2017年8月23日水曜日

記事紹介|ヤジロベエのように

人生の真実とは、理想ばかり追い求めたり、現状に甘んじることではない。鈴木秀子

知り合いの70歳の女性の話です。

彼女は戦争で父親を失い、母親と祖父母の手で育てられました。

家は貧しく中学を卒業すると働きに出ました。

社会に巣立つ日の朝、お祖母さんが彼女を座らせて社会で生きる心構えを諭しました。

「中学を出たばかりのおまえは、これから様々な辛い経験をするかもしれない。でも決して羨ましがってはいけないよ」

すると、それを聞いていたお祖父さんが「いや、この若さで、人を羨ましがらないですむことはあり得ないな」とまるで独り言のように呟いたといいます。

少し間をおいてお祖母さんが「あなたより物質的に豊かな人が沢山いるけれども、人の物を欲しがるような気持ちは起こしてはならない」と話します。

するとまたお祖父さんが「こんな若い子が、人が良い物を持っていたら欲しがるのは当たり前じゃないか」とポツンと囁くのです。

お祖母さんが「何があっても、決して人に迷惑を掛けてはいけないよ」と三つ目の心得を話した時も、「だけど、人間というものは迷惑をかけながら、お互いに支え合って生きていくものだ」とお祖父さんの独り言が続きました。

彼女は2人の餞(はなむけ)の言葉を常に心の支えにしながら、生きてきました。

そして70歳のいま、過去を振り返りながら「もしお祖母さんの言葉しか聞いていなかったら、"こうあらねば"という思いに縛られて精神的に行き詰まっていたでしょう。お祖父さんの言葉だけで生きていたら怠け者になっていたかもしれない。2人が共に人生の真実を伝えてくれたからこそ、ここまでくることができました。」としみじみ語ってくれたことがあります。

「こうあるべき」というべき思考が強すぎてもいけない。でも怠けすぎてもいけない。

人生には場面に応じてどちらもあるという中庸さを知っていることが大事なのですね。

ヤジロベエが左右に振れながら真ん中に戻って来るように。