沖縄県)周辺の接続水域や口永良部島(くちのえらぶじま)(鹿児島県)周辺の領海に侵入した。中国は南シナ海で、国際法を無視し、人工島の軍事拠点化を進め、地域や国際社会にとっても大きな懸念となっている。

北朝鮮の弾道ミサイル発射の兆候があるとして、中谷元(げん)防衛相は21日、自衛隊に迎撃を認める破壊措置命令を出した。

こうした環境に日本があることを、各党はもっと強く認識すべきである。国と国民をどう守り抜いていくか、日本に有利な外交環境をいかに醸成すべきか。いずれも横に置いて済ませられる課題ではなかろう。

その観点からも、民進党の岡田克也代表が、自衛隊を「憲法違反」と断じた共産党の志位和夫委員長とともに安全保障関連法の廃止を主張しているのは、無責任のそしりを免れない。国民の生命と安全を守る責務を、初めから放棄している。

安保関連法は戦争を抑止して平和を維持する法制だ。集団的自衛権の限定行使を容認し、日米同盟の抑止力を強めた。安倍晋三首相が「日米が力を合わせられるようになり、日本の安全はさらに強化された」と語ったのは妥当だ。

岡田氏は「安保法ができる前の状態に戻すことで、日米同盟がおかしくなるという話は成り立たない」と語ったが、耳を疑う。

自衛隊と米軍がより守り合えるようになった安保法をもし廃止すれば、米政府や米国民は、日本を仲間の国だとどこまで思い続けるだろうか。

同盟関係が損なわれると考えるのが普通だ。そうなって喜ぶのが日米同盟を敵視する国々であることにもし気付かないなら、国政を語る資格があるだろうか。

安保法の是非にとどまらず、安保環境の現実を直視した上で、日本の平和を積極的に守っていく具体的方策が問われている。

軍事力による威嚇、挑発をためらわない中国、北朝鮮などにどのように対応していくべきか。自衛隊の態勢や外交政策に改めるべき点や一層力を入れるべき点はないのか。国民の前で具体論を語ってほしい。

将来へのツケ回避せよ

国民の関心が大きい経済政策や社会保障をめぐる議論の内容もいまだ低調である。

デフレ脱却による経済再生が最優先課題であることは言うまでもない。アベノミクスは道半ばだというなら、民間の活力を高める規制改革などの成長戦略を加速させる必要がある。

だが首相はそれには具体的に言及しなかった。有権者は、経済をどうやって底上げするかの方策を聞きたいのだ。

岡田氏は、平成32年度にプライマリーバランスを黒字化させる政府目標に関し「無理だ」と指摘し、首相は「簡単な目標ではない」と語った。どうしたら将来世代にツケを回さずにすむか、さらに突っ込んだ議論がほしい。

消費税増税の再延期で実施が危ぶまれる社会保障政策の財源に関し、首相は「税収を増やし安定財源を確保する」という。当面はしのげたとしても、それを安定財源と言うのは無理だ。

おおさか維新の会の片山虎之助共同代表が、社会保障・税一体改革を継続するのか、首相に問うたのは理解できる。

憲法改正について、首相は「自民党は結党以来、憲法改正を掲げてきた」と述べたが、遊説先でも堂々と訴えるべきだ。

「18歳以上」の新有権者に限らず、すべての有権者に高い関心を抱いてもらうには、各党が意味のある選択肢を示すのが先決だ。



経済改革の実効性を吟味したい

安倍政権の経済、社会保障、外交・安全保障政策などを信任するのか。あるいは、転換を求めるのか。日本の針路を左右する重要な選挙だ。

参院選がきょう公示される。

デフレ脱却と財政再建の両立、少子高齢化と人口減社会への対策の強化、不安定化する国際情勢への対処――。日本は今、多くの困難な政策課題に直面している。

各政党と候補者は、説得力ある処方箋を示し、積極的な政策論争を展開してもらいたい。

参院選の最大の争点は無論、アベノミクスの是非である。

2014年の衆院選と同様、安倍首相は消費税率10%への引き上げを延期し、その信を問う考えを示している。日本記者クラブ主催の9党党首討論会でも、経済政策が論争の焦点となった。

安倍首相は、アベノミクスについて「リーマン・ショックで失われた国民総所得50兆円を今年中に取り戻せる」と語った。税収増、雇用改善の成果も強調した。

公明党の山口代表は、「アベノミクスの成果が十分に及んでいないところに希望を広げたい」と述べ、地方や中小企業対策に重点を置く考えを示した。

重要性増す安保関連法

民進党の岡田代表は、「金融や財政(政策)で(成長を)膨らませるだけのやり方は限界がある」などと安倍政権を批判し、経済政策を転換するよう主張した。

消費増税の延期はやむを得ないが、景気の足踏み状況を早期に脱し、19年10月には確実に増税できる環境を実現する必要がある。

与党は、今秋に予定される当面の経済対策や、中長期的な成長戦略の強化策の骨格を示すべきだ。野党も、アベノミクスの批判一辺倒でなく、どう転換するかを具体的に明らかにせねばなるまい。

自民党の公約は「成長と分配の好循環」、民進党は「分配と成長の両立」をそれぞれ明記した。

成長と分配の順番が逆だが、保育士の待遇改善、最低賃金の引き上げなど、共通する政策も多く、違いが分かりにくい。両党には、さらなる説明が求められよう。

集団的自衛権の行使を限定容認した3月施行の安全保障関連法も重要な論点となろう。

首相は「日米同盟の絆を強くした。日本の安全は、さらに強化された」と意義を指摘した。共産党の志位委員長は「自衛隊を海外の戦争に出していいのか」と述べ、関連法の廃止を主張した。

北朝鮮は核とミサイルによる軍事挑発を続け、中国は独善的な海洋進出を拡大させる。安保関連法を効果的に運用し、日米同盟を強化する重要性は一層高まった。

憲法は冷静に話し合え

与党は、こうした実情を丁寧に訴え、国民の理解を広げる努力を尽くすことが大切である。

憲法改正について、首相は、参院選後に、衆参の憲法審査会で具体的な改正項目を絞る作業を進めたい考えを改めて示した。

岡田氏は、「お互い協力する姿勢が安倍政権にあるのか。立憲主義に対する認識が全く間違っていないか」と疑問を呈した。

与党は、憲法改正を参院選の争点に据えることに慎重な姿勢を示している。首相は街頭演説でほとんど触れず、公明党は公約に盛り込まなかった。

野党との対立を先鋭化するのは選挙戦術上も、選挙後に幅広い合意形成を目指すうえでも、得策でないと判断したのだろう。だが、少なくとも、どういう改正項目を重視し、優先したいのかを示さなければ、有権者は戸惑おう。

野党も、9条改正反対と唱えるだけでは無責任である。

憲法は、70年近く一度も改正されず、現実との様々な乖離かいりが指摘される。最高法規をより良いものにする観点から、冷静に議論することが求められる。

野党協力は実るのか

自民、公明の与党は改選議席の過半数の61議席を獲得目標に掲げる。さらに、憲法改正発議に必要な参院の3分の2を占めるため、改正に前向きなおおさか維新の会などとの合計で78議席を確保できるか。この点も注目される。

民進、共産、社民、生活の野党4党は、「1強」の自民党に対抗するため、32ある1人区のすべてで統一候補の擁立に成功した。憲法、安全保障など基本政策が異なる中、「野合」批判をかわし、選挙協力の実を得られるか。

新たに選挙権を手にした18、19歳の約240万人を含め、有権者は、各党の訴えをしっかりと吟味し、誤りなき選択をしたい。


参院選 きょう公示 「安倍政治」の信を問う|東京新聞

参院選がきょう公示される。安倍晋三首相は自らの経済政策を最大の争点と位置づけるが、問われるべきは三年半にわたる「安倍政治」そのものだ。

きのう行われた日本記者クラブ主催の九党首討論会。自民党総裁でもある安倍首相は自らの経済政策「アベノミクス」について「有効求人倍率は二十四年ぶりの高い水準になった。その成果を出してきた」と強調した。

首相は参院選を、来年四月に予定していた消費税率10%への引き上げを二年半、再び延期する「新しい判断」について「国民の信を問う」選挙と位置付けている。

成長重視政策の是非

首相自身が成果を上げたと自信を深めるアベノミクスを「最大の争点」にして支持を取り付け、政権運営の原動力としようというのが、首相の思惑なのだろう。

逆進性が高く、景気に悪影響を与える消費税の増税見送りは妥当だとしても、増税できる経済状況をつくり出せると豪語していた公約を実現できなかった「失政」を不問に付すわけにはいかない。

成長重視のアベノミクスは格差を拡大し、個人消費を低迷させたと指摘される。そもそも正しい政策だったのか、一方、野党側の経済政策に実現性や妥当性はあるのか。各党、各候補の主張に耳を傾け、公約を比較して、貴重な票を投じる際の判断材料としたい。

私たちの暮らしにかかわる経済政策は重要だが、それにばかり気を取られていてはいられない。今回の参院選は従来にも増して、日本の将来を大きく左右する可能性を秘めた選択になるからだ。

最大の岐路に立つのが、首相自身が二〇一八年九月までの自民党総裁在任中に改正を成し遂げたいと明言した憲法である。

憲法の争点化避ける

自民、公明の与党は衆院で三分の二以上の議席を有し、参院選で自公両党と「改憲派」のおおさか維新の会、日本のこころを大切にする党を合わせて三分の二以上の議席を得れば、衆参両院で憲法改正の発議に必要な議席に達する。

首相は憲法改正について「選挙で争点とすることは必ずしも必要はない」と、参院選での争点化を避けているが、安倍内閣の下での過去の選挙を振り返り、政権の意図を見抜く必要があるだろう。

例えば一三年の前回参院選。首相は「三本の矢」政策の成果を強調し、首相自ら「アベノミクス解散」と名付けた一四年の衆院選では、消費税率10%への引き上げを一年半延期して「景気回復、この道しかない」と訴えかけた。

首相は経済政策を掲げて二つの国政選挙に勝利したのだが、参院選後に成立を急いだのは公約ではひと言も触れていない特定秘密保護法である。衆院選後には憲法違反と指摘される安全保障関連法の成立も強行した。

選挙であえて争点化せず、選挙が終われば多くの国民が反対する政策を強行するのは、安倍政権の常とう手段とも言える。国の在り方を定める憲法で、同じ手法を採ることが許されるはずがない。

参院選では、政策はもちろん、野党を含めた合意形成の努力を怠り、選挙で「白紙委任」されたとばかりに数の力で押し切ろうとする安倍政権の政治姿勢や政治手法の是非も厳しく問われて当然だ。

「安倍一強」の政治状況に歯止めをかけるため民進、共産、社民、生活の野党四党は選挙の勝敗を大きく左右する三十二の「改選一人区」のすべてで候補者を一本化して選挙戦に臨む。

自民党を利する野党候補乱立を避けるため、「野党は共闘」と求めた市民の声に応えたものだ。

理念・政策の違いは残るが、歴代内閣が継承してきた憲法解釈を一内閣の判断で変えて安倍内閣がないがしろにしたと指摘される立憲主義の回復と、憲法違反と指摘される安保関連法の廃止は共闘の大義に十分なり得る。選挙戦では中傷合戦に陥ることなく、堂々の政策論争を交わしてほしい。

公職選挙法が改正され、選挙権年齢が「二十歳以上」から「十八歳以上」に引き下げられた。七十一年ぶりの参政権拡大だ。

自ら意思示してこそ

今回の参院選では二十歳になった人に加え、十八、十九歳の約二百四十万人が有権者に加わる。

高齢者層に比べて若年層の投票率は低いが、年齢に関係なく同じ重みの一票だ。多少手間がかかっても各党・候補者の公約を比較して、投票所に足を運んでほしい。

自分の考えに合致する投票先が見当たらなかったら「よりまし」と考える政党や候補者に託すのも一手だろう。棄権や浅慮の「お任せ民主主義」ではなく、自らの意思を示すことだけが、未来に向けた道を開くと信じたい。