2017年4月30日日曜日

未来投資会議:イノベーションエコシステムの構築

少し前になりますが、政府の「未来投資会議」(3月24日開催)において、「イノベーションのエコシステム構築」について議論が行われていますので、議事概要から抜粋してご紹介します。

<五神議員>(東京大学総長)

今後、本格的なデータ活用、いわゆるスマート化によって世界経済や産業の構造は大きく変化する。産業においていわばゲームチェンジが起こるわけである。そこで我が国がどう勝ち抜くかという観点で、すぐできること、やるべきことについて検討した。これから向かう知識集約型社会においては、人口減少は経済成長にとって、もはや脅威ではなくなる可能性がある。今持っているストックを活かして、下段に書いてあるような人、知識、インフラの3つで強みを持てるかどうかが勝負の鍵となる。

これまで産業構造は労働集約型から資本集約型へ移行してきたが、今後、知識集約型への移行を加速させるために、先行投資を行うべき領域は3つある。1つ目は潜在能力の高い中堅・シニア人材の活性化。2つ目は、研究投資。国際求心力としての基礎科学研究力の維持、そして、超スマート社会に必須であって、かつ我が国が強みを発揮し得る技術群。

現在、世界では本格的IoT化の動きの中で史上最高の半導体投資ブームが到来している。日本にはストックがたくさんあるが、それが活用できるかどうかが今の勝負どころになっていると思う。3つ目として、非常に重要だと思っているのは、セキュアで超高速のネットワークとデータプラットフォーム。これはビッグデータを使うときに必須になる基盤。大学などを活用してインフラを整備し、それを民間開放するべきだと考えている。地方創生との関係でも、各地の大学キャンパス周辺に知識集約型の産業集積拠点を作るという点で、大学の活用の仕方があると思っている。

3ページは、こうした先行投資が進みつつある、東京大学の「つくば-柏-本郷イノベーションコリドー」の状況を示したもの。経済産業省と文部科学省との連携で進めている。前回この会議で議論になった大学資産の活用についても、先行的な取組を進めているところである。

知識集約型産業への移行に関しては、知とその活用の主軸となる人材ネットワークを持っている大学を活用すべきと考えている。もちろんそのためには大学改革を一層加速せねばならない。特に大学の投資価値を高めるための「プロデュース機能」の強化がポイントとなる。そして、大学の経営基盤の強化が重要。その点については資料の右下に「大学資産の有効活用」「評価性資産による収入確保」「イノベーションの成果の大学への還流」として整理した。この3点での制度改革を迅速に進めるべきと考えている。

最後に、未来への投資として私の立場から強調したいのは、やはり若手支援である。特に大学院強化や若手ポストの確保などが大学セクターでは非常に重要な課題。若者が研究する人生に夢を持てるような環境整備が必要。

(資料)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai6/siryou5.pdf

<松野文部科学大臣>

大学・研究開発法人こそがイノベーションの源泉であり、知識集約型経済社会を構築する鍵となる。このため、基盤的経費をしっかり確保した上で、意欲ある取り組みを妨げる課題を打破していく。具体的には、第1に、平等主義から脱却して、意欲ある組織や人材を伸ばすよう、スピード感を持って産学官連携体制を抜本的に強化する。このため、共同研究を集中管理し大型投資を呼び込む「オープンイノベーション機構」の整備や起業志望学生の海外武者修行支援などに取り組む。第2に、イノベーション力強化に不可欠な基礎科学力を強化する。このため、世界最高水準の基礎研究を実現する国際研究拠点の構築、人材育成、研究情報基盤の整備に取り組む。また、ベンチャーへの出資や新株予約権の取得の拡大等により、大学等が改革に必要な資金を自ら獲得できる環境を整備していく。

(資料)



http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai6/siryou6.pdf

<鶴保IT政策担当大臣兼内閣府特命担当大臣(科学技術政策)>

昨年12月、経済財政諮問会議との合同委員会で、科学技術イノベーションの活性化に向けた官民投資拡大イニシアティブを取りまとめさせていただいたが、その具体化の取り組みを進めさせていただいている。

予算編成プロセス改革では、官民投資拡大に向け、各省庁の取り組みに対し、内閣府が追加的に事業費を拠出できる制度を設けることとし、現在、そのターゲット領域の検討を行っているところ。制度改革アクションとして、国立大学へ土地や株などの評価性資産を寄附する際の譲渡所得を非課税とする要件の緩和、公共調達の活用等による中小・ベンチャー企業の育成や強化、技術ニーズとシーズのマッチングを推進し、各事業間の横断的な連携・交流を促進する科学技術イノベーションマッチングフォーラム、仮称だが、「サイエンスIMF」と名づけてこれを立ち上げたい。この検討をしている。

さらに、科学技術イノベーションの発展には、先ほど来、お話があるとおり、データの利活用は不可欠。来週、官民データ活用推進戦略会議を設置する予定。先ほど御説明があった農業分野のデータプラットフォームは、これまで取り組んできた標準化をベースとするものであり、今後、農業分野の他、医療・健康・観光分野等を含め、分野横断的な官民データの活用に、関係府省と連携して積極的に取り組んでまいりたい。

以上の取り組みを加速し、官民がともに成長のエンジンを最大限にふかし、科学技術イノベーションによる成長戦略の具体化を強力に推進していきたい。

(資料)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai6/siryou7.pdf

<松村経済産業副大臣>

イノベーション創出について、産学官連携を推進するため、柏にグローバル拠点を整備するなど取り組んできた。一層の加速を図るため、来年度より、文科省と連携し、共同研究による特許数などのデータを積極的に公表し、各大学の産学連携の状況を客観的に見える化していく。産業界におかれては、是非大学の優れた取り組みを評価していただき、積極的な投資をしていただけるよう、お願いいたしたい。加えて、特に産学連携の体制が弱い地方大学に対しては、先進的な技術移転機関などが契約や事業化のノウハウの伝授を行っていく。さらに、世界のトップ人材獲得に向け、日本版高度外国人材グリーンカードの創設など、我が国の極めてオープンな入管制度や生活環境の改善を海外へPRし、さらなる対応や受け入れ目標を具体化していきたい。

<南場議員>(株式会社ディー・エヌ・エー取締役会長)

イノベーションエコシステムについて、こちらに関しては大学の改革が不可欠だと思う。日本は人材が最大の資産であるにも関わらず、大学の競争力は相対的に高くない。そして、運営資金にも汲々としている状態。私は、大学はもっと開かれるべきだと思う。産学連携の促進は長く謳われているが、実際、企業が資金を提供しようとしても、様々な問題がある。大学に民間企業の視点や優れた経営人材の投入をすることで改革を牽引しない限り、何も変わらないと思う。

これまで政府においても様々な施策が動き始めているが、個々の施策のマグニチュードが小さ過ぎると感じる。例えば、運営費交付金の重点配分だが、そもそも評価方法が定性的で曖昧な上に、交付金の1%が配分対象になるなど、これでは大きな改革が望めないのではないか。

例えば、企業からどれだけ調達できたかに応じて交付金を割り振るなど、既得権益に絡まない合理的な配分方法を大胆に取り入れるなどして、経営マインドの巧拙を大学の死活問題にしてしまう方が早いのではないか。そのような本質的な議論をするべきだと考える。

<中西議員>(株式会社日立製作所取締役会長 代表執行役) 

もう一つだけ、オープンイノベーションについて。これもポジティブな話だが、五神先生から御紹介があったような話の一環として、私どもは、日立東大ラボというものを開設させていただいた。これ以外にも北大・京大を含めて、国内3大学とやっているが、その考え方は、最初からサブジェクトが決まっていることを共同研究にするのではなくて、いずれもSociety 5.0とか社会課題の解決に大学と企業がどう取り組んでいったらいいのかというテーマのディスカッションから始める。そうすると、大学の先生方も、経済学部の先生も法学部の先生も工学部の先生も理学部の先生も1カ所に集まって、非常に力のある素晴らしい方々にダイナミックな議論をしていただける。その中からテーマを拾い出して、具体的な研究ターゲットにし、我々からするとそれが一つの事業目標になっていくという展開が始まった。これは大いに期待しているし、こういうことが実際にできていくようにするためには、今はまだあまりお金がかからないが、その次は投資という観点がある。今、大学というのは投資というと、これは私どもがお話を聞くとびっくりするぐらいいろいろな制約条件があり、これもやはり規制改革だと思うので、こういう課題に是非真正面から取り組んでいきたいと、企業側も思うし、政府の方もどうぞよろしくお願い申し上げる。

<五神議員>(東京大学総長)

これからの大学改革で重要なことは、創造した価値を「売る」という観点で経営を行うこと。したがって、そういう意味でのプロデュース機能を強化することが肝になると思う。

Society 5.0における知識集約型経済は、ある意味で日本にとっては大きなチャンス。先ほども述べたが、産業構造の転換に伴い、いわばゲームの枠組みが変わるため、今までの状況を飛び越えてゲームに勝てる可能性がある。あらゆる面でのスマート化と産業の融合が進むので、第1次産業、第2次産業、第3次産業といった産業の境界も意味を失っていくことになる。その移行に際して、先ほどお話のあった農林水産業のスマート化には、これまで投資があまりなされてこなかったゆえに大きな伸びしろがあると感じている。

先日、東日本大震災で犠牲になられた方の追悼式に出席するため、本学の大気海洋研究所の研究施設がある岩手県の大槌町を訪問した。そこで聞いた話によると、震災後、海洋環境の変化が大きくなり長年の経験を持つ漁師さんでさえ、さまざまな予測が難しくなっているそうだ。ある養殖業について、ある時すごく良いものがたくさん獲れたと思えば、次の年にはまったく獲れないという状況だという話も聞いた。そこで、環境計測データをもとに、AIと大学の知とを組み合わせることで、効率の高い漁業を実現できるのではないかと考えている。その際、地方の公設試験研究機関や大学を拠点として活用していくことは非常に意味があると思う。

<安倍内閣総理大臣>

本日は、大学を中核としたイノベーションについても議論を行った。世界トップレベルの大学研究拠点が産業界と連携してイノベーションを生み出せるよう、2018年度中に2カ所程度に絞ってリソースを集中投下する。企業が連携相手となる大学を選べるようにする、各大学の産学連携への取り組みを比較評価できるデータを整備し公開する。

AI開発やビッグデータ処理を加速できる大容量の情報通信網を各大学が利用できるようにするとともに、大学構内で共同研究に取り組む企業も活用できるようにする。

関係大臣は連携して、以上を直ちに具体化してまいりたい。